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佐賀県からきた月琴(1)

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斗酒庵 佐賀よりの使者に会う の巻2017.4~ 佐賀県からきた月琴 (1)

STEP1 えっと…どこだっけ?

 じまんではありませんが,庵主。
 アタマの中で現在日本の県名とその位置が一致しないことで有名(w)です。いしかわ県とかやまがた県とか,えひめって四国のどこ?と言われても,たぶん地図上で指させません。「もとの加賀・出羽・伊予だよ」 とか言ってもらえれば,すぐにどこそこと察しがつくんですが……(ww ちなみに冗談ではない)

 というわけで。53号と同時修理となったのは,佐賀県にて発見され,うちに送られてきた依頼修理の楽器です。

 さがけん(汗)……
 えっと…九州のほう………だよね,たしか。
 福岡の上,くらい?

 全長:650。(含蓮頭)
 胴は縦:361,横:362,厚:36。
 有効弦長は430。

 サイズ的には標準ながら,ずっしりと持ち重りのする,重量級の楽器です。

 棹は蓮頭までおそらく紫檀,糸巻は黒檀。指板にはムラサキタガヤサンが貼られています。
 胴側にもムラサキタガヤのツキ板をぐるりと貼りめぐらせており,部材の接合部を隠しています。本体はカヤじゃないかな? 棹孔のところで1センチちょいの厚みがありますね。お飾りもほぼ満艦飾----唐木をふんだんに使った,国産の高級月琴,けっこうな上物ですね。

 ラベルや焼印などがないため,作者は不明ですが。本体の工作といいお飾りの細工といい実に緻密----少なくとも木工に関する限りにおいては,シロウトさんじゃありえませんね。


 保存状態もよく,見る限りにおいて,大きな損傷や虫食いもないようですし,さほどのヨゴレもついていません。
 一目見て分かるような故障は,何本かフレットがはずれてて,最終フレット1本がなくなっているくらいですかね。

 あとは楽器下縁部に表面板のハガレが少々。
 そのほか小飾りに二三変なところがあることとと,ニラミや半月の飾りに少し割レやカケがあるくらい。

 細かいところが多いので,忘れないよう,いちいちチェックしながらフィールドノートにまとめていきます。
(下画像,クリックで拡大)

 この手の満艦飾な楽器は,半ばお飾り用として作られたものが多く,カタチは良いものの,楽器としての機能に問題のある場合が多くあります----なかでもいちばん多いのが,棹の調整がきちんとなされていないというパターン。胴表面と指板面が面一の同一水平上にあったり,あるいは延長材の接合が雑で前に傾いていたり……
 卑近では,51号なんかがそうでしたね。棹の調整は修理においても,いちばん精密で,手間と時間のかかる作業です。

 しかしながら今回のこの楽器は。 棹を抜いてみますと,基部や棹口に桐の薄板のスペーサが貼られており,原作段階でかなりしっかりとした調整がなされていました。
 測ってみますと傾きが山口のところで背面に約3ミリ----庵主がいつも言っている,ほぼ理想の設定に最初からなっております。
 棹の調整がちゃんとしてあるのは,修理者としてじつに有難いことですね----ほんと,いつもタイヘンなんですから!!

 胴にさしたる損傷がないため,いつものように板をハギとるわけにもいかず。(^_^;) 内部構造には不明な点も多いのですが,内桁は2枚。棹なかごが短いことからも分かる通り,上桁は胴のかなり上方,棹孔の縁から110のところにあります。下桁までも220しかないので,楽器下部の空間をかなり広くとった感じになってますね。

 響き線は1本…というか1巻というか。
 渦巻線で上桁からぶらさがってるタイプ。上桁の棹孔のすぐ横あたりに基部があります。線基部のすぐ横にナゾの板構造が付けられてるようなのですが,形状や目的ははっきりと分かりません。ただ,通常ならよく動き胴鳴りを起こす渦巻線が,この楽器の場合ほとんど鳴らず,棹孔から確認するとその振幅に一定の範囲があることからみて,何らかの手段で渦巻線の振幅を制限するような構造になっているものと考えられます。


 大陸の月琴の響き線は,基本,胴に孔をあけて曲げたハリガネをただぶッこんだだけのシロモノなのですが,国産月琴ではその形状に関しても,固定法に関してもさまざまな工夫が凝らされています。ちょっと前に手がけた楽器では,「線を鳴らすための構造」がついてたりしましたね。あれは作り手がこの構造を「胴を振って線を鳴らすためのもの」と勘違いした結果なのですが,それと逆に,演奏の邪魔となるその「胴鳴り」を軽減するための手段として,響き線の振幅を制限する手立てを講じた者もおりました。

 13号で名人・西久保石村が,胴内,響き線の上下に丸竹を接着したのもそれですし,39号で工芸家・小野東谷が,響き線に「拘束具」みたいな太いハリガネを添わせたのも同じ目的だったと思います。

 ただ,彼らの楽器の響き線はいづれも直線でしたが,この楽器のは,より複雑な動きをする渦巻線----さてさて,どんなになってるのかじっくり見てみたいところですが,さっきも書いたようにこいつ,どこもあんまり壊れてやがらねぇ。自出し月琴だったら問答無用で即,面板ハギとるところなのですが,今回は依頼修理,よそ様の楽器なんで,そうもまいりませぬ…ぐぎぎぎぎ。(ww)
 まあ,このあたりの調べは,次にどッか壊れたときにでもいたしましょう。オーナーさん,弾きまくって,どうかいっちょう盛大にぶッ壊してやってください。(^_^;)

 棹孔から見る限りにおいては,内部はきわめて清潔ですし,内桁の接着や響き線にも異常は認められません。
 「ナゾの構造」も,その全体像はナゾのままではありますが,胴内にしっかりと固定されており,ビクともいたしませんし,また少なくとも現状,この構造がなんらかの故障の原因となっているフシもございません-----ちッ,やっぱり手が出せねえや(w)

 この作者,こうした内部すみずみまでまで,ちゃんとしっかり作ってるヒトのようですねえ。
 ----まあ修理者としてはとりあえず安心。

(つづく)


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