月琴57号 時不知 (3)
![]() STEP3 虫食い穴(ワームホール)の世界 清掃の時に,表板の虫食い箇所はだいたいチェックしときます。 濡らすと虫に食われたところだけ乾きが遅いんで,分かりやすいんですよね。 大きいのが上に2箇所,下に2箇所。小さいのが下に2箇所と,棹口の横の木口と,板の右端のあたりにあるくらい----思ってたよりはずっと軽微でしたね。最初見た時はあんまりにもキタナいので,50号フグくらい,切り抜きツギハギになっちゃうかなあ,とか思ったんですが。 順繰りやっていきましょう。 まずは下のつごう4箇所。半月右横のがいちばん大きく食われてました。ほじくったら横への広がりもそこそこあったので,ちょっと大きめに切り取ります。 ![]() ![]() 上の2箇所はいづれも木口から侵入し,板の矧ぎ目に沿って食われたもの。裏板のほどヒドいものはなく,貫通しているところもありませんので,弱くなってる部分をV字形に切り取とり,埋め木で対処します。 ![]() ![]() ここに古板を刻んだ補修材を埋め込んでゆくわけですね。周縁の不定形な欠けなんかも,いっしょに木粉パテで埋め込んじゃいます。パテ埋めの部分は,整形してからエポキ染ませて強化補強ですね。 ![]() ![]() 乾いたところで整形。 バチ皮のすぐ右横に木目に沿った長いエグレがあり,端のほうがちょっとバチ皮や半月の下にかかってしまっているので,端材を浅い舟形に削って埋め込んでおきました。あとで半月やバチ布の接着があるので,ここはエポキです。場合によっては音に影響の出かねない個所なので,あまり使いたくないんですが,ごく小さな範囲なのでこれくらいならさほど問題ありますまい。 ![]() ![]() ![]() 裏板はかなり酷い状態。 ど真ん中の矧ぎ目をはじめ,上下に貫通してる虫食いが何本もありました。周縁もかなり食われちゃってますね。 ![]() ![]() 埋め込める部分は埋め込み,薄皮一枚でボロボロになってる箇所などは切り除きましょう。 使える部分はすべて使いますが,これだけ範囲が大きくなると古板は使えません。古色付して悪目立ちしないようにはしますが,多少BJ先生になってしまうあたりはカンベンしてもらいましょう。 左右2枚に矧ぎなおしてから,真ん中を開けて接着します。 ![]() ![]() ----と,胴体を箱にする前に,棹のフィッティングを済ませておきましょう。 不識の月琴の棹は,糸倉からなかごまで一体の一木造り。古い月琴によくある,延長材が折れるはずれるといった故障はないものの,一体化しているだけに融通が利かず,完成後の修理や細かな調整が難しい欠点があります。 じっさい,彼の月琴にはよく,胴体がわとくに棹口や上桁に大きなスペーサが噛まされていることがありますね。延長材を継いだよくある構造なら,完成後でも延長材をはずせば,棹だけである程度の角度等の調整も可能ですが,一木造りの棹ではそうはいきませんものね。 しかしながら,裏板がオープン状態になっている今なら,棹基部と胴体どちらも存分にいぢくれますので,どんな細かな調整でも可能なわけです。 オリジナルの状態で,棹の傾きは山口のところで背がわに約2ミリ,やや浅いものの角度的には問題ありません。ただ指板と表板の間にわずかに段差があります。関東型の清楽月琴は,4番目のフレットがこの継ぎ目のところにかかる場合が多いので,棹の角度はそのままに,指板の端と表板を面一にしていきましょう。 このズレ,原作者も気づいてて,すでに棹裏がわに,棹と同材の薄板が貼りつけてありますが,調整が甘く,段差の解消にまでは至っておりません----やれやれ,また古人の尻ぬぐいか(w) ![]() ![]() オリジナルのスペーサは削り取り,ツキ板を貼って調整していきます。 薄いツキ板のほうがより細かい調整は可能なのですが,重ね貼りすると修理後にハガれたりするのが心配なので,スキマが1ミリくらいになっちゃうような部分は,胴体のほうに薄板を接着する方向で対処します。 ![]() ![]() 毎回のように書いてますが,(w)この「棹の調整」というはごくごく地味な作業ながら,完成後の使い勝手にものすごい影響のある大切な作業です。庵主はいつも,かなりの時間をかけて,慎重に慎重にやっています。 上にも書いたように,月琴の場合ここは表板と指板が面一(実際には指板がわがわずかにかたむいているのですが)で,指先で触っても段差が感じられず,写真に撮ると,上画像みたいに継ぎ目あたりの面が白トビしちゃうくらいになるのが理想ですね----うむ,ほぼ理想的な仕上がりじゃ。(ww) ![]() オリジナルの糸巻は4本ともなくなってますが,以前修理したほかの作家さんの楽器についてきた,同時代の不識製と思われる糸巻が一本,道具箱から出てきましたので,これを付けてあげましょう。 よくある六角一溝のタイプですが,不識の楽器の糸巻は,ややスマートで溝の彫りが深くお尻のトンガリが高い。同じタイプのほかの作家さんのに比べるとかなり特徴があるので,区別がつきやすいんですね----挿してみるとさすが同作の糸巻,調整もほとんどナシでピッタリコンです。 残り3本をこれに合わせて削ります。例によって¥100均めん棒製。 まだ半月も戻してませんし裏板もついてませんが,いよいよ楽器らしくなってきましたね。 というあたりで,今回はここまで---- (つづく)
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