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太清堂6らんまる (2)

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斗酒庵 月琴の呼ぶ声を聞く! の巻2018.4~ 太清堂6 らんまる (2)

STEP2 フロイド式らんまる

 内外の調べがいちおうキリついたところで,修理に入りましょう。
 まずは表板の上のものを取り外します。
 最終的にはほぼ完全に分解しちゃうんですが,時計の修理なんかと同じで,こういうものは一定の手順を踏んでやっていかないと,あとあと不都合が出たりしますからね。

 古道具屋が体裁整えようと,いちおう何かしようとしたみたいですが,全体があまりにもキチャナイので途中で諦めたもよう。(w) 胴上のフレット痕の上に2枚なにやらへっつけてありましたが(1枚は白竹製の月琴のフレット,ただし本来は棹上にあるようなもの。もう一枚は木片をくっつけただけ,どちらももちろんオリジナルではない。)そのていどで,ありがたいことに,今回はボンドが使われてません。

 蘭のニラミ,竹の扇飾り,鳳凰の中央飾り,緑の鶴と雲の裂地のバチ布,みな比較的かんたんにはずれてくれました。
 半月の接着がけっこう頑丈で少してこずりましたが,半日ほど湿らせて浮いたところにクリアフォルダを細長く切ったのを挿しこみ,しごいて挽き切るようにはずします。
 ニラミはクスノキ,半月は三味線の胴などに使われる唐木の紅木(こうき)ですね。

 そういえば40号のニラミもクスノキでしたね。
 内桁と棹茎の延長材,そして胴接合部の補強の小板にはクリが使われてました。棹や胴がカヤだったところも同じです。

 ----楽器職としてはその工作にチグハグなところがあることから,太清堂という作家はもともと楽器屋ではなかった,と庵主は考えています。しかし木の扱い自体は巧く,その木工のワザそれ自体は間違いなくプロのものです。
 「クリ」も「クスノキ」も楽器の材料としてはあまり一般的なものではありません。それの薄く挽いた板が手に入る環境。カヤや薩摩ツゲの使用,あと第4フレットが胴上に位置することから,関東の作家さんではない。桐板も年輪が広いので比較的南のほうのものだと思われます。派手な使い方はしていませんが,カリン・黒檀・紫檀・紅木などの唐木もふつうに使っています。しかし,唐木の扱いはほかに比べるとあまり上手ではありません----こういうところも,太清堂の正体へとつながってゆく一つの鍵かもしませんね。

 つぎに裏板をはがしたあとの接着部分を清掃します。
 筆で湿らせ,接着剤を浮かして,断切りでコシコシ……と,白い粉状の物体がもりもりっとこすり取れてきました。裏板の接着に使われてるこれ。ニカワじゃないですね----お米の接着剤「そくい」です!
 はっ!と気がついて側板や内桁にへっついてる例の謎の薄黄色い丸い物体をつついてみました。カタい…コレ虫の繭じゃなくて,ご飯粒ですわッ!!(^_^;)

 ここまでの観察と作業から,表板上の装飾や,胴接合部の接着は間違いなくニカワなのですが,この楽器では表裏の板の接着だけ「そくい(続飯)」が使われているようです。おそらくこれは,三味線で胴皮の接着に「寒梅粉」という餅米の粉を使うところから発想したものでしょう。
 前も書きましたが,日本の作家さんは月琴の胴を「太鼓」,表裏の板を「三味線の皮」と同じように考えている節があります。唐物月琴や石田義雄の作など,清楽月琴を「分かって作ってる」作家さんの楽器を見てきた結果,実際には月琴の胴は「太鼓」(表裏板だけが鳴る)ではなく「箱」(構造全体で鳴る)だというのが庵主の考えで,三味線の発想からの工作のほとんどはほぼ意味がなく,これがネイティブな楽器でなかったことと,月琴の作家にもともと琴三味線職が多かったことからきた誤解の類でしかないと考えております。
 「そくい」は刀の鞘の合わせに使われるくらいで,その接着力自体はニカワよりも強力です。三味線屋が皮の接着にこれを用いるのは,ニカワと違って接着剤が伸び縮みしないので,皮の収縮に対して固定が保たれるからですね。しかし月琴の面板は桐,皮のように収縮はしませんので,特にここだけをこれで接着しなければならない理由は何もありません。そもそも唐物月琴だって,接着はぜんぶニカワだってばよ。
 さらにこの接着剤自体は,太清堂がご飯をてきとうにこねくって作った速成・自家製のもので,刀装匠の使うものや三味線屋の接着剤とはあきらかに別物です。
 大工さんなんかだとこんなふうに,荒く粒が残るくらいにご飯を練って使うかもしれませんが,楽器などの精密な細工ものに使われる「そくい」はふつう,もっと細かくすりつぶし,布で漉したりして使います。こんなふうにご飯粒が原形をとどめて残ってることはまずありません-----つまり太清堂は「こういうところに米の接着剤を使う」という知識はあっても,「それがどういうものか」という実態を知らなかった可能性があります。
 これゆえ,三味線と同様の工作ではありますが,「三味線屋ではなかろう」と考えられるわけです。いや,そもそも胴内にご飯粒垂れてる時点で,いくらなんでも工作雑すぎですしね(w)

 このご飯粒……どこぞで分析してもらったら,なんか面白いこと分かるかもな~と思いますので,こそいでとっておきます。ゴミとはいえ「百年以上前のご飯粒」ですからね。前回59号ぴょんきちの「百年前のカエルの皮(ニホンヒキガエル)」に引き続き,楽器とは関係ありませんがある意味レアな研究材料。

 興味おありのお方は,提供しますのでご連絡を。


 さて作業に戻りましょう。
 オモテについてた物体をはずし,裏がわもキレイになったところで表板をハガし,同じように清掃。
 こちらも周縁部の虫害,ヒドいですね。
 裏板同様,天地の板の接着部分はかなりボロボロです。

 ちなみに,板のあちこちで垂直方向に入っている深い溝は桐板の製材の時に埋め込んだ竹釘の痕で,虫食いとか板の損傷ではありません。裏板にはほとんどついてなかったんですけどね~,なぜか音直結の表板のほうが下手すると質が下というフシギ。(w)たぶん板の木目の様子でキレイなほうをオモテにしたんでしょうねえ。
 板にもともとついていたもので,べつだん損傷の類ではないのですが,もちろん板の強度上の問題にはなるので,ここはあとでちゃんと埋めておきます。

 楽器オモテから見て中央右がわに板割れがあります。これ虫食いによるもので,矧ぎ目に沿って上から下まで完全に食われちゃってて,板が乾いてから持ち上げたら,カンタンに割れちゃいました。
 同じく中央部の左がわにもちょっと割れてるとこがありましたが,こちらは接着がトンだだけ,虫食いによるものではありませんでした。

 側板も接合部の接着がトンでましたので,表裏の板を剥いだら自然に分解されました。接合部に補強の小板が噛ませてありますので,ふつうならこんなに簡単にはいかないんですが,保存の悪さによる部材の歪みもあり,またもともとの工作が雑で四角い板をただ渡してあっただけなので,くっついてたところもちょっとねじっただけでとれちゃいます。

 分解した部材はひとつひとつ,接着面をきれいに清掃した後,向きや順番などが分かるように簡単な印を書き入れてから,乾かしておきます。
 棹は別として,桐板2枚,側板4枚,内桁1枚,糸巻4本,半月・山口各1コ,フレット8枚,装飾類少々----もし棹まで完全に分解したとしても,ぜんぶで30あるかどうか…いつもながら,月琴てのはこうして分解して積み重ねると,ほぼすべての部品が直径30センチくらいの面板の上に乗っちゃう。
 この手の弦楽器としては,たぶん極端に部品数が少ないほうですからね----なんか面白い。

(つづく)


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