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月琴61号 マツタケ (2)

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斗酒庵いろいろみろり の巻2018.6~ 月琴61号 (2)

STEP2  Tricholoma matsutake

 さてさて,3面相次いで到着した夏直前の修理楽器。
 まずはこちらからはじめます。

 外がわからの観察では,欠損部品は糸巻1本と蓮頭,山口と第6フレット。棹上の第4フレットが山口のところにへっついてるのは,まあご愛嬌として(目が笑っていない)……このくらいならまあ少ないほうですし,現在ついてる部品もほぼすべてオリジナルと言って良いようです。
 あ,そういえば届いた時には須磨琴かなにかの糸巻が1本ささってましたけど,あれはノーカンで(w)

 損傷は表裏に貫通したヒビが1本づつ。あとは表板半月の下と裏板中央ラベル痕のあたりに短いヒビが1本づつ。 虫食いも数箇所あるようですが,裏板棹孔の左がわにちょっと大きな孔が見えるほかは,さほどヒドそうでもありません。前の「らんまる」みたいに,虫食いホジってはいほーはいほーで一週間てなことはなさそうですね----ほっ。

 棹孔からのぞいた感じ,内部は全体灰色にホコリをかぶっており,響き線に少しサビも浮いてるようでしたので,確認のため裏板を剥がします。

 いつもどおりの不識の月琴の内部構造ですね。
 パラレルの2枚桁,直線の響き線。
 内桁と側板本体はサクラ,側板の厚みは最大でも7ミリていどしかありません。外から見ての通り,丸く組み合わせた側板の上から唐木の薄い板を貼りまわしていて,その化粧板の厚みがだいたい1.5ミリですから,いちばん薄いところで側板本体は3ミリちょいくらいになっちゃってます。
 この手の工作をした楽器では,よく化粧板が部分的に浮いてブユブユになっちゃったりしてるもんですが,さすがに不識。薄いスキマは見えますが,接着の剥離している箇所などはありません。

 側板本体の接合は凸凹組み。四方ともに健全,ビクともしてません。側板と内桁は,一見ただ接着させてるだけのように見えたんですが,よく見ると側板の内側にごく浅い溝を彫り,そこにはめこんで接着してますね。上にも書いたよう側板ごく薄なんですがよくやったものです。

 響き線の基部は紫檀の白太----黒くなれなかった部分を使ってます。材自体が貴重になってきたこともあり,今はけっこう色味の違いを面白がって使う人も多いんですが,ちょっと前までは切り取って捨てちゃってたところですね。
 響き線を止めるクギの頭が突き出ていないのも,この人の楽器の特徴です。
 ほかの作家さんの工作では,このクギを大きく突き出させて,響き線に軽く触れるようにした加工もよく目にしますが,あれは響き線というものを 「なんか楽器振ってガシャガシャ鳴らすためのモノ」 と勘違いしたところからきた妄想工作ですね。
 何度も書いてますが,この部品は基本「偶然に鳴っちゃう」ことはあっても「故意に音を鳴らす」ような構造にはなってませんので,修理人としましては,わざと振ってガシャガシャ鳴らすような野蛮な行為は,なるべく慎んでいただきたいところであります。
 不識の楽器でクギの頭がムダに出てないのも,この人がこの楽器のことを「ちゃんと分かって」作っているからにほかなりません。

 内部の観察でとくに目に付いたことといえば,まずこのスペーサ。
 前にも書きましたが,初代不識は月琴の棹を,糸倉から棹なかごまで一木で作る,というのを信条としているようで。そのため,一般的な延長材を接いだ形式の棹にくらべると,後でやる調整工作に限界があります。
 あとで調整している際に,棹の角度とかの修正がある程度以上必要になった場合。ふつうの工作だと延長材をはずして取付角度を変えるとか,いッそ作り直すとか。棹のほうの加工だけでだいたいのことは何とかなるのですが,不識の形式の場合は削るにせよ足すにせよ,そう大仰なことができないわけですね。
 そこでこうやって,胴体の棹を受ける孔のほうを加工してスペーサを噛ませることになるわけですが。彼は基本この工程を胴を箱にしてからやっているらしく----胴が密閉されたあとだと,取付作業は手元の見えない盲仕事になりますよね。それで作業をやりやすくするため,こんな大きなスペーサを使ってるんだと思います。

 もう一つ。
 裏板のウラがわから墨書が出てきました。

 初代不識は楽器に署名を含めてあまりシルシを残さない人で。ごくごく簡単な指示線すら引いてないこともあり,以前半月をはずしたとき,元の位置が分からなくなって困ったことがあります。(w)そのくらいなので,棹なかごに書かれた漢数字以外でこの人の文字を見たのはこれがハジメテかもせん。かなりの達筆ですね----ちなみに文面は 「此めん裏」
 うむ,もう少しなにか書いといて欲しかったですねぇ……たとえば「鏑木渓菴暗殺事件」の真相とか(w)

 同じ関東の作家でも,唐木屋や山形屋,清琴斎なんかの月琴の胴はほぼ真円に近かったりするのですが,不識の楽器の胴は月琴としては丸くなく,やや四隅が角張った感じになってるのがふつうです。この楽器の場合は,さらに1時7時方向にわずかにふくらんでますね。これは部材の狂いとかじゃなく,もともとの工作のようです。
 このため「楽器の中心」と「板の中心」が若干ズレてしまっていますが,まあさほど気にするレベルの差異でもなく,作家本人も分かって作ってますんで,あまり問題はないかと。

 表板は12まで,裏板は13まで矧ぎ目を確認しました。目の粗い柾目や板目の板では,ここまで細かく継ぐと自然な一枚板に見せるのが難しいんですが,この楽器の板はかなり目の詰んだ柾目板。ここまで細かいともう,とにかく真っ直ぐ切れば,木目合わせるのもラクそうですもんね~。
 ギターとかバイオリンのほうから考えますと,柾目のほうが音が良いから,みたいな結論になっちゃうんですが,前にも書いたように,国産月琴の表裏板の場合,これが板目から柾目になっていった理由は,音のことを考えてのことじゃなく,「柾目板のほうが均質な板を安く作れる」といったコスト方面からの必要のほうが大きかったと思いますヨ。

 ----といったあたりで。
 今回のフィールドノートをどうぞ。


(つづく)


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