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柏遊堂5 パラジャーノフ (5)

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斗酒庵いろいろみろり の巻2018.6~ 柏遊堂5 (5)

STEP5 村いちばんの若者

 この期におよんでクギ?
 …クギとなッ!?


 月琴の修理はなにしろ,演奏不能な「古物」の状態からの出発。演奏可能な状態になってみてはじめて分かるような不具合も多々ございますが,じっさい,こんな仕上げの間際になってこれだけの事態が見つかるのは珍しい。
 あわててもう一度全体を調べ直しましたが,打たれてたクギはどうやらこの2本だけのようです----よかったぁ。
 こういう素人修理で打たれた鉄釘は楽器にとって癌の腫瘍であり最悪の病巣,さッさと摘出して適切な手当てをしとかないと,無限に近いはずの楽器の寿命が大きく縮んでしまいます。
 まずこれを打ったヤツ(もう逝ってるかもしれませんが)に, ギックリ腰と足の小指の付け根に魚の目20年分の呪い をかけた後,修理に入ります。

 釘は細いものですが,細工釘とかではなくふつうの鉄釘ですね。打たれてからけっこう年月が経っているらしく,サビが板のほうにも滲みだしています。
 ふぅッ----とアタマの中に40号クギ子さんの悪夢が甦りました。

 とにもかくにも。頭を落としてあるのでそのままでは抜き出せません。
 1本はアートナイフで釘の周縁の板を彫り込みペンチで引き抜きましたが,もう1本は芯まで腐っており,ペンチではさんだとたん一瞬で砕け散る始末。側板に入ってる部分ももはやほとんどクギといえるような形状を保ってはいないようです。こちらはもう引き抜くのを諦めて,2ミリのドリルで赤錆のカタマリごとほじくりました。
 ドリルからあがってくる粉が,もう木の色じゃなく鉄の粉の色になってましたわい。

 この釘打ち補修箇所と,最初のほうでやった表板の虫食い補修箇所のうちもっと大きな二箇所は,パテ埋めだけだとちょっと目立っちゃうので,もう一手間かけることにしました----右画像は過去の修理において虫食いで除去した古い板。中のほうは食われてスカスカ,皮一枚になっちゃってますが,これのその「皮」の部分を使います。
 パテ埋めした箇所の表面を少し削り,この「皮」を移植。接着してあとで平らに均します。
 キレイに直そうと思うなら本来こうするのが本式なんですが,比較的直線的な食害痕にしか使えないのが玉に瑕。複雑なグニャグニャ溝や,細い食害が集中しているような場所だと却って目立っちゃうのが欠点ですね。

 さて,最期のほうで思わぬ事態も発生しましたが,これで胴体の修理も今度こそ完了!
 仕上げに向けて進んでゆきましょう----と,心根もあらたに組み立て,フレッティングまで進みましたところ。
 おや……フレットがなんだかずいぶん左右非対称になるなぁ。
 棹の調整は3度もやりなおし,棹の傾きもバッチリ。指板の端と表板の接合部だって面一で触っても接合部が分からないくらい……段差なんかないし傾いてもいないハズですよ?
 ははあ,こりゃオリジナルの山口の加工がまずってたのかな,と我点してお尻のがわから糸倉のほうを眺めてみた結果。

 ………棹が,ねじれてます。(泣)

 それも根元先端から全体的に,ではなく棹のちょうど真ん中らへんから左方向へ回転するような感じで。

 うわああぁぁあん!

 まあ「棹のねじれ」ってのは,糸倉の頭からなかごまで一木作りの不識の楽器などではけっこうある事態なんですが,月琴の場合,三味線やギターと違って棹が極端に短いし,弦も絹糸が主なので,弦圧によって棹が変形するといった故障は滅多にありません。ましてやこのレベルの普及品の楽器では棹はホオやカツラといった,木材としては軟らかいが比較的安定した材料が用いられます。スゴいテンションでギリギリに糸張り続けたとか,棹のほうを下にして置いて上に荷物載せてた(w)とかいうような事態でもない限り----あ,そういえばこの楽器,棹と胴がホオじゃなくエンジュかトチだったか……狂いの度合いについては知らないけど,エンジュはたしか乾燥の難しい材だったはずだ。
 くーそー。

 今度はいちど,フレッティングのとこまで進んだんですが(泣)
 いちど棹を抜いて4度目の棹調整作業に入ります。
 測ってみたところ山口の上辺左右に傾きはありませんでした。棹のねじれが製作当初からのものだとすれば,この山口の左右も傾けてあるはずですので,このねじれは無使用保管中に生じたものと推測されます。
 まずはこの山口の上辺を基準として,棹指板面と胴表板面が面一になるよう調整をします。

 棹の基部を削ったりツキ板を貼ったりして,お尻がわから見た時,山口上辺と半月の上端が平行になるよう,左右の傾きを調整すると,胴との接合部のところで,ねじれのぶん指板の左がわがもちあがりました。そこで棹を挿した状態でこれを削り,指板面と表板を面一に近づけます。
 意外とけっこうなねじれで,ギッチリ合わせると1ミリ近く削らなきゃならなくなるようだったため,削り直しはほどほどのところで止め,あとは棹上のフレットの左右をわずかに傾けることで対処することにしました。あんまり削ると今度はせっかく直した棹の傾きとか,棹自体の操作性に影響が出そうでしたので。これでも最初の状態よりははるかにマシになってますし,器体への影響も考慮するとこのあたりが限界,棹自体の材取りおよび工作のマズサせいもありますので,これ以上は新材で棹ぜんぶ作り直しちゃったほうが早いかと。

 調整を終えた棹の指板面,染めがすっかりハガれて木地がでちゃってますので染め直しです。
 刷け塗りだと時間と回数のかかる分,水気が内部まで滲みてまたぞろねじれの原因ともなりかねませんので,濃いめの染料をたっぷり刷いてラップがけ。部分的に,イッキに染め上げます。
 ミョウバン媒染でも同じようなことをし,発色後,乾燥させて油拭き,油が乾いたところで柿渋塗布,ロウ磨き仕上げ----修理前の状態だとスオウがだいぶん褪せちゃってたんですが,製作当初はこんな感じの色合いだったと思いますね。

 仕上げ直前でつぎからつぎへと襲いくる不具合!
 ううむ…これぞまさしく「三歩歩いて五歩さがる」のノロイ。(汗)


(つづく)


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