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月琴55号 お魚ちゃん(2)

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斗酒庵 わらしべ長者 の巻2017.6~ 月琴55号 (2)

STEP3 渦まき楽器クロニクル

 ふぅ…………
 なかなか,良かったぜ。(…シクシク)

 というわけで,内部構造確認と修理のため,裏板をひっぺがしました。

 側面に貼りまわした唐木の薄板は,表裏の面板の間にはまってるカタチになってるんで,どのみちどっちかの板をハガさないと確実な修理ができませんゆえ……
 表板ははがすと後が面倒ですし,さいわい裏板は真ん中にビッっとヒビも入っており,その両端にハガレも少々----いえいえ,ただもうナカミを見たかっただけとか,お父さんの目覚まし時計同様ぶッ壊してみたかったとかいうわけでは,けっしてけしてございません。

 まず目につくのは響き線ですね。
 渦巻線自体は珍しくありませんが,取付けられているのが下桁で,さらに片側に寄っています。
 定番は上桁の真ん中か左右に一つづつ,といったところで。まあ推測するまでもなく,そのどちらもシロウトさんならだれしもが思いつきそうな 「いかにも構造」 ではあります。
 それに対してこちら。演奏位置に立ててみるとこれが,お客さんのほうに最も近く向き合う位置となりますので,もしかすると若干の音響的効果を考えてなされた工夫だったかもしれません。

 少しサビは浮いていますが,線の状態はごく健康的。
 かなり丁寧に,キレイに巻かれてます。
 下桁に挿されているクギは線の固定とはまったく関係なく,線を鳴らすための「舌(ぜつ)」 として入れられたモノと思われます。四角いクギでですが,頭がT字形になっていたり表面に若干加工の痕が見られますのでよく見かける和クギではなく,西洋式の丸クギを叩いて平たく延べたのかもしれません。
 ただ,こういう角のある鋭いモノを,ただでさえ割れやすい針葉樹材(おそらくマツ)の板に遠慮なくぶッこんだものですから,クギの刺さっているところから割れが入り,裏板がわがほとんどブラブラになるくらいハガれちゃってます----ちょっと下孔あけてから,とか考えなかったのかね,このヒトは(w)


 側板の本体は,やや厚めのホオ材。四方の接合部をちょっと彫り下げて小板を渡し着け,接合を補強しています。この補強工作のおかげもあって,四方のうち3箇所までは,カミソリの入るスキマもないくらいガッチリとくっついていますが,裏板がわから見て右下にあたる接合部の接着がトンでおり,完全に分離してしまっています。
 側部飾り板の浮きや裏板のヒビ割れなど,この楽器の主要な故障の原因は,おそらくここからきてるものかと直勘されますが,さて,どうでしょう。

 ひとしきり確認し,計測をすましたところで第二段階。


 側面の飾り板をハガします。
 これは唐木の薄板をただ巻いてへっつけてあるだけなので,現状のように何箇所も浮いたところがあるとそこからペリペリ,かんたんにハガれちゃいますね。

 (悪代官) うりゃああああっ!!
        よいではないか,よいではないか!

 (村娘) あ~~~~れ~~~~~!

 てな感じに。(w)

 ううむ,なるほど。やっぱりなあ…
 飾り板をハガしてみたところ,先に触れた右下接合部が,およそ1ミリほど離れちゃってます。周辺に表板との接着の剥離や接合部の歪みもないので,これ,よくあるように材料が年月を経て縮んじゃったとかじゃなく,もともと部材の寸法が足りなかっただけのもののようです。
 この作者,工作の誤差であるこのスキマを埋めないまま,飾り板で巻き締めて誤魔化しちゃったんですねえ。樽とか桶でもあるまいに…………まったくもう,意外と大胆な力ワザだなあ。(汗)

 続いて,棹と表板上のお飾りや,接着痕に残った古いニカワなどをとりのぞき,修理への下準備をはじめます。
 この手の満艦飾な楽器の例によって,凍石の小飾りもニラミも余計なくらい頑丈に貼りつけられてますので,けっこうタイヘン。あちこち難渋しましたが,なんとか三日がかりで,月琴の身ぐるみをぜんぶひっぺがすことに成功いたしました。

 左右のニラミも真ん中の板飾りも,本物の唐木----たぶん黒檀----ですね。
 材料的にもお金のかかってる楽器です。

 ではここで恒例のフィールドノートを。
 損傷個所と各部の寸法など,詳しいデータはこちらに書き込んであります。
 下の画像,クリックで別窓拡大。
 何かの参考にどうぞ。


(つづく)


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