« 太清堂5ぽんぽこ (5) | トップページ | 太清堂6らんまる (1) »

月琴59号 ぴょんきち(4)

G059_04.txt
どっこい生きてる 斗酒庵 の巻2018.3~ 月琴59号 山形屋ぴょんきち(終)

STEP4 あの顔色から考えて,五郎は病院に行ったほうがよいと思う。

 あれは 20号の時だったか29号の時だったか。
 半月をはずしたら,陰月(半月のポケットの中,表板にある小孔,空気孔,一説にサウンドホール(w))が2つあいていて。なんでかなーと思ってましたが,あとで内部構造見たら,最初の孔が下桁の真上になっちゃったのであけなおしたものでしたねえ。
 腕が良く技が切れる職人さんほど,こういうミスを意外としがちです。
 今回の陰月は下桁のかなりギリなれど,ちゃんと内がわには通ってましたが,孔のあけかたが雑すぎて,ささくれでふさがっちゃってます。キリでキレイにあけなおしておきましたが,もしかすると,ここがふさがってたおかげで外気が入らず,響き線とかも無事だったのかな?

 さて,こうした細かいところも忘れず手直ししておいて,裏板の接着へと進みます。
 いつもですとここらで棹のフィッティング,角度の調整という,時間のかかるいちばんタイヘンな工程がはさまるとこなんですが,そこは山形屋。事前の調査で,この楽器の棹の取付けはこの楽器のほぼ理想値となっていることが分かっています。
 まあそれでも,ここまでの作業でそれに変化が出ちゃってないか,裏板再接着の作業に入る前にいちおう確認したところで,いざ。


 裏板は中央少し右がわに入っていたヒビのところから2分割。剥離するときに,左がわの板の端が少し欠けちゃいましたので,小板の矧ぎ目から切り取って新しい板に替えました。
 少しだけ間をあけて接着。
 一晩置いたら,スペーサを入れて。
 再接着後の板は左右がわずかにハミ出てますので,周縁を整形。側板にはマスキングテープを巻いて保護しておきます。同時進行のぽんぽこと違い,山形屋の側面は気持ちいいほどスッキリ平ら,シャープな印象ですんで,板の端を丸めてしまわないよう注意しながらの作業です。

 表板の虫食いは,清掃の時にほじくって木粉粘土を埋め込み,緩めたエポキを吸わせて樹脂化してあります。

 後で水のかからないところなら,桐板を埋め込む方式でも木粉粘土だけでも良いんですが,ニラミや半月の下は接着の時に濡らさなきゃなりませんので,エポキで強化しとかなきゃダメですね。
 木粉粘土で補修した部分は乾いちゃうと分かりにくくなるので,テープを貼って目印にします。エポキはエタノで緩め,補彩の時と同じ要領でちまちま細筆で塗って,補修部にじっくり吸い込ませます。庵主がいつも補彩などで使っている筆は,画材屋で買ったそこそこイイものですが,これはさすがに¥100均で買った筆を1箇所で1本使い潰すつもりでやってます。

 エポキが固まってから最後に完全に均すんで,最初の段階での木粉粘土の整形は皮一枚凸ってるといったぐあい。またエポキがじゅうぶん滲みると,余ったエポキがエタノといっしょに補修部の輪郭に浮いてきます。これをそのままにしておくと,エポキが周辺の余計なところにまで滲みて厄介ですので,固まる前にエタノールをしませた布で丁寧に拭き除いておきましょう。

 バチ皮痕の補修部がけっこう目立ってますが,ここはあとで隠れるところなんで,そう気にしなくてだいじょうぶ。
 半月の下など同様に隠れるところはそのままでいいんですが,ニラミの上など見えるところは,最後に板の凹凸に合わせてペーパーを貼った木片などで軽く削れば,ほとんど目立たなくなります。


 表板の補修も終わったところで。
 さてさて,裏板をキレイにしましょ。
 重曹をぬるま湯に溶かして,Shinexでコシコシコシ。洗い液はたちまち真っ黒。 裏板をキレイにする一方で,無限に湧き出てくる黒い汁を表板の補修部になすりつけて補彩とします。表裏の色合いが同じくらいになったところで終了。もともと古いものですし,ちゃんと使い込まれてもいますので,神経質に真っ白にまで戻す必要はありません。

 作業後に出た汁があんまりにも見事に真っ黒なものですので,この月琴汁は表板の時に出た汁と合わせて煮込み,スタッフが美味しく……いえいえ,補彩用の染液としました----「端材捨てられない症候群」がこじれて,とうとう汁まで捨てられなくなりましたよ(w)

 この裏板の中央上のところには,もともと四隅を切ったカタチの四角い紙が貼られていたんですが,全面真っ茶色なだけで文字も何も読み取れなかったため,庵主,前所有者の名札か何か,後で貼られたものだろうと思ってました。
 まあオリジナルのものじゃなさそうなんで,ついでにハガしちゃおうと,これの上からかまわずコシコシやったんですが----

 薄皮のように表面を覆っていた真っ茶色い汁の下から,オリジナルのラベルが出てきました。
 穴も開いてますし上下も少し散切れて完全なカタチではありませんが,間違いなく山形屋雄蔵のラベルですね。(画像クリックでラベル部分の拡大。左のほうに「山形屋雄蔵」の1行が確認できます。)
 表裏板の染めに使われるヤシャブシは砥粉を混ぜて塗られることが多いのですが,その砥粉のせいで染液が顔料みたいになって紙の表面を覆ってたみたいですね。
 最初のほうで書いたように,山形屋の楽器は元来かなり色白で,表裏板の染めは砥粉の少ない薄いヤシャ液をさっと塗った程度。この楽器がこれほど真っ黒になっていたのは,何者かが何らかの目的で,染め直したものと思われるわけですが。このラベルの状態から考えても,それは砥粉も多めのかなり特濃な染め液だったのでしょう。
 清掃した限りにおいては,特に目立つ変色部分や水濡れの痕のようなものも見つかりませんので,おそらくは演奏者ではなく,古物屋が古色づけとして施したようなものだったのではないでしょうか。

 表裏板の清掃が終わったところで,側板のマスキングをはがし,今度は板の木口をマスキングして,胴側の染め直しです。
 分かりやすくスオウの赤染めですんで,温めたスオウ液を数回塗布,ミョウバンで発色。亜麻仁油を布につけてさっと染ませ,数日してから柿渋を塗ってゆきます。先に柿渋を塗ると,どういう化学反応なのかスオウが褪せてしまうので,ここは油が先ですね。

 棹や指板も同様に染め直し。指板はさらにオハグロで黒染め。半月や蓮頭も染め直ししておきます。
 亜麻仁油の乾燥に最低でも2日はかかりますから,ここはけっこう間が空きます----このあいだに半月の位置決めをしたり小物を作ったりしといちゃいましょう。

 今回はお飾りがぜんぶ無事で足すものもありません。
 作るのは糸巻が1本のほか,山口とフレットのみ。
 糸巻の材料はいつものように¥100均のめん棒……ああ,もう何本削ったっけね(w)山形屋の糸巻は六角一溝と国産月琴でいちばん多いタイプですが,握りの尻のところが若干太く,石田不識の糸巻同様,ほかの作家のものと見分けのつくスタイルになっています。

 ¥100均のめん棒にはφ28のとφ30のがあるんですが,今回はもちろん太いほうを使います。四角錘から六角形,糸倉に合わせながら先を調整してゆきます。楽器元々の癖からか前使用者の癖からか,この一番下の軸孔だけ軸先がわの孔が少し広がっちゃってますので,補作の1本はここに合わせ,ここ専用にしちゃいましょう。この楽器がけっこう使い込まれていたことは,このあたりからも分かりますね。
 微妙な違いではあるんですが,ラッパ状に立ち上がる側面のカーブとかを山形屋のオリジナルに似せるのがけっこう辛悩。オリジナルを横において,見比べながらの削りです。

 山口は57号とかでも使った流水ツゲ,フレットは表面を白くした漂白ツゲを使います。

 染め直して色をそろえたお飾り類を取付け,
 WS前日,2018年4月27日。
 薬研堀・山形屋雄蔵作,月琴59号ぴょんきち,
 修理完了です!!

 作業名の由来となったこの皮ですが,破れがひどいのでさすがに戻せません。バチ布ははじめ少しいわくにつながりそうな「荒磯」で作ってみたんですが,左右目摂扇飾り中央飾りと,中心線上に黒が集まっちゃうのでイマイチ。とりあえず工房定番のエンジの梅唐草を貼っときますが,カエル柄の布でもあったら貼り換えてやってください。(w)

 フレットの丈は低く操作性はまずまずなものの,座奏だと器体が軽いので膝の上での安定はやや悪いですね。抱えて立奏した場合は問題ありません。むしろそッち向きかなあ。
 オリジナルの位置でフレットを配置した時の音階は----

開放
4C4Eb-484E-124F+384G+74A+125C5D-435F+24
4G4A+484B-255C+215D-35E+45G-85G#+486C+8

 かなり滅茶苦茶(w)特に第2音が半音近く高いあたりどうなんだという感じですが,4・6・8フレットはいちおう合ってるみたいだし(4フレットは高低間5度の基準6フレットは開放の1オクターブ上,8は最低音の2オクターブ上),ほかの山形屋の楽器との比較,また指板上の痕跡などから見て何度もフレットを付け直しているようなので,これが製造当初の音階だったわけではなさそうです。

 音は山形屋らしい澄んだ音,ガラスの風鈴のような凛とした響きです。響き線の構造からやや線鳴りが起こりやすいのものの,これまで手掛けた山形屋の楽器のなかではいちばんおとなしいほうだと思います。
 美しい,じつに美しい音の楽器なのですが,音の輪郭がくっきりはっきりしているため,チューニングにかなりの厳しさがあります。少しの音ズレや運指のためらい指すべり指,ピッキングのミス----そんなちょっとしたところまで,はっきり聞きとれちゃいますからね。道具としては正確無比なわけですが,演奏者にはあまり優しくない楽器(^_^;)>と言えましょう。

 性格のキツい成績優秀な優等生タイプ----といったところでしょうか。でも,こういうのこそ デレるときが素晴らしく可愛らしい。 クーデレ,ツンデレ好きにおすすめの一品ですね。(www)

 銘は「ぴょんきち」改め「春蛙(しゅんあ)」。
 春先のカエルみたいに,にぎやかに声を響かせてほしいものです。

(おわり)


« 太清堂5ぽんぽこ (5) | トップページ | 太清堂6らんまる (1) »