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柏遊堂5 パラジャーノフ (2)

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斗酒庵いろいろみろり の巻2018.6~ 柏遊堂5 (2)

STEP2  ざくろの色

 依頼修理の柏遊堂。
 全体の測定と外がわから見た要修理個所の確認は終わりましたので,こちらも中をのぞいてみましょう。

 棹口の割レの補修もありますので,オープン修理は既定の路線。まずは裏板をへっぺがしますベリベリ。

 パラレルの2枚桁,胴をほぼ三等分してますね。
 上桁は左右に木の葉型の音孔のあいたよくあるタイプ,下桁はツボ錐で3つ孔をあけた簡易版。35・43号がこれとほぼ同じ作りになっていました。
 材質はヒノキのようです。目の詰んだ,わりといい板を使ってます。
 表裏の板が割れたまんまで長いことあったせいか,細かな灰色のホコリがかなり入り込んでました。

 響き線は側板と板との接着面に小さな孔をあけ,そこに折り曲げた基部を挿しこんでいます。胴体が箱になると線の基部は側板と裏板に挟まれ,安全に固定されるって寸法ですね。
 ただ直挿ししたのよりはスポンと抜けそうになく,使っててもいくぶん安心できそうな加工ですし,線自体は直線なのでさほど細かな調整も要りません。そして響き線の基部として木片を別に接着するよくある方式に比べると,材料や工程が一つ二つ少なくなりますんで,経済的な効果もあります----が。

 この工作には致命的な欠陥がありまして。
 一つに響き線の基部が胴板を接着する工程で必ず濡らされること,二つにそこがニカワにくるまれてること----
 まあ,一年二年ならさほど問題ないんですが,木もニカワも呼吸してますんで,なにもしなくても10年は保たない工作だと思いますよ。早ければ2~3年で根元が錆び朽ちてしまうでしょうね----よほど「奇跡的な」保存環境下にでもないかぎり。
 この作家さんの響き線は細め,線本体のサビはたいしたものじゃなさそうですが,裏板の下になってた基部のあたりは線の鉄分が滲み出して真っ黒いシミとなっております。アートナイフの先で擦ってみるとガサガサしており,感触からするとやっぱり芯までボロボロに腐っちゃってる感じですね。現状,なんとかつながってますが,激しくゆさぶられでもしたら,簡単にポッキリ逝っちゃいそうです。そういえば同じ作者の43号も,うちに届いた時には響き線が根元から折れて胴内で転がってましたっけねえ。

 棹孔の少し下に墨書----まあ「目」印?なんでしょうね。
 コッチがオモテでココが上,といったところでしょうか。あとは,上桁の棹口とか側板の中心線とかに指示線が入ってます。これもこの人の楽器の特徴なんですが,こういうのがぜんぶくッきりとした墨線なんですよね,エンピツじゃなく。
 国産月琴の多くは明治のころに作られてますが,多くの楽器でこういった工作の指示線を引くのにエンピツが使われています。時代が時代だし墨のほうが多そうなものですが,実際には墨でキッチリ線を引いてる例は少ないほうですね。


 表板は6枚,裏板は10枚まで矧ぎ目が確認できました。
 柏遊堂,板の矧ぎがあまり上手じゃなかったようですね。
 板を横に矧ぐ(継ぐ)とき,接着面となる辺の中心部分がすこし凹んでる感じに削る,っていうのはけっこう良く知られたテクニックなんですが----その加工をいくぶんやりすぎてます。(w)
 そりゃ割れますわ,ハガれますわな。
 表板は基本的に柾目板ですが,裏板はやや板目になってる板を組み合わせてますんで,木の収縮もあってそらも~バッキバキに割れてます。剥がす前で5つに分かれてましたが,作業中にさらにいくつかに細かくなっちゃいました。

 内部の様子も分かったところで,フィールドノートを(下画像クリックで別窓拡大)----

 ではさっそく,修理をはじめます。
 棹口の割レの修理のため,天の側板を分離します。ヒビ割れのところから板も浮いてるし,片側の接合部も元からハズれていたので,比較的簡単にハガレてくれました。

 うおぉおお……ハガした下からでッかい虫食いが出てきました!
 板ウラだけじゃなく,側板の端も少し食われてエグれちゃってますね。
 ここは後で穴埋めです。

 問題の割れ目は,裏まで完全に貫通はしていないものの,ほとんど皮一枚ってとこでしょうか。指を入れて広げると,けっこうカパカパ開いちゃいますよ。
 ニカワでやってもいいのですが,ここは「壊れるべきところ」じゃなく,本来の使用では壊れちゃいけないところ。力のかかる大事な部分だけに,修理後も安心して使用し続けてもらうため特に頑丈にしときたいので,エポキを使います。

 割れ目が狭いので,練ったエポキをエタノで緩め,クリアフォルダの切れ端などを使って流し込むように挿し,割れ目を開けたり閉じたりしながらじゅうぶんに行き渡らせてクランピング。はみでたぶんは綿棒などでしっかり拭き取っておきます。
 一晩おいて竹釘を打ち,裏に補強ブロックを接着します。

 棹口の補修には掟破りのエポキも使ったし,接着自体もうまくいったので,おそらくは単体でも大丈夫かとは思うのですが。ちょっと前に帰ってきた「ぼたんちゃん」もこの工作をしておいたおかげで,棹は半壊したのに胴体の損傷は軽微で済みました。なにごとも保険をかけとくのが正解ですね。
 材はカツラ。接着面を側板内がわのカーブに合わせて削るのが,毎度のことながら辛悩ですわい。
 この補強ブロックの接着はふつうにニカワです。ここは「壊れるべき時に壊れていい」ところです。後付けだし,衝撃吸収のためハガれてもいい,またもっと良い修理法が確立されたらそれに取り替えてもイイからですね。
 ----あ,もちろん手は抜いてませんよ。胴体が箱になったら手出しできなくなる内部の部品ですしね。ふつうに使ってたらけっしてハガれないよう,丁寧にくっつけておきます。(w)

 棹は角度の調整があるので,延長材をはずしておきます。
 基部を筆でじっくり湿らせた後,濡らした脱脂綿を巻き,ラップと輪ゴムでくるんで一晩。
 問題なくハガれてくれました。基部の加工はちょっとガタガタですが,接合の工作は比較的丁寧です。

 補修・補強をすませ,整形した天の側板に棹を挿してみます。
 棹の角度とか調整はあとでじっくりやるんで,この時点では棹基部が棹孔に通ればとりあえず合格。

 ----といったあたりで今回はここまで。


(つづく)


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