« 2018年2月 | トップページ | 2018年4月 »

月琴ぼたんちゃん(再)1

botan_07.txt
斗酒庵 年末修理編 の巻2018.3~ 唐木屋月琴ぼたんちゃん(再)1

RE:STEP1 唐獅子牡丹の帰還

 …ぼたんちゃんが帰ってきました。

 春先で発情中の黒い猫に,運搬途中で破壊されたもよう。へ(TДT)/ウワーン
 春先はあちらもいろいろあって,猫の手も借りたい状況なのでしょう。いままで黒い猫がうちの楽器ぶッ壊した事案も,おおむねこの3~5月に集中しております。みなさまもお気をつけて。(w)

 送り主さんが,分解しないでそのまま送っちゃったのも原因の一つですね。

 月琴という楽器は単純な構造なのでそう滅多に壊れることはなく,庵主なんかふだん,薄い綿入れのスッポン袋一枚で背負って歩いてますが,そんなのでもそう壊れたことはありません。
 ただ,実家に帰省する際や遠くで演奏のため楽器を送る時には,必ず分解してから箱詰めするようにしています。月琴は三味線と同じ「スパイクリュート」,もともと棹と胴体が分解できるようになっています。胴体はもともと衝撃等に強い円形----この楽器でいちばんネックなのはその丸い胴体から突き出た棹(ネック)の部分なわけですが,その棹も糸巻をはずしてしまえば短い角材みたいなもの。重ねてのっければ,ほとんど胴体だけの大きさにまとまります。あとはプチプチにでも一くるみしとけば,ちょっとやそっとで壊れることはない----荷物のサイズもぐんと小さくなって送料も安くなるし,安全性もずずっと高まるんですね。
 部品の点数もけして多くはありませんから,組み立てもさして難しくはありません。
 月琴を遠くに輸送するときは,ちょっと面倒でも分解いたしましょう。

 さて----主なる破損個所はここ。
 棹が根元からボッキリ逝っております。

 どっかにぶつけた衝撃で延長材が折れたりはずれたり,ってのはけっこうあるんですが----まあ,ちょっとふつうは考えられない壊れかたですね。おそらくは,斜めにたてかけて置いていたところで,棹と胴体の接合部,やや胴体寄りのところに,かなりの重量物(10kg以上30kg未満)を真上30センチ以上から落とし,さらに右回りで固い床に転がった,ってとこかな。

 棹の損傷はかなりなものですが,サイワイに,と言うか何と言うか----前回の修理で棹口を補強していたおかげで,この程度で済んだ----とも言えそうです。棹基部はほぼ完全に破壊されてますが,棹本体の損傷はあと,一番上の糸巻,太いほうの軸孔に小圧痕,山口とフレット2枚が吹っ飛んでるくらいで,糸倉も割れてなければ棹本体にヒビも入っていません。
 胴体下部,地の側板と裏板に少しハガレがありますが,これは今回の損傷によるものか,経年の劣化もしくは前回の庵主の作業のマズさによるものか不明。
 あとは棹口の表板がわに少しヒビが入ってますが,もともとここは割れていたところ。その割れの補修自体に損壊はなく,破壊の衝撃で棹口の角が少しめくれちゃってる程度。
 そのほかは胴体にも棹にも目立った損傷はありません。黒猫だけに猫パンチなみにピンポイントな暴行だったようですね。

 まあ,ただ外見だけ元のカタチに戻すのなら,棹基部にニカワを塗っておッたてとくだけで済みますし。これをこの楽器の寿命として後はお飾りにするつもりなら,もとの基部部分に穴掘って角材を継ぐくらいの簡単な修理でも構わない,とは思いますが,この後も楽器として使い続けるためには,多少の見栄えは犠牲にしても,より頑丈な直しかたをしてあげたほうが良いでしょう。

 棹基部を三方から切り貫きます。
 ちょうど「T」の字を上下ひっくり返したカタチ。ほんとは十字にしたいところなンですが,指板がわは薄い唐木の板で覆われてますし,そちらを傷つけると誤魔化すのがタイヘン(w)なので。

 ここにオリジナルと同じホオの木で作った補材をハメこんでゆくわけですが,ただ逆「T」字に貫くのではなく段差をつけ,棹本体と補材が複雑に,よりしっかりと噛合うようにしてあります----とはいえ庵主,人間国宝の宮大工さんみたいな一発整形は持ってませんので,これはこれでタイヘン(泣)時間をかけて慎重に,あちこち少しづつ削りながら,なるべくキッチリ,無駄なくすきまなく組み合わさるように調整してゆきました。

 ふぅ----なんとか失敗することなく補材が完成しました。これを接着します。
 「壊れるべきところから壊れた」場合と違って,このように本来壊れるべきところではないところから壊れたものの修理は難しいものです。伝統的な修理法というものは基本的に「壊れるべきところから壊れた」場合を前提にしていますので,対応できない,もしくは難しいことも多いですね。
 ここはこの楽器でもいちばん力のかかる箇所のひとつ。また,もともと「壊れなくてもいいところ」でもありますので,接着にはニカワじゃなく,より強力で頑丈なエポキを使わせてもらいましょう。

 まずは練ったエポキを少量のエタノールで緩めて,棹本体と補材の接合面に洩れなくたっぷりと塗布。つぎにそこに微細な唐木の粉を混ぜて練ったパテをまぶし,ぎゅぎゅっとつっこみます。エタノで緩めると,木地や細かな凸凹への浸透が良くなりますが,完全に硬化するまでの時間が長くなるので,このまんま用心のため1~2晩置きます。
 カッチリ固まったところで整形。
 ま新しい補材の色が違うところは当然として,この作業で周囲のオリジナル部分も多少巻き込んでしまいましたが,まあしょうがない。

 さらに整形していって…さあ,ちゃんと入るかな?----入りました!

 ですがまだ,段差はあるわ傾きや角度は合ってないわでガタガタです。
 いつも棹と胴体のフィッティングっていうのは,この楽器の修理の中でもいちばん重要で,かついちばんタイヘンな作業なわけです。前の修理の時も三日ぐらいかかりましたが,今回はそこが完全にヤラれて作り直しちゃったわけですから,も~思いっきりマイナスからの出発ですよ。
 さてさて,今度は何日かかるやら。

 棹基部がある程度きっちりおさまるようになったところで,延長材をつけます。
 オリジナルはスギかヒノキといった針葉樹材でしたが,材料箱漁ってたらサイズ的にちょうどいい材が出てきたので,これを使うことにします。たぶんラミンですね----材質的には問題ありません。
 棹基部にV字の切れ込みを入れ,延長材もオリジナルを当てながら整形してゆきます。
 棹本体は楽器の背がわにやや傾きますが,延長材は表板とほぼ平行になっています。ですので,取付けはわずかに角度をつけて接着します。計算が3Dになりますからねえ,庵主にはそれもタイヘン。(w)

(つづく)


月琴58号 太清堂(終)

G058_05.txt
斗酒庵 宿敵(w)とまみえる の巻2018.2~ 月琴58号 太清堂 (5)

STEP5 月琴 adolescence

 今回の楽器,胴四方の接合部は工作も良くもともとガッチリくっついてますし,響き線は真鍮なのでサビ落としなどは必要ありません。
 天地の側板と内桁のハガレ,表板の割れ2箇所,そして棹の角度変更とフィッティング。
 延長材も取り替え,取付の設定も大きく変えましたので,フィッティングに少々時間を食いましたがまずはヨシ。最後に全体汚れて油切れしてパサパサになってた側板や棹に柿渋を染ませ,亜麻仁油で拭き磨き。修理前の色合いは似たような感じでしたが,少し前の56号と違いこちらの木部はスオウで染めてない,ほぼナチュラルな色合いだったようです。もともともこのくらいの感じだったんじゃないかな。


 裏を閉じます。
 中央付近の矧ぎ目から裏板を分割,少し左右にズラして接着し,間にスペーサを埋め込む----いつもの方法です。もともと10枚以上も継いでますからね,ここで1カケラぐらい増えてもまあ問題ありますまい(w)

 接着養生後,スペーサと周縁のハミ出しを削って整形,ここらもルーチンですね。
 天地側板の周縁部は,オリジナルの状態で表裏ともわずかにでっぱりがあったため,棹基部が少し浮いてしまっていたんですが,これももちろんキレイに均しましたので,今度は棹もキッチリおさまるようになりました。

 半月を補修します。
 といっても,後であけられた余計な糸孔はとおに埋めてありますが,もともとの材質がやや柔らかい(針葉樹?)ので,補彩のついでに強化しちゃいましょう。

 棹と同じでここも,色褪せたうえに油切れでパサパサになってました。もともとの塗装は黒ベンガラに柿渋といったところでしょうか。真っ黒ではありましたが,木目が透けているような薄い染め。使ってるうちにコスれてハゲちゃいそうです。

 まずはスオウを染ませオハグロをかけて色味を増し,カシュー系の塗料で表面をしっかり塗り込めます。
 うちのWSの流儀だと,トレモロ演奏の時はここに手を固定して弾くので,表面をちょっと丈夫にしといたほうが良いでしょうしね。庵主,塗膜のある塗装はこのところやってなかったんですが,久々に挑戦----とぅるッとるです。

 カシュー系塗料は乾燥に時間がかかるので,ここで少し間が空いてしまったのですが,約一週間後,半月の塗膜が落ち着いたところで,表裏板の清掃に入りました。

 汚れはあんまりヒドくありません。だいたい1回の清掃でキレイになりました。
 使い込まれた楽器だとこの時,表板に無数の使用痕が浮き出たりするもんですが,まあキレイなこと(w)
 キズ一つありゃしませんね,こりゃあ。(^_^;)
 半月と糸巻に多少の糸スレや圧迫痕はありましたし,半月に余計な孔まであけてたくらいですから,「まったく使用されなかった」というほどではないでしょうが,傷まみれになるほど弾きこんでたわけでもないようですね。

 板が乾いたら,組み立ててフレッティングです!
 山口(トップナット)はオリジナルのも残ってるんですが,トラ杢のトチで作りなおしました。
 蓮頭が龍ですからね,これで対(w)

 オリジナルのフレットは7枚も残ってます。しかもこれ,牛骨じゃなくてちゃんと象牙みたいですね……太清堂の癖にナマイキだ。(w)ただ,初期の作品なためもあるんでしょうが,フレットの高さをスケールまかせにしないで,実器合わせでやってるところはエラいです。
 同時期の作家さんは,これを余計に低めに作ってる場合が多いですね----低めの寸法で統一して先に作ってしまえば,量産がラクになりますから。しかしながら,フレットが低ければ糸はひっかかりませんが,フレット頭との距離が離れるぶん,弦を余計に押しこまなければならなくなります。そのため運指への反応や発音のタイミングは遅くなりますし,高音域ほど音が安定しなくなることが多いです。
 月琴のフレットは,高音域で高く低音域で低く,高低の差がけっこうあったほうが音も響くし弾きやすいのですが,今回の楽器は,棹が胴表面と水平だったのもあって,フレットの丈は全体に高く,高低差も小さくなっていました。
 棹の角度を変えたので,新しい山口の丈も数ミリ高くしてあります。胴表面の水平面を基準としたとき,弦高は山口のところで8ミリ,半月端で6~7ミリほど。

 第1フレットは牛骨で補作,第2から先はオリジナル・フレットを使用しましたが,弦高が下がってるので相当削っちゃいましたね。修理前に比べるとかなり高低差があり,唐物月琴なんかに近いセットになりました。

 フレットをオリジナルの位置で配置した場合の音階は----

開放
4C4Eb-484E-374F-4F#4G-54A5C-55Eb-345F#-31
4G4A+334B-365C+215D-165E-165G-145B+486C+44

 棹角度の大幅な変更があるので,低音域の正確さについてはやや疑問がありますが,第3音(第2フレットの音)がやや低いなど,清楽音階の特徴はだいたい出てます。また低音弦第4フレット(開放の5度上),高音第6フレット(開放のオクターブ上)など要所の音もほぼ合ってますね。最高音が最低音の2オクターブ上より少し高めですが,これも耳で聞いて位置合わせした場合なら,それほどハズれてはいないという範囲におさまっています。

 扇飾りは欠損。5~6フレット間にわずかに接着痕が確認できますが,日焼け痕もほとんど見られないことから,かなり以前,最初のころにもうとれちゃってたのかもしれません。太清堂の扇飾りといえばこんな----

----うぷ。この真ん中でのたうってるモノはおそらく「龍」,宝玉を口に銜えた龍だと思われますが,あんまりといえばあんまりなデザイン。ウナギだかナメクジだかミミズだか,はたまたコウガイビルだかわからないシロモトと化しております。

 しかしながらこの扇飾り。これだけで「あ,太清堂の楽器だ」と分かるくらい,彼の楽器のアイデンティティの一つですので,いちおう再現してあげましょう----とはいえ,さすがにこのままでは……うむあまりにも単純化しすぎたのがイカんのだ,線をいくつか足して「龍」だと分かるようにしてやろう!!

 ----と,思ったんですが。
 うむ……余計なことをして,かえってウナギ度を増してしまったような感が...orz

 中央飾りはもともとついてたかどうか分かりませんが,だいぶん以前に作ったままお蔵入りしてたアキツモミジの円飾りが出てきましたので,これをつけてあげようと思います。トンボは英語でドラゴン・フライ。これで蓮頭と扇飾り(いちおう)と中央飾り,三つが龍の龍づくしな楽器になったわけですね。

 これらを足して,2018年3月14日。
 自出し月琴58号・太清堂----修理完了!!

 磨いた側面の栗色が美しいですね----栗まんじゅうみたい。(w)

 最初のほうでも書きましたが,どんなに工作が雑に見えても,お飾りのセンスが多少アレでも,ちゃんと修理をすれば この人の楽器は鳴ります。間違いなく。

 さらに今回は,棹の角度やフレットの高さの調整を徹底的にやって,操作性や低音域での響きを改善してあります。かなり大胆に棹を傾けた影響で,低音域での演奏に若干クセがありますが,「演奏の支障になる」というほどのこともなく,慣れてしまえば使い心地は上々でしょう。
 まあ量産器ですから,超一流の作家さんのワンオフものの楽器などとは比べるべくもありませんが,音色はこのレベルの楽器としてはかなり上等な部類。全体に唐物月琴やその模倣品である初期の国産倣製月琴に近い特徴の多い楽器ですが,音もどちらかといえば本場の唐物月琴に近いほう。よくある国産月琴みたいに,変に中二病的な「月琴の音(想像)」を追及したりしてないですね。おそらくは天華斎や玉華斎のような唐物月琴を直接手本として作ってたんだと思います。

 試奏してみた感じ,庵主の感想は 「ぽっちゃりした音」 ですね。(w)
 比較的音ヌケは良く音量もそこそこにあり,音色は太く中央付近にふっくらとしたふくらみがあり,明るく温かみのある余韻が続きます。やや風雅風流ワビサビ的な趣には欠けますが,ちょっと前の56号なみに汎用性が高い音の楽器だと思いますよ。

 欠点があるとすれば,まず上にも書いた操作性のクセが手になじむかどうか。低音域での力加減ていどで,最初そこらへんを少し気を付けてもらえばすぐ慣れるだろうし,まあさほどたいした問題ではないのですが。あとオリジナルでちょい寄り目ちゃんだった胴表面のニラミを若干離して着け直しましたので,そのあたりに少し白っぽく日焼け痕が浮いてます。半年くらいすると色が上がってきて目立たなくなってくるとは思いますが。

 ふだん使いの楽器,また使用環境や音楽を選ばぬ月琴としては上物。
 現在,57号とともにお嫁入り先募集中。
 ワレと思わん方はご連絡アレ。(w)

(おわり)


月琴WS@亀戸 2018年4月場所!

20180428.txt
斗酒庵 WS告知 の巻2018.4.28 月琴WS@亀戸 春爛漫の月の音 の巻


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 4月場所 のお知らせ-*


 さて今年度のWSもはや3回目。
 2018年,4月清楽月琴ワークショップは,月末28日,土曜日の開催予定!
 会場はいつもの亀戸 EAT CAFE ANZU さん。

 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願い。

 お昼下りの,チョロチョロ開催。
 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもOK。

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。うちは基本,楽器はお触り自由です。

 1曲弾けるようになっていってください!
 三味線,琵琶,中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 57号「時不知」58号「太清堂」,引き続きお嫁入り先募集中です。興味のある方は試奏もかねてどうぞ~!

 ほか,庵主所有で弾いてみたい楽器(唐琵琶とか弦子とか)やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

 3月場所は桜がリーチのころでした。
 はるのうららの墨田川,墨堤下れば両国で,二つ駅行きゃ天神さん。雪のごと散りゆく花に誘われて,鶯鳴くよほーほけきょ,月の琴でも弾きにきませんか?


月琴58号 太清堂(4)

G058_04.txt
斗酒庵 宿敵(w)とまみえる の巻2018.2~ 月琴58号 太清堂 (4)

STEP4 月琴 ataraxia

 いまのところ。
 文献史料上,この楽器の作者「太清堂」につながる手掛かりは発見できておらず。この人がどこの誰様なのかは分かっておりません。
 前にも書いたとおり,この10年ちょいで庵主の扱っただけでも4面。ネオクでもいまだにちょいちょい見かけるということは,少なくとも月琴メーカーとしてはけっこうな数を作っていたほうだろうとは思われます。

 そもそもの素材や工作,とくにお飾り等のデザイン・センス(w)に色々と問題になるところはあるものの,音を鳴らす道具----楽器としての性能・品質はけして悪くはありません。もっといい材料をふんだんに使い,工作も丁寧,デザインもバッチリなのにクマムシの糞ほども鳴らない楽器ってのも,ふつうにありましたからね。

 手掛かりがない,とはいうものの。
 修理していていくつか気になる点があり,そこからこの人は,もともとは「楽器の職人」ではなく,何かほかの木製品。たとえば家具とか指物とか,そういうものの作り手であったのではなかろうか,と庵主は推測しておる。

 ----たとえばその気になる工作の一つがココ。棹の上端,糸倉にあけられた糸巻の孔,ですね。

 三味線などでは,この糸巻の孔をあけるときに「焼き棒」というものを使います。錐などで下孔をあけたところに真っ赤に焼いた太い火箸のような道具を突っ込み,孔を焦がして焼き広げます。大陸の月琴でもこのペグ孔の工作は焼き広げ。前に動画で見た製作工程では,石油缶で火を焚いて焼き棒を熱し,外で作業をしてました。木を一気に焦がすので,けっこう煙とかニオイがパないですからね。

 対して,太清堂の楽器の軸孔は,2種類の太さのツボギリで左右から孔をあけただけ。ふつうはツボギリで下孔をあけた後,軸先の形に合わせるために,さらに削るとか焼き棒で整形するとか,どの作家さんも最低そのくらいのことはしているのですが,太清堂の場合は,左右からまっすぐ孔をあけていて,そのツボギリでほじくった痕が,軸孔の内壁にそのまま残っています。
 この手の弦楽器を実際に触ったことのある方ならみんな分かってると思いますが。ふつうこういう糸巻,木ペグの先端っていうのは,先細りになってるものなんですね。それをつっこむ孔の方も,それに合わせて形になってるのがふつうです。スッポン孔でも糸巻の孔としての用には足りますが,耐久性や使い勝手のほうから考えると,やっぱり心もとない。

 ちなみに13号や,こないだやった54号の作者・山形屋の楽器などでは,細いほうの孔の外がわが逆テーバーに,つまり内がわがせまく,外がわに向かって広くなっている例があります。これは三味線屋さんの工法。三線や三味線は糸巻の先のほうが噛んでいて,握り側のほうは微妙に紙数枚ぶん孔より細くなってるのがふつうなのですね。13号作者は西久保石村近江大掾藤原義治,山形屋の名乗も石村雄蔵,ともに三味線の名工の系統です。作者が三味線を作る人だったら三味線の工法が,琵琶を作る人だったら琵琶の工法が流用されるのが当たり前ですが,太清堂のスッポン貫きは,そもそも「弦楽器」を作る職人さんとしてちょっと考えられない工作(orz)なんですね。

 まあ,テーバーのついた糸巻を,スッポン孔に突っ込んでグリグリしてたおかげで。軸孔が圧迫されて,現状孔の方にも少し野生のテーバーがついちゃってる状態ですが,これでは依然,孔の縁付近だけで「受けてる」ってところで,糸巻が安定している状態にはなっていません。いちど埋めたりするほどでもないので,あらためて焼き棒で焼いてわずかに焼き広げし,糸巻・軸先両方を調整しました。糸巻がオリジナルより若干深く入ってしまうようになりましたが,今度はちゃんと「噛合って」ます。

 糸巻は欠損1本を補作,2本にネズミがカジカジしちゃった痕がついてますので,ここはエポキで木粉を練ったパテで充填しときます。そうした補修箇所と調整作業で,先端のほうを多少削っちゃいましたのでスオウで染め直し,ぜんぶを同じような色合いにしちゃいましょう。

 さて,裏板をつけて胴体を箱にする前に,ここらでひと遊びしておきましょうか。
 蓮頭を作ります。
 太清堂の月琴はほとんどのものが,飾りのない雲形板の蓮頭を付けています。
 それだと再現するにしてもラクでとてもヨロシい(w)のではありますが,今回は欠損部品も少なくほかに遊ぶ所がない。同時期に台湾製のドラゴンヘッドの月琴を修理していますのでその影響----
 龍でも彫りますね。

 さすがに全身彫るのはタイヘンですし,獅子やら龍やらちゃっちゃと彫れるほどウデもないので,アタマだけ----前にも書いたと思いますが,ほんらい彫り物には「格」ってもンがありましてな。花なら牡丹,動物なら獅子やら虎やら龍,ってのは一定の技量を越えてないと彫っちゃあアカンようなシロモノなんでさぁ。まあ言うても庵主シロウトですんで,今回は不遜を承知で一丁彫らしていたたぎます。
 材料はカツラの板。スオウ染,ミョウバン発色,ベンガラ塗り----この時,ベンガラはワザとムラムラに塗ります。そしてオハグロがけで染め完了。
 ベンガラは隠蔽性の高い塗料なので,ベットリ全体に塗っちゃうと下地が消えて,いかにも「塗りました」みたいにぬぼーっとした感じになっちゃうんですね。ベンガラもオハグロも鉄ですが,成分の違いからスオウと反応した時に出る色が微妙に異なります。わざとムラムラに塗って上からオハグロをかけると,そういう色味の違いが現れて,「黒」により深みが増します。
 染まった蓮頭はよく乾かして,表面を布で磨き,ラックニスをタンポ塗りして仕上げます。

(つづく)


月琴58号 太清堂(3)

G058_03.txt
斗酒庵 宿敵(w)とまみえる の巻2018.2~ 月琴58号 太清堂 (3)

STEP3 仁義なんかあったかい?


 ふッ……タツよぉ,もうとぉに手鋸だの膠だので切った貼ったなンてぇしてるご時世じゃねぇのよぉ----おいっ!

 ぐぅッ!…ヤ,ヤスぅ……てめぇッ!!

 かにんして…アニィ,かにんしてくだっせぇ!!

----なんか前もやったことがあるような,ないような。(w)

 58号,修理は折り返し地点。

 今回の楽器は欠損部品も少なく,深刻な損傷と呼べるような箇所はありません。所々に見受けられる原作者の手ヌキおよび理不尽な工作については,細々尻拭いをせにゃならんせいで個人的に腹はたつものの,基本的には「不具合」と呼べるほどのものではなく,庵主の性格がもっと鷹揚だったら無視しちゃってるかもしれない程度のシロモノ。基本的には糸巻削って胴体を箱に戻したら出来上がり,みたいな感じです。

 表板左がわの割レをふさぎます。
 例によって,上下方向への支えがないことからくる胴材のわずかな変形と,ピック・ガードとして貼られたヘビ皮の収縮による桐板矧ぎ目からの剥離。天の板の手前くらいまで,ほぼ貫通してますね。
 それでも,前回も書いたとおり,太清堂,胴体構造の工作それ自体は決して悪くないので歪みや狂いも少なく。百年の結果としては僅かなものです。

 割レがせまいので,いちど刃物を入れて広げます。これは切り開いているわけではなく,刃を押しこんで両岸を圧縮しているだけですね。
 割レ目が均等に広がったところで,薄目に溶いたニカワを落とし,削いだ桐板を押しこみます。中央に近い位置で,けっこう長さがあるため新品の板を使いましたが,幅はないので,清掃後にはそんなに目立ちますまい。

 せまいスキマに,柔らかくて薄い桐板をキッチリ押しこむのは,いつもそれなり大変なのですが,今回は裏板剥いで片オープンになってますから,板のオモテウラから確認しながら,バッチリきッちり作業ができますね。
 一晩おいて整形。
 ちなみに左画像は補修後の割レ目をウラ(楽器の内がわ)から見たもの。この板目と直角に走ってる色の変わった部分は節目。小枝とかにつながってた部分ですね。こんな部分のある板,ふつうは使わないものですが,原作者はここを,オモテがわから見てちょうどニラミで隠れるところに持ってきてます。太清堂……なかなかに小細工を効かせよるのぉ。(悪代官)

 さて,表板と側板・内桁はこれでバッチリ固まりました。
 胴を箱にする前に,棹のフィッティングをやっておきましょう。今回の楽器は太清堂の初作期。後の楽器のように棹に角度がついておらず,棹の指板面が胴体の水平面と面一になってます。
 このままでも弾けなくはないのですが,フレットの高低差が小さくて弾き難く音の伸びのない楽器になってしまいます。まずはこれを背がわに少し傾けて,国産月琴の,楽器としての理想の設定に近づけることにしましょう。

 棹の本体と "なかご" の部分,延長材を分離します。

 58号の棹は本体もなかごもホオ,同じ木から採ったものではないようですが,同材を接いでいます。
 実験の結果から言うと,なかごの材によってさほど音が変わるわけでもなく,国産月琴の多くはヒノキやマツ,ウギといった針葉樹を使ってますし,本家の唐物月琴でも針葉樹材なんで,同材接ぎにさほどの利点や意味はないのですが,職人的なキモチ的には理解できなくもありません----おそらくは「一木作り」のほうが「寄木作り」より上,同じ「寄木作り」なら異なる木を接ぐより,同じ木を接いだ方がヨイ(はずだ)という単純な発想からきた工作でしょう。
 当たらずとも遠からず,ではありますが。月琴は棹が極端に短いので,実際「影響」といえるほどの効果は,ほとんど期待できません。まあ 「ヨイと思えることはやるだけやっとく」 という,仕事としての達成感の追及,職人としての自己満足程度のものですね。

 接合部を濡らした脱脂綿でくるんで,ラップを巻いて3日…けっこう頑強でしたが,損傷なく無事にハズれてくれました。少しニカワが多めではあるものの,太清堂,擦り合わせ噛合せの工作はホントに上手いですねえ。

 棹本体と胴との接合面を削って,棹の取付に角度をつけます。棹背がわの面を斜めに1ミリほど削って均し,この時点でだいたい指板の先端で胴の水平面から7ミリほど傾けています。理想値は山口(トップナット)のあたりで3~5ミリ。たいていこのあと何度も調整を重ねてゆくうちに2ミリくらい戻っちゃいますから,まずはこれでヨシ。

 つぎに棹なかごの接合部を削って,新しい角度で棹が胴におさまるように調整するんですが,ここで問題発生。
 今回の延長材,かなりギリギリの長さだったらしく,削ったら内桁に届かなくなっちゃうことがわかりました……オイオイ太清堂,こんなところでケチるなよぉ。(泣)
 ----まあ,この楽器は構造上,長いほうの響き線が内桁のすぐ下に走ってますので,あんまりこれを突き出させると,そっちにブツかっちゃうわけで,それを考えてのことでしょうね。
 とまれ,端材入れを漁って,もう少し長い延長材を新たに作ることにします。ホオ材で適当なのがなかったんでこいつで。
 この白い木はたしか,米ヒバだったかと。針葉樹材ですね----言い訳しといたわけじゃない(w)ですが,上でも書いたとおり,ここは広葉樹材でも針葉樹材でもたいした影響はありません。作り手のキモチの問題。

 延長材の角度と棹本体の接合面を調整しながら,キッチリおさまったところで接着。ここまでだけでも二次・三次とけっこう細かな調整作業を長い時間やってます。その結果がこんなところで微塵もズレて欲しくはないので,調整したままの角度で,楽器に挿したまま固定しちゃいます。

 棹と延長材がつながったところでさらに微調整!
 左右の傾き,胴体のふちとのわずかな段差,基部を削ったりツキ板を貼ったり----最後にはもう紙一枚二枚の厚み(w)で整えてゆきます。
 何度も書いてますが,この手の弦楽器の使い勝手のヨシアシは,こうした棹取付の調整・加工でほぼ決まると言ってヨイ。
 理想の角度そのままに,挿せばピッタリ抜くならスルリ,指でなぞっても胴と棹との接ぎ目が分からないくらいを目指し,ヒタスラヒイコラ頑張るのでありますが,いつものことながらこの作業,どんなに急いでも足かけ3日はかかりますからね。

(つづく)


月琴58号 太清堂(2)

G058_02.txt
斗酒庵 宿敵(w)とまみえる の巻2018.2~ 月琴58号 太清堂 (2)

STEP2 古い月琴はポートピアの夢を見るか

 んでは作業開始~。
 調査の段階でもう裏板をひっぺがしちゃってますが,まずはオモテ面についてるフレットやお飾りをはずします。

 フレットとバチ皮は灰色のボンドで貼りつけられてました----見ないヤクだなあ。いつもの木工ボンドだと濡らせば白くなってハガれてくるんですが,これは耐水性の接着剤らしく,濡らしてもカッチリと硬いままです。
 いつもならボンド使用の罪で,おシリからムラサキ色のケムリがぷぅぷぅ出るようなノロいをかけるところですが,今回の楽器の場合,原作者のいつもの工作を見てたら,なんかどうでも良くなりましたので,朝起きがけに足の小指をぶつける程度のノロいでカンベンしてあげます(w)……え~と,粘土人形とジャブ様の像はどこだ。

 上物がなくなったところで修理の作業に入ります。
 まずは,天地の側板と内桁の表板からハガれているところを再接着しときましょう。
 内桁を特に重点的に,ふちの部分はいつでも直せますが,胴体が箱になってからでは手出しがしづらいですからね。いつも言ってることですが,この楽器は縦方向の支えになる構造がありませんので,修理の時,まず一番に「楽器の背骨」にあたるところ,楽器の中心線にあたる箇所をカッチリと固めておかないと,後々どこかがズレたり歪んだりしてしまいます。しかもそういう歪みやズレは,後になってからだと直しにくい。

 スポーツ選手なんかでもそうですが,「体幹を鍛えとく」ってのは,楽器においても重要なコトなんですヨ。

 接着養生している間に出来るところ。
 後であけられた半月の余計な糸孔なんか埋めておきましょう。

 裏板の割レや,剥離作業などでついた欠ケ・傷なんかも木粉粘土やパテで埋め込んでおきます。表板に比べて裏板の質が悪いのはいつものことですが,フシ目のある荒れ板や若干厚みの違う板まで矧ぎ混んでますのでちょっと暴れそうです。
 また表裏板ともに,製板の時に埋め込まれた竹釘の痕が内面がわにかなり多くあり,深い溝になっちゃってるのも多いので,これも一つ一つ丁寧に埋め込んでおきます。
 それにしても----胴四方の接合部ってのは,だいたいハガれちゃってることの多い箇所なんですが,この楽器の場合は,部材同士の擦り合わせも良く,さらに接合部内側に補強材を渡して貼りつけてあるため,百年たった今でもガッチリへっついておりまする。

 まあ,そこはイイ…タイヘンにヨロシいんですが。その補強の板がまあ,また見事にサイズも厚みもバラバラ。(w)

 べつだん表から見える箇所ではないし,接着の工作も良く「接合部の補強」という役割はバッチリ果たしているわけではありますが,ふつうはもうちょっと材料そろえたりするよね。
 もうホント……そこらに転がってた端材をテキトウに刻んでへっつけた,ッて感じ。
 右がわの二つは内がわの面になにか塗ってありますね。左がわのほうが少し薄く,上下で大きさがかなり異なります。どちらも胴材(ホオ)に比べると少しパサパサした感じのある材,楽器の材,というよりは建具か指物の余り材みたいだなあ。

 てなことをやってるうちに,剥離個所の接着も終わり。
 次の段階へと----な,なんじゃこりゃーーーッ!!!(SE)

 か…壁にダイイング・メッセージが。
 "犯人は,ヤ○。"

(つづく)


« 2018年2月 | トップページ | 2018年4月 »