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月琴61号 マツタケ (終)

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斗酒庵いろいろみろり の巻2018.6~ 月琴61号 (終)

STEP5 香りマツタケ味シメジ

 さて,組立てです。
 今回は7枚残っているオリジナルのフレットが,材質も加工も良いのでそのまま使おうと思うのですが,量産期の月琴のフレットというものは,寸法表とか型みたいなものに合わせ本体とは別口で作られていたらしく,歩留まりを少なくするためかなり低めに作られています。

 庵主がいつもやっているよう,実器合わせでフレットを削り,頭を糸のギリギリにすると,運指も楽になるし音も正確に出せ理想的ではありますが。量産を考えると,それぞれ一面ごと各8枚のフレット一枚一枚,精密に調整・加工するというのは手間も時間もかかって大変です。しかしそういう理想的な設定の数割ていど全体均等に低く作れば,運指のなめらかさや音の正確さはいくぶん失われますが,寸法表に合わせるていどの大雑把な加工でも,楽器本体に工作の誤差が多少あっても使用可能なフレットをあらかじめ大量に作っておくことができます。あんまり低くしすぎると糸の押し込みのせいで音程が狂ってしまいますが,「どの楽器につけても(さほど)支障が出ない」というくらいのレベルのものなら,さして難しくはなかったことでしょう。
 当時は今と違って音を視覚的に,正確に把握できるチューナーみたいな道具もなかったですし。フレットの位置(=音階)はだいたいのところが合っていればよく,高さはとにかくビビリが発生しなければヨイ,といった認識だったんだと思いますね。

 まずは山口とフレット,あと補作した第6フレットを並べ,オリジナルの音階を調べます。

開放
4C4D+124E-114F+144G+124A+75C-145Eb-245F-5F#
4G4A+104B-105C+115D+145E+25G-175A+456C+20

 初代不識の楽器…というより渓派準拠の楽器は,関西のものや唐物月琴に比べるともともとやや西洋音階に近い設定になってるのが特徴です。実際,下のようにオリジナルとチューナーできっちり西洋音階準拠に並べ替えた時の画像をならべてみても,ほとんど差異が分かりません。この楽器もEをのぞけば,全体10%高いくらいですもんね。この開放からの第3音が低いのは清楽の音階の特徴ですが,このくらいだと実際に弾いてみても音階的にそれほどの違和感を感じません。東京あたりはいち早く西洋音楽が流入して広がっていったので,そういう影響もあったかもしれませんね。

 さてさて,補作の山口が高さ12ミリで,棹の傾きが約3ミリ。オリジナルの工作だと,半月での弦高が意外と高くて 8.5ミリほどのところから糸が出てました----もうちょっと下になると思ってたんですが----これで糸を張ったら弦高は表板の水平面とほぼ平行になりました。

 楽器の設定としてはこれでもいいんですが,最初に書いたようにフレット自体が理想値より低めに作られているため,このままだと第1フレットの頭から糸までの間が2ミリちょい,最終フレットでは5ミリ以上も開いてしまうんですね。この半分ていどならまあ許容範囲なのですが,さすがにこれではどこのフレットでも糸をいちいち押しこまなければならず,音が安定しません。
 糸のコースも理想としては,山口のほうが1~2ミリほど高く半月に向かってゆるやかに下ってゆくようになってるのが良いんですが。山口はもともとこれでも高めの設定。また現状,第1フレットからしてすでに低すぎる状態ですから,これ以上山口のほうを高くしても,スキマが開くだけになってしまいます。

 いちばんカンタンな解決法は,現在の弦高に合わせてフレットを全部作り替えちゃうことなんですが(w),今回はこのオリジナル・フレットを活かそうという主旨なので,楽器本体のほうにいささか手を加えることとします。
 まずは半月にやや厚めのゲタを噛ませました。材は黒檀。これで半月での弦高は 7.5ミリと約1ミリ低くなり,あとは第1フレットに合わせて山口の底を1ミリ削って11ミリに。これで第1フレットの頭はけっこう糸ギリに近くなり,棹の傾き3ミリを引いても,0.5ミリ山口がわが高い設定となりました。まあたった0.5ミリ……ちょとギリギリですが,楽器としてもこちらとしてもこれがギリギリの妥協点(w),運指もずいぶん楽になり,ほぼフェザータッチで音が出るようになりました。

 せっかくの高級楽器,見かけだけでなくちゃんと「それなりの人が使っても」使えるくらいにしておきたいですもんね。


 左右のニラミ,扇飾りはともに唐木製でした。損傷もなく,軽く油拭きしただけでほぼ元の色ツヤを取り戻します。数日置いて油が乾いたところで,補作の蓮頭などとともに貼りつけましょ。

 バチ布には「蘭」の模様の布を。
 かなり前からあって,模様はいいンでいちど使ってみたかったんですが,これ色合いが少々微妙でして………(^_^;)
 以前にも柿渋で染め直してみたことがあったんですが,イマイチでした。今回はこれをヤシャブシ染,ミョウバン媒染で染めてみます。
 もとが青っぽい色だったので地色が緑に,模様の銀色は金色っぽくなってくれました----これなら大丈夫!
 ニラミが「菊」なので「蘭(この場合はラン科の植物じゃなくオミナエシの類)」が加わるとそれだけで「秋風辞」だなあとか思いつつ。

 2018年7月3日,自出し月琴61号,
 修理完了いたしました!!

 ちょーエコロジィ全自動冷暖房「大自然」(w)装備のわが部屋は,夏温かく冬涼しいため,本格的な夏暑が続くと作業不能,やッたら死ぬ,の状態(泣)になります。この6月は例年に比べるとやたら暑かったもののその間隙をぬって作業を進め,なんとか夏の帰省前に修理を終わらせることができました。
 依頼修理なんかではこの時期「完成は秋以降になるけど…」とお断りすることもありますからね。

 さて,いままで扱った石田義雄(初代不識)の楽器の中では,おそらくいちばんの高級品であろう61号----月琴としてのその音にはもちろん文句がありません。いかにも唐木使用の楽器らしく,低音はずっしり重く,高音はコロコロと軽やか。
 低音弦と高音弦の間で少し音のメリハリに差があるのと,高音高音域で多少余韻に金属的な倍音が感じられ,庵主的には耳につきますが,このあたりは好みですね。
 弦高の調整で運指を追求しましたので,操作性には問題ナシ。ただやはり,棹が糸倉からなかごまで紫檀のムクなのに対し,胴はサクラに唐木の薄板を巻いたものですのでバランス的に多少ヘッド・ヘビーなところがありますが,座奏のときいつもより楽器をわずかに倒して弾くとさほどの支障にはなりません。

 あとは不識の月琴に共通した点として,関西方面で作られていた楽器や関東だと唐木屋あたりの楽器に慣れてると,棹が長かったり,楽器のバランス位置が異なったりしますんで多少慣れるのに時間がかかろうかと。
 庵主の場合ははじめに触った月琴がこの人のでしたので何も問題ありませんでしたが。(w)

 勧業博の賞牌のマークは銅板印刷なのでイマイチ真似できんかったのですが,修理札代わりに不識の錦町時代のラベルを偽造して貼りつけておきましょう。贋作(w)なので一部の文字の画を違えて,ワタシのハンコも捺してあります。

 黒々とした紫檀の棹,ほの赤く照る継ぎ目のない胴側。
 唐木の深みを湛えたニラミと扇飾り,半月。
 スラリとした棹のフォルムとも相俟って,美しい楽器。
 音量も結構あるので,ちょっとした会場ならライブ用にも使えますね.

 いまだ銘は決まってませんがこの61号,先に修理した同じく不識作の57号時・不知とともにお嫁入り先募集中!
 修理記見ててなんかピンときた!----とか。
 ワレこそは!----と思わん方はご連絡アレ。
 

(おわり)


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