« 佐賀県からきた月琴(1) | トップページ | 月琴53号 (3) »

月琴53号 (2)

G053_02.txt
斗酒庵 唐物と出会う の巻2017.4~ 月琴53号 (2)

STEP2 メルトダウンまでの過程

 さて,唐物月琴53号。
 外がわからの計測・調査はだいたい完了!
 棹には延長材との接合不良。胴は接合部の3/4が破損,面板もかなりの範囲でハガレちゃってます。
 月琴の胴体は板2枚で丸い側板をサンドイッチしてるだけですから,板の左右端どちらかと,中央の内桁が頑丈にへっついてくれてるおかげでなんとかカタチを保てている,といった状態です。

 もともとの破損状況等を記録したところで,裏板を剥がし,内部を確認します。
 んでは恒例の,フィールドノートをどうぞ。(下画像クリックで別窓拡大)

 国産月琴では二枚の桁を上下平行に入れてるのが多いんですが,唐物月琴の内桁は基本的に一枚。 胴の真ん中にずばッと板一枚入れてあるだけなのが定番です。
 材は桐。真ん中のところでやや厚く(中央部分で10ミリほど),左右端で薄くなってますが(7ミリほど),板としての加工が粗いので厚みは一定でなく,各面少しガタガタした感じになっています----「とりあえず,板にした」ってところ?

 裏から見て左端に,木の葉型に切り込みを空け,響き線を通す音孔としていますが,ここも多少工作が粗く,裏板がわが胴側のミゾにちゃんとはまっておらず,すこしネジれたようになってしまっています。また幅をちゃんと側板の高さに合わせてなかったらしく,裏板を除いたらぴょんと飛び出してしまいました----これをムリクリ板でおさえこんでいたらしい。いかにも大陸風の,ランボウな工作だなあ(^_^;)
 表板がわの接着にほとんど問題はないようです。国産月琴のと違って,かなりがっちりと接着してあります。

 それにしても,側板,薄いですねえ。
 もっとも厚いところでも5ミリくらいしかありません。


 国産月琴はだいたい1センチくらいが標準。なかには厚さ2センチ以上あるものもあります。これは唐物月琴が最強の唐木・タガヤサンを主材としているのに対し,国産月琴ではホオやカツラといった軽軟な雑木が多く使われている,といった。 主に材料の強度上の違いによるもの----と,思ってた時代が庵主にもありました。

 「鉄の刀の木」と書くタガヤサンではありますが。 この厚さになってしまっては,実際のところどうなんでしょう?

 このブログで何度も書いているように,月琴の側板は曲げ木とかじゃなく,円周の1/4のカタチの板を切り出したもので作られています。おそらくは,その外周の形に切った型を,板の上でずらしながら木取の線を引いてると思われ,胴材の厚みは均等ではなくて,真ん中が厚く,両端が若干薄くなっています。

 この木取りで真ん中が5ミリしかないということは,左右端ではそれ以下。厚さ3ミリ,あるかないかといった具合になるわけですね。
 さらにこの木取りだと,中央部分が柾目になっていた場合,両端は木口切りにされた薄板に近い状態----これだと,両端にゆくほどモロく,割れやすくなっちゃいます。その最も壊れやすい両端の先っちょを,凸凹継ぎ……さらにはその組みを台形にして「蟻継ぎ」のような形にして組んでいます。
 国産月琴で多い,木口同士の単純な擦合わせ接合に比べると,見かけ的にはより高度なワザを使って,いかにもがっちりと噛み合わせてるように見えますが,ほんらいはこの工法自体,このような材,このような木取りでやるワザではありません。
 なぜって----



 こうなっちゃうからですね。
 3ミリの厚さのタガヤサンは,それだけなら同じ厚さのほかのどの木よりもだいたい丈夫ですが,硬いだけで粘りのないたち。おまけにその一番モロいところで組んでるんですから。衝撃や圧がかかれば,むしろカツラやホオよりも簡単に砕け,割れてしまいます。

 楽器匠はふつう,木匠のなかでもトップクラスの腕前や木の目利き(のはず)ですから,こうすればこうなる(ぷぎゃー)可能性が高いくらいのことは,当然に分かっていたはずです。

 ではなぜあえて 「こうした」 のか。

 実用的な理由がない以上,答えはひとつだけですね----「こっちのほうが,なんかカッコイイ」 もしくは 「より高級そうに見える」 からだと思います。


 国産月琴によく見られるごく単純な木口同士の接着は,見た感じ,ほんとうにただ板と板の端をへっつけただけの簡単な細工に見えます。言ってみればたしかにそうなのですが,実際にやってみると分かるとおり,木口同士を寸分のスキマもなく,ぴったりと合わせるという工作は,加工精度が厳しく,意外と難しいものです。
 この「木口」という部位は,厚みがない場合にはごくモロく弱いものの,カタマリのなかの「面」としては木材の中でもっとも丈夫なところ。もっとも高い圧に耐える部位となります。
 月琴の構造を考えた場合,胴四方の材は,橋梁のアーチのように接合部で互いに支え合って全体の構造を保つのですから,木口同士を合わせたこの方法が,実のところ,もっとも単純ながら,もっともふさわしいわけなのです。
 凸凹継ぎや本器のような蟻組みは,細工の観点からは美しいのですが,いざそこに圧力がかかった場合,負担が継ぎ目の一点に集中しやすく,最終的には本器のように破断する可能性のほうが高くなります。
 また木口同士のほうだと,予期せぬ圧や衝撃がかかっても,たいていは接着がハガれるだけで,単純に再接着すれば直るのですが,凸凹継ぎだとこのように,部材を損ない,より深刻な事態になってしまう場合が多いのですね。

 現実の中では,「より高度な技術」 が必ずしも 「単純な技術」 に勝っているわけではない,ということをあらわす好例の一つかもしれません。


 何度も書いてるように,この月琴という楽器には,縦方向に形状を保つための支えになるものがありません。あえて言うなら,それは側板をサンドイッチしている表裏の桐板,ということになります。

 この構造だと,糸の張力による棹からの力は,天の側板と桐板の接着面によって受け止められていることになりますが,その側板の厚み----板との 「のりしろ」 が,この楽器の場合,5ミリの幅しかないわけです。
 しかも胴材のタガヤサンは,たしかに硬さでは定評があるものの,同時に 「接着の悪さ」 でも評判の高い木材です。
 そのせまく不安定な「のりしろ」に負担が集中した結果,板がハガれると,縦方向への支えがなくなり。いくら最強のタガヤサンとはいえ,形状を維持できずにたわんでしまいます。天の板が中央方向にたわむと,左右側板の接合部が横方向に広がって,板を引き裂き,さらに接着も剥がれて,今度は支えの弱くなった接合部の凸部分に負担が集中して自壊----というのが,この楽器の故障にいたったシナリオだと思われます。

 またもう一つの原因として,前回見つけた棹接合部の接合不良もあげられましょう。
 この故障のため,糸を張ると棹が持ち上がる状態になっているので,より強く張らないと音が合いません。また,この状態だと調弦がきわめて不安定になるので,何度もやり直すことになります。そんな状態で使い続ければ,器体への余分な負担はどんどん増してゆくわけです。

 地の側板も天の板同様に,表裏ともにほぼ完全に板が剥がれていますが,これは板が半月にひっぱられたのが原因ですね。状態は似ていますが,板自体に歪みは見られません。また,表裏板の裂け割れがおもに胴の上半分にのみ発生し,上方にやや開いたカタチで,中央より手前で止まっているのは,国産月琴と異なり,内桁の接着が頑丈であったおかげのようです。

 さて,この楽器が壊れた理由と過程を,ながながと推理してきたわけですが,こうしたことがちゃんと分かっていなければ,修理してもまた同じことが起きて,同じように壊れ,元の木阿弥になってしまうわけですからね。
 さらに,対策はいろいろ考えられますが,その中から,この楽器にもっともふさわしい手段を選択しなければなりません。


 裏板を剥がしたら,胴の中からこんな木片が出てきました。(左画像)

 あ……これ,表板のニラミ(胴左右の装飾)のかけらですねえ。
 縁がガクガクしてるんで,オリジナルのお飾りの一部だと思うんですが,現在ついている左がわのニラミにはこれに該当する欠損部分がありません。
 おそらくは右のニラミを補作した日本の職人さんが入れてくれたもの。そちらに残っていた,もとのお飾りのカケラなのでしょう。カケラとはいえ,貴重な唐物のオリジナル部品。大事に思って残しといてくれたんでしょうね。

 庵主も,この楽器をちゃんと未来に伝えるため,
  上っ面な修理にならないよう,いっちょう
   気ィ引き締めてかかるといたしやしょう。


(つづく)


« 佐賀県からきた月琴(1) | トップページ | 月琴53号 (3) »