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佐賀県からきた月琴(2)

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斗酒庵 SAGAよりの使者に会う の巻2017.4~ 佐賀県からきた月琴 (2)

STEP2 ワラスボ怪人が倒せない。

 んでは,SAGAの国からとどいた月琴,
                   修理開始いたします。


 とはいえこの楽器,器体の基幹部分に損傷はありませんので,この先なんかのひょうしにどえりゃあキズでも見つからない限り,だいたいのところは「補修」レベルの作業でとどまりそうです。

 まず何はともあれ,棹や表板上のお飾り類をはずします。 棹上いちばん上の菊の金属板と,3番目のサンゴのかけらはあきらかに後補。そのほか第2フレットと4番目のお飾りも,同様にゴム系の接着剤でへっつけられていました。
 あと,第5フレットはおそらく木瞬。カリカリした感じの接着剤----いづれも古物屋さんのシワザでしょう。
 百年以上むかしの楽器にこの手の接着剤を使うあたり,昔カタギな骨董屋の小僧経験者としては,業界の堕落を鼻で笑うしかございませんが。 たんにヘタなのか,それともいちおう遠慮して使ったのか。今回このあたりは比較的カンタンにはずれてくれやがりました。

 苦労したのは,むしろオリジナルの接着部分で。

 -----ああ,やっぱりこの作者,ウデが良いや。
 スゴいですね,バッチリへっついてます。
 接着面にスキマもほとんどないくらいの緻密な加工も相俟って,そりゃもうガッチリピッタリはずれません。
 ちッとやそッと水刷いても,滲みこんでもいかないもんなあ(汗)
 ものつくりの職人として,その気持ち,分からないでもないんですが……ただそれが「楽器」というものである限り,後先にかならずメンテナンスの必要があるってことまでもうちょっとちゃんと分かってたなら,こんなにガッチリへっつけはしなかったでしょうねえ。

 楽器は置物でなく,人に使われる「道具」です。ノコギリなら目立てをしないと,刃物なら砥がないと,どんなイイ物でも真価を発揮できません。減ったり切れたりしたら,足したり替えたりしてあげなければなりません。汚れたらキレイにして,磨いてやらなければなりません。

 そのあたりまで考えてくれてれば,「名人」って呼んであげてもいいくらいなんですが(w)

 ふつう2時間も湿らせれば,だいたい取れてくるところ。ちょっと頑丈でも一晩あればなんとかなるところ----今回は全部はずすのに足かけ2日もかかりました。
 ちょっと前の老天華などでも同じような事態に出食わしましたが,ふつうならコレ,メンテナンスの下準備ていどの作業。
 こんなことで器体に余計な負担をかけつづけるのも良くないので,ガンコなあたりは,クリアフォルダの切れ端でしごいてハガしてゆきます。

 板が乾いたところで,楽器左下縁の板の剥離を処置。
 上で使ったクリアフォルダの切れ端で,板と胴のスキマにニカワを流し込み,よーくもみこんで行き渡らせ,クランプで固定します。
 側板表面の飾り板も少し浮いてるようなので,当て木を噛ませ,ゴムをかけておきました。

 楽器右下,板の縁に少し大きなカケがありましたので,ここは桐板のカケラを接着して整形。
 そのほかお飾りをはがすときについた被害箇所とバチ皮の貼ってあった部分の右がわにあったヒビ割レ(生皮の収縮で裂けたもの)を埋めておきます。
 今回,楽器本体に直接関係する補修はこのくらい。

 さあて,後はさらに細かいですよ~。

 半月のお飾りは,いじくってたらポロリととれてしまいました。まあこれは,ニカワを塗ってへっつけてあるだけですので,ヘっつけ直すだけ。

 左はしに,カケてなくなってる部分がありますので,これを補します。オリジナル部分はツゲですが,ツゲは古色をつけるのが少し難しい材,同材だと補修部分が目立ってしまいますので,ここは染まりやすく七化けするカツラの端材でこさえます。
 だいたいのカタチに刻んで磨き,スオウやヤシャブシで染め,ほかといっしょに油磨きしたらほら----うまい感じにおさまりました。

 ニラミの意匠はザクロですね。
 右に数箇所割レが入っているのと,左に葉先がカケちゃってるとこがあるので直しておきます。
 月琴のこの飾りは,だいたいがカツラとかホオとか,彫刻しやすい材を唐木風に染めたものなんですが,この作者のはホンモノの黒檀,それもかなり上質な板を使ってます。彫刻も精緻ですね。
 端材箱を漁って,ちょうどいいくらいの大きさのマグロ黒檀のカケラを見つけ,これを刻んでエポキで継ぎ。あとは右のお飾りを参考にしながら,彫刻刀やリューターを駆使して,オリジナルと模様をつなげます----彫りが……こ…細かいぃっ!!!…これに合わせるのか(汗)

 剥がした時に割れてしまった2番目の小飾りを補修。
 いちばん上のお飾りには新しくを,3番目のところにはを凍石で彫りました。

 余計な溝が何本も切られていて不便だしまぎらわしいので,山口の糸溝をいちどぜんぶ埋めてしまいます。


 このパテは,赤系の唐木の粉をエポキで練ったものですね。
 こういうところに盛るときは,そのままだとパテが自重で崩れたり流れてしまうので,必要箇所にこんもり盛り上げてから,くっつかないような板や,クリアフォルダの切れ端などでフタしてやるようにすると,こんなふうにうまくいきます。
 これを削って均し,新しく糸溝を切ります。

 外弦間14ミリ,各コースの間隔は2ミリほど。
 高音弦と低音弦で糸の太さに合わせ,微妙に変えます。

 これで糸が張れるようになりました----さあフレットをもどしましょう!

 佐賀よりきた月琴,オリジナル位置での音階は-----

開放
4C4D-44Eb~4E4F-164G-44A+45C-255D-135F-18
4G4A-84Bb+455C-145D-135E+25G-305A-116C-33

 第2フレットの第3音が低めで,ほとんど Eb になってます。清楽の音階ではもともと低めな音ですが,だいたいはマイナス20%前後ですね。高音域に少し乱れがみられますが,これもまあいつものこと。チューナーのなかった時代,このくらいなら十分に許容範囲だったと思いますよ。

 あとは内弦を張って,お飾りをもどし。
 楽器といっしょにオーナーさんから送られてきた錦裂で
 バチ布をあつらえて。

 2017年5月,佐賀からきた月琴,修理完了です!!


 まあ,表板を清掃したのとお飾りが二三入れ替わってるくらいで。画像だとよほど細かく見ないと外見的には違いが分からないかと思います。(w)
 裏板の中央に少しヒビが入ってるんですが,フシ目の真ん中に出来た自然発生的なものなので,現状,広がるのかこのままなのか判別できず,今回は手を出しませんでした。
 このままでも音や操作上の支障はないと思いますが,ヘンに広がってくるようでしたら補修しますので送ってください。

 木部は全体さっと清掃して,亜麻仁油とカルナバ蝋でとぅるっとるに磨いてあります。
 さすが唐木の高級月琴----軽くお手入れしただけでぴかっぴかです!

 響き線の形状の差で,余韻は多少異なりますが,こないだ直した51号にも似た,温かくやわらかな音ですね。
 国産月琴としては音量もそこそこ出てるし,かなりいい楽器です。

 糸巻がやや細いので,調弦のクセによっては,多少力加減が伝わりにくいかな。
 もっとも糸倉との噛合せは良いので,それほど困ることはないと思います。

 普及品の楽器に比べるとかなり重たいので,慣れないうちは演奏時のバランスの違いにちょっと戸惑うかもしれません----あと,これだけ重たい楽器なんで,壁とかにたてかけて置いておくときなど,ちょっと注意してください。雑木の楽器なら倒れてもそうたいしたことにはならないんですが,この手の唐木重量級楽器は,自重とその衝撃でけっこうパックリ逝っちゃうことがありますんで。

 では末永く弾いてやってください!

(おわり)


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