« Yさんちの天華斎(3) | トップページ | Yさんちの天華斎(4) »

長崎よりの月琴4(3)

hirano4_03.txt
斗酒庵 依頼修理の続く2016.12~ 長崎よりの月琴4 (3)

STEP3  新技法・のろいのやかた

 いあいあいあいあいーあいあ……
   いあいあいあいあいーあいあ……
     ふんぐるふたぐんくとぅるばりむら,
        へあいあるるぃえへーげぬあ


 木瞬使いし不逞のやからにワザワイを…木瞬使うやからに邪神の怒りを!

 ああ!窓が!…窓に!!

 とりあえず。

 楽器の補修と称して木工用瞬間接着剤なんか使う奴は,みんな呪われたらいいよ。けけけけけ!!!(首がくるぅりと180度回る)

 あたしのSAN値はすでに0よ!!!!----フレットをはじめ,あっちにもこっちにも着けられた,べっとり盛りのカリカリになった木瞬に,アセトン臭くなった部屋で泣きながら格闘しつつ,表板の剥離作業は何日も続きました。

 これに比べればもう,白い木工用ボンドが,穢れなきょうじよのように可愛らしく思えてきますね。あっちはいくらべっとり使われてても,水で濡らせばなんとかとれますから。
 何度も書いてますが「丈夫で壊れないモノ」は,壊れたらゴミにしかなりません。壊れるべくして壊れるところから壊れたものは,何度でも直せ,半永久的に使えます。しかし,その「壊れるべくして壊れたところ」を「壊れないように」されてしまうと,それを元に戻すのは大変に難しい。
 強力な接着剤にはそういう反面もあるのです。
 良く効くクスリが副作用を引き起こすのと同じ,安易に使用する前に,少しだけ考え,調べてみましょう。
 いまアナタが「直そう」としている場所が本当に「壊れなくてもよい」場所か,「壊れるべきときには壊れる」場所なのか----ということを。


 木瞬べっとりの処理で,表裏面板の縁周と胴側板の接着面がかなり傷んでしまいました。もともと虫に食いまくられてボロボロになっていたところを,よりによってピンポイントで固めまくりやがりましたからね。
 本来ならここは,まず傷んだ接着面を再接着可能な状態に補修してから,次の作業に入るべきところ。ただし,胴が密閉された箱状態になるためには,面板と側板はしっかりへっついててくれなきゃなりませんが,その接着作業にはニカワと水分がかなり使われます。損傷した箇所を削り,板を薄く剥いで,同材の当て木を貼りつけ,削って整形するのが伝統的で一般的な補修法ですが,今回の場合,虫食いの溝がぐにゃぐにゃで範囲も広く,その方法だと補修した接着面自体の強度がかなり落ちてしまい,作業に耐えられない可能性があります。


 庵主がこのところよく使ってる,エポキに木粉を混ぜて練ったパテは,水分やニカワをある程度吸い込んでくれるので,もとの木ほどではありませんがいちおうちゃんとくっついてくれます。ただ乾くとかなり硬くなりますので,桐板のような柔らかい材相手だと,整形のさいオリジナル部分を余計に削ちゃったりすることがある。
 今回はパテ埋めする箇所がかなりの広範囲にわたっています----こうなると,かなり注意して作業しても,知らないうちに板や側板を余計に削っちゃう可能性が高くなる。
 もちろん硬化後の整形が必要ないよう,はじめから溝にぴったりきっかり,表面平らに埋め込めればいいんですが,そういう精密作業はあくまでも「理想」。 まあ近い将来,3Dプリンタのデカいのとかが使わるるようになれば,そういう作業もふつうにできるようになるとは思われますが,今はまだ----そこで工夫の新技法。


 まずは木粉粘土をヤシャ液で練ってパテを作ります。
 これで出来たパテは,エポキで練ったもののような強度も耐水性もありませんが,柔らかくて木との馴染みもよく,また練った後,ビニールにでもくるんでおけばやわらかいままで,エポキのような時間制限(効果時間までに作業を終えないと固まってしまう)もありませんので,今回のように複雑で細かいグニャグニャ溝を埋め込むのには適しています。 また,木粉粘土は強度はあまりありませんが,柔らかく,粒子でできてるので精密な整形加工も容易です。ペーパーを当て木に貼って,軽く擦ってゆくだけで,きれいな水平が出ますからね。
 ただし,エポキの場合は硬化後の「ひけ」がほとんどありませんが,木粉粘土は乾くとけっこう縮むので,乾いてから凹んだり盛りの足りなかった箇所をチェックして盛り直し,整形作業をやり直す必要があります。

 そしてここで,エポキの登場。

 2液式のエポキはそのままだと粘度が高く,あんまり滲みこんでくれませんが,練る時にアルコールやエタノールなどを混ぜると,あるていど緩めることができます。

 2液をよく混ぜたところにエタノールを垂らし,ちょっとユルめに溶いたエポキを,まず目立つ大きなパテ埋め箇所を中心に,爪楊枝や削った割り箸の先でちょいちょいと盛ってゆきます。木目の粗い木などではヘタに木の部分に吸い込まれて固まってしまうと,漆と同じくらいの耐薬品・耐水になっちゃうんで木瞬以上に厄介ですが,このくらいだと木粉粘土のほうが木よりもスカスカなので,虫食い痕からちょっとハミ出てしまっても,木が吸いこむより早く余計に吸いこんでくれます。

 だいたい盛り終わったところで,エタノが飛んで少し粘ってきたぶんを,周囲の細かく浅い虫食いのほうへと広げてゆきましょう。
 10分硬化のエポキでも,完全に硬化するのには半日くらいはかかります。今回の場合はそのうえ,さらにエタノで溶いたりもしてますので乾きは遅い。表面のベタつきなどで様子を見ながら,2日ほども待ちました。
 硬化が確認したところで表面を軽く削り,パテ表面を完全に平らにしつつ,表面に残った余計なエポキを,ざっと削り去ります。

 比較的大きなキズや深いエグレ,またどうしても強度の必要な個所には従来通り,はじめからエポキで練った木粉のパテを用いましたが,浅く広範囲な虫食い溝は,ほとんどこの新しい手法で埋め込んでみました。だいたいの箇所は,表層部分が次の作業に耐えうるだけの強度と耐水性をもってくれてれば十分なので,この工法だけで問題はなさそうです。

(つづく)


« Yさんちの天華斎(3) | トップページ | Yさんちの天華斎(4) »