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長崎よりの月琴4(5)

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斗酒庵 依頼修理の続く2016.12~ 長崎よりの月琴4 (5)

STEP5  人類の進歩に捧げるバラバラ

 前回も言ったように。
 日本における「桐板」というものは,小板を何枚も継いで一枚にした「矧ぎ板」がふつうで,木から切り出したまんまの大きな一枚板というのは,あまり流通していない貴重なものでした----まあ,戦前まではいまでいうと,ポリやプラのシェルケースや,発泡スチロールの箱みたいな,ごく一般的な「梱包材」でしたので「貴重」って言ってもたかァしれてますが。お金の問題より「手に入りにくい」ってとこがミソですね。
 月琴の共鳴板は表裏の板ですから,ここに矧ぎ板でなく 「一枚板」 を使えば,音質は上がるに違いない!!----なんてこたあ,誰でも思いつくことなれど 「ゲンジツはそうでもない」 ということも,前回書いたとおり。 しかも今回の楽器の場合,その構造の特殊さのせいもあり,一枚板のメリットよりデメリットのほうが大きい。

 そもそも素材と構造が合っていないのです。

 楽器に限らず,人の手によって生み出されるモノの,どこをどういう構造にするか,とか,どこにどういう素材を使うか,といった問題は,ふつう,経験によって知識として積み上げられ,擦りあわされ,洗練されていくものです。しかし国産月琴には,そのあたりの積み上げがあんまりありません。そのため 「ここをこうしたらもっと良くなる(ハズだ)!」 とか 「ここをこうしてみた,オレ天才!!(w)」 みたいな。 作者の 「単純な思いつきによる工作」 が入りこみやすいんですね。 技術の進歩のためと考えれば,結果はどうあれ,こうした試行錯誤自体はかならず発生するものでしょうし,またかならず必要なものでもありましょう。しかし,大流行の末,急激に廃れてしまった国産月琴には,それがじゅうぶんに積み上げられ,成熟し洗練されるだけの時間がなかった,とも言えます。

 まあもっとも。音がちッちゃくてみみっちィから,いッそ胴体にでっかいサウンドホールぶちあけてみよう,なんて人がいなかったのは,その当時,ギターみたいな楽器がまだ一般的じゃなかったからでしょうねえ----いまこれを自作しようなんてヒトにはギターの前科餅が多いので,よくドヤ顔でやらかしてますよ。(w)

 もう一度言います。
 素材と構造が合っていないのです。
 月琴は,この類の楽器としてはごくごく単純な構造をしていますが,それだけに素材と構造の関係が濃ゆい。(構造的な問題。素材によって音質が変わる,というような意味ではない) そして国産月琴の作者の 「工夫」 のほとんどは,楽器というモノ作りにとって最も重要な「音質の向上」まで,きちんと届いていない場合がほとんど----なにせ,いちばん基本的なスキルと材料で 「ふつうに」「あたりまえに」 作っている人の楽器が,いちばん鳴りますからね。(w)

 「あたりまえ」でないことをするうえで,リスクが発生するのは,モノ作りでも人生でもおんなじです。

 今回の楽器修理上の最大の問題は,最大で3.5ミリ差にもなるアーチ構造をあきらめるか,一枚板をあきらめるかの2択です。アーチ構造の解消には,表面を平らにしなければなりませんが,カンナかけるにせよ擦り板で削り減らすにせよ,作業はかなり大がかりでかつ精密なものとなります。またそれで構造のほうの問題を解消したとしても,一枚板の弊害(デメリット)のほうは,ほぼそのまま残ってしまいます。

 今回は,素材のほうを構造により近づける努力をしましょう。
 おそらくそれがいちばん,この楽器を長保ちさせてくれるはずです。

 ほんとうは4分割くらいしちゃいたいとこなんですが,問題児とはいえ貴重な一枚板----しょうがないことだとは分かっちゃいるんですが,古物愛好家としてなんか精神的な負担がヒドいので,まあ半分割りでカンベンしてください。(泣) ここからはほぼいつもと同じ作業。胴材の周縁からわずかにハミ出るよう,中央をあけて板を接着。そしてあいた真ん中に,スペーサを埋め込みます。
 今回のスペーサは古い桐箱(たぶん軸物の箱)から切り出したもの。楽器の古板だと,こういう長いのは取りにくいんで,ちょっと昔のスジからもらってまいりました。箱には明治6年だかって書いてましたから,じゅうぶん百年くらいはたってますね。 楽器の板より少し染めが濃かったようですね。胴表面のど真ん中に修理痕……なんて,いかにも悪目立ちしちゃいそうですが,この楽器の場合そのへんに弦が走ってたり,フレットとかがあるせいもあって,意外とメンテで弦をぜんぶはずしちゃった時くらいにしか分かりません。

 貼りついたところで,スペーサは表面板と面一に,周縁も木端口を削って胴側面に合わせます。


 出来上がったところで,表面にちょっと板を当ててみましょうか----ほれ,月琴にあるまじき(w)アーチトップ,復活ですね。
 うちのクランプは,もともとウサ琴の胴体作るときに使ってた外枠ですので,板状で真ん中がすっぽり空いてます。おかげでこういう形状になってても,ふだんとほぼ変わらない手順で作業ができました。よく使われるポールクランプとかだったら,中心との寸法差がけっこうあって板の反発が強いから,あっちしめればこっちが浮き,みたいにけっこう手間取ったことでしょう。こういう板状だと,おっかぶせて一気に締めあげられますからね。

 表と違って,裏板はもともと矧ぎ板ですが,それぞれの小板の質があまりよろしくないことと,楽器中央にかなり幅の広いのがきちゃってるのもあって,バランスがよろしくありません。これも表板同様,真ん中割りにして,板の反発をより分散させといたほうがよさそうです。

 今回埋め込んだスペーサは,表のも裏のも,太鼓橋とかトンネルの石組みの頂点のところにある「楔石」と同じような形に左右を削ってあります。これでもまだ板の割れとかハガレは,ふつうの楽器より起こりやすいとは思いますが,前みたいに全周ぱっくりなんてことにはそうそうなりますまい。

 前修理者の後始末と,原作者のやらかしたこの胴体構造の克服が,今回の修理最大の山場でありましたので。あとはもうふつうに補修して組みあげるだけ----もうお気楽ごくらくですよ!

 胴体も箱になったことですし,おつぎは棹。
 まず延長材の接合部分に割レがありますから,再接着しちゃいましょう。工作は良く,見たところきっちりへっついてるようですが,棹の両端を持ってちょっと反らせると棹裏がわのほうが浮いちゃいます。
 ここの割れは,この楽器に多く発生する故障のひとつなのですが,よほど破損がヒドくなければ,割れたままでもまあ弾けなくはない。内部にあることもあって,意外と気づかれにくかったりもしますが,音合わせが異常にしにくく狂いやすくなりますので,ふだんから弾いてると気づかなくもない----楽器にとっては,弾くことそれ自体がメンテナンス,というのはこうしたあたりからも至言,よく判りますねえ。
 これの修理はそれほど大変じゃありません。
 割れてるがわのスキマに,薄目に溶いたニカワを筆で流し込み,クランプで固定して1~2晩----よくある故障ですし,古楽器ですからね。このへんくらいまでは糸がけなんかと同じ。個人でやるメンテナンスの範囲内ってもんですよ。

 これで見事に元通り!

 あとは念のため,棹をちょっと反らしてテスト。

 ………あれ,また割れちった。
 しっぱいしっぱい,っと,少しニカワをケチったのがイケなかったかな?----てへ,っと。んではそのへん気を付けても一度!………あれ?

 何度やっても,へっつきません。(泣)

 おおおおお,なんじゃこりゃあっ!!!!!

 -----というわけで,次回はそのへんから。


(つづく)


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