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月琴61号 マツタケ (3)

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斗酒庵いろいろみろり の巻2018.6~ 月琴61号 (3)

STEP3  Tricholoma bakamatsutake

 でわでわ----初代不識の高級月琴61号,修理開始いたします。まずはお飾り類をハガしてゆきましょう。

 なぜか山口のところにへっついてた第4フレットと,最終第8フレットの接着痕から白いアイツ,木工ボンドが出てきましたが,今回はこのくらいなようですね。
 まあでもいちおう呪っておきましょう(w)----これをやらかしたヤツ,三日連続して起きがけに足の小指をぶつけますように。ふんぎゅるぷぎゅる。

 事前の調査では,内部構造は響き線に多少サビが浮いているほかは問題ナシ。ほかの作家さんの楽器と違って,この人の月琴では表裏板と内桁の接着が強固。月琴の胴は「 "太鼓" ではなく "箱"」であるとちゃんと分かって作ってるからですね。
 「太鼓」ならば皮の材質と皮張りの工作如何で音が決まりますが,「箱」は各部の接着・接合がしっかりしていればしっかりしているほど,構造の全体が共鳴して音が良くなります。

 ただ,表板右の貫通した割れ目。中央がわが少し反って,割れ目から幅1センチほど内桁からハガれてますので,ここはしっかり再接着しておきたいところです。
 まずはお飾りはずしで板を濡らしたついでに,反ってる部分も湿らせ,当て木に板を渡して太ゴムで圧迫,軽く矯正しておきます。二日ほど置いて様子見,板が平らになったところで剥離部分を接着。次に割レを埋めます。

 左右の割レともに細いので,いちど断切りの刃先を入れてすこし広げてからにしましょう。ここに桐板を薄く削いだのを挿しこむんですが,なるべく奥まできっちり押しこみたいのに,そのままだと板が薄すぎてうまくいきません。そこで薄板が割れずにまっすぐ入るよう,横に添え木を渡して薄板を支えてもらいます。
 この楽器も割れたままでずいぶん長いこと放置されてたみたいですね。埋め木接着のため割レ目にお湯とニカワを挿したら,裏から真っ黒になった汁が出てきました。裏板ハガしたときの内部のホコリ,けっこうなものでしたが,アレもここらから入って行ったんでしょうねえ。

 右の長い割れ目と半月下の短い割れ目の間,地の側板の中央付近にもハガレが出てますので,これも接着しておきます。ここはいつも言ってる「楽器の背骨」にあたる部分。月琴の修理は内部構造とこの「楽器の背骨」から始めるのが基本です。あらかじめこういうの部分さえ固めておけば,ちょっとぐらい無茶な工作してもだいたいは保ちます。
 翌日,長いほうの割れ目の埋め木を整形,短いほうの割レを埋めます。ついでに数箇所,バチ皮の貼られていたあたりに虫食いによる浅いエグレ,あと裏板がわから見て棹口の左がわにも板から侵入した虫による食害部分がありますんで,こちらも木粉粘土で埋めておきます。

 続いて響き線のお手入れ。

 不識の楽器の響き線はやや太目で,形状も直線ですからお手入れはラク。よほど錆びついていないかぎりポッキリ逝ったりしませんからね(w)

 まずは下にラップを敷き,サビやら汁やらがこぼれないようにします。月琴の板は「ヤシャブシ」という染料で染められているのですが,これが鉄と反応しやすい。ちょっとした鉄粉でも時間が立つと空気中の水分と結合して黒いシミの原因になってしまったりしますので。
 まずは表面を Shinex#400 で擦ってサビ落とし,#1500 くらいので磨いたら,柿渋を塗布。一度目のはキレイに拭き取もう一度塗って表面に黒い被膜を作ります。
 柿渋のほうがヤシャブシよりも反応が早いですからね。塗った瞬間から真っ黒になってゆきますです----ああ,やっぱりカガクってスゲぇなぁ(w)
 柿渋が乾いたところで布でよーく拭い,ラックニスを軽く刷いてできあがりです。
 作業が終わったらラップをはがし,まるめてポイしましょう。鉄粉がこぼれないよう,慎重に~ですよ~。

 ついでに原作者のつけたこのでっかいスペーサも整形しときます。接着自体は強固でしたので,ハミ出してる部分を切り取るだけですね。

 修理前の計測によると,この楽器の棹ははじめから山口のところでちゃんと3ミリ背がわに傾いております。位置や角度のほうは問題ないんですが,取付にややガタが出てまして,棹に力がかかるとややお辞儀をするのと,楽器のお尻がわから見てわずかに右方向へネジれていました。基部の左右と先端背がわにツキ板を貼って調整します。

 胴との接合面の微調整とスペーサ3枚で解決できるあたりはさすがですが,不識のウデマエから考えると若干調整が甘い----これも大量生産期の弊害でしょうか。

 大流行したといっても,月琴はそんなに高額な楽器ではなく,利益率はあまり良くありません。箏とか三味線に比べると,薄利多売で儲けるしかない楽器なんですね。当時は流行りに乗って,作れば作ったぶん売れたんでしょうが,あまりに仕事が増えすぎれば工作精度が下がる,あたりまえのことですね。
 まあこの楽器の場合は,初代不識なのでこの程度で済んでるって感じもないではありませんが,庵主がいままで見てきた中にも,内桁を省略しているもの,ギターみたいに棹を接着してるのとか,響き線に焼きも入ってないただのハリガネぶッこんでるのなんかがありました。ああいうのもほとんどは,大流行期の無知と大量生産のためのコストの追求から生まれたもンだったんでしょうねえ。



(つづく)


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