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月琴51号 (終)

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斗酒庵 50面越えたとたんに の巻2017.3~ 月琴51号 (3)

STEP3 きょうもあしたもタワシのコロッケ

 さて,棹の調整もいちおう終わり。
 作んなきゃならない欠損部品もそんなにないので,あとは糸張ってフレット立てれば本体完成----

 そうは問屋がおろさないのが人生と,松のはしごと楽器の修理。

 糸を張ってみましたら,楽器の中心線に対し棹の中心線がわずかに右に傾いていることが分かりました。
 このままだと,低音弦のコースが糸2本ぶんばかり左寄りになって,低音域でフレットの端かなりギリのところになります----これもおそらくは原作者がこの楽器に熟知していないところからきた調整の甘さでしょう。
 まあ,このままでも弾けますし,最初から分かってさえいれば演奏上の支障はさしてありませんが。せっかくの良い材料と思いここまで仕上げてきた楽器です,手間惜しみはしますまい。

 棹孔を削って,楽器の中心線と棹の中心線を合わせます。
 なんかこの工作,最近よくやってる気がする。(w)


 材料が硬い唐木なので作業はそれなりに大変ですが,そのぶん精密な調整工作はしやすいですね。
 1ミリ程度,左がわに寄せたところでほぼ合致。棹の左右のテーバーが,もともとわずかに非対称ぎみなところもありますので,目測より,定規で測ってあちこちに貼りつけた目印を目安に細かな摺合せをしてゆきます。

 最後に,左に寄せたぶんのスペーサを黒檀の端材から切り出して接着。棹がスルピタでおさまるようにさらに調整。
 このくらいならちょうど棹の接合部に隠れて見えませんね。
 これでだいたい左右のコースがほぼバランスよく,山口から半月まで流れてゆく感じになりました。

 楽器に残ってたオリジナルのフレットは,胴上のものが5本。
 国産月琴の高音域フレットとしてはやや背が高めですが,半月での弦高も高いせいで,これでも弦との間隔が広くなってしまっています。半月の糸孔が縁に近すぎるのと,糸が出るところのへりをちょっと薄く削り新すぎたせいですね。
 ただ,この糸孔自体は糸替の時の便を考えて,上から下へまっすぐでなく,少し斜めにあけられてたりします----こういうあたりの工作は妙に丁寧なんで,やっぱり楽器の素人さんではないと思う。
 オリジナルのフレットの質や工作自体は良いものですし,これよりさらに高いフレットをぜんぶ象牙で作るとなると,それなりにコストもかさんじゃいますので,糸のほうを下げることとしましょう。

 50号に続いて半月にゲタを噛まします。
 材は象牙。
 これにて半月における弦高が2ミリほど下がり,糸とフレット頭の間隔もうまいぐあいに一定になりました。琵琶と違って,フレットに糸をぎゅうぎゅう押しこむような楽器じゃありませんからね。指頭で触れれば音が出る,くらいが理想なんです。

 オリジナルの弦高でオリジナルの位置にフレットを配した時の音階は以下----

開放
4C4D+144E-384F+234G+164B-25C-25D-125F-2
4G4A+144B-395C+155D+175E-145G-95A-85C-6

 弦楽器の調律として基本の,オクターブの合わせはだいたい合ってるみたいですね。清楽器の音階としては第2フレットがふつうより10%ほど低めですが,1オクターブ上ではマイナス10代ですので,それほど違ってもいません。

 ゲタを噛まして弦高を下げると,音の響きと運指のうえでは良い効果があるのですが,フレット位置が若干変わってしまうことがあります。オリジナルの弦高のとき,胴体の縁に位置する第4フレットは西洋音階から10%ほど高いくらいで,これをぴったりにするのには,ほんの1ミリほど棹にかかるかかからないかくらい山口がわに移動してやれば良かった程度だったと思いますが,弦高を下げたために音の位置が変わってしまいました。
 このフレットはこの楽器の通常の調弦(間5度)の際に使われるところですので,位置合わせはかなり正確にやっとかなきゃなりません。それでいて胴と棹のちょうどきわのところにあるものですから,前回も書いたように,棹と胴体の接合部に段差とかがあると,きちんと貼りつけることができなくなっちゃうんですね。
 オリジナルでは胴体のきわ,0.5ミリほど手前。新しい位置は,フレット本体が棹上に3/4,胴体に1/4かかってる感じです。
 フレットの大部分が棹の上に移ってしまったので,端を少し削って指板の幅に合わせました。
 いやあ,棹の調整の時に,しつこく段差を消しといてホントに良かったですわ。(^_^;)

 足りなくなってたフレットは3枚。
 はじめ牛骨で作ってみたんですが,加工してるうちに3枚とも割レが入っちゃったので,けっきょく,材料箱にあった端材を総ざらいして見つけ出した象牙で,も一度3枚を作りあげました。同じ板材から,とかじゃないので品質はちょっとバラバラですが,こんどはいちおう象牙。(汗)

 山口は牛骨。
 こちらはだいぶ前に作ってあった作り置きを磨き直したもの。1年くらい前,44号とか45号をやってたあたりだったかなあ。ラックニスがいい感じに滲みて,それこそ象牙みたいな質感になってました。

 糸巻は1本補作。
 オリジナルはツゲ。こちらはいつものように材料は¥100均のめん棒ですが,今回はスオウとヤシャブシで黄染め。まだちょっと色に落ち着きがありませんが,1年くらいしたらもう少し目立たなくなるかと。

 最後にお飾りが2つ。
 ひとつめは蓮頭。
 残片もなく,作者は分からないし,作例的にぴったり同じような資料もないので,オリジナルがどんなだったか分かりませんが,似たような胴飾りのついた楽器の例から,50号に続いてボタンを彫ることにしました。
 うむ,2コめなのでいくぶんキャベツ感は薄れたかと。

 扇飾りはもともと痕跡すらなく,

 また,国産月琴ではこの飾りのすぐ下にある第6フレットがふつういちばん長いものなのですが,この楽器では一つ下の第7フレットがいちばん長くなっています。修理前までは古物屋あたりが貼りつけ間違えたのだろう,と思ってましたが,フレッティングの際ならべてみたら,長いフレットのほうが背が低く,順番は間違っていなかったことが確かめられました。
 ここからも,この楽器の第5・6フレット間に飾りがあったかどうか,多少怪しいところもないではないのですが,さすがにほかの月琴に見慣れた目には,せめてこれがついてないと,表板の景色が間の抜けてるような感じしちゃいますので,とりあえず何か作ってへっつけとくことにします。
 ちょっと凝って,ちょうちょが2匹と唐草。ボタンと合わせて「富貴連綿」ですね。

 バチ布には緑の牡丹唐草を。
 こういうお飾りの少ない,重厚な楽器には,ミドリ色の地味めな布が映えますね。

 ぜんぶそろったところで貼りつけて。
 2017年4月5日。
 唐木製の高級月琴51号,修理完了!

 音には文句がありません。
 重く硬い木をふんだんに使っているぶん,音ヌケはあまり良くありませんが。低音の響き,深く優しい余韻は,カツラやホオで作られた普及品の楽器では,まずそうそう出せるものではありません。

 ちょくちょく書いてるのですが,ではこういうのが 「月琴の音」 かというと,多少意地悪いことながら,庵主には疑問があります。たとえば,現代中国月琴でもいいですが,大陸からきた古渡りの月琴,あるいは庵主が源流と考えている西南少数民族の楽器の音は,もっと明るくて軽やかです。それこそギターとかウクレレに近いですね。

 国産月琴の作者の多くはこの楽器を,知識的にはちょっとアレな清楽家の喧伝する「唐渡りの風雅な楽器」みたいなイメージをもとに作っていました。 時代が進むにつれ,大陸の楽器の構造やその本来の音色から離れ,音もカタチも次第に「月琴」という字面と,そのコトバの響きからくるイメージを具現化するようになった楽器----ある意味その結果として,現実にあった(中国の)月琴と別物になった 中二病的産物 が,日本の「清楽月琴」という楽器だと,庵主は考えてます。

 もちろん,それが 「本来の音や構造」と違っている から,と言って。漆黒の闇より湧きいづる混淆の響き や,冷月の影に封印されし白銀の波導美しくない理由もなく----もう一度書きます。

 いやほんと,(楽器としての)音には文句がありません。
 文句なく,いい音の楽器ですよ。(w)

 外国文化をとりこんで クールジャパン に昇華する構造は,月琴流行のころからもうあったのだ! とも言えますねえ。
 ともあれ,こういう高級品は初心者向けではないので,できればすでになんにゃら一本持ってる方に弾いてもらい,音の違いを楽しんでもらいたいとこですね。

 半月にゲタを噛まして操作性をあげてありますんで,少なくとも低音域はほぼフェザータッチ状態。ただ,フレットはオリジナルに合わせ,ぜんぶ頭の平らなタイプにしてあるので,ふつうの頭の丸まってるタイプに慣れてると,最初のうちは若干指がひっかかる感じがあるかと思います。
 あと,このタイプのフレットは,糸を握り込むとビビリが出やすいです。そのあたりも考慮してフェザータッチに調整してあるんで,運指はなるべく軽やかに。

 そのほかはちょっと重いんで,立奏よりは椅子とかに座って,じっくり弾くほうをおススメします。

 ----というように月琴51号,間違いなく文句なく,とびきり高性能ではありますが,多少クセのある楽器です。この「クセ」は,何回も書いてるように,原作者が月琴という楽器を熟知していないまま作ったことによる,工作の差異から生じたモノですが,流行期の楽器にはよくあることですし,楽器として致命的な欠陥であるとか,「月琴」のレギュレーションから大きく外れた工作,というようなわけでもないので,基本,原作者の工作を尊重した(放置した? ww)部分ですね。
 カンタンに言うと,修理はした----あとは弾いて慣れろ! と。

 まあ,どうしてもガマンできなかったら,フレットの頭丸めるくらいの調整はふつうにやりますので,お気軽にご要求ください。

(おわり)


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