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Yさんちの天華斎(4)

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斗酒庵 依頼修理の続く2016.11~ Yさんちの天華斎 (4)

STEP4  小賢しき日々

 さて,今回の修理。原作者の「福笑い」行為のおかげで,当初思ってもみなかったほどの大工事になってしまったわけですが,もともとの保存状態は悪くなく,だいたいの部品もそろっていますので,中心線の問題さえ片付いてしまえば,さしたる問題はありません。

 まず棹の補修をします。
 指板面の根元ちかく,左がわにカケがありました。角になるところがけっこう長くカケちゃってましたので,この上からフレットを付けると端のところが出てしまいます。こういう場合は,同材のカケラを刻んでここに貼り付け,整形するのが常道なのですが,タガヤサンは唐木の中でも特に接着の悪い木なので,その手の補修が難しい。
 操作上けっこう大事なとこですし,まあ縦には長いけれど横にはせまく,あまり目立たないでしょうから,ここは現代カガク(w)でいかせていただきます。
 胴体の修理で出たタガヤの粉をエポキで練って,カケのある場所に盛りつけます。範囲がせまいうえ,ちょうど角の部分なので,そのままだといくらパテを盛っても左右に崩れ,思った場所にうまく盛り上がってくれません。


 カドをキッチリ出したいこういう時は,パテを盛ってから,平らなほうの面を,エポキがくっつかないような板,たとえばクリヤファイルの表紙だとか樹脂板などに当てて,ぎゅっと押しつけます。その面を下にしてくっつけたまま,ハミ出しすぎたところを削り,盛りの足りないところに埋め込むなどして,そのまま硬化。
 きっちり固まったところで整形します----うむ,美しい。


 つぎに胴表裏板の補修。
 さほど大きなヒビ割れではありませんが,玉華斎などと同様,胴体の構造や衝撃などによるものではなく,板の質そのものに原因のある割れなので,ちょっと厄介です。
 この手の故障は基本的に,木が 「割れたいように割れきる」 までは,とりあえず割れたら埋めるといった対処療法しか手がありません。割れたいように割れきって木が安定したところで,弱い部分を切り取るなり大きな埋め板をはめこむなり,といった根本的な解決ができるわけですね。
 逆に考えれば,作られてから200年近くたってるんですが,この木はまだある意味「生きている」んですね。それはそれでなにやら感動。(w)
 ヒビもそれほど広がってませんし,「とりあえず」なので埋め木でもパテでもなく,オガクズを埋め込んでおきます。薄く溶いたニカワを割れ目に垂らし,以前の修理で出た古い桐板の削りかすを,アートナイフの先で,縦に刻みこむ様にしながら押し込んでゆきます。埋め木ですとヒビが広がればスキマができてしまいますし,パテですとパクンとかんたんに割れてしまいますが,こうやってオガクズを押し込んでゆくと,もとの板の繊維に刻まれたオガクズの繊維が,いい感じに絡んでくれますので,直線的でなかったり断続的だったりする「裂け割れ」なんかの場合は,埋め木よりも「もち」がいいですねえ。

 あと,棹孔の位置をズラしたため,板の縁と棹の指板の間にスキマができちゃいました。取付け上,使用上の問題はないんですが,演奏位置にするとちょっと目立ちますので。指板でやったのと同じような工法で,このあたりの角も復活させておきます。
 胴材部分と棹の接合面にマスキングを貼り,丸められちゃってる板の角のところにパテを盛り,棹を挿してぎゅっとな。あとはパテが固まるまで指板面にクリアファイルの切れ端を貼りつけておきます。

 ここはどちらかといえば,強度より見栄えのほうに関係する部分なので,パテは加工の容易な木粉粘土を使い,力のかかる棹との接合部分にのみエポキを滲みこませて強化しました。木粉粘土には表裏板の染色に使うのと同じヤシャ液を混ぜて色合いを調節してあります。
 しっかり硬化したところで整形。
 かちっとした角が復活し,指板とのスキマもなくなりました。

 最初に書いたとおり,欠損部品は少なかったものの,大物がふたつばかり。
 ひとつめはこれ。
 コウモリの蓮頭が欠けちゃっています。
 欠けた部分だけ作り足すこともできなくはないのですが,老天華のお飾りは繊細な作りなので,実際に楽器として使用するとなると,多少強度上の心配があります。楽器を安心して振りまわせるように,ここはひとつまるっと作ってしまうとしましょう。
 ふふふふふ………大陸の職人とお飾り勝負か…腕が鳴るぜい。(w)

 オリジナルはツゲ製ですが,ここは慣れたホオを使いましょう。ホオのほうが柔らかいのですが,ツゲよりは粘りや弾力があります。けっこうぶつけちゃうとこなので,その意味ではこっちのほうがもちはいいかも。そもそも複製品ですから壊れてもあまり惜しくない,壊れたらまた作りますしね。

 下半分の部品はなくなってしまっているので,天華斎系列のほかの楽器の資料などをもとにデザインを起します。たぶんこのコウモリさんは花弁を銜えていたはず。花芯部分が比較的平らなのとへっこんでるのの二種類があるようですが,そこらはまあ彫りながらのフィーリングで。


 オリジナルを横に置いて,彫りの手を真似しながら削ってゆきます。
 ----うん,こまかいですね,細いですね。羽根の先っぽのほうなど,こちらの技術かなりギリギリの感じですよっほーい!!

 デザインはほぼ同じですが,ツゲよりも柔らかい材なので,コウモリの部分と外枠との接点を,オリジナルより4箇所ばかり増やして強度を増しておきました。
 彫り上がったところで染め。
 ホオやカツラは染まりのいい木なので,この作業もけっこう楽しいですね。オリジナルの風合いに,できるかぎり近づけてゆきましょう。
 ヤシャ液とスオウ…これにベンガラとカテキューあたりが,明治のころの楽器屋さんが常備していた染料でしょうか。オハグロなんかまだ奥さんが使ってたかもしれませんし,媒染に使う木灰はかまどや火鉢が現役。酢なんかは今と同じく三河屋さんでふつうに買えたでしょう。
 今回はヤシャ液を中心に黄色染,スオウで少し赤みを足しました。あとはラックニスで表面を固め,ロウ磨きで仕上げ,木肌をつぶして質感をツゲに似せてみました。

 最後に木灰をまぶしてリューターでパフがけ,古色をつけてあります。
   どうでやんしょう?


 もうひとつ,これは「欠損」ではないんですが,楽器の中心線問題と同じく,「余りといえばあまり(w)」 なので……
 糸巻を1本削ります。
 オリジナルの状態で4本そろっており,噛合せなども悪くはないんですが…ご覧ください,1本がやたらと短い,ついでに言うとこれだけほかのより2ミリ以上も細いんです。
 並べてみたら,この1本だけやたらとこうだったものですから,はじめは後補部品か? などと疑ったりもしたんですが,材質も加工の手もほか3本と同じですね。
 国産月琴では,糸巻の滑り止めの溝は,糸倉に入る手前で切れているのがふつうですが,この楽器のはほぼ先っちょのとこまで通っています。ぜんぶではありませんが,唐物楽器の糸巻では時々見る加工なので,このあたりは問題なし。深溝で軸尻のでっぱりの浅いこのスタイルは「天華斎」系列の楽器ではよく見る定番のカタチです。見ての通り4本のうち2本に,糸孔が2つあいてます。実際に当ててみると,先のほうの孔は糸倉の左右に入っちゃったりするので,あけなおしたものでしょうが,これも後で所有者があけたようなものでなく,オリジナルの工作のようですね。これは大陸でよく使われる弓錐(小さな弓状の工具と組み合わせて使う)であけられてますから。


 道具箱を漁っていたら,以前に唐物月琴を直す時,多めにこさえたのが1本出てきましたんで,これをちょっと改造して使おうと思います。
 材はスダジイ。スオウで染めてベンガラとオハグロで媒染・追色。
 今回はうまくいきましたね,黒染め。
 これならまあ一見分かりますまい。
 さて,棹位置の調整も終わり,表裏板の補修も完了。部品もそろってきました----いよいよ次回,組立てに入ります!!

(つづく)


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