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太清堂6らんまる (4)

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斗酒庵 月琴の呼ぶ声を聞く! の巻2018.4~ 太清堂6 らんまる (4)

STEP4 穴の国月

 さてさて分解した部品の補修も進み,再組立てに向かって邁進中の太清堂らんまる。

 ----じつは表板がかなりボロボロです。

 まあ,見た感じは少しヨゴレがあるものの,そんなに深刻には見えないかもしれませんが,ケガキの尖ったほうとかで触るとずぶッと刺さっちゃう皮一枚になってる箇所が大小,そこらじゅうにありますのよ。
 関東より北で保存されてきた楽器だと,ここまでのことにはそうならないんですが,南のほうにあった楽器はこういう食害のヒドいものが多いですね。

 はじめからぜんぶホジくりかえしてしまうと,板自体がバラバラになってしまいそうですので,まずは表面に見えている虫食い痕と,組立ての際に強度の必要な部分だけ,先に補修しておきましょう。
 分解の時に割れた矧ぎ目は接着面の虫食いを充填して矧ぎ直し,左肩部分のエグレなど大きな欠損箇所には桐板を刻んで埋め込み,あとの細かいエグレや溝は木粉粘土をヤシャ液で練ったものを充填。周縁部と内桁周辺の補修箇所のみ,エタノールで緩めたエポキを吸わせ,あらかじめ強化しておきます。

 板全体である程度の強度が保たれてるところで,表板に側板を付けます。
 例によってこの楽器は縦方向の支えがないため,壊れた状態で放置されていると天地の側板に歪みが発生します。らんまるも天の側板が少し潰れてますが,板自体が厚めだったのと,接合部の工作が精密だったため,さほど深刻な狂いにはなっていません。板の端に残っていたオリジナルの中心線を目安に組み立てましたが,部材個々の歪みはわずかにあるものの,接合部にズレはほとんどなかったですね。
 一晩おき,側板が接着されたところで次は接合部の補強板を戻します。オリジナルの工作は適当に刻んだ小板を接合部に渡しかけてただけなんで,分解したらカンタンにもげてきちゃいましたが,これを各接合部の形状や段差に合わせて削り,ピッタリと密着させます。

 この作業で,接着前に木を柔らかくするためニカワを湯煎する鍋で補強の小板をいっしょに煮たんですが。煮込んだ後のお湯が飴色というかハチミツ色になりました。やっぱりこれクリですね。

 クリの木は40号の棹茎にも使われていました。木材にタンニンが多く含まれており,虫に強く腐りにくいので家の根だとか船材なんかには多用されますが,楽器のような細かい細工のものでは本来あまり使われません。ただ月琴の場合は唐木屋の楽器や関西の作家さんの楽器などに,これが胴の主材となっている例をいくつか見たことがあります。

 丈夫ですが加工性と接着にやや難があります。32号や58号ではより軽軟で安価なホオに代わってますので,やっぱりこれは40号と同じ時期の作と考えたほうがよいでしょう。
 整形し,煮て少し柔らかくした小板をそれぞれの接合部にニカワでつけて圧着。オリジナルの工作でもそこそこの補強にはなっていたようですが,こんどはさらにバッチリですわ。

 この側板の組み付け・補強の段階では,内桁は形状保持のためハメこんでいるだけでまだ接着していません。接合部の補強が済んで胴体構造の外がわを固めているうちに,つぎにこの内桁を補修します。

 クリ材は一般的に狂いが少ないはずですが,あらためて組み付けてみるとわずかに丈が足りません。さらに裏板がわの中心部は少しくぼんだようになってますね。うむ,このままだと板の中心がわずかに凹んでしまいます。

 前回も書いたように,日本の作家さんはこの楽器の胴を三味線の胴と同じようなものと考えて工作しているフシがあります。胴表裏の板を三味線の皮と同じようなものと考えてるので,その観念からはずれる内桁など,板に触れる部品の加工や接着が適当だったりする傾向があるんですね。
 現実にはこれがちゃんとついていないと月琴は鳴りません。月琴の胴は表裏の板が鳴る「太鼓」ではなく,胴の構造全体で弦音を共鳴させる「箱」だからですね。
 とまれ,このままだと内桁と表裏板の接着がしっかりできませんので,すこし補修しときましょう。

 表板がわの接着面は水平を出した後,左右端を少し斜めに落とします。これは内桁と面板を密着させるための小さなテクニックです。
 丈の足りない裏板がわには桐のスペーサを接着。足りない分は1ミリありませんが,まずはかなり大きめに。「小さいものの加工は大きくしてから」が基本です。最初から1ミリの板を貼りつけるより,少し大きめの材を足してやったほうが,材料の保定がラクになるぶんより精密な加工が可能ですし,途中での修正も容易になりますからね。

 貼りつけたスペーサは真ん中のところを周縁よりわずかーに高くしてあります。前回修理したぽんぽこでもやりましたが,わずかなラウンドバック。まあ音のため,というよりは凹んでいるより凸ってるほうが強固に接着できますからね。

 この状態で2日ほど。
 太清堂の木工は精密なので,接合部の矯正などがなかったぶん,ここまでの作業は順調そのものです。

 さて,胴の接合部が固まり内桁も接着されて,構造が安定したところで-----

 ほじくります。

 ひたすらほじくります。
 ケガキの尖ったほうでツンツンと触診しながら見つけた虫食いを,ほじっては埋めほじっては埋め……正確に言うと「ほじくりかえして」はいませんね。虫に食われてトンネル状になっている部分の天井を突き潰してそこに埋め込んでゆく感じです。薄皮1枚とはいえ,これもオリジナルの部材の一部ですからね。無駄にせず穴の底に押し込んで,そのまま埋め込みます。食害が板裏まで貫通しているような箇所はそれほどありませんが,とにかく多い----すごい数ですね。

 ひたすらほじっては埋めてのくりかえし。50箇所くらいまでは数えてたんですが,整形時に一度埋めた部分の周縁や延長線上につながって見つかるものも多く,途中からもう数えるのもやめちゃいました。
 この楽器は表板が裏板よりも矧ぎ数が多い(表4~6,裏3枚)のですが,板の矧ぎ目はまずぜんぶ食われていると言って良いようです。
 組む前に矧ぎなおした部分は,矧ぎ目に沿って上から下までまんべんなく食べられちゃってたので割れちゃったわけですが,ほかの箇所も板が分離するほどではないにせよ虫害を受けてますね。そのほか周縁の接着部,木口などから侵入した虫が,板の繊維の弱いところに沿って長く食い荒らしてもいます。半月やフレットなどニカワで接着された部品が多かったせいで,中央部分の食害が特に深刻です。

 はいほー,はいほー。ああ,この虫食いが金脈か何かならうれしいのに……小さい虫食いはまだまだ残ってるんですが,馬鹿正直にぜんぶほじくると,ほんと板がバラバラになっちゃいますので,あとでその上になにか貼りつけたりするような所や半月の周辺など,強度的に不安のある箇所を中心に補修を行いました。まあ一度充填すると木粉粘土が固まるまで一晩はかかりますし,ただこればっかりやってたわけでもありませんが,上の連続画像の最後の絵の段階になるまで一週間はかかってますね。

(つづく)


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