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月琴58号 太清堂(3)

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斗酒庵 宿敵(w)とまみえる の巻2018.2~ 月琴58号 太清堂 (3)

STEP3 仁義なんかあったかい?


 ふッ……タツよぉ,もうとぉに手鋸だの膠だので切った貼ったなンてぇしてるご時世じゃねぇのよぉ----おいっ!

 ぐぅッ!…ヤ,ヤスぅ……てめぇッ!!

 かにんして…アニィ,かにんしてくだっせぇ!!

----なんか前もやったことがあるような,ないような。(w)

 58号,修理は折り返し地点。

 今回の楽器は欠損部品も少なく,深刻な損傷と呼べるような箇所はありません。所々に見受けられる原作者の手ヌキおよび理不尽な工作については,細々尻拭いをせにゃならんせいで個人的に腹はたつものの,基本的には「不具合」と呼べるほどのものではなく,庵主の性格がもっと鷹揚だったら無視しちゃってるかもしれない程度のシロモノ。基本的には糸巻削って胴体を箱に戻したら出来上がり,みたいな感じです。

 表板左がわの割レをふさぎます。
 例によって,上下方向への支えがないことからくる胴材のわずかな変形と,ピック・ガードとして貼られたヘビ皮の収縮による桐板矧ぎ目からの剥離。天の板の手前くらいまで,ほぼ貫通してますね。
 それでも,前回も書いたとおり,太清堂,胴体構造の工作それ自体は決して悪くないので歪みや狂いも少なく。百年の結果としては僅かなものです。

 割レがせまいので,いちど刃物を入れて広げます。これは切り開いているわけではなく,刃を押しこんで両岸を圧縮しているだけですね。
 割レ目が均等に広がったところで,薄目に溶いたニカワを落とし,削いだ桐板を押しこみます。中央に近い位置で,けっこう長さがあるため新品の板を使いましたが,幅はないので,清掃後にはそんなに目立ちますまい。

 せまいスキマに,柔らかくて薄い桐板をキッチリ押しこむのは,いつもそれなり大変なのですが,今回は裏板剥いで片オープンになってますから,板のオモテウラから確認しながら,バッチリきッちり作業ができますね。
 一晩おいて整形。
 ちなみに左画像は補修後の割レ目をウラ(楽器の内がわ)から見たもの。この板目と直角に走ってる色の変わった部分は節目。小枝とかにつながってた部分ですね。こんな部分のある板,ふつうは使わないものですが,原作者はここを,オモテがわから見てちょうどニラミで隠れるところに持ってきてます。太清堂……なかなかに小細工を効かせよるのぉ。(悪代官)

 さて,表板と側板・内桁はこれでバッチリ固まりました。
 胴を箱にする前に,棹のフィッティングをやっておきましょう。今回の楽器は太清堂の初作期。後の楽器のように棹に角度がついておらず,棹の指板面が胴体の水平面と面一になってます。
 このままでも弾けなくはないのですが,フレットの高低差が小さくて弾き難く音の伸びのない楽器になってしまいます。まずはこれを背がわに少し傾けて,国産月琴の,楽器としての理想の設定に近づけることにしましょう。

 棹の本体と "なかご" の部分,延長材を分離します。

 58号の棹は本体もなかごもホオ,同じ木から採ったものではないようですが,同材を接いでいます。
 実験の結果から言うと,なかごの材によってさほど音が変わるわけでもなく,国産月琴の多くはヒノキやマツ,ウギといった針葉樹を使ってますし,本家の唐物月琴でも針葉樹材なんで,同材接ぎにさほどの利点や意味はないのですが,職人的なキモチ的には理解できなくもありません----おそらくは「一木作り」のほうが「寄木作り」より上,同じ「寄木作り」なら異なる木を接ぐより,同じ木を接いだ方がヨイ(はずだ)という単純な発想からきた工作でしょう。
 当たらずとも遠からず,ではありますが。月琴は棹が極端に短いので,実際「影響」といえるほどの効果は,ほとんど期待できません。まあ 「ヨイと思えることはやるだけやっとく」 という,仕事としての達成感の追及,職人としての自己満足程度のものですね。

 接合部を濡らした脱脂綿でくるんで,ラップを巻いて3日…けっこう頑強でしたが,損傷なく無事にハズれてくれました。少しニカワが多めではあるものの,太清堂,擦り合わせ噛合せの工作はホントに上手いですねえ。

 棹本体と胴との接合面を削って,棹の取付に角度をつけます。棹背がわの面を斜めに1ミリほど削って均し,この時点でだいたい指板の先端で胴の水平面から7ミリほど傾けています。理想値は山口(トップナット)のあたりで3~5ミリ。たいていこのあと何度も調整を重ねてゆくうちに2ミリくらい戻っちゃいますから,まずはこれでヨシ。

 つぎに棹なかごの接合部を削って,新しい角度で棹が胴におさまるように調整するんですが,ここで問題発生。
 今回の延長材,かなりギリギリの長さだったらしく,削ったら内桁に届かなくなっちゃうことがわかりました……オイオイ太清堂,こんなところでケチるなよぉ。(泣)
 ----まあ,この楽器は構造上,長いほうの響き線が内桁のすぐ下に走ってますので,あんまりこれを突き出させると,そっちにブツかっちゃうわけで,それを考えてのことでしょうね。
 とまれ,端材入れを漁って,もう少し長い延長材を新たに作ることにします。ホオ材で適当なのがなかったんでこいつで。
 この白い木はたしか,米ヒバだったかと。針葉樹材ですね----言い訳しといたわけじゃない(w)ですが,上でも書いたとおり,ここは広葉樹材でも針葉樹材でもたいした影響はありません。作り手のキモチの問題。

 延長材の角度と棹本体の接合面を調整しながら,キッチリおさまったところで接着。ここまでだけでも二次・三次とけっこう細かな調整作業を長い時間やってます。その結果がこんなところで微塵もズレて欲しくはないので,調整したままの角度で,楽器に挿したまま固定しちゃいます。

 棹と延長材がつながったところでさらに微調整!
 左右の傾き,胴体のふちとのわずかな段差,基部を削ったりツキ板を貼ったり----最後にはもう紙一枚二枚の厚み(w)で整えてゆきます。
 何度も書いてますが,この手の弦楽器の使い勝手のヨシアシは,こうした棹取付の調整・加工でほぼ決まると言ってヨイ。
 理想の角度そのままに,挿せばピッタリ抜くならスルリ,指でなぞっても胴と棹との接ぎ目が分からないくらいを目指し,ヒタスラヒイコラ頑張るのでありますが,いつものことながらこの作業,どんなに急いでも足かけ3日はかかりますからね。

(つづく)


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