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改訂版・斗酒庵流月琴ピック製作記

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斗酒庵流月琴ピック製作記最新版! 改訂版・斗酒庵流月琴ピック製作記

STEP0 「圧力鍋あれ」と主人はおっしゃられた の巻

 製作法のより詳しい記事は こちら をご覧ください!

ああ!-----
ブタのナンコツが………牛スジが……トロットロにっ!トロトロにッ!!!

 ----というわけで,次は角煮だ。斗酒庵主人です。

 今季の製作では,買ったばかりの圧力鍋(中古)が大活躍いたしました。
 材料や製作法の概要は,前回とほぼ同じですね。

 まずはペットショップで買ってきた牛のヒヅメ(ナチュラルタイプ,スモークしてないもの)を二晩ほど水に漬けて,糸鋸で3つ(軸側壁・蹄側・蹄底)に切り分けます。


 続く「蒸す」の工程。
 水に漬けただけだと素材が硬く,その後の作業がしやすいように平らにするにも限界があったため,前回の製作から導入したものですが。
 これまでは普通のお鍋で数時間かけてやっていたところ。
 こちらだと炊き時間蒸らし時間含めて小一時間ほど!……圧力鍋,おそろしい子。

 従来の蒸しですと,板が薄くても厚くても,どんなに長く炊いても蒸気が通るのは途中までで,板の「芯」の部分まで蒸しがかかることはありませんでしたが,今回は圧力がかかるまで20分ほど,シュンシュン言ってから30分ほど炊いたら,薄いものなどふにゃっふにゃのクタックタになりました。
 1時間も炊けば,あんがいお醤油かけて食べられる(w)くらいになるかもしれませんね。


 火熨し>乾燥>

 圧力鍋のおかげで,芯に近いところまで柔らかくなってます。このためこの「火熨し」でクランプをかけて潰す時も割れが入らず,表面が平らになるのはもちろん,最初から安心してより強い圧をかけられます。これで適度な熱を与えれば,従来より繊維ががっちりと癒着した,密度の高い,より均一で強固な素材を作ることができるかと。

 欠点としては,素材に蒸気が芯まで通ってしまっているぶん,材料の含水率が高いようで。
 その後の乾燥での変形が,前よりもやや顕著に出ることでしょうか。

 1週間ほどの乾燥期間のあいだに,修整のための焼き直しが数度必要なものもありましたが,はじめの焼きで前より圧縮され,密度が高くなっているためか,火が強すぎないように注意している限り,多少焦げても被害はごく表層で止まり,従来のように芯までモロくなって使えなくなるようなものは,ほとんどありませんでした。


 切り分け>1次整形

 カタいです。
 従来の材料よりカタめですね。
 でも唐木のようなモロい硬さではなく,中身のぎゅっと詰まったメイプル材とかトチ材のような,しなやかさのある硬さです。

 素材の整形のため焼き直ししたものが多かったので,表面に焦げがついちゃったものが多かったのですが,上にも書いたとおり焦げが深く入ってしまっているものは少なく,ごく表層だけなので,食べ物の殻でもはずすつもりで,オレンジ色の削りかすが出なくなるとこまで削ります。
 「焦げた部分」はカタいですがモロく,これが残っているとヒビ割れや折れの原因となります----長持ちしなくなっちゃうんですね。
 ただその焦げの部分の表面がカタさまたハンパないため,せっかく乾燥させたものですが,10分ほど水につけてからじゃないとうまく削れません。


 油焼き>2次整形(仕上げ)

 ここで板にもう一度「焼き」を入れて,ピックにしっかりした「芯」を作ります。
 1次整形で中心部分がより圧縮されるように,表裏の中心部分が少し盛り上がってるように削っておくんですね。(前回の記事に図説アリ)
 こうして整形した「素体」を亜麻仁油にどぷんと漬けて引き出し,鉄板にはさんで焼き上げます。

 10分ほど片面を焼いてから,板が熱いうちに鉄板ごとひっくりかえしてクランプをつけなおし,新たに締め上げて,3分ほどおいてから反対の面を焼くのですが,ここでの潰れ具合も従来より大きいですね。

 2次整形に変更点はありません。

 簪などで,ベッコウ製のものと馬・牛のヒヅメで作ったものの見分けかたは,灯りに向けてよく見ると,繊維の筋が見えるかどうか----というのが古物屋の小僧として教えてもらった知識の一つなんですが……ヤバイですね。
 「蹄底」(ヒヅメの靴底にあたる部分)からの板は,もともと繊維が長く縦方向に入っていることと,ほかの部分よりやや柔らかいので,この筋が見分けにくいのが多かったんですが,今回の場合「蹄側」(甲にあたる部分,いちばん大きい)からとったのでもモノによってはこの繊維の筋がほとんど見えません。

 「蹄底」の部分の板には,繊維の方向と焼きの関係で「変彩」(光の方向によって反射が変わる)が出ちゃいますので,筋が見えなくても誤魔化せませんが,「蹄側」の板だとそれもあまりないため,ほとんど分かりません。5分,10分見てると,焼きの甘い部分や端っこのほうにうすーく残ってるのが見えてくるんですが,パッと見だとまず気づかないんじゃないかな?

 芯まで柔らかくできて,素体段階までの整形と圧縮はより容易になりましたが,やはり材料の含水率の問題で,完成後の変形もややしやすいようです。まあ「とくにヒドい」というほどではありませんし,2度目の焼きをよりじっくり行うことと,油焼きの後の乾燥時に修整することで,この点はあるていど予防可能な様子。
 次回の製作では,そのあたりをまた追求してみましょう。

  過去・現在の,すべての職人。そして圧力鍋さまに,感謝。

 付記:ちなみに庵主はピックをこういうふうに持っています。(画像クリックで別窓拡大)

 まあ,トレモロ特化の演奏をするための握りなんで,ふつうにピンカラ弾くだけなら,エンピツ握りでかまいませんよ。(w)

 力を入れてるのは親指ですね。
 動かすのは中指
 親指と人差指の2本は支えてるだけで,ほとんど動かしません。
 人差し指を支点にして,中指の腹でピックを押し上げ,往復運動させます。

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