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太清堂5 (1)

太清堂5
斗酒庵 月琴の喚ぶ声を聞く の巻2018.3~ 太清堂5 (1)

STEP1 はるかなる月琴の喚び声

 一般によく知られていることですが。
 月琴のお尻には臭腺があり,その身に危険が迫ったり攻撃されたりすると,月琴はここから「月琴汁」を出して逃亡を計ります。
 この汁にはまた,危急に際して仲間を呼び寄せる効果もあり,現在は数が激減しているので滅多に見ることもなくなりましたが,かつてはギターやバイオリンといった大小の捕食楽器からの攻撃に対し,群れを成して逆撃することもあったと言います。

 この機能は響き線とともにこの楽器特有で,有名なものではありますが,修理人にこの楽器に関する見識が足りなかったり,その技量が拙かったりすると,作業の際にその腺を誤って刺激してしまい,汁まみれにされることがあります。
 月琴汁がかかっても,修理人にさしたる実害はありませんが,そのニオイにつられて,同じ作者の楽器が呼びよせられ,集まってくることがあるそうです。
    (『絶滅した楽器たち』 大12 林謙二・大泉文男 囲碁の友社)

 というわけで----「楽器は楽器を呼ぶ」。
 いままでも松琴斎や石田不識の楽器を修理している時に,似たようなことがありましたが,ある楽器を修理してると,同じ作者や関係者の楽器が,偶然にも集まって来るんですよねえ。
 今回も,58号の修理が終わったとたん,同じ「太清堂」の楽器が依頼修理で飛び込んできました。

 これはやっぱり,こないだの58号の修理で気づかないうちに「月琴汁」の袋を潰してしまったせいなのではないでしょうか?(w)

 さて----いつまでもアホな事言っとらんと仕事仕事。

 58号に比べると重たいですね。
 40号クギ子さんと同じく,カヤででも出来てるのかな?
 全長:645(含蓮頭)
 胴徑:350,厚:38(板4~5)
 有効弦長:415

 胴体も厚みがあり,棹や糸倉もいくぶんがっしりしてるように見えます。糸倉のアールは深めで,棹背の反りもあり,うなじが絶壁になってないだけで,やはり唐物や倣製月琴のスタイルに近いですね。
 胴側は平らじゃなく,軽く曲面になってるようです。
 国産月琴ではあまり見ませんが,伝統的な中国月琴ではないでもない加工です。

 糸巻もちょっと特徴的なカタチになってますね。
 六角無溝,40号クギ子さんに残ってたオリジナルの糸巻も,これと同じく面に溝の無いタイプでしたが,前に見たそれよりは太く,先端が糸倉に入るところで段になってます。
 糸倉との噛合せもしっかりしてるし,加工からしてオリジナルだとは思いますが,もしかすると唐琵琶とかに使われていた糸巻を削って流用したものかもしれません。

 山口のところには,側面から見て将棋のコマみたいなカタチになった角材が付けられています。
 胴上に残っているフレットと同じ唐木製と思われ,上面にうすく糸の圧痕のあるところから,この状態で糸を張ったことがあるのは間違いないと思いますが,背も若干低すぎるようですし,オリジナル部品だとは考えられません。
 太清堂,58号でもほかの楽器でも山口のカタチはごくふつうの半割カマボコ型だったもんねえ。

 棹茎がずいぶん短いなあ。
 しかも何じゃこれ!----先端の2~3センチに申し訳程度の「延長材」? つか「継ぎ足し」が……ここまでやったんなら,別に一木でいいじゃん!!
 工作自体はしっかりしてるんですが…相変わらずイミフな工作ですねえ。

 前使用者がかなり手を入れたようです。
 この蓮頭やニラミ,半月の線刻はおそらく前使用者の手になるものでしょう。
 そう言う理由はひとつ----太清堂にしてはあまりにも「上手すぎる」から,ですね(w)。

 たとえば,左が32号の「ぬるっとコウモリ」。
 どうです!これが同じヒトの彫ったコウモリに見えるんなら,その目玉くりぬけえええ!(号泣)

 ざッと見た感じ,棹や糸倉の割れとか胴接合部の割れといった目立った損傷もなく,状態はそれほど悪くなさそうに見えますが,よくよく調べてみるとあちこちに大小の虫食い孔,表裏板は少なくとも3/4がた再接着,その整形のためか側板には部分的に削られた形跡もあります。このへんは前所有者じゃなく,古物屋のシワザでしょうか。 そのほかにも,棹の接合部にこれを胴体に固定するためとおぼしきニカワがこびりついていたり,後世の仕業と思われるアヤしげな修理個所がかなり見受けられます。


 後世のしわざとは別に,この楽器自体にもいろいろナゾがありますねえ。あまりにも短い棹茎とその意味不明の加工,そして棹孔からのぞいた内部構造……裏板のラベルはまちがいなく「太清堂」----ううむ,でもこれは,「わたしの知らない太清堂」な気がします。

注* 執筆日4月1日,絵は『北斎漫画』をちョちょいとクソコラ(w)もちろんウソですが何か?

(つづく)


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