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柏遊堂5 パラジャーノフ (6)

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斗酒庵いろいろみろり の巻2018.6~ 柏遊堂5 (6)

STEP6 告白

 さてさてさて,こんどこそ組立てこんどこそ仕上げ……
 お願い!もうナニも起こらないでえッ!!!(泣)

 色の褪せてた側板を染め直します。
 指板と同じくスオウ染めミョウバン媒染。乾性油を染ませて乾いたところで柿渋塗布。ロウ磨きで仕上げです。

 同時進行で再びのフレッティング。
 まずはオリジナル位置にフレットをたてた時の音階を----

開放
4C4D+104E-434F+114G+114A+55C-C#5D+125F+24
4G4A+44B-425C+95D+145E-145G+215A+86C+14

 棹角度をかなり変更しているので,数値は参考程度のものとなります。
 第2フレット,開放からの第3音が半音近く下がってますね。毎回書いてるように,この音が若干低いのが清楽の音階の特徴の一つなんですが,これはさすがに下がり過ぎ。そのほかの部分は最大でも誤差が20%,だいたいは10%代でそろってますから,これもまた先の初代不識・61号同様,西洋音階に比較的近い並びになっていたと思われます。

 原音階の調査後,チューナーを使って西洋音階準拠で立て直してみると,第3フレットの位置がけっこう大きくズレ,フレットの丈が合わなくなってしまったため作り直しました。第2・3フレット間は間隔がせまいため,高さの差が一定以上になると押さえにくく,音を出しにくくなってしまうのですね。2枚のフレットがほとんど同じ高さ,わずかの差になってないとフェザータッチでの発音が実現できないんで,ちょっと難しいところです。

 で,第3フレットの丈が高くなると,こんどは従前の高さに合わせていた第4フレットがガクッっと低くなっちゃうのは理の自然----これも作り直し(^_^;)
 月琴のフレットは丈が高く,また棹に角度もついてる関係で,フレットの高さは単純な減衰線を描きません。この楽器は関東風の作りですので第4フレットまでが棹の上ですが,だいたいはこの第4~第5フレットのところでガクーッと丈が低くなります。今回は第3フレットがわずかに移動して高さが変わった関係もあって,ガクーッと低くなるポイントが,第4から第5フレットに移ったということですね。単純な構造の楽器ではありますが,このあたりは実に微妙なものです。

 第3フレットは尺合調(D/G調弦)の時,第4フレットはふだんのC/G調弦の時の糸合わせに使われるため,正確な音程の求められる大事なフレットですし,ここらのフレットの高低差がうまい具合になだらかになっていないと,正直かなり弾きにくい楽器になっちゃいますので,位置と高さの調整では特に気を配る箇所----ここまできてこんくらいの手間ならもう「三歩進んで五歩さがる」とか言っておられません(w)

 こちらも61号同様,そのままだと若干半月での弦高が高いようなので,オリジナルの音階を測った後,半月に象牙の端材でゲタを噛ませ,1ミリほど弦高を下げました。山口の丈は削ってないので,低音域ではほとんど変わりませんが,高音域でフレットと糸との間がぐっと近くなるので,運指への反応や音の安定が改善されます。

 調整の終わったフレットは表面をよく磨いて,染め汁にドボン。一晩漬け込みます。
 翌朝これを取出し乾かした後,薄目に溶いたラックニスを染ませてさらに2~3日乾燥。竹のフレットは,唐物・国産通じて月琴でもっとも一般的なもの。調整や加工はラクなんですが,けっこう手をかけないといかにも安っぽく見えてしまいますので「作った後の作業」のほうがタイヘン(w)かもしれません。唐木や骨・牙の類だと,だいたいは磨けばそこで作業終了ですもんね。

 フレットの仕上げ作業とほぼ同時進行で,お飾り類も染め直します。
 この楽器のお飾りの材はホオの薄板ですね。スオウで染めてありますが,色褪せちゃって白っぽくなっちゃってました。スオウをかけてオハグロで鉄媒染。ごく軽く油拭きした後,ラックニスをタンポ塗り----ザクロの色が甦ります。

 仕上がったフレットとお飾り類を接着し,板の補修個所にちょちょいと補彩を施して。

 七夕前日の2018年7月6日。
 依頼修理の柏遊堂,修理完了しました!

 ふだんですとそれほど差はないんですが,今回の楽器では修理前の画像とくらべると,棹の傾きがけっこう変わってるのが分かりましょう。

 いつも書いてるとおり,キレイなバラにはトゲがあり,キレイな古物にゃアラがある----の典型的修理でした(w)  いや,今こうして見比べてみても思うんですが,修理前の状態,ほんとにキレイなんですよね。フレットは数本とんでますが,糸巻もそろってるし一見そんなに汚れてない。
 けれど修理前の画像とノートをあらためて見かえしてみますと。
 この楽器,表裏板の清掃の時の観察から,本体にほとんど使用痕がなかったにもかかわらず。表板の下縁部と棹の左右あたりが妙に黒ずんでいました。ふつうだとこれは使用による手擦れなのですが,すでに書いたように表板には楽器として使った痕跡----バチ痕等が見えないわけですから,何かがオカシい…今にしてみればこれ,古物屋さんによる「修理」の痕跡だったわけですね。おそらくは汚れた状態で補修作業をした際に,接着に使ったニカワがゆるすぎてこぼれたりあふれたりし,それが滲みて清掃前の汚れが残ってしまっていたのではないかと。
 やれやれ…ボンドべったりにくらべると手間は少なかったものの,今回も素人古物屋さんの仕業に苦しめられた修理でした(w)

 音は国産月琴らしい,コロコロとした,耳触りの良い素直な音がします。
 普及品レベルの楽器なのでドスも効きませんし,音量や音の深みはさほど出ませんが,細い響き線の効きはよく,直線特有のすーっと減衰してゆく余韻がキレイにかかります。線鳴りは少ないほう,けっこう崩れた姿勢で弾いていても,響き線はそれなりに効いてます。
 演奏姿勢にあまり制限がないのと,棹およびフレット周りの調整をしつこくくりかえしたおかげで操作性は上々。糸を押しこまなくてもほぼフェザータッチで発音されます。

 あとバチ布に貼った「荒磯」,以前の修理で複数作ったのの最後の一枚なんですが,これがバッチリはまった感じでよく似合いましたねえ。(自己満足www)

 いちおう注意点も書いておきますと,再接着に妙に手古摺った棹基部とあたらしい延長材のあたりに若干不安が残ります----これはどうやら木の「相性」に由来するらしいので今ひとつどうなるかハッキリしません。調弦がうまくいかないだとか,糸張ってるとなんか棹が持ち上がる,みたいな症状が出たらこのあたりの故障が原因ですのですぐにご連絡ください。
 あとは虫食いを補修した糸巻がある日突然ポッキンとなるかもしれませんが,このあたりはそうなってからでないと次の対策がたてられませんので,今のところはむしろぶッ壊してやるおつもりで,気にせずガンガンと弾いてやってくださいね。

(おわり)


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