« 月琴59号 ぴょんきち(4) | トップページ | 太清堂6らんまる (2) »

太清堂6らんまる (1)

HN05_01.txt
斗酒庵 月琴の呼ぶ声を聞く! の巻2018.4~ 太清堂6 らんまる (1)

STEP1 五月怪談

 これはまあ,ずいぶん最近のことになるんですがネ。
 うちにその,荷物が届いたんですよ----荷物が。
 もしかしたらアレかな,アレかな~って思って箱をあけたら……入ってたんですヨ,月琴が。
 ヤバい,こいつマジなヤツだ!って思いましたね,一目見て。
 まさか例のヤツじゃないよね例のヤツじゃないよね
 ----って思いながら,楽器をひっくりかえしてみたら, そこにッ!!

 一家に一面太清堂。(w)
 ども,斗酒庵主人です。

 年のはじめの58号修理で,月琴のお尻の腺を刺激して盛大に「月琴汁」を吹きださせてしまったせいか,あるいは捌くとき内桁のちょっと上のほうにある「月琴袋」を知らないうちに破ってしまっていたのか。

 ニオイにつられ集まってきた太清堂の月琴にたかられております。(w)

 現在,工房には糸巻折れで帰ってきた32号をふくめ,4面の太清堂製月琴が鎮座ましましておられます。前々回にも書きましたが日本の清楽月琴てのは,百年以上前に流行った今はどちらかといえばかなりレアな楽器ですよ----たとえばそこのアナタ,清楽月琴の実物,リアルで何回見たことあります?
 ましてやほぼ同じ時期に,強いて集めてるわけでもないのに,同じ作家の楽器が4面もつぎつぎと集まってくるというのは,もう偶然とおりこして怪奇現象でしかありませんてばよ。(w)

 さて,今回の依頼修理の楽器。
 装飾のない蓮頭,六角無溝の糸巻,唐物に近い形の棹と糸倉。ラベルも残片しかありませんので,まあ決定打的証拠はありませんが庵主には分かります。間違いなく「太清堂」の楽器ですね。
 全体の印象として,ぽんぽこの時のような違和感は感じないので 「いつもの(w)太清堂」 だと思われます。板ひっぺがせば,見慣れた太清堂の構造が出て来るでしょう。

 まず目立つのはこのニラミ(胴左右の装飾)。片方は欠損してますが……

 えっ!?
 太清堂のお飾りが…「比較的マトモ」…だとッ!?
 し……信じられん!
 コレてんぺんちいの前触れとかじゃないでしょうね。
 gkbr

 ----図柄は 「蘭」 ですね。
 月琴の飾りとしてはかなりモダンなデザインですが,前のコウモリ(ぬるっとコウモリ-32号参照)やキクモドキ(40号クギ子さん参照)に比べると,今回のはびみょーでもなんでもなく,何を表したものだかちゃんと分かるような彫り(w)となっています。
 扇飾りは「竹」ですね。(こちらの彫りはかなりギリギリかな)
 うっすらとではありますが,柱間に小飾りの痕跡も残っているので,組み合わせて「四君子(梅・竹・蘭・松)」になってたのかもしれません。

 ちなみに,本来「四君子」の「蘭」はオーキッドの類ではなく「蘭草」,オミナエシの類なのですが,南画でも中国の吉祥図でも,こっちのお花の「蘭」にしている例がふつうにあるので,これでもまあ問題はありますまい。

 ちょっと見ただけで,虫食いネズ食い板割れと,ナゾのぶッかけ汚れにエグレにハガレ。
 楽器を振ったら茶色い粉がどこからかパラパラとこぼれてくる----と,内外かなりヒドくキチャナイい状態のようではありますが,糸巻は4本そろってるし,糸倉や胴体に致命的損傷はなし。

 新品同様おキレイに,とまではいかないものの,ふつうに弾けるとこまでもってゆけるとは思いますが…さて。

 まずは調査・計測。

 全長:650
 胴縦:355,横:354,厚:38(板5)
 有効弦長:422

 胴径が5ミリほど大きく,持ち重りもするので,クギ子さんやこないだのぽんぽこ同様,量産器である32号や58号以前の,太清堂の比較的初期の楽器の一つなのじゃないかと思われます。

 棹基部の左右に段差がなく,指板と棹茎の幅が同じになってるところは唐物月琴と同じで,古い倣製月琴の名残です。
 その基部のところに何やら和紙が巻いてありますね。このタイプの楽器は棹孔の加工が鷹揚で棹のガタつきがあるのがふつう(基本的には糸を張ると定位置にもどる),それを嫌ってガッチリ固定しようとしたんでしょうか。ボロボロになってるのは使用によるものではなく(ふだん棹なんか抜きませんものね),紙をニカワで貼りつけたせいで,虫にやられたもののようです。これはおそらく原作者じゃなくて後補。


 内桁に棹茎のウケ以外の穴があいてないタイプなので,棹孔からの観察では,内部構造がほとんど分かりません。
 外からの観察で分かる限りの損傷を書き留めたら,裏板をハガして内部の確認に移ります。

 あそーれ,ペリペリペリ!
 かなりカンタンにキレイにハガれました。

 胴材はおそらくカヤ。関東の楽器ではあまり見ませんが,名古屋の鶴寿堂など関西では比較的上物の楽器によく使われています。やや厚めで最大15~6ミリほど。前にも書いたようにこの胴材をちょっと薄くするとけっこうなコストダウンが図れますので,ここが厚く取ってあるのはこの楽器を作り始めたころのものか,あるいはコスト度外視の一品ものです。全体の作りにさほどのスペシャル感はありませんし,32号や58号がもっと薄かったことから考えると,やっぱり前者でしょうね。
 唐物と同じ一枚桁,響き線は長い直線が1本と,バネ構造のが一組,四方の接合部に補強の小板を噛ました「いつもの」標準的な太清堂の内部構造です。

 天地の板裏や内桁の表面あちこちに,なにやら薄黄色の丸い物体が付着してますね----何でしょう,虫の繭かな?

 この大きな溝状のエグレは,楽器表がわから見て左肩のところにあった損傷の続きですね。虫食いにしては大きすぎますし木粉の付着もないので,節か何かが脱落した痕なんじゃないかなあ。あいた穴のところに何か小板を突っ込んでごまかしてたみたいですね。

 響き線表面が黒いのはヨゴレではなく,焼き入れしたときの焦げですね。太清堂の響き線は真鍮なんで,ほんらいは黄金色をしています。
 真鍮は鋼線よりはよほど低温で溶けてしまいますので,焼き入れはかえって難しい。ほかの楽器だともっとほんの先端部分だけにうっすら焼きが入れてある程度でしたが,この楽器のは派手ですね(w)多少ヤニっぽい感じもするので,ロウソクか行灯の火あたりで,じっくり炙ったんじゃないかな。
 変色はしてますが線自体の健康状態は良く,取付にも問題はありません----うむこれはまずまず僥倖。なんと言っても,月琴の音の命ですからねここは。

 表裏板ともに,天地周縁部の損傷がけっこうヒドい。

 カヤは虫に食われにくいので,胴材のほうの虫損はそれほどではありませんが,板のほうはかなりボロボロになっています。

 あと胴四方の接合部,4箇所のうち3箇所が接着トンでいます。天地の板には多少の狂いも出ているらしく,接合部が少し食い違ってる箇所もあります。太清堂の楽器はこの部分の工作が良く補強の小板も噛ませてあるので,よほどの環境でないとここまでは割れませんね。
 あと裏がわから見て左下の接合部,地の板の端が欠けてしまっています。衝撃によるものか木の質から割れたものか,欠片がないので前後は分かりません。よく見ると表がわにもうっすらヒビが入ってるみたいです----ここは要修理っと。

 さて,オモテウラからの観察は終了。
 形状的な記録は採りましたし,後は直して音階と音を調べるだけです。
 ここまで分かった各部の細かい数値などは,フィールドノートをご覧ください。(画像クリックで別窓拡大)


(つづく)


« 月琴59号 ぴょんきち(4) | トップページ | 太清堂6らんまる (2) »