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月琴54号/56号 (2)

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斗酒庵 54号に涙し烏夜啼を直すぞ の巻2017.7~ 月琴54号/56号 (2)

54号 STEP2 ノーブル・オブ・フールズ

 53号天華斎と交換した月琴2面のうち「お魚ちゃん」こと55号は先日,ブジお嫁にまいりました。
 楽器としての音色・性能に文句はないものの,満艦飾なうえお魚づくしというあたりが好みに合う合わないがありますで,お父さん,多少シンパイしておったのですが,気に入ってくださった方がいて,弾いてくださることに~ありがたや~ありがたや~。

 さてもう1面,日本橋区薬研堀住,山形屋雄蔵作の54号。
 いまお店から買ってきましたよ~と言っても良いくらい,奇跡的な保存状態の一本。作者の山形屋は三味線の名家・石村の系を引く職人さんで,腕前のほうは折り紙つき。胴材の合わせ,面板の接着,寸分の隙もなく線のキッと立った見事な仕事です----

 この作者の欠点として,詰めが甘いというか始末が雑というか。木の仕事それ自体の精度はモノ凄いのですが,組立てとか調整とか,大事な最後の最後の仕上げのところでイキナリほり投げちゃう悪いクセがあるんですね。

 この楽器の瑕疵は響き線。
 どんな演奏姿勢にしても,ガシャガシャ鳴るだけで,効きが悪い。
 明治の作家さんのなかには,響き線を 「線を鳴らすための構造」 だと勘違いしておった者も相当数いたようなのですが,元になった唐物楽器の構造を見る限り,これはもともと胴体を鈴のようにして鳴らすためのものではなく,弦音に金属的な余韻を加えるためのエフェクターであったことは間違いありません。
 山形屋もそのあたりはイチオウ分かってるようなんですが,過去に修理した楽器でも,線が長すぎて上桁にひっかかってたり突きささってたりしたことがあります。まあ,勘違いしてたにしても「鳴らすべき時に鳴る」ならまだしも,現状では 「持ってる間じゅうずっと鳴って」 ますし,その鳴りかたも「キーン」とか「リーン」みたいなキレイなものじゃなく,便所コオロギみたいにそっけない「ガシャガシャガシャ」。今の状態じゃあ,「弦楽器」としての意味はなく,ただの 「そういうノイズ発生装置」 でしかありませんわな。

 基本的に,月琴の響き線は長いほうが効きが良いのですが,線の太さにより形状により,また胴内の構造の違いによって,入れられる線の長さには限界があります。さらに長くなればなるほど,ふつうは振幅の幅も大きくなってしまうので,面板や桁にぶつかって「線鳴り」を起してしまいやすくなります。
 そのため月琴作者としては「線鳴り」の起きない範囲で,最適な位置や曲り角度長さを模索しつつ,各楽器ごとに微妙に調整する必要があるのです----が。

 山形屋雄蔵のバヤイ。

 そのへんはサクッと無視して,とにかく寸法として入るだけの長さでブッと切って,グサッっと挿しこんでやがりますね。
 それでも構造上,この楽器としては成立してますし,最適の演奏姿勢はきわめて限定されるものの,弾けないわけではない。もともと工作は良いので,響き線さえちゃんと働いてくれてれば,それなりに素晴らしく鳴るはずなのです。

 前回の「修理」では,そのあまりの保存状態の良さもあり,依頼修理の他人様の楽器ということもあって,つっこんだ手出しが出来なかったワケではありますが,今回はウチの子----あたしゃあ身内には容赦しませんですわよ。

 というわけでこうだッ!!

 ----うう,グスグス…保存状態が……キズひとつなかった…百年以上……ほとんど新品…ううううう(元古物屋の小僧としてのダメージ大)

 ちなみに,マジやるかどうか,1ヶ月悩みました。(w)

 裏板を全面ひっぺがし,響き線の曲りや角度を調整します。通常の演奏姿勢をとったとき,響き線の全体が完全な片持ちフロート状態となり,あるていど動かしても胴内でぶつからない,というのが理想ですが,それを実現するにはオリジナルの長さだとやっぱり長すぎます。線がやや太目で重く,たぶん作者が想定してるより,先端部分5センチの範囲での振幅が大きくなってしまっています。
 軽くするため先を2センチほど切り詰め,先端から1/3程度の部分のカーブを少しキツめに調整したところで,だいたい良い感じになりました。それでも若干線鳴りはしやすいほうですが,前と違ってすぐおさまりますし,演奏不能なくらいずっと鳴りッ放し,みたいなことはもうありません。


 微妙な作業ではありますが,所要時間およそ1時間……山形屋ほどの腕があれば,ほんの10分かそこらで終わる作業だったかと思われます。そのほんの10分ほどの手間を吹ッ飛ばしちゃうのがこのヒトの悪いところ----向こうに逝ったらゲンノウで横殴りにしちゃるけんのォ,カクゴしときゃあ!!(激おこ)

 少しだけサビも浮いてますので,あとはちらっと磨いて柿渋で酸化膜こさえ,ラックニスで防錆しときましょう。

 ついでに表板にあったヒビ割れ----オモテがわからは補修済みなんですが,裏にも少しスキマができてましたんでこれも追加で補修しときます。
 この板はたぶん山形屋が自分で矧いだもののようで,その加工もまた見事なもンなんですが…やっぱりここでもやらかしてくれてます。継いだ小板の一枚がハズレだったんですね。乾燥のよくない,悪節(わるふし)のある板。この類は収縮がヒドく,暴れやすいんです。ちゃんと精査して裏板のほうに回していれば良かったんでしょうが 「まあいいか,寸法足りてればOK,OK」 ってあたりかな?

 ちょっと裏まで来ーいッ!根性焼いたる!!

 開いたスキマにニカワを垂らしながら,裏からも木屑を詰めてゆきます。仕上げに薄い和紙を張って補強。

 胴四方の接合部のうち,上面の2箇所が割れてますのでここも再接着。ゴムをかけまわして密着させ,さらに裏から和紙を重ね貼りして補強します。


56号 STEP2 黄色いお山にカラスのカアで,ノーエ


 こちらは調査の際,すでに裏板をエイッ!ってやっちゃってます(スヤリス姫的表現 w)ので,まずは内がわからまいりましょう。
 まずは内桁の音孔,このあたりからいきますかね。
 この楽器の上下桁には左右にひとつづつ,合わせて4つの音孔があけられています----いちおう。
 しかしながらそれがまあ,孔あけする場所の片方にキリで孔をあけ,そこに挽き回し(狭いところや穴開け用の細身のノコギリ)を突っ込んで,横にガリガリッっとやった。っていうくらいの雑な加工でして。
 「孔」というより細い「溝」といった感じ。輪郭もミミズがのたくったみたいにふにゃふにゃしております。

 実のところこの加工----共鳴空間のきわめてせまい月琴の胴では,ほとんど意味のない工作でして。穴があってもなくても,音色や響きにさほどの影響がありません。
 あくまでも問題なのは,胴がきちんと密閉された「箱」になってるかどうかなんですね。
 いや,気持ちは分からないでもないんですけどね。そもそも考えてみてください。ギターくらい大きいならともかく,こんな狭い空間で空気が多少対流したところで,ナニがどうなるってもんでもないでしょうよ。胴の各接合部がきちんと貼合わされ,密着していて,胴全体に振動が行き渡るようになってるかどうかのほうが大切なんです。

 これもまた原作者の手抜き加工の尻拭い以外の意味はありませんが,ちゃんと「音孔」に見えるくらいにしといてあげましょう。

 続いて棹なかごの延長材をはずします。
 すでに接合部裏板がわの接着がハガれていたため,濡らした脱脂綿で巻いて2時間ほど湿らせたらカンタンにはずれました。
 乾いたところで,本体がわの基部の割レを補修。
 ニカワを垂らし,はずした延長材でグリグリやって,割れ目を閉じたり開いたりしながら全体に行き渡らせ,圧着。

 うまくくっつきはしましたが,ここはこの楽器でも特に力のかかる部分ですので,後でもう一補強しときたいと思います。

 ここまでやったところで表板にへっついてるモロモロを剥がします。
 お飾りやヘビ皮の下から出てきたのは……アラビック・ボンド…………くわッ!!(鬼の形相)

 く~そ~。ボンドの状態からして,ここ数年のものではなく10年か20年以上前のシワザのようですが,く~そ~。
 一族絶えるまで呪ってやるうううううッ。
 ぷすぷすぷすぷす…(粘土人形に錆びて曲がった縫針を埋め込んでる音)

 バチ皮の左右,皮の収縮によって裂けちゃったヒビ割れのところが,少し反って下桁から浮いてしまってますので,板を濡らしたついでにニカワを垂らし,表裏から圧をかけて矯正しておきましょう。

(つづく)


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