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月琴58号 太清堂(終)

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斗酒庵 宿敵(w)とまみえる の巻2018.2~ 月琴58号 太清堂 (5)

STEP5 月琴 adolescence

 今回の楽器,胴四方の接合部は工作も良くもともとガッチリくっついてますし,響き線は真鍮なのでサビ落としなどは必要ありません。
 天地の側板と内桁のハガレ,表板の割れ2箇所,そして棹の角度変更とフィッティング。
 延長材も取り替え,取付の設定も大きく変えましたので,フィッティングに少々時間を食いましたがまずはヨシ。最後に全体汚れて油切れしてパサパサになってた側板や棹に柿渋を染ませ,亜麻仁油で拭き磨き。修理前の色合いは似たような感じでしたが,少し前の56号と違いこちらの木部はスオウで染めてない,ほぼナチュラルな色合いだったようです。もともともこのくらいの感じだったんじゃないかな。


 裏を閉じます。
 中央付近の矧ぎ目から裏板を分割,少し左右にズラして接着し,間にスペーサを埋め込む----いつもの方法です。もともと10枚以上も継いでますからね,ここで1カケラぐらい増えてもまあ問題ありますまい(w)

 接着養生後,スペーサと周縁のハミ出しを削って整形,ここらもルーチンですね。
 天地側板の周縁部は,オリジナルの状態で表裏ともわずかにでっぱりがあったため,棹基部が少し浮いてしまっていたんですが,これももちろんキレイに均しましたので,今度は棹もキッチリおさまるようになりました。

 半月を補修します。
 といっても,後であけられた余計な糸孔はとおに埋めてありますが,もともとの材質がやや柔らかい(針葉樹?)ので,補彩のついでに強化しちゃいましょう。

 棹と同じでここも,色褪せたうえに油切れでパサパサになってました。もともとの塗装は黒ベンガラに柿渋といったところでしょうか。真っ黒ではありましたが,木目が透けているような薄い染め。使ってるうちにコスれてハゲちゃいそうです。

 まずはスオウを染ませオハグロをかけて色味を増し,カシュー系の塗料で表面をしっかり塗り込めます。
 うちのWSの流儀だと,トレモロ演奏の時はここに手を固定して弾くので,表面をちょっと丈夫にしといたほうが良いでしょうしね。庵主,塗膜のある塗装はこのところやってなかったんですが,久々に挑戦----とぅるッとるです。

 カシュー系塗料は乾燥に時間がかかるので,ここで少し間が空いてしまったのですが,約一週間後,半月の塗膜が落ち着いたところで,表裏板の清掃に入りました。

 汚れはあんまりヒドくありません。だいたい1回の清掃でキレイになりました。
 使い込まれた楽器だとこの時,表板に無数の使用痕が浮き出たりするもんですが,まあキレイなこと(w)
 キズ一つありゃしませんね,こりゃあ。(^_^;)
 半月と糸巻に多少の糸スレや圧迫痕はありましたし,半月に余計な孔まであけてたくらいですから,「まったく使用されなかった」というほどではないでしょうが,傷まみれになるほど弾きこんでたわけでもないようですね。

 板が乾いたら,組み立ててフレッティングです!
 山口(トップナット)はオリジナルのも残ってるんですが,トラ杢のトチで作りなおしました。
 蓮頭が龍ですからね,これで対(w)

 オリジナルのフレットは7枚も残ってます。しかもこれ,牛骨じゃなくてちゃんと象牙みたいですね……太清堂の癖にナマイキだ。(w)ただ,初期の作品なためもあるんでしょうが,フレットの高さをスケールまかせにしないで,実器合わせでやってるところはエラいです。
 同時期の作家さんは,これを余計に低めに作ってる場合が多いですね----低めの寸法で統一して先に作ってしまえば,量産がラクになりますから。しかしながら,フレットが低ければ糸はひっかかりませんが,フレット頭との距離が離れるぶん,弦を余計に押しこまなければならなくなります。そのため運指への反応や発音のタイミングは遅くなりますし,高音域ほど音が安定しなくなることが多いです。
 月琴のフレットは,高音域で高く低音域で低く,高低の差がけっこうあったほうが音も響くし弾きやすいのですが,今回の楽器は,棹が胴表面と水平だったのもあって,フレットの丈は全体に高く,高低差も小さくなっていました。
 棹の角度を変えたので,新しい山口の丈も数ミリ高くしてあります。胴表面の水平面を基準としたとき,弦高は山口のところで8ミリ,半月端で6~7ミリほど。

 第1フレットは牛骨で補作,第2から先はオリジナル・フレットを使用しましたが,弦高が下がってるので相当削っちゃいましたね。修理前に比べるとかなり高低差があり,唐物月琴なんかに近いセットになりました。

 フレットをオリジナルの位置で配置した場合の音階は----

開放
4C4Eb-484E-374F-4F#4G-54A5C-55Eb-345F#-31
4G4A+334B-365C+215D-165E-165G-145B+486C+44

 棹角度の大幅な変更があるので,低音域の正確さについてはやや疑問がありますが,第3音(第2フレットの音)がやや低いなど,清楽音階の特徴はだいたい出てます。また低音弦第4フレット(開放の5度上),高音第6フレット(開放のオクターブ上)など要所の音もほぼ合ってますね。最高音が最低音の2オクターブ上より少し高めですが,これも耳で聞いて位置合わせした場合なら,それほどハズれてはいないという範囲におさまっています。

 扇飾りは欠損。5~6フレット間にわずかに接着痕が確認できますが,日焼け痕もほとんど見られないことから,かなり以前,最初のころにもうとれちゃってたのかもしれません。太清堂の扇飾りといえばこんな----

----うぷ。この真ん中でのたうってるモノはおそらく「龍」,宝玉を口に銜えた龍だと思われますが,あんまりといえばあんまりなデザイン。ウナギだかナメクジだかミミズだか,はたまたコウガイビルだかわからないシロモトと化しております。

 しかしながらこの扇飾り。これだけで「あ,太清堂の楽器だ」と分かるくらい,彼の楽器のアイデンティティの一つですので,いちおう再現してあげましょう----とはいえ,さすがにこのままでは……うむあまりにも単純化しすぎたのがイカんのだ,線をいくつか足して「龍」だと分かるようにしてやろう!!

 ----と,思ったんですが。
 うむ……余計なことをして,かえってウナギ度を増してしまったような感が...orz

 中央飾りはもともとついてたかどうか分かりませんが,だいぶん以前に作ったままお蔵入りしてたアキツモミジの円飾りが出てきましたので,これをつけてあげようと思います。トンボは英語でドラゴン・フライ。これで蓮頭と扇飾り(いちおう)と中央飾り,三つが龍の龍づくしな楽器になったわけですね。

 これらを足して,2018年3月14日。
 自出し月琴58号・太清堂----修理完了!!

 磨いた側面の栗色が美しいですね----栗まんじゅうみたい。(w)

 最初のほうでも書きましたが,どんなに工作が雑に見えても,お飾りのセンスが多少アレでも,ちゃんと修理をすれば この人の楽器は鳴ります。間違いなく。

 さらに今回は,棹の角度やフレットの高さの調整を徹底的にやって,操作性や低音域での響きを改善してあります。かなり大胆に棹を傾けた影響で,低音域での演奏に若干クセがありますが,「演奏の支障になる」というほどのこともなく,慣れてしまえば使い心地は上々でしょう。
 まあ量産器ですから,超一流の作家さんのワンオフものの楽器などとは比べるべくもありませんが,音色はこのレベルの楽器としてはかなり上等な部類。全体に唐物月琴やその模倣品である初期の国産倣製月琴に近い特徴の多い楽器ですが,音もどちらかといえば本場の唐物月琴に近いほう。よくある国産月琴みたいに,変に中二病的な「月琴の音(想像)」を追及したりしてないですね。おそらくは天華斎や玉華斎のような唐物月琴を直接手本として作ってたんだと思います。

 試奏してみた感じ,庵主の感想は 「ぽっちゃりした音」 ですね。(w)
 比較的音ヌケは良く音量もそこそこにあり,音色は太く中央付近にふっくらとしたふくらみがあり,明るく温かみのある余韻が続きます。やや風雅風流ワビサビ的な趣には欠けますが,ちょっと前の56号なみに汎用性が高い音の楽器だと思いますよ。

 欠点があるとすれば,まず上にも書いた操作性のクセが手になじむかどうか。低音域での力加減ていどで,最初そこらへんを少し気を付けてもらえばすぐ慣れるだろうし,まあさほどたいした問題ではないのですが。あとオリジナルでちょい寄り目ちゃんだった胴表面のニラミを若干離して着け直しましたので,そのあたりに少し白っぽく日焼け痕が浮いてます。半年くらいすると色が上がってきて目立たなくなってくるとは思いますが。

 ふだん使いの楽器,また使用環境や音楽を選ばぬ月琴としては上物。
 現在,57号とともにお嫁入り先募集中。
 ワレと思わん方はご連絡アレ。(w)

(おわり)


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