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太清堂5ぽんぽこ (5)

太清堂5
斗酒庵 月琴の喚ぶ声を聞く の巻2018.3~ 太清堂5ぽんぽこ (終)

STEP5 無人の斗酒庵で発見された酒器

 裏板は3分割して,中央を先に取付けます。
 何度も書いてますが,この楽器には縦方向への支えとなる構造がなく,あえて言うならこの表裏板の中央部分がそれにあたるもの,楽器の背骨となっているわけです。
 また前回書いたとおり下桁(?)を補強するさい,裏板が中央部分で左右周縁より1ミリほど高く盛上がるように改造してありますので,内桁をより確実に板に接着するためにも,この方法がもっとも妥当かと。

 分離した右がわの部分は,もともとここに入っていたヒビ割レから割りました。表板には下桁(?)が渡っていましたが,裏板には楽器下部に板をおさえるものがなにもなかったため,胴材の収縮変形に耐えられず矧ぎ目から裂けたものと思われます。割レは下端がわが広く開き,上桁のところで止まっていました。今度は裏板にも同じようなバーがついてますので,そうは割れますまい。
 作業中にオリジナル・ラベルを傷つけないように,クリアフォルダの切れ端をテープでとめて保護しています。

 一晩おいて,接着具合を確認したら整形。
 板周縁のハミ出しの整形といっしょに,古物屋が変に削ってしまったらしい胴側表面の凸凹も均してしまいます。
 この楽器は胴側が厚いので,ちょっと削り直すくらいなら何の影響もありません。
 ふうわりとした微妙な曲面の胴側----キレイです。

 だいたいの整形が終わったところで表裏板を清掃。
 板自体のヨゴレはさほどでもなかったので,これは一度で済みました。
 ヨゴレが薄かったのは有難かったのですが,裏板の補修部分などを誤魔化せるほど濃い月琴汁が出なかったため,補彩には同時修理の59号から出た特濃月琴汁(w)を使いました。やっぱりこういうのは同じ楽器から出たものが良くって,びみょーに染め色が違っちゃうんですよね~。

 そして板の木口をマスキングして胴側の磨きと染め直し。削り直す前部分的に残っていた痕跡と板清掃の重曹水に反応したところから,もともとスオウで染められていたのは間違いないんですが,黒染だったのか赤染めだったのかは色が薄くなっちゃってて,イマイチはっきりしませんでした。

 棹もあまり濃い色じゃなかったようですし,とりあえずスオウの生がけ,媒染ナシ。ナチュラル・ウッドっぽい赤茶色にしときます。(ちなみに材はホオなので,本来の木地の色は灰緑)
 染めては磨きで数日間。軽く油を染ませ,柿渋を重ね,さらに磨いてできあがり!
 蓮頭と棹と半月も,同じ方法で染め直し,磨いておきます。

 彫りの手から考えて,この楽器の蓮頭と半月の線刻は,太清堂ではなく前所有者の作のようであり,胴左右についていたニラミも同様に,工作の違いや現在ついているものとは異なる形の日焼け痕がその下に見えることからオリジルナルではない後補の部品と考えられます。
 蓮頭と半月のほうに関してはまあいいんですが,このニラミのほうはそちらに比べるとどう見ても出来がイマイチ。帯が卍型に交差している,いわゆる 「万帯(=万代)」 の意匠なんでしょうが,クローバーなんだか平行植物なんだかよく分からないものになっちゃってます。
 せっかくの機会ですから,胴上のお飾り類は新しく作ってあげることにしました。オーナーさんにお伺いをたてたところ 「牡丹か菊がいい。」 ----とのことでしたので。

 斗酒庵,ふたたび牡丹に挑みます。


 はぁ,ひぃ…さ,さすが「花王」。片方2日,足かけ4日かかりましたわい。花が重なってるとことかやっぱり難しい。
 前にも書きましたが,この手の彫刻というものには「格」がありまして。龍虎とか唐獅子牡丹ってのは,けっこう上級者コース,庵主のような三下が,ほんらいオイソレと彫って良いシロモノではありません。現に庵主,いままで彫った「牡丹」は,どれも「キャベツ」の域を脱しませなんだものねえ....orz 意をふるって挑んだ今回ようやく,キャベツから「レタス」くらいには進化したかと(www)

 中央飾りはちょうちょが2匹,これで「富貴畳来」の吉祥図と仕上がります。(牡丹の別名が芙蓉,「芙」が「富」に通じる,蝶と「畳(かさなる)」が同音なところから,牡丹に蝶が近づく絵柄がそういう意味になります)
 そして扇飾りは太清堂のマスコット・キャラ(?)「ぬるりんちゃん」(名前はいまつけたww)を……この飾り,後の太清堂の楽器に良くついている謎デザインで,おそらくは含珠の龍のつもりではないかと思われます。この,ナメクジだかヒルだか分からない,あまりといえばあまりの単純化に,58号の時「せめて "龍" と分かるように」と思い彫線を2~3足してやったら,今度はウナギにしか見えなくなりたいへんカナしい思いをしましたので,今回はオリジナルのデザインにもどしました。
 こんなのですが,裏のラベルとともに 「太清堂の楽器」 であることを示す重要な目印の一つですんで----しかしながら。所詮キャベツ牡丹のレベルではあるものの。庵主,こういうお飾りの彫りの手だけは,太清堂より(わずかに)上と自負しております。その庵主がオノレを曲げて,へたっぴ太清堂に合わせる!----ああ,なんたる恥辱屈辱ぐぎぎぎぎ,と歯噛みしながら彫りあげました。

 山口はカリンで補作。
 棹が傾いているのと,指板が厚めなため丈が15ミリもあります----月琴にしては巨大。
 フレットもカリンで揃えました。赤フレット,ひさしぶりですね。
 この類の唐木は削って磨けばツルッツルになるんで,仕上げの手間は少ないんですが,そのままだとテラテラで悪目立ちするので,スオウや修理の時出た月琴汁などで染めて古色をつけます。

 仕上がった部品を取付け,
 WSわずか数日前の4月24日。
 太清堂ぽんぽこ,修理完了!


 いつものとまるで違った太清堂----
 もう何面も修理してますからね,「いつもの太清堂」なら,どんなんなってても「音だけは間違いなく良い(w)」と言えるのですが,今回の場合は直ってみないと分からない。内部構造上の不備はなンぼか改善したし,接合部の補強などほかにもいろいろと手はかけたつもりですが,その効果のほどは分からないですしね。で,その結果は----

 うん,悪くない音です。

 柔らかく,優しく,温かい。響き線がむやみに(w)ぶッ太いので,余韻に少し深みが足らずサスティンはやや浅め短めですが,胴内の空間がめいっぱい広いので,音自体の奥行きがけっこうあります。音量もほどほど出るので,この楽器の音としてはじゅうぶんに好評価できるものに仕上がっておりましょう。やはり太清堂,木の仕事自体が確かなので,多少発想で自爆してても,ちょっと手を加えれば良いものになるのですね。

 フレットの取付け位置に,目印のため引かれたと思われるケガキ線が複数あるうえ,それらとは関係のない位置に接着痕があったりもしているので,この楽器の「オリジナルの音階」というものをどの位置でどう採ればいいのか,音楽・楽器が専門でない庵主には多少不明な点もあるのですが,複数録ったデータの中からもっとも妥当な数値を選んで表にすると----

開放
4C4D-24E-214F-154G-54A-12
(接着痕)
5C-105D-105F-5
(接着痕)
4G4A-114B-265C-225D-9
(接着痕)
5E-21
(接着痕)
5G-145A-186C-12
(接着痕)


 ----といった具合になります。第3音が20%ほど低く,清楽のほぼ典型的なスケールになってますね。元データで比較すると,胴上のフレットで特に数値の差が大きく,ケガキ線の位置だとフレットをその上に置いても下につけても,標準的な数値より半音以上異なる音になってしまうところもありました。いろいろ試してみた中では,最初の所有者が付け直したとおぼしき 「接着痕」 の位置が,もっともマトモな音階に近くなったりするところもあることから,この楽器を製作した時点での太清堂は,清楽の音階についての知識,もしくは明笛や調子笛のような音階の参考となる他の楽器を持っていなかった可能性があります。
 このあたりからしても,やはりこれは初期の実験作的楽器のひとつだった考えたほうが良いようですね。


 あと----これは「楽器の評価」の中に入れて良いのか迷うところですが。

 この楽器「抱き心地」がとてもよろしい。

 胴材が厚いぶん,このクラスの月琴としては重たいほうなのですが,楽器を立てた状態で床の上に置いて自立するぐらいバランスがよく(あの内部構造なのに!),側板がわずかに曲面になっているのも膝にしっくりときますし。そうした楽器自体のモノとしての感触が,温みのある音色と相まって,弾いてると膝の上にいつまでものっけていたい気分になります。
 音の印象も合わせて喩えるなら。中身のぎゅっとつまったヌイグルミのクマさん……シュタイフのテディ・ベア的な抱き心地の月琴,とでも申しましょうか。(w)

 何度も書いてるとおり,太清堂はデザイン・センスの全般と楽器職としての常識の一部に穴があいてますが,その木の仕事は確かですし,作る楽器は音が良い。
 修理に入る前のボンドはがしで一週間も食ってしまったため,後半かなり作業が詰まってタイヘンだったのですが,今回の修理----庵主の知らない太清堂の楽器を,太清堂の楽器を知っている庵主が,太清堂の代わりに修正したというとこになるのかもしれません。そっちィ逝ったら酒ぐらいじゃカンベンしないからカクゴしておけ。

 さて----

 この修理完了の時点で,庵主の手元にはぽんぽこと58号,2面の太清堂製月琴があったわけですが,このあと糸巻折れで32号(太清堂)が帰還。さらにもう一面,WSの日になって届いた楽器も,なんと太清堂。
 まさに----

 たいしんどう は さらに なかま を よんだ。

 この修理の第1回で「楽器は楽器を呼ぶ」なんてハナシをしましたが,集めたわけでもないのに同じ作家の楽器が次々と……一時,このせまい四畳半一間に太清堂の月琴が4面も集まるという異常事態となりました。(百年前の,どっちかと言えばレアな楽器ですよ----ふつうあり得ません!)27号の時と同じ,タタリのレベルの偶然ですね,こりゃ(w)

……ああ,わたしは知らない間に邪神(たいしんどお)の封印を解いてしまったのか。
 おお,遠くから雷鳴に似た音が近づいてくる。
 いや待て,あれは響き線の鳴る音だ!
 ドアが音をたてている。
 おびただしい数の月琴が,つるつるした丸い胴体や蓮頭を,カチカチとぶつけているかのような音を。
 だがドアを破ったところで庵主を見つけられはしまい----いや……そんな!あの糸巻は何だ!

 窓が…窓にッ!……


(おはり)


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