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月琴50号フグ(4)

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斗酒庵 一年ぶりで50面を越える の巻2017.3~ 月琴50号 フグ (4)

STEP4 イルカではない,河豚である。

 この50号は----状態としましては真っ黒に汚れてたし,虫食いもけっこうありましたが。古物の楽器としては欠損部品が少ないほうです。  損傷していてもオリジナルの部品は大切なので,使えるものはなるべく補修して使うことにしましょう。

 まずは糸巻が1本だけ,けっこうヒドく虫に食われていました。
 糸巻が食われるってのはめずらしいですね。ふつうニカワとかはついてない部品ですから。さらにこの先端部分のみ食われており,ささっていた糸倉のほうに被害はありませんでした----味噌汁にでも落として,出汁滲みちゃったのかな?(w)
 ここは唐木の端材と,唐木の粉をエポキで練ったパテを埋め込んで補修。

 場所が場所だけにどうかな~という心配もあったんですが,けっこう丈夫に直りました。
 ああ,そうか…糸巻にはニカワなんか使いませんが,巻きついてるお糸には糊とかニカワ使われてますね。そして糸の芯は絹----動物性ですし。それが狙われたのかもしれません。
 にしてもまあ,はじめて見る故障でした。

 棹は重曹水でさッと拭って,乾いてから油拭きしたらかなりキレイになりました。
 清掃前にはほとんど判別できなかったんですが,指板にやっぱりうすーい唐木の板(厚さ1ミリないほど)が貼られてますね。木目から見てカリンを染めたものじゃないでしょうか。

 山口は国産ツゲ。
 松派のほかの作家さんの例から考えて,オリジナルはたぶん牛骨だったと思います。


 蓮頭はなくなっていたので,オリジナルがどんなだったのかは分かりませんが,松音斎や松琴斎の楽器で,胴飾りが鸞のものには,牡丹の花が蓮頭に付けられていることが多いようなので牡丹を……ううむ,まだいくぶんアブラナ科の植物のニオイのするボタンですが,まあカンベンしてください。

 彫り物には「格」ってもんがありまして。
 龍虎や獅子,牡丹なんかは,本来それなりの腕前を持ってなきゃ,彫っちゃあイケないものなんですよ。小器用言うても庵主,しょせんはシロウトですからね。キャベツな牡丹が限界(w)

 胴飾りは中央の円飾りをのぞいてぜんぶ残っています。
 スオウが褪せて色が薄くなっちゃってますので染め直します。
 スオウを3~4回刷いてミョウバンで一次媒染。乾いたところでオハグロ液をかけて二次媒染----蓮頭同様,黒染めにします。
 一昨年,それまで5年以上もたせてきたオハグロを枯らしちゃいまして。今使っているのは,去年あらためて作り直したやつなんですが,一年以上たってようやく熟れてきたようで,今回は黒染めがバッチリです。

 円飾りは日焼け痕から推測して,おそらくこのタイプ。
 「獣頭唐草」 と庵主が勝手に呼んでる意匠---たぶん雲龍紋の変形だと思うんですけどね。
 ホオの薄板を刻みます。
 ここは胴上につくほかのお飾りと「手」を合わせなきゃならないんですが,松鶴斎,庵主よりお飾りの彫りがヘタクソです。自分より巧い人の場合は,まったく同じものを作るのはハナからムリなので,「自分の出来るせいイッパイ」で誤魔化す(w)しかないワケですが,自分よりヘタな人の手に合わせるってのも,それはそれなりにけっこうな拷問ですのよ。
 これも彫り上がったところで,磨いて黒染めしておきます。

 フレットは牛骨。
 オリジナルも数枚残っていましたが,棹上のは全損です。(幅の足りない妙なのが1枚貼りついてましたが,ボンドでつけられた後補)今回もペットショップで買ってきた牛骨を使ってるわけなんですが。もとがワンちゃんのおやつだけに,工業用の素材みたいに脱脂がちゃんとされてません。
 まあ脂抜きがされてなくても,べつだん指や弦につくわけでもないんで問題ないんですが,部分的に染みが残って,ただでさえ安い素材がさらに安っぽく見えちゃったりしますので,今回はもう一工夫。
 ¥100均コスメの除光液と,同じく¥100均で売ってる瞬接のはがし液を混ぜて,特製の脱脂汁といたします。どちらも主成分はアセトンですからね。
 板状に削った牛骨を,これに1~2晩漬け込みます。

 これを乾かし,フレットのカタチに整形。高さを調整したら磨いて,薄くなったところでこんどはキッチンハイター的な漂白剤で軽く漂白。

 じゅうぶんに乾燥させてから,滲みこみ防止にニスを薄く2度ほど塗布,乾いたところでヤシャ液に20分ほど漬けて古色付。そして最終の磨き----っと。
 安い材料ですが,ここまで手間かけると,シロウトさんには象牙と見分けがつかないくらいの出来になりますでよ(w)。


 フレットをオリジナルの位置に配置した時の音階は以下----

開放
4C4D+74E-364F+54G-44A+45C+145D+205F-49
4G4A-84B-405C5D-65E-135G-65A+75B+30

 「上(低音開放弦)」から数えた第3音が,西洋音階よりやや低いのが,清楽器の古い音階の特徴。清楽の音階は,関東の渓派と大阪の連山派の間でも少し違っていたようですが,この部分は基本的に同じですね。

 オリジナルのままだと,山口から半月までの糸のコースが胴板表面とほぼ並行で,半月においての弦高がやや高く,少し弾きにくいので,半月にゲタを噛まし,弦のコースに傾斜を加えました。2ミリ近く下げたんですが,これでもオリジナル・フレットの丈が低すぎで。第8フレットにオリジナルの第5を流用した以外,けっきょく7枚は新しく削りました。

 データ収集と確認の後,フレットを西洋音階に並べ直して接着。仕上げておいたほかのお飾りも一気に接着して,

 50号松鶴斎,修理完了です!

 同時修理中の3面の中ではいちばんの重症患者でしたが,それなりにうまく修理はできたかと。
 松派の中でも音ヌケのいい楽器なのは,やはり関東の作家の影響があるためかと思われます。松音斎や松琴斎の楽器はもうすこし音がこもって,優しい感じがしますね。

 うちの不識の楽器(1号&27号)あたりに近く,素直な音が,前にまっすぐ飛んでゆく感じです。細くて長い関東風のネックに,松派独特の内部構造と胴体工作----作者のなかで,関西と関東の技術がいまだせめぎ合ってこなれていないためか(w)ややヘッドヘビーで,速弾きの際に楽器が少し不安定になることがあります。

 まあもちろん,パッヘルベルのカノンあたりを弾きこなすくらいの速弾きをしない方にはあまり影響なく,慣れれば身体のほうが楽器に合わせて勝手に対処するようになるので,さほどの問題でもありません。
 普及品なので「音の深み」とかの点ではさすがに,高級な楽器には一歩も二歩も譲りますが,音量もそこそこ出るし,余韻も効いています。ふだん使いの楽器としてはじゅうぶんな性能を持ってると思いますよ。

 ちょうど似合いそうな布がなくって,とりあえずのをバチ布としてへっつけてたんですが,さすがにかわいそうになり,同じ系ですがもう少しマシな布に貼り換えました。


 ちなみに,うちのバチ布は基本,渋紙で裏打ちしてヤマト糊で楽器に接着しているだけですので,こうして筆とかで濡らして湿らせれば,ごく簡単にハガせます。

 なんどか書いてますが,庵主は色彩感覚に関してはヒドくザンネンなヒト(w)なので,なにかイイ古裂とか帯の端布なんかが手に入りましたら,お気軽に貼り換えてやってください。
 お気に入りの布などありますれば,裏打ちくらいまではやってあげますよ。
 そういうときは布送ってください。(ただし,布の種類によってはバチ布に向かない場合もあります)

(おわり)


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