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月琴50号フグ(2)

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斗酒庵 一年ぶりで50面を越える の巻2017.3~ 月琴50号 フグ (2)

STEP2 最後はミルコ

 さて,調査・観察の結果,松鶴斎の作と推定された50号。
 では修理にまいりましょう。
 保存状態はけしてよくありませんが,糸倉や棹に損傷はないし。糸巻も4本,オリジナルと思われるものがそろっています。
 問題は表裏板と胴材の虫食い状態ですが----ふっ……かつて虫食いスカスカだった49号,そこに木瞬まみれだった長崎から4号を黄泉還らせたこの庵主,どんな虫でもかかってこいやーーーっ!!(あ,冗談です。虫食いはヤです,ヤですってばよ!!)

 まずは内部確認のためハガした裏板にラベル貼り。
 部品数の少ない月琴とはいえ,こうした細かい作業をきちんとやっていかないと,あとでけっこうエラい目に遭ったりしますからね(経験者)。

 あちこちにあいた穴ポコがなんとも痛々しいかぎりですが。49号のように胴材の内部まで食われているわけではなく,ほとんどの食害は,接着部のニカワの層およびその木部に浸透した部分まででとどまっているようです。

 虫の食害による全体の損傷をあらためて観察・確認したところで,上物の除去に取り掛かります。
 いつものように,フレットやお飾りの周囲に筆でお湯をふくませ,濡らした脱脂綿をかぶせてニカワを緩めます。ビニールやラップを軽くかぶせておくと,脱脂綿が乾かないのでいいですよ。
 ほとんどの上物は10分ほどではずれ,いつもはけっこう手間取るバチ皮も比較的ラクにハガれましたが,右のお飾りと半月が少し手ごわかったですね----と,思ったら。

 URYIIIIIIIIッ!!

 木瞬かよぉッ!!

 量は少なかったものの,ほかにも数箇所こびりついてましたね。こないだの長崎からのと違って「へっついてりゃイイや」くらいのモノだったんでまあ助かりましたが----

 駄目駄目駄目駄目駄目駄目ェッ!!
 楽器にィ,木瞬,絶対イィイイイ!!!

 じつは木瞬,桐とは相性が良くないらしく,あまり付きがよろしくない。たいていの場合は滲みこまず,板の表面でカリカリの層になってますね。とはいえ,桐のほかの木には思いっきり滲みこみやがるんで始末が悪い。今回も,板のほうにはほとんどついてませんが,ホオの木の半月の裏はべっとりカリカリになってます。
 この半月は,古物屋に持ち込まれた段階で外れていたと思われます。板のほうに,剥離した時についたと思われるエグレが数箇所。板の表面がむしられてるくらいですから,これはニカワの劣化による自然な剥離ではなく,使用中・もしくは保存中の糸の張力によるものだと思われます。

 月琴はお三味の絹弦を張ってるかぎりにおいては,それほど弦のテンションの強い楽器ではないので,基本的には張りっぱなし。演奏の時に調整するていどでいいのですが,保存の状態や使用の度合いによってはこういう事故がけっこうおこります。半月がはずれてる,というのは,古物の月琴ではよく見られる状態の一つですね。

 これは基本,へっつけてあるだけなので,キレイにすぱーんっとトンじゃってる場合は,もとの位置にニカワでへっつけなおしてあげればいいだけです。固定するまでに1~2日かかりますが,ふつうそれほどタイヘンな修理にはなりません。こんなふうに----

 木瞬とかさえ使われてなければ………うううう。

 いつもですと板の清掃は最後のほうでやるんですが,今回は板があまりにもまっくろくろなため,上物除去のついでに,軽く清掃しておきます。
 なんせこのままだと,どこが要修理個所やら分かりにくいもので。
 いつものように重曹を溶かしたぬるま湯で Shinex を使いコシコシコシ----うぉ…軽く拭っただけなんですが,すげえ色の月琴汁(w)が出ました。

 濡らした板が乾いてくると,色の濃い部分が線のように浮かび上がってきます。ここが虫に食われちゃってる箇所。板が完全に乾いてしまう前に,これを目印にほじくってしまいましょう。

 かなりスカスカになりましたが,まあこんなもの。
 板の虫害も周縁の接着部と小板の矧ぎ目部分が中心で,さいわい横方向への広がりはあまりありませんでした。エグレる部分はエグり,切り取ってしまったほうがいいような箇所は切り取ってしまいます。

 ここまでの作業は表板を胴体に付けたままの状態でやっています。といいますのも,表板は再組立ての際に最初の基準となる部分ですので,こうして被害の状況を完全に把握してから分解したほうが,後々の修理の工程を考えやすいからですね。
 これで見る限り,板を中央と左右の三つぐらいに分けてそれぞれを補修,胴に貼りつける時,中央の左右にスペーサを入れてつじつまを合わせるのがもっとも良さそうです。板が多少つぎはぎになっちゃいますが,オリジナルで11枚も継いでますからね,小板が2~3枚増えたところで問題はありますまい。
 裏板同様かなりニカワが劣化しているので,表板も周縁部はたやすくハガれたんですが,内桁はやはりしっかりヘっついてました----松鶴斎,ちゃんと分かって作ってらっしゃる。

 取り外したお飾り類と半月は,ぬるま湯で表裏をキレイに洗ってから,丁寧に水気を拭取って乾燥。薄板で出来てるお飾り類はすぐに新聞紙にくるんで,板にはさんで重しをかけときます。
 乾いたところで,半月の木瞬を除去しときます。
 瞬間接着剤のハガシ液(アセトン)を底面に塗るんですが,そのままだとすぐ揮発しちゃうので,すぐにひっくりかえしてクリアフォルダの上とかに伏せておくと良いです。
 しばらく置いて,やわらかくなった層の表面を刃物でこそぎ,布で拭い取ります。けっこうな層になっちゃってるんで,一回や二回の塗布では除き切れません。けっこう時間がかかります,くそぅくそぅくそぅ。

 板の周縁と胴体の虫食い箇所には木粉粘土を充填します。胴体の虫食いの深いところには,ゆるめに練ったのを注射器で押し込みます。
 木粉粘土は扱いがラクで,なによりもとが同じ木ですんで,オリジナルの木部への負担や影響も小さくて済みます。やや「ひけ」が大きいので,きっちり充填するためには,何度か作業をくりかえさなきゃなりませんが,そういうあとでの修正もききますし,柔らかいので充填後の整形も容易です。
 ただそのままでは,言うならオガクズのカタマリ----あまりにモロく,強度がありませんので,基本的には力や衝撃のかかる部分には使用できません。また水分にも弱いので,このままだと,接着で濡らした際,表面からポロポロ崩れちゃって,せっかく充填した意味がほとんどなくなってしまいます。
 そこでここに最近開発した新技法を。

 2液式のエポキを練る際にエタノを少量加えて緩めたもの。表面を整形した充填部分にこれを塗って滲みこませます。強度の必要な個所だと,木粉を直接エポキで練ったパテが有効なのですが,それだと柔らかい木部には硬すぎて,整形の時にオリジナルの木部を痛めてしまうことが多いのです。こういう楽器内部の虫食い箇所とかは,基本,表面はほかの部材でカバーされているものなので,虫食い内部が完全に充填されていればそれでよく,あとはその後の接着作業等に耐えるだけの強度が表面にあればじゅうぶんです。
 前の修理記でも書きましたが,エポキは粘度が高いので木部への滲みこみはあまりなく,こうした充填部分に塗った場合は粒子の間がスカスカの木粉粘土のほうに,よぶんに滲みこむのですが,エタノを加えた緩めた場合,それがいくぶん深くなり,充填部の表面にこちらがだいたい必要とするくらいの強度の層ができるんですね。
 滲みこむ,ってもたかが知れてますから,このくらいなら,もし取り除く必要が出来た場合でも,虫食いの充填箇所ごとほじくっちゃえばいい----エポキってのも,くっつけて固まっちゃったら,破壊するしか分離の方法がない,っていうある意味,木瞬より最凶最悪の接着剤ですんで,その使用には慎重にならざるを得ませんが,個々の範囲がせまく,またこうして除去の方法がある場合には,限定的に使用するのも構わないと思います。

 いつも書いてるとおり,「壊れるべきところ」を壊れないようにしてしまうのは修理でも何でもありません(w)が,本来「壊れなくてもいい」ような部分に関しては,こういう「壊れない」技術があるなら,伝統的な技法に拘泥する必要はありません。この食害はこの楽器本来の使用とは関係がなく,また構造体として「壊れるべきところ」でもありません。よりよい方法があるなら,そうしたものはどんどん使って行きたいと庵主は思っています。
 まあもっとも,しくじってもわしゃ知らないんで,貴重な古楽器に使うなら,自己責任でやってね。

(つづく)


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