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月琴56号 烏夜啼
G056_01.txt
2017.7~ 月琴56号 (1)
STEP1 唐土のお山も溶けて流れりゃちョい
庵主は北の生まれゆえ,夏季の内地におりますと
溶けてなくなって
しまいますので,8月の1ト月はWSもお休みにして,実家に帰省するのが慣例となっております。帰省の期間中はふだんできないような時間のかかるまとめやらデータベースの整理やらに勤しんでおりまして----今期の成果は前回の記事をご覧ください。
さてさて,
今回の楽器はその帰省の直前にとどきました。自出しで購入した壊れ楽器は,これで56面めとなりまする。まずは測定----
全長:650
胴径:350,胴厚:35(板厚 3.5)
有効弦長:424
裏板に
将軍会
烏夜啼
東山田
増澤仙桂
と墨書がありますが……まあ,
あんまり上手な字じゃない
ですねえ。(w)
「将軍会」は所有者の入ってた清楽団体でしょうか。清楽曲に「将軍令(しょうぐんれい)」というのがありますからそれにちなんだものでしょう。「烏夜啼(うやてい)」は漢詩の題としても有名ですが,明楽曲に同題のものがあり,明清楽の曲としても演奏されてましたね。渓派ではあんまり演奏しなかったようなので,
梅園派の系
だったかもしれません。
所有者については不明,出品者は神奈川県のひとなので
「東山田」は神奈川県横浜市の「ひがしやまた」
でしょうか。
指板部分の長さが150,第4フレットは棹の上,その棹背のフォルムといいほっそりとした糸倉の姿といい,間違いなく関東で作られた楽器だと思われます。
あちこちいろんな人の楽器と似てるところは散見できるのですが,ラベル等もなく,いまのところ作者は分かりません。またまた未知の作家さんの月琴ですね。
目立った特徴はありません。
かなりきっちり「ふつうに」作ってる
って感じですかね----いや,こういう流行り物を作るってときには,へんな独創性や身勝手な解釈を容れず,こうやってスタンダードに作るってほうが却って難しかったりするもんですよ。少なくとも木工の技は手熟れてますし,楽器についても素人さんの作ではありえません。
あえて何かあげるなら,表板が
景色のある板目っぽい板
になってるってあたりでしょうか。これは比較的古い楽器の特徴,フシのあるなかなか難しそうな板を4枚ほど継いでいるようですが,合わせが上手で継ぎ目はなかなか分かりません。
あと,
棹のなかご
が少し変わってますね。
延長材はふつう,棹から3センチほどのところで接いでるもんですが,これは短いなかごの半分くらいのとこから接いでいます。延長材の接合部,裏面がわの接着がトンで基部に割れがあるため,棹は現状表板がわに少しお辞儀しちゃっています。接合の工作に,若干雑というか不自然なところがあるので,これ,もしかすると
もともとはなかごの先まで一木
だったのかもしれません。
損傷は糸巻が2本なくなってるのと,表板の左右にヒビ割れ----これはピックガードのヘビ皮が原因の故障ですね。明治の国産月琴ではよくある壊れで,生皮の収縮で柔らかい桐板が裂けちゃったもの。もともと皮のピックガードが必要な楽器ではありませんし,ほぼただのカッコつけの飾りですんで,楽器の将来のため,ウチでは修理の際ひっぺがして錦の布に貼り換えています。
そのほかはフレットが2枚欠損。さらに第5と第7は入れ替わっちゃってるようです。同じくらいの長さだけどよ,
第7フレットのほうが背が高い
ってナニよ?(w)古物屋さんのシワザですかねえ。
あと胴四方接合部の剥離に,虫食いと思われる小孔が数箇所。やや大きめの圧痕や擦痕もいくつか見えます。それに上のほうで触れたように
棹のお辞儀
----しかしながら,全体的に保存状態はまずまずかと。
んでは,裏板をへっぺがして内部の確認をいたしましょう。
-----おぅ。
こんなところに新機軸が………
上桁は薄く6ミリほどの厚さ,下桁は左端が5ミリで右にゆくほど厚くなり,右端では倍以上の13ミリになってます。
なんか意味があるのかなあ~,たぶんないだろうな~
(w)
音孔は
上下桁ともに長さ9センチで左右のほぼ同じ位置にあけられています。片端にツボギリで孔を穿ち,回し挽きで貫いた模様。幅は1センチないくらい細くて加工も粗め「まあ開いてりゃイイわい」って感じかな。
半月の下あたりにちゃんと
陰月もあいてます。
径3ミリほど。ふつうの四つ目ギリあたりであけたものかな。中心線に沿っていて位置決めなどはちゃんとしてるみたいですが,孔の端はボサボサで,これも「あけといた」ってくらいの加工ですね。
2枚桁のパラレルで,胴内をだいたい3等分というその配置はごくごくありふれたものですが,
響き線の反りがふつうと反対
になってますね。通常は楽器のお尻方向に向かって弧を描いてるもんですが,棹がわにそっくりかえってるってのはハジメテみましたわい。
響き線の基部は
黒檀を刻んだ小さなブロック
に刺さってます。同じこと,菊芳なんかもやってましたねえ。実験の結果,この響き線の基部の材質を変えるってのは,ほとんど意味がない(w)ことが分かってますが,
なんとなく気持ちは分かる,
って工作です。
長2センチほどの細い四角釘でとめてありますが,このクギ,
あまり見ないタイプ
ですね。クギというのは結構種類がありまして,それぞれの職種で使うクギがあるていど決まってたりしますから,ここから作者の出身が分かるかも。
では今回のフィールドノートをどうぞ。(下画像クリックで別窓拡大)
(つづく)
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