« 月琴WS@亀戸 2018年6月場所! | トップページ | F.Du Bois "THE GEKKIN MUSICAL SCALE" (1) »

太清堂6らんまる (終)

HN05_06.txt
斗酒庵 月琴の呼ぶ声を聞く! の巻2018.4~ 太清堂6 らんまる (6)

STEP6 太清堂でつかまえて
 さて,太清堂らんまる,棹や小物も並行作業で進めながら,胴体にもどります。
 棹の角度調整もうまくいったし,毎度格闘の胴体とのフィッティングも無事済みましたので,裏をとじましょう。
 裏板には矧ぎ目を食われたせいで割れたところがありますので,今回はここにスペーサを入れようと思います。
 表板のほうにあった同様の箇所ほどヒドくはなかったものの,ここも矧ぎ目をあちらこちらと食われて接着が保たなくなったんですね。トンネルにされちゃってた場合だと虫食い部分をざっくり切り取るところですが,全体に食害が浅いので,矧ぎ面全体を木粉粘土で埋めて均しておきます。

 今回の楽器,裏板は表板より矧ぎ数が少ないので板の強度に影響するような虫食いはここくらい。目立つのはあと数箇所,周縁部に比較的範囲の広い虫食い,そのほか虫の種類が違うのか食い痕が大きな穴になってるのが2~3ありますが,こちらはどれも周囲への広がりはありません。
 とはいえ矧ぎ目の状況から考えても表板と同様,細かい虫食いが全面にあるだろうことは間違いなく。全部ほじってると板がなくなっちゃいそうですので,特に目立つ箇所,そして楽器としての使用と強度上に問題のある箇所を中心にほじって木粉粘土で充填。後の作業で濡らす必要のある箇所には,緩めたエポキを染ませて強化しておきます。

 補修が終わったところで胴体に接着。
 一晩おいてスペーサを入れ,接着後,はみだした周縁部といっしょに整形してしまいます。
 部材の歪みで接合部に少し段差も出てますので,今回は側面も軽く削って均しておきましょう。何箇所か板周縁部の鼠害が及んで----すなわち胴材までカジられて----少し欠けちゃってるところもありますので,そのあたりはあらかじめ木粉粘土で充填しておきます。

 ここで表裏板を清掃。
 このところの修理楽器のなかでは,そう大したヨゴレでもなかったのですが,鉄分のほかに銅とか硫黄あたりが反応しちゃってるらしく,少しミドリ色がかった汁が出ました。調べたら出品地は富山県だったみたいですが……炭鉱か温泉地にでもあったのかな?


 削り直した側面はよく磨いて染め直します。
 オリジナルはかなり褪色・剥落していましたが,スオウとベンガラでやや濃いめの色に塗られていたようです。カヤというのは木肌自体が美しいので,ふつうはスオウかヤシャブシで軽く染めるていどのことが多いのですが,この楽器のはよく見ると,地の側板に割れがあったり木肌に白い筋が混じっていたりと少し質の悪い材だったらしく。おそらくはそのあたりをごまかすため,あえて下地の見えにくい塗装を施したのではないかと思われます。

 作業自体はいつもやってること。スオウ汁を刷毛で何度も塗っては乾かし,ミョウバンやオハグロで媒染して,薄目に溶いたベンガラをかけるわけですが,カヤという木材は少量の油分を含んでいることもあり,あまり染まりが良くありません。
 あらかじめエタノで拭ったりもしたのですが,あまり変わらず。いい色合いにまでなるまで作業を繰り返すしかなかったため,けっこう時間がかかっちゃいました。

 並行作業で,外して油を引き磨いておいた蓮頭と半月。
 装飾はなにもありませんが,紅木の色と木目,そしてとぅるっとぅるでとても美しい。
 これらと補作の山口を取付けます。
 さほどに接着のよくない唐木とカヤなので,とくに蓮頭の接着面はよく整形して平面を出し,じっくり湿らせた後ニカワづけしました。それでも取れちゃう時は取れちゃうと思いますが,蓮頭とフレットの剥落はこの楽器の宿命みたいなものなので,前の所有者みたいにウルシとか強力なボンドなんかでつけたりしないでね。m(_ _)m

 フレッティングの前に
 58号でも同じようなことをしたのですが,糸巻の孔を焼き棒で整形します。

 太清堂は糸巻を挿しこむこの孔を大小二種類のツボ錐で糸倉の左右から穿つという変わった工法を採っています。この方法でも,まっすぐにあけられた軸孔の角の部分がかなり強力に糸巻を噛むので,糸巻自体の固定に問題はないのですが,軸孔のせまい部分にのみ負担が集中するため,長い目で見ると耐久性に問題があります。またカドの部分が当っているわけですから,糸巻もしくは糸孔が変な形に削れてしまいやすい。糸巻のほうはともかく,軸孔のほうは変に削れると使い物にならなくなってしまう可能性があります。
 量産化が進んだ58号でも同じ工法だったわけですので,太清堂にも何かこだわりがあったのかもしれませんが,唐物月琴はもちろん日本のほかの作家さんも,ここはだいたいテーバーのついた糸巻に対し同じテーバーのついた軸孔に加工しています。というか製品化された弦楽器のペグ孔は,世界共通でだいたい同じような工法だと思うんですけどね。(w)

 糸巻のほうも多少,段がつくかたちで削れてしまっていたので,少し均してなだらかなテーバーに直しました。これにより糸巻は前よりも糸倉に少し深く入るようになりましたが,従前のように回す時にへんに固かったり,回転がガタついたり,回す時にギシギシと鳴ったりすることはなくなりました。

 ぽんぽこに続いて,フレットはカリン製の赤フレット。
 この人の楽器にはこれが似合うみたいですね。
 棹の角度調整と山口の高さの設定がバッチリうまくハマったようで,棹上は高く胴上は低く,月琴としていかにも操作性の良さそうな感じにまとまりました。
 オリジナルの位置に配置した場合の音階は以下----

開放
4C4D+94E-394F-4F#4G+164A-125C-35D+185F+24
4G4A-44B-495C-5C#5D+115E-235G-105A+216C-13

 調弦をC/Gにしたとき,開放から数えて第3音(第2フレットの音)が西洋音階よりやや低くなるのは清楽音階の定番。通常は20~30%の間で,この人の場合それがやや低めになのもいつもの傾向です。棹上第3フレットの音が少し高すぎですが,ウルシ付けとその後の加工の影響で,テスト時にフレット位置としたエグレの場所が,原作通りのフレット位置だったかどうかには少し疑問があります。
 それでも全体的には清楽の音階として通用する範疇にちゃんとおさまっているようですね。
 第7・8フレットのところには,長短2種類の目印線が引かれていました。(右画像参照)おそらく短いほうがオリジナル,原作者の引いたもので,長いほうは後で所有者が付け直した時のものかと思われます。長いほうに合わせた場合,第7は5D-7/5A+16,第8が5E-5F/6C-47。 原作者のほうがいくぶん合ってたようですね。
 太清堂,ぽんぽこを作ったころにはこうした音階に関する知識がなかったらしく,音階はかなり滅茶苦茶だったんですが。この楽器の場合,倍音の部分が比較的きっちり合ってることなんかからすると,この間にそうした知識をどこかで吸収してきたようですね。笛か音叉のようなものか,あるいはほかの作家さんの楽器か,音階の基準となるようなもの何か使っていたかもしれません。

 お飾り類を戻し,元付いていたのに似た緑色のバチ布を貼って。
 2018年5月末。
 年初から続いた太清堂ラッシュの最後の刺客(w)依頼修理の太清堂らんまる。
 修理完了いたしました!

 板の虫食い被害が見かけよりずっとヒドかったのと,カヤ材の染まりにくさに少し手古摺りましたが……状態から考えると,けっこうキレイに直ったと思います。

 音は良いですね。表板をさんざホジっちゃったせいもあるかもしれませんが(w)音ヌケはかなりよろしい。響き線の効きが良く,音にうねりがついてくるので,透明感みたいなものにはやや欠けますが,余韻はぽんぽこと同系の温かなもの,弾いてて心の落ちつく気持ちのいい音です。

 棹角度とフレットの丈のちょうど良さ,弦高の低さ----操作性の良好は言うまでもナシ。そしてこの楽器もまたぽんぽこと同じく,実に抱き心地が良い。楽器を縦においても立つくらい,器体のバランスが良いのもありますが,厚めのカヤ胴の重さがホント膝にちょうどいい感じで………抱っこして弾いてるとちょっと離したくなくなります(www)

 太清堂らんまる,試奏のようすは YouTube の拙チャンネルにてどうぞ----

  https://www.youtube.com/user/JIN1S

 弾き具合が良かったものですから,けっこうな数録っちゃいましたよ。(w)


(おわり)


« 月琴WS@亀戸 2018年6月場所! | トップページ | F.Du Bois "THE GEKKIN MUSICAL SCALE" (1) »