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柏遊堂5 パラジャーノフ (4)

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斗酒庵いろいろみろり の巻2018.6~ 柏遊堂5 (4)

STEP4  火の馬

 新しい延長材の接合で三回しくじり,そのたびに調整をやり直したのでけっこう時間を食われちゃったものの。
 表板の割レ,胴材との剥離部分,響き線の手入れ,そしていつものように接合部を和紙で補強,と一通りのことは済みましたので,裏を閉じようと思います。
 第2回目でも書いたように,この楽器の作者は桐板の矧ぎがあまり上手じゃなく,裏板は剥離の段階で4枚ほどに,その後の補修作業中にさらに割れてほとんどバラバラみたいな状態になってしまいました----いや,ほんとヘタクソ(w)

 まずはこれを矧ぎなおして3枚にまとめます。
 きちんとつくよう矧ぎ面を再度整形,ニカワを塗ってそこらの板の上に並べ,左右からちょっと圧をかけながら半日ほど置きます。


 ちなみに右画像は明治時代の木工技術の本から。
 いまの指物屋さんや楽器職のかたならハタガネとか使うところですが。ひもが皮ひもとか麻紐からゴムになっただけで,庵主やってることはこれと基本的には変わりません。
 まあ桐板は接着の良い材ということもありますが,レトロな技術でもなんとかなるものはなんとかなるということで。

 ややお粗末な板の工作に対して,胴材には狂いがほとんどなく,接合部はほぼ健全な状態。こちらの木の仕事はほぼ完璧のようです。胴の変形幅がわずかなので,スペーサを入れるスキマもごく細いもので済みます。

 板クランプではさんで圧着後,スペーサを入れて整形。表裏板の清掃に入ります。

 見た感じ,そんなに酷くなさそうだったんですがけっこうヨゴれてました。洗浄に使った重曹水が真っ黒になりました。そういえば,前に扱った52号は同じ作者で,かなり奇跡的といえるような保存状態だったんですが,表裏板の染めはごく薄く,ほぼ真っ白みたいな感じでしたもんね。
 この楽器も,ほかの楽器と比べるとそんなに色濃くなかったんですが,実のところこれでかなり変色しちゃってた,ってことなんでしょう。

 板が乾いたところで半月を戻します。
 いちおう糸倉から糸を引いて調べてみましたが,左右の傾きがわずかにあったくらいで,ほぼ元の位置に貼り直して問題ないようです。

 その作業をしている最中に,表板の半月の真下あたりに剥離が発生。
 以前に一度割れて修理されたことがある箇所だったらしく,お湯を含ませたら劣化した古いニカワが滲みだしてきました。さらにお湯を挿し,割れ部分をもみこんでこれをあるていど除いてから,新しいニカワを入れて固定します。

 これから半月つけようって時にもう!----場所が場所だけに処置しとかないと先に進めませんもんね。
 ううむ,延長材の件でもそうだったんですが…前に進もうとすると新しい障害が現れて,前の地点より後退してしまう。なんかこの修理,「三歩あるいて五歩さがる」のノロイでもかかってるんじゃないかって気がします。(w)

 剥離個所と半月の接着をしながら,ほかの部品のお手入れも済ませてゆきましょう。
 まずは山口。
 破損はなく,材質は紫檀のようですし高さも11ミリとふつうなので,このまま使ってもいいんですが,多少厚ぼったい。
 おそらくは棹の傾きが過度だったため,この形じゃないと山口の上面に弦がきちんと乗っからなかったんでしょうが,傾きを浅くしたいま,上面のアールがゆるいので,このままだと逆に弦が引っかかりすぎます。
 山口と弦の接触部分がせまいと弦の安定が悪くなりますし,逆にべたーっと乗りすぎてるとそれはそれで余計なノイズの原因になってしまいますので,少しシェイプして弦との接触面をせまくしときましょう。

 おつぎに糸巻。
 この楽器の糸巻はオリジナルのものが4本そろってましたが,握りのお尻のところをネズミに齧られて少し手に触る部分のあるものが1本あります。
 まあ,このくらいなら唐木の粉をエポキで練ったパテでちょちょいと----

 うん,これでネズミの齧ったガタガタが,指先にひっかからなくなりました。
 そのほかの糸巻もいちおう点検していたところ,1本の糸巻の先端がわになにやらウロンな孔ポコを発見。その孔に針をさしこんで触診してみますと………おおぅ,ズブっと逝きますねこりゃ。

 針先でかんまわしたら粉状になった木屑も出てきました。
 けっこう盛大に食われちゃってますねえ。
 まずはこの孔からエタノールを流し込むなどして,食害がどう広がってるのかを調べてみます。孔は1センチほど進んだところで左右に分かれ,先端方向へ向かって糸孔のちょと手前のあたりまでトンネルになっているもよう。
 握り部分の孔は広げられるだけ広げ,ほかの食害部分もできるだけホジくります。

 ----こんなンなりました(泣)

 補修はまず,エタノールでシャバシャバに緩めたエポキを,これでもかってくらい上の孔と下の溝から流し込むところから。つぎにそれがまだ固まらないうちに,エポキで唐木の粉を練ったものを充填。どっちかの孔から押し込むと,ほかのどっかからニョロリするくらいに押しこんだら,エポキがだんだん固まってくる間,表面にあふれだしたぶんを指先や爪楊枝の先を落としたものでさらにつめこんでギッチギチにします。
 糸巻は力のかかるところですので,ニカワなどを使った伝統的な技法では,虫食い部分を除去して複雑な木組で別木をはめこむぐらいしか方法がありません。庵主さすがにそこまでの技量はありませんのでここは現代カガクに頼らせていただきます。
 虫食いが比較的単純な形状でしたので,これであんがい保つと思いますが,まあ折れちゃったら今度こそあきらめて新しいの1本削りますのでご安心を。(^_^;)
 作業箇所をスオウとオハグロで染め直すと----ほらもう,そう簡単には分からない。

 半月とその下の剥離部分の接着が終わったので,クランプをはずし,圧着の時ヘンに力がかかってヘコんじゃったところがないかな。と,表板の周縁部をなでていたら,その剥離していたあたりで,なにやらイヤ~な感触が指先に……

 ……クギ,ですね。

 きわめて細いクギなうえ,頭を落としてあったのでぜんぜん気づきませんでしたが,あらためてよーく見るとクギの周りに鉄滲みがうっすら丸く広がってます。表板の清掃とここの再接着で濡らしたところに圧をかけたものですから,桐板がわずかに沈んで,桐の頭が指先にひっかかるようになったんですね。
 さっきも書いたよう,この部分は庵主の前に一度修理した者がいたようなんですが,そいつのシワザですねこりゃ。板がカパカパに開いちゃったもんで,ニカワだけじゃシンパイになって打ち込んだんでしょうが……くーそー! 前にも書いたけど桐板にクギは効きませぬ。「桐にクギ」は「糠にクギ」と同じなんだぞおッ!!
 補強の効果がないうえに,錆びて板や部材に悪影響を及ぼすシロモノです。これはしっかり取り除いておかなきゃなりません!
 ああ,やっぱりこの修理「三歩あるいて五歩さがる」の呪いがかかってますわあ(泣)



(つづく)


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