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月琴57号 時不知 (1)

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斗酒庵 高級シャケにまみえる の巻2017.10~ 月琴57号 時不知 (1)

STEP1 時も知らず名も識らず

 さて,秋もたけなわ。 10月に入り,54号・56号の修理も絶賛続行中のところ,さらに一面,壊れ月琴がやってまいりました。

 自出し月琴57号。

 盛大な墨書が裏板に記されております。
 真ん中に 「理髪人」 とあります。こりゃあ床屋さんのカンバンにでも使われていたものでしょうか。上のほうに 「琴名/時不知」 とあるので,これをそのまま銘にしてしまいましょう。

 作業名は 「シャケ」。

 獲れても料亭とかに直行する高級なシャケですねえ。道民でも滅多に食べられませぬ。(w)

 あまり状態が良くないうえに,開始額がちょっと高かったのでまあ落ちたんですが,多少無理してでも手に入れたのは,これが 石田不識(初代)の楽器だったからですね。


 当代が人間国宝の琵琶師である虎ノ門の石田楽器店。
 その初代・石田義雄はもともと清楽家でした。
 鏑木渓菴門下の渓派に属し,楽器の製造販売のほか,楽譜の出版や清楽の音楽会を主催したりもするなど,当時の派内ではそこそこの有力者であったもよう。
 はじめ,店は神田錦町にあり,後に南神保町に移っています。

 糸倉や棹が長かったり,半月の下縁部が削ぎ落としの多面形になってたりと,不識の月琴には一目で分かる特徴がいくつかありますが,この花が正面を向いた菊がついてるのは,なかでも錦町時代の初期のころの楽器と思われます。

 棹なかごを抜いてみますと「十一」の文字が。
 庵主の1号と同じ数字だなあ。ということはこれは総数的な通し番号とかではなく,その月かその年の何面目かということかしらん。「五十」というのも見たことがあるから,明治の年号とかではないよね~。


 庵主の場合,最初のさいしょに手に入れたのがこのヒトの楽器。以来長年使ってきてるので,もう慣れちゃいましたが。作りも音も良いものの,当時の月琴としてはかなりの大型で,操作性にはけっこうなクセがあります。
 けっこうな数を作ったらしく,庵主のとこでもその1号をはじめ,8号,27号,KS月琴,と4面ばかり扱っております。
 1号は巣鴨のお地蔵さんのお縁日で入手。価格は¥1000,「マケて」と言ったら¥700にマカさりました----これもお地蔵様の御引き合わせというものか。27号などは自出しで買い入れた27本目なので「27号」と命名したものの,棹を抜いてなかごを見たらそこにも「廿七」と書いてあったほか,フシギな連続夢を見続けさせられるなど,少々怪談じみた現象まで引き起しており。元来,中国民俗学の研究者であった庵主を,この楽器とその音楽の研究にボットンさせるキッカケとなったことも含め,ナニヤラ因縁めいたものを感じずにはいられない作者の楽器なのでありますです,ハイ。

 全長:660。
 胴縦:351,横361,厚:36(表裏板各4.5)
 有効弦長:429

  は糸倉の先っぽからなかごまで,1本の木から切り出し彫り貫きで作られてます----これも不識の楽器の特徴の一つ。

 蓮頭欠損,糸巻・山口・フレット全損。
 やや横長で大き目の扇飾り。今回の楽器のは,よく中央飾りの意匠として使われる 「獣頭唐草」 の類ですね。不識の楽器ではこれの代わりにコウモリがついている場合もあり。第6フレットの痕跡は長く,7センチばかりもあります。

 右のニラミに欠け,表裏あちこちに虫食い。
 総身まっくろくろで,棹にはセロテープかなにかの痕もべったりとついております。
 よく見ると,表面板バチ皮周辺には無数のバチ痕がついています。かなりしっかり使い込まれた楽器だったみたいですね。

 表面的にはかなりキチャないものの,糸倉や胴の接合には微塵の損傷もなく。カンバンとして長年ぶるさげられてたかもしれませんが,楽器としての基本的な機能に関する部分にはさしたる問題がなさそうです。

 一通りの計測が終わったところで,裏板をハガし,内部の確認を----うぷ,裏板のほうが若干虫食いがヒドかったみたいですね。

 内桁は2枚。 国産月琴ですと通常,スギやヒノキ,マツといった針葉樹の板が使われるところですが,不識は胴や棹と同じ材で作っていることが多いですね。
 今回の楽器の 主材はサクラ のようです。
 ここも1号と同じだなあ。

 響き線は直線が1本。 やや太目の鋼線。
 サビがそこそこ浮いてますが腐ってはいないようです。
 ほかの作者の楽器だと,根元にささってるクギが飛び出していて,線を鳴らすための「舌」の役目を果たしてたりもするんですが,不識の場合は頭のところまでちゃんと埋め込まれており,唐物の月琴と同じく純粋に線を止めるためのものとなっております。
 まあ「線を鳴らすための工作」自体は,もともと誤解から生じたものなんで,これでいいンですけどね。(過去記事参照)

 板から出た虫食いのホコリなどが積もってたものの,内部は比較的キレイ。内がわから見ても,胴部材の各接合部にユルみや狂いはありません。あいかわらず,さすがの工作精度と舌を巻きますレロレロ。
 というあたりで今回のフィールドノート。
 (下画像はクリックで別窓拡大)


 修理楽器の数が増えちゃいましたが,いづれも自出しなので期限もないし責任もない(w)。
 3面同時修理,お気楽にまいりましょう~。


(つづく)


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