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太清堂5ぽんぽこ (4)

太清堂5
斗酒庵 月琴の喚ぶ声を聞く の巻2018.3~ 太清堂5ぽんぽこ (4)

STEP4 ティンダロスな量刑

 前修理者のシワザ(怨)により,最初のほうで足踏みがあったものの,ようやく組み立てまでたどりついた太清堂ぽんぽこ。

 前回も書いたとおりこの作者,楽器職としての一般常識とデザイン・センスに時折穴があいているだけで,木の仕事の腕前は素晴らしく。今回の楽器も保存の状態はかなり過酷だったと思われる割に,部材の狂いも少なく。ボンド抹殺後の現状,このまま単純に組直して行けば,だいたいもとの状態にはなるかと。


 追加した補強板が干渉しないのを確認したところで,上桁を接着しました。

 ほかの楽器では見たことのない,上桁を上方に極端に寄せたこの構造は「胴内の共鳴空間を広くする」というメリットはあるものの。メリットを追求すると,かならずデメリットが発生します----これは,物質に対して反物質が存在するくらい宇宙の深淵から言っても間違いがないこと。金持ちが儲かれば貧乏人が苦しむし,転生して授かったチート能力には「魔王の討伐」というデメリットがついてくるものです。
 これをこうすれば,胴体の強度やバランスに問題が出るだろうな~ということは,ふつう見ただけでも容易に想像がつきましょう。
 さらに追い込むなら,この太清堂独創の構造…実のところあまり意味をなしていません----ていうか,どっちかというと失敗してますね,コレ。(w)
 表板を軽くタップしてみると分かりますが,桁のある上部は「コツコツ」とほとんど音が響かず,桁のない下部は「ボワボワ」としまりのない感じで,ただただ鈍く振動が散らばるばかり。強度的なバランスが悪いだけでなく,音の響きにもかなりのバラつきが出ちゃってます。この構造だと棹口から上桁までの間はモノが詰まってるのでほとんど振えないし,そこから下の空間はたしかに広いものの,ギターのブレイシングのように振動を指向するものが何もないので,ただ無秩序に拡散するだけになってるみたいです。

 古物屋がボンド漬けにする前のこの楽器の原状から推測して,このバランスの悪い構造が「バラバラ一歩手前」という状態の遠因であることはほぼ間違いないかと思います。接合部や面板の剥離が楽器下部にとくに集中していたのも,ここに板や部材の収縮の影響を抑えこんだり散らしたりできるような構造がなかったからですね。

 メリットととデメリットは物質と反物質のように相反の関係ですが,メリットの方向性を少しズラし,わざと毒にも薬にもならない「暗黒物質」がわに寄らせると,メリットとデメリットの間がなだらかに埋まって 「なんとなく存在するのにちょうどいいくらいの」関係が成立することがあります。

 太清堂の工夫の要は,上桁の位置取りとこの薄い下桁(?)。
 この構造は,胴の背面が筑前琵琶や中国のピパのようなボウル状の「槽」になっている,もしくは背面の板が桐でなくもっと硬い----たとえば唐木の薄板になっているといった場合なら,弦音を前方向に反射するという効果を生み出す可能性がありますが,この楽器のように表裏ともに桐板では意味をなしません。ましてや同じ材質で片がわにだけこれがついているのでは,表裏で板の収縮に差がついて部材のバランスをくずし,故障の遠因となりかねません。

 いつも書いてるように,原作者の工作に改変を加えるのは,修理者としての正道にはもとるのですが,原作者の工作そのものに問題があることが確実な場合,それをそのまま看過することはできません。とはいえ,この構造自体を全変更というわけにもいきませんので,ここに必要最小限の改変を加え,せめてこれを「メリット寄りの暗黒物質」に変えてやりたいと思います。

 ----で,こうだ。

 まずは現在開いている裏板がわに,表板と同じ工作を施します。
 下桁(?)の対面に同じようなものを追加するんですね。材質は同じヒノキの板。左右端のはめ込みも,桁がずれたりはずれたりしないよう,やや台形に刻みます。
 この状態だと単に 「表裏板ウラの工作を同じにした」 という程度ですが,これでは意味がない。表裏にかかる力を相殺して散らすためには,この二枚の細板がつながっている必要があります。正直なところ,これとッぱらって上桁と同じような板をもう1枚入れちゃうのが最善策なんですが,そうすると原作者の意図全否定になってしまいますので。

 表裏下桁(?)の中央に小板を固定します。
 そういえば,中国月琴やベトナム月琴の内桁はこんな感じ。これでもこの楽器の内桁として成立するということでもありましょう。
 中央の板の幅は4センチほど。
 これによってひとつには「ただ表板の裏にへッついてるだけ」の存在だった下桁(?)が,構造を支える立派な「下桁」になったわけで。ふたつにはこれに,振動を指向させる「魂柱」みたいな効果も期待しています。そのための小細工として,中央の小板のところで裏板が1ミリだけ盛り上がる----ごく浅いアーチ状になるようにしてあるんですね。わずかでも音が前方向に反射してくれれば良いんですが,駄目でもさほどの寸法差ではないのでこの工作,「暗黒物質」となるていどで落ち着いてくれましょう。(w)

 とりあえず内がわの用事は済んだので,裏板を接着します。
 構造的なバランスの悪さの解消と補強という目的はクリアしてますので,そのうえ余録を求めるのはいくぶん強欲なれど----さて,これでどうなることやら。

 …おっと,その前に。
 裏板が開いてるうちに,棹の調整をしとかなきゃなりませんな。
 いや,あやうく忘れるとこでした。


 毎度フシギに思うんですが。
 太清堂の楽器の棹は(1)のライン,すなわち胴体との接合面を基準として測ってみると,棹全体はゆるく楽器の背がわに傾いていて,指板面が山口(トップナット)のところで胴表面板の水平より-3~5ミリ下がっている----といった,この楽器としては理想的な作りになっているのですが。
 毎度棹口付近の工作がまずかったり,棹茎の接着が甘かったりで,楽器に挿した状態だと指板面が水平から下手すると前かがみになっちゃってたりしてるのですよね。
 今回の楽器でも,棹本体部分の工作はバッチリなんですが。棹茎のとこがなぜか上向きになっちゃってるといったナゾ加工になっています。
 たいていほんのちょっとした修正で直るので,なんか毎度百年越しの尻拭いをさせられてる気分になります。(w)

 今回も棹の調整は,棹茎の上面を少し削り,スペーサを上桁に1枚,棹基部に3枚貼ったくらい。
 いつものように延々と続調整地獄もなく,すこし物足りないぐらいの作業でスルピタ・バッチリが実現されました。



(つづく)


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