« 月琴57号 時不知 (3) | トップページ | 月琴WS@亀戸 2017年11月!! »

月琴57号 時不知 (4)

G057_04.txt
斗酒庵 高級シャケにまみえる の巻2017.10~ 月琴57号 時不知 (4)

STEP4 髪結い看板の冒険

 さて57号「時不知」,修理もあと一息!
 まずは裏板の接着。
 前回書いたように,裏板はかなり状態が悪く虫食いも多かったので,新しい板を間に入れて矧ぎなおしました。
 接着後,板のほかの部分に合わせて染め,古色付もちゃんとしますが,まあ多少BJ先生になるのはしょうがないところです。

 最後にあけておいた真ん中のスキマに板を埋め,板表面とハミ出してる周縁を整形したらできあがりです。

 棹のフィッティングも済ませましたし,胴体も箱になりました。
 半月を戻しましょう。

 剥離の際に,端っこのところを少し欠いてしまいましたので,これを直しておきましょう。
 初代不識の月琴の半月は,下縁部が刃物で削ぎ落したかのような面取加工になってるのが特徴。かなり角度がゆるやかなぶん,端っこのほうが薄くなっちゃってますんでモロいんですね。材質は紫檀。27号のもそうでしたが,あまり上質でない材をうまく染めて使っています。
 楽器の作りの系として関係があると思われる田島真斎の楽器にも同じようなものがありますが,真斎のほうが面が細かく角度が急で,一見よく見る板状半月に近いものとなっています。

 初代不識はあまりケガキの指示線とか残さないヒトでして,前に修理した時それで,オリジナルの位置が分からなくなってしまい,ちょっと難渋した記憶がありましたが,今回の楽器はヨゴレが酷かったおかげ(w)で,部品のついてた位置が日焼け痕みたいにしっかり残っちゃってますので,その心配はあまりありません。
 再接着の前にいちおう測り直して確認しましたが,中心線,糸のコースともにほぼオリジナルのままで問題ナシ。「もとの位置に戻すだけ」ってのはふつうの楽器の修理なら当たり前のことだと思うんですが,素人作家の多かった月琴だとなかなかナイことなので----なんかひさしぶりだなあ。(w)

 糸の反対がわ----
 山口は,マーブル模様のツゲ材で作りましょう。

 糸巻は前回も書いたとおり,1本はオリジナル(初代不識製・ただし別の楽器についてたもの),3本が補作です。本来ならオリジナルの色に近く色をつけるとこなんですが,ちょっと実験したいことがあったので黒染めになりました。
 同時期に修理してた56号の補作糸巻も黒染めですが,こちらのはちょっと異なり,いつものスオウではなく面板の染めなどに用いるヤシャブシでの黒染めです。最近発見したんですが,ヤシャブシに少量のスオウと月琴汁(面板の洗浄で出た汚汁を煮詰めたもの)を混ぜて煮詰めると,ドロドロしてきてかなり濃い紫黒が得られるんです。スオウ+ベンガラ+オハグロの黒に比べると赤味が薄く,青紫のほうに少し近いですかね。スオウは褪色しやすいのですが,こちらはかなり丈夫なようです。

 フレットも山口と同じツゲ材。
 オリジナルはおそらくどちらも牛骨,あるいは27号のように低音部が牛骨で高音部が唐木になってたかもしれません。55号お魚ちゃんでも使ったこのツゲ材は,ツゲとしては低品質な部類になりますが,木地の色合いと斑の入り具合が絶妙で,一見すると木だか骨だか練り物だか分からない独特の風合いがあり,庵主たいへん気に入っております。
 フレットは板状に切り出した素体の状態で,アセトンに漬け込んで油抜きをしておきます。
 ツゲは染まりが悪い材料ですが,こうしておくと少し具合がよくなりますね。
 四角い板のまんまの状態で幅と高さを合わせ,整形後,薄めたラックニスに少し漬け込んで表面に染ませます。
 塗膜を作っちゃうと糸のすべりが悪くなりますので,これで磨いて,拭き漆みたいな木地のままのツヤツヤ状態を作り出すわけですね。ツゲ自体もともと目も細かく磨けばすぐツルツルになる材なので,ちょっと使い込めば問題はないのですが,修理後すぐの間はまだひっかかりやすいので,操作性向上のためフレットの頭にはロウを塗ってスベリを良くしておきます。

 オリジナルの位置で配置した場合の音階は以下----

開放
4C4D-24E-84F+54G+104A+305C-125D+435F#-44
4G4A-54B-15C+95D+145E+165G-315A+186C+34

 高音域でやや高めにブレがありますが,清楽音階と西洋音階の中間,やや西洋音階寄りといったところでしょうか。
 清琴斎や初代不識の月琴には,関東の月琴の定型をふまえながらも,月琴を清楽の楽器からより汎用な楽器へという先進的な企てが見てとれることがあります。日清戦争などの影響で急激な衰退があったため,日本の音楽のなかに完全に根づくことのなかった楽器ですが,今少し時間があったなら月琴という楽器は,彼らの作っていた楽器に近いものになっていったのではないかと,庵主はよく考えます。

 オリジナルの音階を測るためひとまずそのままにしておいたのですが,少し弦高が高いので,西洋音階に直す前に,半月にゲタを噛ませることにします。
 初代不識の楽器は全体にやや弦高が高めである傾向があります。ひとつには棹が一木造りで調整が難しいため,あまり背がわに傾けられない,という工作上の理由もありましょうが,彼の属していた渓派流の清楽は連山派よりバチ使いが少なく,余計な音を出さないぶん一音を長く深く響かせる必要がありました。彼の楽器のフレットが全体に高めなのはそのせいもあるかもしれません。
 煤竹の板を細く裂いて角を落とし,半月のポケットの中に接着します。
 フレットが高いままでももちろん弾けますし,古臭い清楽曲しか弾かないつもりならそれでもいいのですが,いろんな曲を弾いてみたい場合には操作性に問題が出ます。半月付近での弦高を下げると,テンポの速い曲にも対応できるようになりますし,余韻の深みは若干減りますが,アタック部分が少し立って音が鮮やかになります。
 これで高音域のフレットの背丈が,平均でだいたい1ミリほどづつ低くなりました。

 あとはお飾りですね。
 まずは蓮頭。庵主の知る限り,不識製の月琴の蓮頭はコウモリだった例が2例ほどありますが,あとはみなほぼ同じ意匠になっています----今回はこれで。

 いろんな作家さんが同じようなデザインの蓮頭をつけてますが,真ん中のところに,ヒマワリの花芯みたいな丸があるのが彼の蓮頭の特徴です。
 いつものように,スオウ染,ミョウバン媒染,黒ベンガラで軽く下塗り,オハグロがけ。  最後にラックニスをタンポ塗りして仕上げています。


 胴右のニラミのシッポが欠けてますので補修しておきましょう。
 この手----庵主の大好きな作業ですねえ。(w)補修箇所を補彩,同時に全体も軽く染め直して,蓮頭同様にラックニスをはたいて仕上げ。
 よく見ればどこが補修箇所だかは分かりますが,シロウトさんにパッと見で見分けられないレベル。逆にこういうのを一見で見分けちゃうようなヒトは,何らかの裏の道のクロウトさんだったりする可能性がありますので(ww)ご注意ください。

 56号同様,盛大に書かれてた裏板の墨書は消しちゃいましたが,あちらと同じくこれにも「琴名 時不知」と銘が書いてありました。こちらもささやかながら,ラベルに書いて記録を残すことといたしましょう。

 スオウで3度染めてミョウバン媒染。紙だとこんなにあざやかな赤になります。貼るときに板の補彩に使った重曹がスオウと反応しちゃったようで。少し紫っぽいシミができてしまいましたが,これはこれで何か古い印刷物っぽい味があって悪くありませんね。

 臙脂の梅唐草のバチ布を貼って,
 2017年10月18日,
 初代石田不識作・月琴57号「時不知」
 修理完了です!!



 棹と胴体とのバランスのせいで,こうやって単体で見るとやたらコンパクトに見えますが,ほかの作家さんの楽器と並べてみると,これで棹も胴体も一回り大きいんですよ。有効弦長も平均的な楽器より2センチくらい長いですね。

 庵主の場合,ふだんメインで弾いてるのがこの人の楽器なんで,正直試奏しててもあまり新鮮味(w)がナイのですが,あいかわらず文句のない音量・音色でよく鳴ります。
 やや男性的な太い音で,ぜん○ろう先生の空気砲みたいに音が前に飛ぶ楽器です。
 まっすぐな直線の響き線のため,あまやかな深みはあまりありませんが,音のシッポは意外に長く,まッつぐに減衰してゆくキレイな余韻も,好き嫌いはありましょうがほかの楽器ではなかなか得られないでしょう。
 一回り大きく薄めの胴体にすらりと長い棹は,日本の清楽者が畳の上に正座して演奏することが多かったところからきたものですが,それがかなり特化した形で顕われているだけに,操作性にやや強めのクセがあります。有効弦長が長めなこともあって,ほかの作家の楽器で慣れていると,若干運指でとまどうことがあるかもしれません。
 ただその音色は上にも書いたように汎用性が高く,清楽器である「月琴」として,というより音楽を奏でる「楽器」としては,いろんな場面でかなり使える道具となります。独り静かに部屋の中,風流や風雅を語りながら弾きたい向きにはどうかと思いますが,ギグでライブで,あるていどのパフォーマンスを期待できるでしょう。
 **各部拡大画像(クリックで別窓拡大)**


 要は----人前でガンガン弾いてやりたい人向き。
 ただしかなり根性がないと楽器に呑まれます。(w)
 56号と同様,現在お嫁入り先募集中!
 お気軽にご連絡ください。
(メアドは本家HPの下のほうにありまあす)

 この57号も含め,修理の終わった楽器の試奏の様子,復元した清楽曲なんかはYouTubeのチャンネルで垂れ流しております。楽器の音なんかの参考にしてください。

 https://www.youtube.com/user/JIN1S

(おわり)


« 月琴57号 時不知 (3) | トップページ | 月琴WS@亀戸 2017年11月!! »