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月琴56号 烏夜啼 (3)

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斗酒庵 54号に涙し烏夜啼を直すぞ の巻2017.7~ 月琴56号 烏夜啼(3)

STEP3 断腸の思いで猿は啼く,ダンチョネ。

 表板ヒビ割周辺の矯正がだいたい終わったところで,胴体構造の補修・補強に入ります。

 最初はなにより胴四方の接合部。

 原状では4箇所すべてニカワがトンで割れてしまっております。その状態のままずいぶん長いこと放置されていたせいでしょう。所によっては木の狂いからわずかな食い違いや段差も出来ちゃってますねえ。
 これを矯正しつつ,接合部の木口を密着・接着させなければなりません。
 まずは接合部周辺を裏からよ~く濡らして,木口に水分を滲ませておきます。とはいえ,考えナシにビシャビシャにすると余計なところに余計な被害が出ますからね。
 胴を回しながら平筆で,何度も刷いて少しづつ。目安はだいたい,新しく水を置いても滲みこまなくなるくらい----飽和状態ってあたりですかね。
 その状態でしばらく置き,表面が少し生乾きになったくらいの時に,裏がわからニカワを垂らします。
 割れちゃってる部材をクニクニ動かし,またクリアフォルダの切れっ端にニカワを塗って挿しこむなどして,接合部のスキマにしっかり行き渡らせます。
 表がわのスキマから,ちょっと粘りのあるアブクがぶくぶく出てくるようになったところで,周縁に太ゴムをかけ,段差ちゃってるとこにはクリップ・クランプを噛まして正位置で固定。

 あとは乾くまで放置ですが,あまり早く乾いてしまうと,木の矯正が終わる前にヘンな形で固定されちゃうこともありますので,乾くのを遅らせるため,濡らした脱脂綿を裏がわに貼っておきます。狂いがあると言っても今回はさほどのものでもないんでそのまま貼ってますが,ちょっと大きな段差になっちゃってるような場合は,接着工程の前に 「濡らして>矯正」 をやっちゃいましょう。そういう時は,より長時間ピンポイントで濡らし続けなきゃならないんで,脱脂綿の上からラップでくるんだりしましょう。

 で,まあ----このあたりになって今更ながらに気が付いたのですが。
 この楽器の響き線,まったく働いてませんね。
 演奏状態にして胴をタップしても,余韻どころか線鳴りもしません。思い切り振っても 「カサカサカサ」 と,----なんかGが台所で暗躍してるみたいな音で----鳴るていどです。
 この作者,「響き線を入れる」ってとこまでは知ってて,そこに自分なりの工夫を加えたりもしているんですが。「それ」が何のためにあるどういうものなのかまではちゃんと分かって工作していなかったようです。

 響き線は月琴の音のイノチ。

 本来なら,はずれたとか折れたとかしている場合以外,なるべくなら手を出したくない部分ではあるのですが,このまま組み立てて,自分の修理した楽器が 「Gの足音再現器」 のほかナニにもならないっていうのもナニか厭ですので,ここは修理者としての本分を曲げ,この楽器をきちんと「月琴」として成立するところまでもっていってあげたいと思います。

 ----なもンで,よッと。

 釘は四角い和釘。やっぱりよく見かけるのよりずっと短くて細いですねえ。基部に埋め込まれる先端部分を少し曲げて,細い鋼線をがっちり押さえこめるように加工してあります。こういうところは細かいねえ。
 原作者の意図を尊重するなら,線の形状はもとのカタチに準拠したものにするのが本筋でしょうが。アレ自体がすでに「思いついただけ」的加工でしかないようですし。
 真ん中の空間の幅は54号とほぼ同じなので,スペースを目いっぱい使えるなら,同じような長い曲線を仕込むことも出来るのですが,響き線の基部がその空間のちょうど真ん中のあたりに位置しています(54号は上桁のすぐ下)。
 これだと長い曲線を仕込むのに,下桁までの丈が少し足りません。

 ----で,これだ。

 36号に使われていたこの線形。基本は直線で,やってることはと言えば根元をZ状に曲げてあるだけのことなのですが。 これ実は,直線型の欠点と曲線型の短所をともに解決してる,響き線としては,かなり進歩的な形なのです。

 まず,根元をZ形に曲げると,この部分が板バネみたいな構造となるので,線の振れ幅はただの直線の時よりはるかに大きくなります。さらにはコレ,線の振れる方向に 「指向性」 をもたせることにも成功しているんですね。

 響き線がエフェクターとして働くうえで必要なのは,おもに上下方向への振れ。いくら反応が良くっても左右方向に振れてしまっては,せまい胴内でぶつかって,たちまち効果がなくなってしまいます。36号の作者はこの単純な加工によって,線の揺れを上下方向に大きく,左右方向へ小さくし,響き線の効果を最大限に高めつつ,線鳴りをおさえこんでるわけです。

 また,基本は直線なので,曲線型のネックである焼き入れなどの加工や取付けの工程も至極簡単。どんな微調整もこのZ状になった根元のところだけでできるので,全体を何度も見ながらあッち曲げこッち戻ししなきゃならない曲線型にくらべるとはるかにラク。

 響きも素晴らしいですよ。
 曲線型のゆったりとした波のような余韻や渦巻線のリバーブ感とはまた異なりますが,うまく効いてる時には,庵主が 「天使のささやき」 と乙女チックに呼んでる----頭の右斜め45度あたりから還ってくるような----不思議な余韻がかかります。ハチの羽音に似たブーンっていう響き,聞きつづけてると,ちょっと昇天しちゃたくなるような音ですね。(w)

 楽器の中心も中心,タマシイみたいなところにまで手をつけてしまいましたので,修理としてはすでに極道,「魔改造」の域にまで堕ちてしまっております(良い子はけっしてマネしないでね)が。この楽器,木の工作はそこそこ。手抜きの部分も改造可能な 「余裕」 と見れば,手を入れる余地はまだまだ。そしてたぶん手を入れれば入れただけ良い楽器に生まれ変わる予感がします……この身,冥府魔道に落ちようとも,復活させずにおくべきや~。

 てなあたりで続きは次回。

(つづく)


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