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月琴53号 (5)

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斗酒庵 唐物と出会う の巻2017.4~ 月琴53号 (5)

STEP5 フェイト・イン・ザ・チャイニーズノット

 胴体がめでたく「桶」の状態にまでもどった月琴53号。
 各部の補強や補修も進んで,グラグラプラプラで不安定だった胴体構造が,ようやくあるていど安定した状態になりました。

 前回も書いたように,この時点で庵主は,ハガれた板を全面固定してはおらず,この表面左右の小板も部分的に板が剥離した状態になっています。
 表面板,楽器に向かって右がわは,オリジナルの接着がかなりの範囲で残っており,もともと比較的安定した状態になっていましたが。左がわは小板自体の質が若干劣るためもあり,右に比べると剥離の範囲も大きく,動きやすいプラプラした状態になっていました。
 庵主ここまで,逆にこの状況を利用して,板の矯正や再接着の際に生じた微妙な作業誤差を,なるべくこちらのサイドに寄せるようにして処置してきたもので。最終的には数ミリくらいのズレが生じるような事態もいちおうは考慮していたのですが,けっきょく終わってみると,表面板の縁にわずかな段差ができる程度で収まってくれました。


 この,修理作業で生じた誤差の辻褄合わせをするために,まずは左の小板を切り取ります----胴体構造が固まっていない段階だと,こういう作業もできなかったわけですね。
 そして切り取った小板と中央の板との間に,幅5ミリほどのスペーサを噛ませて再接着。
 これで板の縁が胴体からハミ出るかたちになりますから,あとは余分を切り取り,整形すればもとのとおり側板と面一になるわけで。

 同時進行で,板表面のほかの部分のお手入れもしてゆきましょう。
 まずは半月の接着痕にある大きな虫食い。
 板を貫通するほどではありませんが,けっこう深く複雑です。

 もう一つは上縁中央,棹口の真上あたりが潰れて丸くなってしまっています。これは前にも書いたように,棹基部の工作不良のため,棹がお辞儀していたせいですね。 棹が持ち上がるたび,棹オモテ接合部の角がこのあたりに刺さって,面板の縁を潰してしまったものでしょう。
 これをこのままにしておくと,棹をちゃんとした位置に挿した時,棹の接合部と指板との間に大きなスキマができてしまい,棹の安定上もよくないですし。この棹と胴の境目のあたりは,調弦に使うため大事な第4フレットがつくところですので,きちんと直しておかないと後々めんどうが増えます。

 この二箇所の補修は,木粉粘土&エポキの最新技法で行います。
 木片を埋め込んだり継ぎ足したりする方法もあるんですが,半月の虫食いは複雑な形状になってますし,棹口のところは木目的に木口の部分になるので,継ぐ木の加工が難しく,この後の作業に耐えられるかという,強度的な問題もありますからね。
 最近開発したカガクの力をちょっと借りましょう。

 虫食い痕にはヤシャ液で練った木粉粘土を充填,棹口のところには角に盛り上げ,固まったところであるていど整形。そしてそこに,アルコールで緩めたエポキを何度かに分けて塗布。補修部分にじっくり吸わせて強化したうえで,硬化後,ハミ出したエポキを削り取りつつ,も一度きっちり整形します。

 ついでに半月のところにあけられてた 「陰月もどき」の孔も,桐板のカケラで埋め込んでしまいますね。
 唐物月琴に基本この手の孔はあいていません。おそらくはこれも,日本の職人さんが琵琶の陰月の真似してあけてしまったものでしょう。


 最後に矧ぎなおした箇所のスキマやヒビ割れ・裂け割れ,縁の欠けた部分などを埋め込み,整形してゆきます----直接音に影響のある部分だけに,裏板のないオープン状態で表裏から確実な作業ができるのが有難い。

 だいぶんあちこちハゲハゲになっちゃった感じですが,これで表板上の下作業はだいたい終了。 あとは裏板を貼れば胴体が箱にもどりますが,その前に棹のフィッティングをしておきます。

 これもまたオープン状態のいまなら,
    どんな微妙な調整でも可能ですからね。


 棹孔は裏からネックブロックを接着して補強してありますが,もともとの加工がけっこう乱暴なので,ネック・ブロックとの間に少し溝と段差ができちゃってました。
 まずはこれを,唐木の粉をエポキで練ったパテで埋め込み,整形します。

 ついで,実際に棹を挿してみながら,角度や傾きを調整。
 もともと唐物月琴の棹の取付けは,日本人の感覚からするとかなり雑なもので。挿しこみがユルユルガタガタなのは当たり前,弦がユルんでると右か左に傾いちゃう,なんてケースもありました(それでも,弦をきっちり張れば,所定の位置にちゃんともどるので,演奏上の支障はあまりない)。
 言うても,庵主もまた神経質で心配性な日本の職人ですので,どうもその手の工作にガマンができません。(w)はじめからちゃんとした位置に,スルピタでおさまっててくれないと何かおなかのあたりがムズムスしてしょうがないのです。

 棹孔と棹本体の基部を少しづつ調整して,

 1) 楽器の中心線と棹の中心線が合う位置に,
 2) 胴との接合部のところでは指板と面板の縁を,段差なく面一に,
 3) 山口のところで,背がわに3ミリほど傾くように。

 すなわち,この楽器の理想的な設定に近づけてゆきます----とまあ,言いならべるはカンタンなれど。
 いつものことながら,その「理想に近づける」工程は,この楽器の修理作業の中で,いちばん時間もかかり,神経も使う場面ですね。

 位置や角度が決まったところで,こんどはスキマなく,ガッチリ噛み合うように調整した棹本体と延長材を接着します。

 せっかく時間も手間もかけ,バッチリキッチリ調整したので,ここらでもう微塵も揺らいで欲しくはありません。今回は裏板も開いてますので,棹を楽器に挿し,その「理想の状態」にしたままで,接着養生しちゃいましょう!

 この棹の作業が終われば,ようやく胴裏を開けておく用事がなくなります。

 裏板は4枚矧ぎ。まあいちばん左端の小板は,辻褄合わせに入れられた幅1センチくらいの細いものなので,質的には表の3枚矧ぎと同じようなものです。ただし,それぞれの小板の質は表よりかなり劣っていて,大小の節目があちこちにあり,ちょっと厄介な暴れかたをしそうな板になっちゃってますね。


 あらかじめ左端の小板を継いでおいて,3分割の状態で再接着の作業をします。あとで左右の間にスペーサを埋め込むので,そのぶん少しスキマをあけて接着します。

 左のスペーサは必要最小限の幅ですが,右の小板の端に少々厄介な節目(左画像)があり,これを少し切り削って除いておきたいので,右がわは少し間隔をあけ,1センチくらいの幅にしてあります。
 この節目----真ん中にあったなら,さして気にもならないんですが,胴材が薄いせいでただでさえ接着に不安のある縁の部分,さらには胴の接合部のすぐそばにその中心があるので,将来のカコンとなる恐れが多少ござる。

 一晩おいて板の接着を確認したら,修理で出た古板を刻んで埋め込みます。
 固まったところで,スキマやヒビ割れを補修し,均して完成です。

 さあて,これで胴体が箱にもどりました。
 53号天華斎,楽器として復活するのも,間もなくです!!

(つづく)


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