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月琴59号 ぴょんきち(2)

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どっこい生きてる 斗酒庵 の巻2018.3~ 月琴59号 山形屋ぴょんきち(2)

STEP2 ゴリライモってすごいあだ名だよね

 作業名の由来の紹介で,前回は半分ぐらい使っちゃいましたので,今回は調査の続きから。

 表板と側面の一次清掃で,楽器の状態がかなり分かるようになりました。
 そもそも清掃前は板と言わず側面と言わず真っ黒で,どこにどんなキズがあるやら,まったく分かりませんでしたからね。これによって外がわからの観察はだいたい終わりましたので,つぎに裏板をハガし内部の状況をチェックしてゆきたいと思います。
 さいわい裏板の中央に大きなヒビ割れがあり,その左右はほぼ完全にハガれちゃってましたし,そのほかにも剥離してる個所があり,さらには余計なボンド漬けもされてませんでしたので,今回はかなりラクにはずれてくれやがりました。

 山形屋の内部構造はどれもほぼ同じ。パラレルの二枚桁で,上桁はがっちり固定されてますが,下桁は左右が側板に密着しておらず,ほとんど表裏の板ではさんで固定してるだけ,みたいになってます。桁には音孔があったりなかったりしますが,桁に使われている板が,ほかの作家さんのよりやや薄め(厚6~7ミリ)なところを含め,基本的なところは変わりません。

 外がわは真っ黒だった割に,内部は比較的キレイですね。
 響き線にもほとんどサビが浮いてません。

 板の内がわは染めもされてないので,この板を構成する小板の枚数を数えるのが比較的容易なんですが,この表板,数えてみたら,確認できるだけで12枚もの板を矧いで作ってますね。いちばん幅のあるので43ミリ,もっとも細いものは18ミリしかありません。関東の月琴はとくに,かなり早い時期から表板に柾目が好んで使われていたせいもあり,小板が多いのですが(柾目板のほうが目が合わせやすい),それにしても多いほうですね。
 裏板は9枚矧ぎ。例によって表板より若干質の劣る部分で,板目の合わせもややテキトウですが,表板もふつうは,多くてもせいぜいこんなぐらいなんですがね。

 いままで扱った山形屋の楽器のデータを比較したら,少し面白いことが分かってきました。
 胴の大きさは20号が346,29号が345と340ミリ台。54号が360で,この楽器がその中間の350となります。
 同時作業中の太清堂ぽんぽこの記事でも触れましたが,この楽器は胴の厚みや大きさをわずかでも小さくすると,けっこうなコスト・ダウンにつながります。胴材の厚みについては山形屋,さすが石村を名乗るだけあってもともと桁違いに腕が良い。どの楽器もほとんど素材の限界みたいな厚みで切り出されてますんで,これ以上は無理。そうすると後は全体の大きさしか切り詰めるところがありません。利益率の低い薄利多売の楽器ですので,わずかなコストの削減が儲けにつながります----そこからすると胴の小さいほうが後で作られたものである可能性が高くなります。

 そしてこの響き線。
 前回修理した54号の響き線は,胴内に入る限界まで長くした弧線だったものの,その形状や工作には特に見るべき特徴はありませんでした。この楽器のものも,単体ではさして言うべきところもなかったのですが,これを今まで扱った彼のほかの楽器の響き線と並べてみると,面白いことに気づきます。
 はじめのころに見た20号や29号の響き線は,根元のところで急に上に立ち上がって折れるという個性的なものになっていました。これは36号のZ線と同じく,根元に折れ曲がりをつけることで,線の振幅に一定の指向性を持たせようとした試みの一つと思われます。
 響き線は長いほど弦音に対するエフェクトが深くなるのですが,長くなるほど振れ幅や自重による変形が大きくなり,効果よりも演奏の邪魔(ノイズ)になる「線鳴り」を起してしまいがちになります。そこで国産月琴では,前後よりも上下方向により大きく振れるよう,線の動きを制限するさまざまな方法が試みられていました。
 20号や29号の線も,そういう試作と経験を経て出来あがっていったものだとするなら,上にも述べた胴の大きさなどのデータとも照らし合わせ,いままで庵主の扱った4面の楽器の製作順と響き線の形状は,右図のような関係になるのじゃないかと推測されます。(基部の上の線は上桁の下面)
 -----とはいえ。
 国産月琴の響き線の工夫については,これまでにも何度となく紹介してきましたが,正直その多くは 「まあやってみただけ」 的な,あまり効果の期待できないシロモノで。
 山形屋のこの構造も,考えとしては間違っていない方向なのですが,彼とにかく長い線をブチ込むのが好きなので,今まで扱った彼の楽器の響き線はことごとく,先端が桁に刺さる・ひっかかるなどして,ちゃんと効果的に働いていないという情けない状態になっていました。
 さいわいなことに,今回の楽器のはその工作が(おそらくは意図的ではなく)奇跡的に噛合っていて,オリジナルの状態ではじめて響き線が(いちおう)使えるモノになってます----いやほんと奇跡的。山形屋,腕は格段にいいんですが,こういうけっこう大事なところの最終的な仕上げとか調整を雑にほっぽらかす傾向があるんですね…… orz 響き線自体の工作も状態も良いので,ちゃんと直ればかなりの激鳴り楽器になるでしょう。

 ひとつ褒めても続けちゃ褒めきれないのが山形屋の楽器です。(笑泣)
 この単純な構造の楽器にとって,内桁というものは背骨でもあり腰骨でもある大事な部品です。下桁は上にも書いたよう,もともと左右端がほとんど接着されておらず不安定な状態なので,こうやってハガれてしまってるのはよくある故障なんですが。上桁………なんですか,こりゃあッ!?(怒)

 節があったところからバッキリ割れて,端のほうが少し潰れたみたいになってます。もちろんこれは衝撃とかによる破損じゃありません。ここがここまでぶッ壊れるような事態なら,表板のこのへん,もっとぐちゃぐちゃになってますもン----材質的な自壊ですね。

 修理の関係上これもはずしたんですが,そしたらこんどは表板にひっついてたがわに長くて大きなカケが……この部分の接着面,厚さ6ミリの半分もありません! いや,外から見えない内部とはいえ,いくらなんでもこんな大事なとこに,こんなアブない材料使うなよ!

 胴の接合部は,三箇所接着が飛んで,一箇所だけがくっついています。
 はずれてる接合部にはわずかですが狂いも出てますね。

 楽器正面から見て右下にあたる接合部には小さな割レ欠ケがあり,接着も飛んで少し食い違いも出ており,そのすぐ横には竹釘が1本打ちこんでありました。
 当初はコレ,前修理者がこの剥離や食い違いをなんとかしようと,クギで板の向こうがわにある(はず)のカタマリに,浮いた部分を打ちつけて固定しようとした----んじゃないかとか思ってたんですが。この軽い楽器を持ってみれば,この外殻の向こうに何か「カタマリ」があるなんてそもそも考えるわけないですわな。(w)
 あらためて観察してみますとここには,接合部の小割レ欠ケ食い違いのほか,表裏板にヒビ割れ,打圧痕など。それぞれがそれほど大きくはないものの,様々なキズが集中していました。その割レやヒビの延長線上の交点にこのクギ孔があり,よく見たらその上下斜めにもうす~くヒビが入っています。
 そこからすると,このクギは板を固定するためではなく,おそらくはこのヒビがこれ以上進行しないよう穿たれた「ヒビ止め」の孔をふさぐものだったと思われます。

 側板の損傷がもう一箇所。
 地の側板のほぼ中心あたり,裏板がわにもヒビが入っています。
 表面的にはそんなに大きくありませんが,思いのほか深く,板との接着面にまで入りこんでますね。

 これらから考え,この楽器は少なくとも2度ほどけっこうな衝撃を受けてているようですね。
 ひとつめの衝撃は,割れ欠けのある右下接合部のほぼ直上,表板の縁のところにかかったもの----おそらくは抱えていて落っことしたんだと思います。ちょっとではありますが,接合部が砕け,斜めにヒビが入ったくらいなので,下は石敷きかなんかだったんじゃないかな? 楽器は表板がわを下にしてやや斜めに落ち,板の縁が当って少しはずみ,何かの角にぶつかって止まった感じ。この損傷部の少し上表板の縁にあるかなり深い打圧痕が,その最後の過程の結果ではないかと。
 地の側板中央のヒビは,裏板がわの縁がぶつかってできたものなので,これとは別件かな,と考えてます。こちらは楽器尻からほぼ垂直に落っこった感じですね。
 内桁の損傷も最終的にはまあこれに関連してるのかもしれませんが,穴が開いたのも割れたのも基本的には山形屋の雑な素材選びに起因しており,ここに関しては前所有者無罪と庵主は考えます。

 さて----これにて外面から内面まで調べ終えました。
 今回もけっこういろんなことが分かり,興味深い。
 月琴の内部はやはり「宝箱(時折ミミック)」なんですな。
 59号ぴょんきち,フィールドノートはこちら(画像クリックで別窓拡大)。

(つづく)


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