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月琴54号(3)/56号(4)

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斗酒庵 54号に涙し烏夜啼を直すぞ の巻2017.7~ 月琴54号(3)/56号(4)

54号 STEP3 うつろぶねの姫君

 響き線は長いほど調整が難しい。
 典型的な演奏姿勢に構えた時,線が胴内で完全な片持ちフロート,胴内どこにも触れずにプルプルしてる状態になること。その「線鳴りの起こらない状態」でいられる範囲をどこまで広げられるかが調整の主眼なのですが。線が長く曲りが深いほどに,それが難しくなってゆくわけですね。
 結局のところ,これをくりかえしつつ妥協点を探ってゆくしか方法がありません。
 長くなればなるほど,スペース的な問題だけでなく「線自体の重さ」も影響してきます。長さとカタチで,まあこんなもんだろうと思ってると,重さで予想よりもしなり大きく振れて胴鳴り。またそもそも曲線は,どこを調整するとどこが持ち上がるとか,どこが傾くといった予想がつきにくいのです。平面ではなく3Dですからね。ここをこうしたらこうなったから,じゃあ今度はこうすればと思ってもと,ぜんぜん関係のないとことかが動いてしまったりもします。
 さて,楽器を演奏姿勢にしては響き線をちょいと曲げ,傾けてはまたちょいとひねり……見た感じ,チンパンのタマネギ剥きのような鬱作業。
 長さの調整自体は10分で済んだんですが,最適な位置角度を模索して,けっきょく何日,いや何週間くりかえしたかなあ。

 合間に表板と桁の剥離個所を再接着しときます。
 内桁が板にちゃんとくっついてるかどうか,これも楽器が鳴るかどうかの重要な点なのですが,三味線師出身の作者さんなどはけっこうおざなりにしちゃってることがあります。

 細かいところも確認したところで,さて~,いよいよ裏板をへっつけましょうか。
 再接着に際し,板を分割しなきゃならないんですが----おお,板の作りが上手すぎて矧ぎ目が分からなーいッ!!
 いや珍しいんですよ。
 表板ならともかく,裏板なんかはけっこうどうでもいいような材質の小板を組み合わせて作られていることが多いので,矧ぎ目以前に木目ですでに板の継ぎ目が分かったりするんですが……こやつ,木目まで合わせてやがる。(余計な…いやいや)

 板をちょっとしならせたり反らせたりすること十数分。
 ようやくちょうどいいところにほそーい筋を発見。カッターの刃を入れてなんとかスッパリ2枚に。

 左右両縁が少しはみだすよう,間にスペーサをはさめるスキマをあけて接着。ここでも真ん中に重しをかけて,板と内桁がちゃんとくっつくようにしときます。
 へっついたところで一気に整形してしまいます。

 うむ,外見は変りませんが。
 さすがに音が違いますね----
 胴の接合部も補強したし,ついでにあちこち固まってないのもあって,まだ本意気の響きではありませんが,前は何をやっても台所でGが青春してるていどの音しかしなかったところ,今度は胴に耳をつけてタップすれば,どこをどう叩いても 「むーん」 と響き線がちゃんと働いてる音がします。

 同時期に修理した43号が,同じように駄菓子屋のデッドストック並に新品だったわりには,ずいぶん「こなれた」音がしたのに比べると,こちらの山形屋はいかにも新品楽器といったカタい音しか出ませんでした。
 というか,響き線が働いてなかったので,この大きさの木の箱から出る絹の糸の音----ペコペコでしたね。
 これでようやくちゃんと「月琴になった」って感じかな。
 長く深いアールの響き線の欠点として,直線タイプなどより胴鳴りが起こりやすいところは変りませんので,演奏姿勢に少しの工夫が必要となりますが。上にも書いたよう,従前よりその演奏姿勢の自由度ははるかに広がっていますし,演奏姿勢と響き線の状態がばっちり合致した場合には,楽器の見かけと反対みたいな,芯の通った図太い響きが得られます。
 あとは弾いてもらって音がこなれてくれば,かなり使える楽器になると思いますよ。


56号 STEP4 ダイナマイトがどどんがどん

 56号は胴構造補強の続き。
 矯正しながら再接着した胴四方接合部の裏に和紙を重ね貼り。54号でもやりましたっけね~。
 1枚目は薄めたニカワをしっかり染ませた上から,カタめの筆の先で叩くようにして,よく木肌になじませます。これは土台みたいなものなので,多少破れてもかまいません。一度完全に乾かしから,表面を軽く紙ヤスリで均し,二枚目を紙の目を交差させて貼りつけます。場合によって違いますが,ぶ厚くしても意味はないので,4枚くらいまでが限界ですね。
 一部でも浮いてきちゃったら最初からやり直し。
 よく乾かして,柿渋を2度ほどしませ,表面をニスかカシューで固めてできあがりです。

 胴体構造が固まったところで,表板のヒビ割れを埋めましょう。
 これはピック・ガードとして貼られたヘビ皮によって,板が割れたもので,割れは矧ぎ目ではなく,真ん中の小板の弱いところが,木目に沿って裂けています。
 木の弱いところから裂けた割れ目は,ある意味,木がそういうふうになりたくてなった結果ですので,しっかり埋めてやらないと再発することが多い。割れ目の形や方向がやや不定形なので,薄く削いだ小板や木屑を駆使しながら少しづつ,きっちり詰め込んで埋めてゆきます。今回はオープン修理なので,裏がわからも作業出来るのが有難いですね。

 胴体の補修箇所を養生している間に,棹の補修も済ませてしまいましょう。
 棹が前傾している原因となった基部の割れは,すでにニカワで継いでありますが,力のかかる部分だけにそれだけだと多少心配----もう一手間加えておきましょう。

 基部の左右側面,割れ目のところがちょうど交点となるよう,X字形の切れ目を入れます。
 これをほじくってこう----
 ツゲの端材をチギリにして埋め込んでおきましょう。
 小さな部品ですので,ワタシのウデでは最初からキッチリというのは無理(w),最後にスキマというスキマにツキ板を削いで押しこみ,完成です。延長材も先端を削って調整し,再接着しておきます。

 オープン修理の特典として,棹角度の調整をかなり徹底的にできる,というのがあります
 延長材の再接着時にあるていどの調整はしていますが,胴体がわの孔にもかなりのガタつきがあるので,さらにスペーサを入れて,理想的な角度に近づけていきます。
 スペーサをぜんぶ接着してしまうと棹が動かなくなりますんで,その前に棹と胴体のフィッティングも済ませておきましょう。胴体との接合面の最終調整は微妙な作業ですんでこう----ガタついてる間に棹孔のところにペーパーを貼って行います。
 ツキ板は調整がラクなんですが,あんまり重なるとハガレるのがこわいので,スキマが1ミリくらいになったところは,棹でなく胴体のほうにエポキで接着しましょう。

 この時点まで半月はつけたまんまでいたんですが,前面のほうにウキがあったのと,棹とのマッチングの結果少しズレがあるようだったので,ハガしてみたところ----うう,ここもボンド漬けであったか!
 とりあえず呪ってから,ボンドを掻き落としました。
 戸棚に並ぶ呪いの粘土人形が増えてしまいますので,楽器に木瞬とかこの手のボンドを使うのは,国際的なテロ行為として国連で認定してもらいたいものですね。

(つづく)


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