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月琴58号 太清堂(1)

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斗酒庵 宿敵(w)とまみえる の巻2018.2~ 月琴58号 太清堂 (1)

STEP1 一年の計は太清堂

 楽器がとどいたのは去年の暮れでしたが,いろいろあってようやく修理に漕ぎつけました----てか,今年一発目がおまえか太清堂!!
 今年一年…なにやら波瀾の幕開けの予感がいたします(w)

 デザインのセンスがちょっとアレなナゾの月琴作家・太清堂。
 こんな材料でこんな工作なのに,変なところでウデは良く,直ってみるとなぜか無駄に音が良い(w)あたりにも腹が立ちます。とはいえ楽器は鳴らしてなンぼ,鳴ってなンぼ。いくらいい材料を使ってても,丁寧で緻密な加工・工作をしてても,音が悪かったらなーんにも意味がありません----しかしながら----赤いヒヨコ,ぬるっとコウモリ,クギ子さん。なぜか庵主の心をかなりピンポイントで騒がす悩ましき問題作を生み出してきた作家さんですね。

 この楽器。
 ラベルはありません。サイズもふつう。
 量産タイプの国産月琴としては,とくに目立った特徴はありません。

 それなのになぜ「太清堂」の作だと言えるのか----あ,もちろん,いちおう「単なるカン」とかじゃありませんよ。たとえばこのニラミ(胴左右の飾り),右が赤いヒヨコ月琴,左が今回の楽器です。モノはブシュカン。似たようなデザインもほかにないではありませんが,ここまでピッタリ同じのはそうありませんし……何より,見たとたんに微妙にイラッときました(w)からね。

 ナニ,それだけじゃあまだ信じられんとな。
 んじゃあこれを見やがれえぃッ!!!

 ベリベリベリ----

 胴内1枚桁,響き線が2種類。
 太めの真鍮線で長い直線と,斜めのスプリング状構造。
 こんなことをしやがる作家は,月琴界広し(狭いです)といえども太清堂だけなんでィ!!

 ----いや,マジですよ。
 これに近い発想の構造はなかったでもありませんが,この響き線の構造は,この作者の楽器だけに見られるきわめて 独創的なものです。

 唐木屋のように複数の作家が一つのブランド名のもとで製作していたと思われる場合をのぞいて。この響き線の構造というのは,それぞれの作家で独特の癖やこだわりがあるもので,ごく単純な直線一つであっても,線の太さや基部の工作,向きや角度など「見れば分かる」レベルで違いがあります。ですので,外見がどんなに似てても,響き線を見れば,少なくともいままで扱った作家の楽器かどうかくらいは分かっちゃうくらいなのです。
 もともと,日本の伝統的な楽器にはなかった構造ですので,職人さんたちも戸惑いながら,自分の思う最善のカタチをいろいろと摸索したのでしょうが,この太清堂の響き線はそのなかでも優れた構造で,効果も使い勝手もよろしい。月琴の響き線の極致に登りつめてる,と言っても良いくらいです。とくにこの,短い直線とスプリングを組み合わせた構造のほうは,庵主もエレキ月琴・カメ琴で試したり,胡琴や明笛に仕込んで悪戯してみたりしてます。
 どんな狭い空間でも仕込めて,けっこうな効果がありますからね。

 全長:630
 胴:縦350,横352,厚35(板厚3.5)
 有効弦長:420

 やや小ぶりな楽器です。
 「太清堂」などと,いかにも唐物っぽいメーカー名。棹背の曲線や,棹と棹茎が同じ幅になっているあたり,また内桁が1枚だけなんてところは,いまだに唐物月琴の影響を色濃く残しています。しかし楽器自体から言えば,内蔵されてる響き線の例から見ても,琴華斎のような「倣製月琴」(唐物楽器のコピー)からすれば,一歩も二歩も進んでる楽器だと思います。
 庵主だけでもこの10年あまりで4面も扱ってますし,ネオクでもけっこう見かけるので,けっこうな数作ったヒトなんじゃないかと考えてるんですが----いまだにその正体,どこの誰だがは分かりません。

 蓮頭と糸巻が1本欠損。

 棹上がちょっと面白いことになってますね。山口のところに三角形に削った木片,1・2フレットは高さが逆で,オリジナルの山口は,第3フレットのところになぜかへっつけられてます。
 ナニをしたかったんだろうねえ? これをへっつけたヒトは。

 あと棹で気が付いた点として。いままで修理した赤いヒヨコ,32号,40号の棹では指板が山口の手前で切れ,段になっていましたが,この楽器の指板は糸倉の根元のところまできっちりあり,しかもけっこう厚めです。またこうした場合,ふつうは糸倉のアールに合わせて先端の木口のところを斜めに削ったりしてるものですが,こりゃ板のまんま,ズバボンと直角に切り落とされてますね。

 胴表面,けっこうヨゴれてますが,それでもまあ,木地がしっかり見えてるていど,水濡れやムレ痕もさほどありません。表板左がわビッと割れが入っている他は,胴の天地の板(側板)表裏にハガレが数箇所。裏板の右下あたりに虫食いとおぼしき小孔が数個ありますが,板の表面からつついてみてもズブッといかないとこから見ると,さほど深刻なものではないようです。
 胴上のフレットに番号がふってありますね----音階か,それとも組み立てる時につけた目印か。 ここのも含めて,フレット材質は骨か象牙だか,ヨゴレもひどくて今の段階では何とも判別がつきません。
 太清堂の楽器は,ほかの国産月琴に比べると,胴上のフレットの長さの差がそんなにありません。石田義雄の月琴など関東の楽器では,第6フレットが顕著に長くなってますが,関西の楽器ではそれほどでもないんですね。国産月琴の元となった唐物の楽器でもほとんど同じような長さになってますから,ここでも太清堂はやはり唐物や倣製月琴に近い,古いタイプの形態を残しているということですね。

 半月に余計な糸孔が2つあけられてます。
 これも良く見かける後世の加工で,6つの孔ぜんぶに糸を通してあった例もあり,糸巻は4つなのにナニをしたいんじゃい?----と考えてたこともありますが,これは永田さんのご指摘のように,4弦2コースの複弦を,4本の弦がそれぞれ違う4単弦にしようとしたんでしょうね。
 清楽月琴は4弦2コース。弦は2本づつ同じ音で,出せる音も基本的には13コしかありませんが,4本の弦をそれぞれ違う音にチューニングすれば,音数は格段に増えます。ただチューニングだけ変えても,そのままの構造だと1・2弦と3・4弦の間がせまくて弾き難いので,弦の間隔が均等になるように糸孔をあけなおしたんでしょう。
 半月のポケットの中に,細い金属弦の断片に,おそらくは釣りのカミツブシ(鉛製の小さな錘)を使ったとおぼしき,小さな丸いストッパーがついたもの残ってましたので,さらには金属弦を使ってみもしてたみたいです。楽器の材質・構造からするとあまり誉められた行為ではありませんが,なかなかのチャレンジャーですね。

 あとは前の所有者か古物屋さんによると思われるボンド付けの痕なんかも見られますが,古物の月琴としては,損傷も欠損部品も少なく,保存状態はまずまず上等なほうといったとこでしょうか。

 寸法などの詳細は,今回もフィールドノートをどうぞ~。(画像クリックで別窓拡大)

(つづく)


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