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長崎よりの月琴4(1)

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斗酒庵 依頼修理の続く2016.12~ 長崎よりの月琴4 (1)

STEP1  ミッション No.4

 Yさんちの天華斎と前後して,長崎よりまた1面,依頼修理の楽器が舞い込んでまいりました。
 何度も言ってますが「楽器は楽器を呼ぶ」,重なるときにゃあ重なるもンですねえ(w)

 お話がきたのが11月の末。
 庵主ァべつだん江戸ッ子じゃござんせんが,宵越しのゼニは持たず,年越しの仕事ァしたくねえ,ってもンで。
 さてさて恒例の多重修理,晦日までにあがるやいなや!!

 ざっと見たところ,ラベルもなく内部に署名等もないようで,どこの誰様の作だかは分かりませんが,すらりとした姿のいい国産の清楽月琴ですね。

 んじゃまず棹から。

 蓮頭の代わりにナニヤラへっつけてあるほか(仏手柑…かなあ家具の部品? 彫刻した薄板を厚めの桐板に貼り付けてある),山口もなんかヘンなカタチだし,フレットも低すぎる----てかこの棹上の3本,高さが同じですね。糸倉には三味線の糸巻が刺さってますし,この山口(?)の乗っかってるあたりをふくめ,何箇所かネズミに齧られてるようですね。

 山口の取付けは指板が山口の前で切れてて,棹本体に直接接着するタイプ。名古屋の鶴寿堂なんかもやってますが,よく見る工夫の一つですね。 単純に平面に貼りつけるのじゃなく,段を作ってそこにはめ込むようにすれば,より頑丈にへっつけれるんじゃね? という発想でしょうが,指板の厚みはふつう1ミリあるかないかなので,どこまで補強の効果があるのかは少々ギモンです。 まあ,指板には多く接着の悪い唐木材が用いられるので,そこにつけるよりはカツラとかホオで出来た棹本体に直接つけたほうが良いだろう,という考え方だったとすれば(w)まだ分からんでもないです。
 糸倉はスマートで,国産月琴としては標準的,あまり特徴のないカタチをしています。棹背はややアールがキツめ,反り返りが美しいですね。現状でやや表板方向に傾いでおり,表板のふちと指板の間に少し段差もあるようです。

 胴の表板はかなりいい板だったようです。けっこう目の詰まった桐板で,矧ぎ目が見当たらない。

 棹上のお飾りはなくなって痕だけになってましたが,胴上には3つばかり,けっこういい出来のお飾りが残ってます。いちばん上が 「霊芝」 つぎが 「瓢箪」 最後が 「魚」 ですね。左右は定番の 「菊」,扇飾りは 「葡萄」 ,中央はええっと----「菱木瓜(ひしもっこ)」 ですかね。作者か所有者の家紋かな?


 ピックガードは欠損。
 接着痕にかなりヒドい虫食いがありますねえ。
 たぶんヘビ皮が貼られてたんでしょうが,溝は浅いもののもう縦横無尽に食いまくられちゃっています。
 半月は単純な板状の半円形。同タイプとしてはかなり低めに作られてます。たぶんカツラかホオを染めたもので,多少角のところに色がスレて薄れた部分があるものの,基本的には健康。糸孔の擦れや広がりもあまりありません。
 この半月のところのほかにも,表裏板のあちこちに大小の虫食い痕や虫穴が見えます。保存状態が悪く,かなり美味しくいただかれちゃってるようですね。

 裏板は例によって表板に比べるとかなり質の劣る板で出来てます。とはいえ,よくみる月琴のよりは高級そうで,矧ぎも少ない。


 「板目を合わせる」なんて基本的なこともしてませんが,3枚矧ぎくらいかな?(ふつうは5~7枚の小板をつぎはぎして作る。10枚を越えることもある) 矧ぎ目が割れてて現状ほぼ三つに分離しちゃってますが,その割れ目の周辺に虫食い穴がいくつもみえるんで,ここもたぶん,矧ぎ目に沿ってだーッと食われちゃってるんでしょう。

 ドタマに貼りついてる飾り板や三角形の山口,なんだか足りないフレットなどが後補なのはもちろん,本体の材質や工作などと比較すると,多少チグハグなところがあるので,残りの装飾もオリジナルかどうか疑問はありますが,楽器の質としてはまあそこそこ,中の上は行ってるかと思われます。
 棹の色はかなりトンじゃってるようですが,胴側はスオウの黒染が真っ黒に残っていますね。このあたりは保存がいい。
 また胴体接合部の工作が良かったようで,単純な木口同士の擦り合せに過ぎないのにスキマもほとんどなく,いまもガッチリへっついてて,弛みのひとつもありません。


 虫食いやら割れやらで傷んではいるものの,現状,表裏の板はだいたい胴体にくっついています。ただし,胴周縁のあちこちに段差ができちゃってますし,裏板の下縁にはかつての持ち主が板の浮きをとめようとしたのでしょう,錆びた小さなクギまでささっちゃってます。
 この楽器の面板はもともと,かなりの範囲の接着がトンで,ハガれちゃってたんだと思うんですが……そういう板のあちこちに,不吉な再接着痕---というかはっきり言って接着剤のハミ出しが見えますねえ。

 どうやら,すこしでも見てくれ良くしようと,親切な古物屋さんが,だいぶん頑張ってくれやがったようですね………ふふふふふ,嬉しい,うれしいなああああ。(と,ワラ人形に五寸釘を持って立ち上がる)

(つづく)


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