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Yさんちの天華斎(3)

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斗酒庵 依頼修理の続く2016.11~ Yさんちの天華斎 (3)

STEP3  福笑いの構造

 楽器の中心線が胴体で右に2ミリ同方向に7度傾き,棹の中心線はさらにそこから1度,半月も0.5度傾いてやがる,福州茶亭街老天華製唐物月琴。(うむ,なんかちょっとスッキリしたぞww)

 表裏板のヒビ割少々に一部部品の欠損・破損をのぞけば,現状,各接合部,接着箇所等にはほとんど故障がありません。
 「資料」として見るなら,その工作はほぼオリジナルのまま。ただの「モノ」として見るなら,欠けてるとこを足し,はずれてる部品をくっつければ修理完了の軽傷物件です。

 さて,オリジナルの工作に問題があった,としても。原作者の工作をあえて変更するという行為は,この楽器の研究者としても,楽器の修理者としても,元古物屋の小僧としてもけっこう精神的にはキツい(w)ものです。
 「修理」 の本筋は 「原状回復」----そこから言えば,ソレ,もう「修理」ぢゃないですからね。

 しかしながら音を奏でる「楽器」という道具して見た場合。
 これをこのまま「直して」も,「楽器」としてはマトモに機能しません。


 庵主はそれがどんなシロモノでも,基本的には「楽器」として使ってもらえることを前提として修理をしています。 不幸な歴史に翻弄され,あれだけ大流行したものの弾く者絶えて。あるいは納屋の屋根裏,あるいは埃くさい蔵の戸棚にさらされ。百年近い月日,見向きもされず,その音を奏でられることもなく朽ち果てようとしていたものを蘇らせるのには,ちゃんとした理由が必要です。
 ただ飾っておきたいだけなら「修理」なんてしなくていい,そんなことなら,庵主はデータだけ採らせてもらって,あとは知らぬ顔でもキメときたい。 「弾きたい」という声があるから,修理をするのです。 庵主は楽器職人ではありません。この楽器が,この楽器の音が好きなだけですからね。

----とまあ,それらしい言いわけぶッこいたところで,作業に入りましょうかぁ(w 少しやさぐれてます)

 まずは表板上にある,すべての物を取り外します。
 国産月琴に比べると,唐物月琴はお飾りにしろ部材にしろ,接着が頑丈です。けっこう良質なニカワを使い,フレットやお飾りにはやや強めの圧をかけて,ガッチリばっちりへっつけられています。

 毎度のことながら,唐物月琴はこういうのをはずすのがホネですね。----国産月琴の場合は,ペロっとカンタンにハガれてくれることが多いんですが。
 ニカワを緩めるためには接着部分を濡らす必要があります,しかしながらモノはいちおう 「楽器」 です。比較的湿気の好きな楽器とはいえ,濡らし続け時間をかけてしまうと,板以外の部材にも影響が出かねません。
 高圧の蒸気クリーナーでもあれば一発なんですが,都内最下層の貧乏工房のこと,もちろん持ってませんので(w)。なるべく短時間に作業を済ませられるよう,いろんな工夫をしています。

 いつも手間取る中央の石飾り。
 周縁を筆で濡らし,わずかでもスキマのあるところに,クリアファイルを刻んだのをさしこんで,ノコギリみたいにギコギコ挽き,水分を押し込んでゆきます。 すぐハズれる木製部品や,フレットくらいの小さな部品ならいいんですが。こういう水を使った作業の際,金属製のスクレーパーなどを使うと,板を染めるのに使われるヤシャブシなどの染料が刃の金属と反応し,板に黒ずみが生じてしまうことがあるので,ちょっと気を付けてください。

 部品をハガしたら,その痕を全面もう一度湿らせ,ニカワをきれに掻き拭います。さすがに保存状態が良かっただけあって,まだじゅうぶんに活きてますね,このニカワ。


 フレット,柱間飾り,扇飾りと中央飾り,胴左右の鳳凰。
 そして最後,取付けのマズい半月もハガしてしまいます。
 周囲を濡らしたら,接着部のスキマからニカワがニジってきました----わお,さすが糸のかかる場所だけに,お飾りより増してけっこうスゴい接着がされてるみたいですね。
 ここばっかりはハズさないとどうしようもないので,濡らしてはクリアファイルさしこんで,少しづつ持ちあげること二日。
 ようやくハガすことができました。

 おや,黒檀かと思ってたんですが----この黒い本体部分は染めですね。ウラはふつうの木の色をしています。スオウかベンガラ,あるいはその両方を使っての色付けしたものでしょう。下縁部の中央あたりの色がちょっと薄くなっちゃってますが,状態としては上々。
 材は意外と軽く,表面は緻密ですべすべした感触です。たぶんツゲだと思いますが,木目がちょっと違うような気もするんで,何か知らない大陸の材なのかもしれません。

 胴上のぜんぶの部品がハズれたところで,あらためて計測をし,それぞれの部品が 「本来あるべきだった」 場所を,それぞれ探ってゆきます。

 今回,庵主のやることは,
  要するに 「 "福笑い" の後始末」 ですね。

 まるで目隠しでもしてかのように。原作者がテキトウな場所に置いて,可笑しなことになっちゃってる楽器の目鼻を,ちゃんとした位置にならべなおし,マトモな絵図にするわけで。

 棹孔から楽器内部を見ますと,表板の真ん中に一本,つーっとまっすぐな線が引かれているのが見えますね。表面からの計測結果,また 内桁がこの線に対しほぼ直角に取り付けられていることから,これがどうやら,この楽器の本来の中心線と考えられます。
 どこをどうしくじったらこういうことになるのか,庵主にはイマイチよく判りませんが,ご覧の通り,この線は棹孔の中心から約1センチ5ミリほど左に寄って存在しています。つことは,この楽器の棹は現在,本来の中心から1センチ5ミリ右にズレたところに取り付けられてるわけですよ。(汗)


 月琴は円形胴の楽器です。そして内桁のウケ孔は桁のど真ん中,すなわち,胴体を「円」と考えたときの中心点にあたる位置にあいていますので,円周上にある孔の位置が多少ズレてたとしても,棹をそのぶんナナメに傾ければ,内桁の孔にはちゃんとささります。 あとはそれに合わせて半月やフレットを傾けて貼りつければ,外見的にはまあ問題ないモノが出来上がるわけですが,この原作者,その誤魔化しの手際すら,よろしくありません。
 庵主としましては,現在の中心線に沿って半月やフレットをキチンと貼りつけ直すだけでも,まあ「修理した(w)」ってことにはなるんですが。間違った構造や工作は,かならずどこかにひづみや歪みを生み出します。 現に,棹が斜めに刺さっているせいで,内桁のウケ孔の右辺がつぶれて凹んでしまっています。唐物月琴の内桁は柔らかな桐板ですから,このまま使い続ければ,いづれ広がってガタガタになってしまうでしょう。

 まずなにはともあれ,胴体上の部品を貼りつける前に,諸悪の根源であるこの棹の取付けにちょいと大ナタをふるい,この楽器の問題を,根元のとこから断ち切ってゆくことといたしましょう。

 まずは棹孔を左方向に拡張します。
 胴材はタガヤサン。
 何度も書いてるように,唐木で最強の木材です。
 上に書いたあたりからも想像できますように,けっこうな寸法,削らなきゃならないんですが,タガヤサンには硬すぎる反面モロいところがあるので,刃物でイッキにとか,鬼目ヤスリでガリガリっと,てなわけにはなかなかイキません。
 そもそも,棹の角度を実際に確かめながらのけっこう微妙な作業でもありますんで,少しづつ確実に削っていけるような手段を考えなきゃなりませんが……オープン修理ではないんで,糸鋸は使えませんねえ。


 「挽き回し」という工具があります。
 日本の職人さんがけっこう好んで使う細身のノコギリの一種で,本来は板を丸くくりぬいたりするような時につかわれます。小回りの利く道具として,大陸では糸鋸でやるような細工を,これ1本でやっちゃう人もけっこういますね。
 棹孔の拡張したい方の辺にこれを当てて,「切る」というよりは「刻み目をつける」感じで浅くランダムに動かし,細かな溝がいっぱいついたところをヤスリで削り取ります。
 そうやって少しづつ削っては棹を挿し,棹の中心と胴体の中心がぴったり重なる目的の位置・角度になるところまで作業を繰り返しました。

 「楽器」の修理っていえば,ミリとかミクロン単位みたいな精密作業,ってイメージがあるんですが。 うむ,やっぱり1センチ以上左に広がっちゃいましたよ。(汗)


 孔が左に広がったぶん,右がわのスキマを埋めなきゃなりません。たまたま持ってたタガヤサンの端材(10年位前に銘木屋さんでもらってきたやつ)が,当ててみたらなんと偶然,タテもヨコも,サイズがぴったり!----おお,わが愛しき端材の女神よ(w 「端材捨てられない教」信徒)……これを埋め込みます。
 ここは簡単に壊れて貰っちゃ困る箇所なので,接着は唐木の粉を混ぜたエポキ。 しっかりと硬化させたところで,ハミ出た部分を切り取り,削って仕上げます。
 同じタガヤとはいっても別材なので,色も模様も微妙に違い,よーく見るとなんとなく分かっちゃいますが,これでまあカンベンしてください。

(つづく)


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