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月琴60号(4)/おせんさん(3)

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斗酒庵いろいろみろり の巻2018.6~ 月琴60号(4)/おせんさん(3)

 さて,自出月琴60号および依頼修理のおせんさん。
 ともに分解作業まで進んだところで,今回はここまでの調査のまとめとしてフィールドノートを。
 フィールドノートの各画像は,クリックで別窓拡大されます。
 細かい寸法とか参照されたいかたはどうぞ。
 まずは60号から----

60号・STEP4 マルコメの園

 棹なかごが丸棒状だったのにはちょー驚かされましたが。(^_^;)
 胴径:343は国産月琴の平均からだいたい1センチちょい小さく,有効弦長:387は2~2.5センチくらい短い。全長だと2~3センチ,石田不識みたいな大型の月琴と比較すると5センチくらいも短くなります。
 しかし全体の構造から考えて,これは楽器として小型高音の月琴を目指したのではなく,庵主のウサ琴のように,材料か工具の制限からくる小型化だったと思われます。
 そのあたりも含め,原作者には月琴という楽器またその構造に関しある程度の知見はあったようですが,その工作には量産を意図しない----きわめてワンオフ的な手間が見てとれます。他人に頼まれて作ってみたものか,これから作って売ろうかという段階の,試作品的な楽器だったのではないでしょうか。
 「月琴」の製作に関しては,ほぼシロウト同然であったと思われますが,材の木取りにしろ各部の加工,部材同士の合わせ等,その木工技術にシロウト臭は感じられません----大工さんか指物屋か,いえ,すくなくともボール盤といった新しめの加工機械は有していたようなので,ほかの楽器,たとえばバイオリンやギターのような西洋楽器を手掛けていた若い職人さんが,手慰みで作ったような楽器だったかもしれませんね。

 胴にけっこうなバチ痕が残ってます。しかもちゃんと清楽月琴の擬甲で付けられたとおぼしい痕跡ですので,月琴として,楽器として,実際そこそこに使われたものだとは思われます。

 フィールドノートに記載したほかに数箇所,分解ちゅうに虫食いが見つかりました。
 その中では,右のニラミの下から発見されたものが,孔も大きく,けっこう広がりもありそうです。ほかには今のところ,さして深刻そうな問題は見つかっていません。

 原作者が月琴シロウトとおぼしきゆえに,見て思い浮かぶ細かな疑問点や問題点は多々ありますが,なかでもいちばん分からないというあたりをあげるなら----
 表板が妙にぶ厚いということでしょうか。

 共鳴板の表が厚く裏が薄い。
 楽器として音を前に飛ばすことを考えるなら,ふつうは逆なんじゃないかなあと思いますね。
 しかもこの表板,厚みが一定ではなく,上のほう(棹がわ)が特に厚くお尻に向かって薄くなっています。胴上端,天の側板周縁で6.5ミリ,地の側板のあたりで4.5ミリほどでしょうか。この棹口付近の妙な厚みのため,指板と表面板の間には現状2ミリほどの段差ができてしまっています。
 はじめは何らかの音響的な効果を狙ってワザとこうしたものか,とかも想像してみたんですが,どう考えても理屈に合いません。強度上の理由,もさして考えられないですよね。さらには,ふと思いついてバラした裏板を当ててみると……こちらのほうが段差もできず,見事なほどぴったし面一に!……なんじゃこりゃ?

 あらためて見比べてみますと,裏板のほうが厚みも均等。厄介そうな節目や荒れもなく,木目も柾目っぽい,しごく安定しているイイ板です。
 なのになぜこれを使わなかったのか?
 上に書いたように何らかの効果(庵主には思いつきませんがww)を狙った実験的な工作だったとか,単純に組上げの時胴体のオモウラを間違えた,というアホらしい理由を除くと……そうですね…あと残るのは表板に比べると若干地味で見た目のインパクトが薄い----と言うところでしょうか。
 裏板のほうが本来表板として使われるべき板だったとするならば----現在,修理のためバラバラにしてありますから,ためしに表裏をひっくりかえして,本来使われるべきだった方向で組み直すことも可能ではありますが……まあさすがにお飾りや半月の日焼け痕もあるし,陰月まで開いてますからそうもイキますまいか。

 修理では,壊れたところを直すのと同時に,原作者の不慣れなとこと,この楽器に関する経験や知識の差のフォローをすることになりそうですね。月琴シロウトの職人さんが作った「ギリ月琴っぽい」楽器を,どこまで「比較的マトモな月琴(w)」のレギュレーションに近づけることができるのか。
 「修理」と「改造」のせめぎ合いみたいな作業になってしまいそうですね。
 まあそれもヨシ。


おせんさん・STEP3 風の都

 続いて依頼修理のおせんさん。


 前回書いたよう。この楽器は「太清堂」の作にきわめて近い特徴を持ってますが,おそらく別人の手になるものと思われます。初期の作家さんたちが唐物の楽器を参考・模倣したように,その後の流行期に全国に湧いたニワカ職人さんも,たまたま手に入った誰かしらの楽器を参考にしたことが多かったでしょう----これもそういう例の一つ,おそらくは「ぽんぽこ」に近い,太清堂の比較的初期の楽器をモデルにしたんじゃないかと思いますね。
 ただし,こちらは60号と違って明らかにプロの楽器職の仕事です。
 各部の工作の手熟れさ加減から推して,まだ作数は少ないようですが,それも一面とか二面といった数ではない感じ。
 また,少なくともデザイン・センスは太清堂より少し上ですね。
 え----証拠?

 言わずもがな----右が「太清堂」の楽器についてたコウモリ。
 どちらのコウモリもある意味デザイン的に崩壊ライン・ギリギリですが,見比べるならこちらのほうが少なくとも,フォルム的にはまだ「まともなセンス」が感じられるじゃあないですか(w)

 元になってる太清堂は,上画像でご覧のようにお飾りなどのデザイン・センスはかなり壊滅的ですが,音を出す道具である「楽器」としてはかなり性能の良い部類となります。そいでから,毎度太清堂の楽器を修理するたび庵主は,「なんでこんな雑な仕事してやがるのに音がイイんじゃああ!!」と叫んでいるわけですが,それは太清堂の楽器が,月琴の楽器としてのツボ-つまりモノとして「ここ」と「ここ」さえシッカリやっておけばあとはどうでもイイ-というところを,逃すことなくバッチリしっかりおさえているからです。詳細に比べてみると,こちらの楽器は仕事ぶりそのものは太清堂より丁寧なものの,そうした「ツボ」の認識には若干ズレがあるようにも感じられます。

 たとえばこの内部構造。

 上にも少し触れましたが,この楽器の内桁の配置は,太清堂の初期作と思われる「ぽんぽこ」とほぼ同じとなっております。
 全円直径のほぼ1/3にあたる箇所に内桁を上げて,響き線の効果のかかる下部共鳴空間を極力広げようというわけですね。もともと三味線やギターに比べると共鳴胴内の空間が小さい楽器です。強度的なバランスを無視しても,これを最大限に利用したい,という気持ちは分からないでもありません----しかしながら。

 太清堂ですら,こういう極端な空間構成が楽器の強度バランス,特に表裏の板に及ぼす影響について薄々想像はついていたとみえ,内桁とは別に,表板のうらがわ中央に補強の板を接着しました。まあこれは,経木で作った弁当箱の蓋の裏に同じ経木の薄板を細く切って貼りつけたくらいのもので,思いつきというか気休めというか……実際の効果のほどはアヤしげで,現に表板には板の左右方向への収縮をおさえるものがないところからくる割れが生じ,面板は弦圧によって剥離してましたから,少なくとも「補強」にはならなかったようです。
 この楽器の作者も,そのあたりには些か想うところはあったらしく,剥離後の側板を掃除していたら,ふつうならここに下桁が入るだろう,という位置に何やら指示線が見つかりました。それであらためて調べてみると,表板の同じあたりに,一度板を貼りつけようとした痕……ニカワの痕跡がうっすらと。

 じつはもともと下桁がついていたのが,壊れて面板のスキマから落っこちたんじゃないか,とも考えましたが。ほかの部分ではあんなに接着剤べったりの人が,ここだけこんなに薄くキレイにするハズもありませんし,側板や裏板には痕跡が見つからないことから,下桁を入れるべきか否かで逡巡し,組立中,一度は実際に貼りつけてみるまではしたものの,結局はやらずに痕跡を拭って終わった,と考えるのが妥当でしょう。
 ちなみに----内桁をズラして共鳴空間を広くとる,というこの工夫は,月琴という楽器に関わるとまあ誰でもが思いつき,通ってしまう中二病的な道のようなんですが。いままで修理で見てきた楽器の経験とウサ琴による実験の結果,害はあれども効果のほうはほとんどナイ,ということが分かっています。

 そういうあたりにまで聞いて分かるような影響を及ぼすにはね,
     月琴の胴は小さすぎせますぎるんですよ……もともとの空間が。(w)


 この楽器でもそうですが,よく内桁の左右に「音孔」という細長い孔があけてありますよね? 実はこの孔,あってもなくても,音の大小や響きはそれほど変わりません。

 まあ考えてみてもくださいよ。

 そもそもこんな薄っぺらくてせまッちい空間で,ちッとやそッと空気が対流したくらいで何が変わると思います?

 月琴の音のヨシアシは,何もない空間がどれだけ広くとられているか,ではなく。胴がどれだけしっかりとした箱構造になっているかによって決まります。部材の継ぎ目にスキマやユルミがなければ,箱全体に振動が伝わってよく鳴るし,逆に少しでもスキマがあれば,そこで伝導が途切れて部分的にしか鳴らない,そういうごくごく単純なハナシです。
 シンプルな構造の楽器だけに,部材の合わせは精密か,接着は確実か----思いつきの中途半端な工夫よりずっと----そういった,たかだか「箱」を作るうえで必要となる程度の,木工上のしごく基礎的・基本的な技術や加工の差異のほうが,音を出す道具という意味での楽器の品質に大きく関与しているのですね。

 「ぽんぽこ」の場合は,表板の補強板と同じような板を裏板がわにもつけ,中央に表裏板をつなぐ構造を足して,もとおとの「補強板」を擬似的な「下桁」に改造することで「箱」としての強化をはかりましたが,こちらの場合は原作者が一度躊躇したように,いッそガッチリとした下桁をブチこんでしまったほうが,楽器の将来的にも良いかもしれません。


(つづく)


おせんさんの月琴 (2)

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斗酒庵年末大修理 の巻2018.11~  おせんさんの月琴(2)

STEP2 ボディ・スナッチャー

 さて,表がわからの観察も終わりましたので,こちらも内部への旅とまいりたいと思います。

 まずは裏板から。
 ----そぅれ,ベリベリベリ!!

 面板あちこち浮きまくってましたので,60号より簡単に,キレイにハガれてくれました。扇飾りのニョロリから推測したとおり,作者がアレのアイツなら,彼の楽器は内部構造に特徴があるのでこれで確定できるはず----おんや?

 …うむ………びみょう。

 これは……「太清堂」の楽器ではないかもしれません。

 一枚桁,側板は厚めで四方接合部には補強の小板。
 このあたりは「太清堂」の楽器でよく見られる工作・加工の特徴です。
 内桁がいつもよりかなり上のほうに位置していますが,この配置も,つい最近扱った彼の初期作「ぽんぽこ」で見ましたね。

 しかし,この響き線が----これはハガネの渦巻線ですね。
 しかも,ずいぶん細く,繊細です。

 「太清堂」の楽器では初期作から一貫して,響き線にはやや太目の真鍮線が使われています。もう一組付いてるコイル線も,それより番手は細いものの同じく真鍮線。鋼線が使われた例も,このタイプの渦巻線の例も,今のところ見たことがありません。
 もちろん庵主が見てないだけで,そういう工作例がしれッっと存在してても何ら不思議はないのですが。庵主,この10年ほどで彼の楽器を6面ほども修理しているもので,「太清堂」の「手」はあるていど分かるようになってます。
 そこから言うと----

 よく似てる。
 ----でも,なンか違う。

 あの特徴的なニョロリに良く似た扇飾りはついてますが,
 たぶんこれは「太清堂」の楽器ではありません。


 内部構造の観察にもどりましょう。

 内部は比較的キレイで,ホコリ等もそれほど溜まってはおりませなんだ。
 これはひとつに余計な「陰月」(半月ポケット内の小孔)が開いてない構造のためもありましょう。

 左がわ,内桁のすぐ下くらいに細いクギが1本突き出てました。
 なんじゃこりゃ?----とオモテに返して探して見てみますと,右のニラミのコウモリの羽根の先っちょにクギの頭を発見。おそらく前の所有者さんがお飾りが浮いてきたので留めようとしたものかと。
 黒く変色してたんでぜんぜん分かりませんでした。(汗)
 この後の作業でジャマになるんで,裏からペンチで押し出して抜きましたが----60号のに続き,またあまり見ないタイプの釘ですねえ。
 長さ2センチ。細い丸クギです。

 クギと言えば,めちゃくちゃ目立つのがあと2本。響き線の左右に突き立ってます。
 五寸釘というほどではありませんが,かなりデカい。

 この響き線左右のクギは,響き線の固定とは関係がありません。
 そちらはそちらでまた別の小孔があけられてますものね。

 これは「響き線を鳴らす」ために付けられたものですね。
 唐物月琴に見られた「響き線」の本来の役割は弦音に金属的な余韻を与えるエフェクターで,楽器を振った時にガシャガシャ音を出すためのものではなかったのですが,日本の清楽家と職人さんが勘違いしたことから,国産月琴ではこのように,より確実に響き線を「鳴らせる」ような構造が付けられてることがあります----「太清堂」の楽器だと構造的には意外とトラッドなので,こうした発想はあまり見られません。
 ともあれ,これはまあふつうはクギ1本くらいなものなんですが。
 左右についてりゃどっちに揺れても音が出るだろうってことなんでしょうね。
 ただし中を開いた時には,響き線の本体部分が裏板がわのクギの上に乗っかっていて,エフェクターとしても効果音発生器としても,まったく機能しない状態(w)になってました。
 響き線がもっと少し太い線であれば問題なかったのでしょうが,エフェクターとしての効果を考えたのか,かなり細い線を使ってしまったので,振幅が大きくまた揺れる方向もランダムになってるわけで----線が細くしなやかなので,そんな状態になっても何度か楽器を振れば元に戻るかとは思いますが,策士策に溺れるというか,いらぬ考え休むに似たりというか。この「工夫」は,線がひっかかって役に立たなくなる状況を増やしただけでしょうねえ。

 内桁は中央に棹なかごのウケ,左右に音孔。
 材は針葉樹材で工作はかなり丁寧です。
 音孔もキレイに開けられ後処理もしっかりされてますね。

 あと表裏板のウラがわにそれぞれ書き込みがありました。
 一文字目が同じ字のようなので,たぶんこれ棹なかごにあったのと同類ですね。内桁に遮られてましたが,表板のが墨書なのでハッキリしてていちばん読めそうです。
 一文字目はさいしょ「葉」の異体字かなと思ってたんですが,古文書関連のSNSにて「桑」の異体字ではないかとご指摘がありまして……

 そうか,「桑胴」だ!

 前回も書いたように,この楽器の胴側部には桑と思われる薄板が貼り回してありました。飾り板の下の胴本体や棹はホオのようなので,「桑胴」ってのはちょっとサギ(w)じゃないかとは思いますが,たぶんこのことなんでしょうねえ。

 そこから読み解き----
 表板は墨書で 「桑胴表」 とエンピツで 「上」 ,あと下部にこっちが下方向という矢印様の指示が,これもエンピツでざッと書かれています。 裏板はエンピツ書で 「桑胴ノウラ」。
 これらから類推して,棹なかごのも最初の二文字は「桑胴」だと思うんですが,最後の一文字が判りません。「堂」みたいに見えるのでもしかすると 「茎」 の旧字体かも。「茎」と書いて「なかご」とも読みますので。

 ニラミに突き刺さってた小クギ以外は,作業上とくに問題になるような箇所もなさそうでしたので,さらに分解を続けます。
 側板に貼られた薄板は元の工作がやや…いや,かなり雑で,現状でもあちこちが浮きまくり,ハガレまくっております。やり直しするため今回はこれもハガしたいのですが,この薄板が貼られているため表面板の周縁と,胴の本体部分との間には薄板の厚みぶんの段差があります。

 裏板はともかく,このまま表板をハガしてしまった場合,後で戻す時にこの段差のぶんを考えるのがタイヘン。余計な工作も必要となりますので,ハガす前に数箇所小さな孔をあけ,原位置に戻す際の目印をつけておきます。再接着の際ここに細く削いだ竹釘を刺してガイドとすれば,かなり正確に元の接着位置におさまるといった目算ですね。

 準備が出来たところで表板をハガし,つぎに表板上の構造物。
 ----なんかサカナをおろしてる気分になってきましたよ。

 フレット,お飾り,バチ布,半月と順ぐりはずしてゆきます。数箇所木工ボンドや木瞬がつけられてらっしゃりやがりましたが,範囲も小さくヨゴレの上からの接着でしたので,あまり作業の支障にはなりませんでした----有難いが呪ってはおきます。(ふんぐるいるるぃえ)

 ふつうの構造だと,月琴の胴は表裏の板を剥がせばそれだけでほぼバラバラになってしまうのですが。この楽器は側部に薄板が貼り回されているので,面板がなくても胴はしっかりしてますね。
 しかしながら,この作者の薄板貼り回しのまずさ加減もよりハッキリしてしまいます。

 ご覧ください。
 薄板と胴本体の間にどえりゃあスキマが(泣)
 ここだけじゃないですよ----この調子のが数箇所ありました。

 最後にその問題の飾り板をハガします。
 なんせ画像のような箇所があちこちある状態ですんで。
 ちょっと濡らせば簡単にペリペリとハガれてはくるんですが,端からじゅんぐり湿らせながらハガしてゆくと,けっこう時間がかかり,胴材が余計に湿気て変な影響が出そうですので,全体を均一に湿らせて一気にハガしてしまおうと思います。
 さあラップの出番だ。(w)
 飾り板の表面に刷毛でお湯を含ませたら,細長く切ったラップを表面に。
 表裏板がわにはくっつかないようにします。
 こうすることで,最少の量の水分で飾り板だけをより効果的に湿らせることができます。
 ラップばんざい!

 あちこちハガして分かったんですが,この作者,板の接着があまり上手でない。

 側板の接着部にはどこもかしこ,ものスゴい量の接着剤がこンもりと盛られてます。どこも劣化してしまってモロモロボロボロの状態であり,この後の作業のためにもキレイに取り除いておかなきゃならないんですが,これがけっこうな大ごととなりました----なにせ表板のウラがわだけで,こそげた接着剤をまとめたら小さな山ができるくらいでしたからね。部位によっては1ミリちかい厚みでこんもりと盛られていました。(^_^;)

 このブログでなんども書いてるとおり,ニカワによる接着ってのは 「よく滲ませ,薄くまんべんなく少しの圧」 ってのが最強で,こんなふうに層ができるくらいの厚盛りはかえって逆効果になるうえ,虫害など余計な故障受ける原因にもなってしまいます。厚盛りは人間五十年だけにしといていただきたい。

 また,この側部に飾り板を貼り回すという工作を,明治期に湧いたニワカ月琴作者の多くは「下地の粗隠し」だと思ったみたいで,「どうせ隠れるんだからいいだろ?」と飾り板の下の加工をオロソカにする傾向があります。
 実際にやってみると分かるんですが,木の薄板を円形の胴体にきっちりと貼り回すためには,その薄板自体の加工よりむしろ下地となっている胴本体の加工が正確丁寧でなければなりません。
 縁周の曲面にわずかでも歪みがあればそこがスキマになってしまいますし,表面のわずかなエグレや出っぱりも剥離の原因となります。「下地の粗隠し」どころか,この工作ではその下地の処理がふだんよりもしっかりとしていなければ,飾り板自体がかえってヒドい「粗(あら)」になっちゃうわけです。
 実際,いままで見たこの加工の施されている月琴で,工作にまったく問題がなかったのは石田義雄(初代不識)の1面と,江戸から続く老舗・唐木屋の高級月琴の2面くらいなもので,ほかは必ずどこかしら加工上の問題と欠陥を持ってましたね。一見誰でも考え誰にでもできそうな風なんですが,実際にはかなり腕が良くないと,ちゃんと出来ないレベルの工作なんだと思いますよ。

 剥がした飾り板は濡れてるうちに接着面をきれいに清掃して,丸めた状態で水漬けにしておきます。
 古いものですし虫食いもありますので,いちど乾かしてしまいますと,次に濡らして曲げた時にパッキリ割れたりしちゃいそうです----再接着のときまでそのまま水漬けしておきましょう。

 最後に棹上のフレットやお飾りを除去して分解作業はおしまい。
 事前の調査でも予想されてたとおり,楽器のお尻がわ,地の側板を中心に飾り板と胴材にかなりの虫食いが見られましたが,接着剤が厚すぎたせい(w)か食害自体はそれほど深刻ではなく,胴材の内部までは荒らされていないようです。

 あと飾り板で保護されていたので分からなかったんですが,胴四方の接合部のうち1箇所がはずれていました。
 合わせ目のあたりに少しカケが見られるので,床に落としたか何かの衝撃による破断だと思われます。
 とはいえ衝撃で接着がトンだだけで,部材自体には問題はなく。木口の虫食いを木粉粘土で軽く充填した後,新しくニカワを注してしばらく固定したら元通りガッチリと固定されました。



(つづく)


おせんさんの月琴 (1)

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斗酒庵年末修理 の巻2018.11~  おせんさんの月琴(1)

STEP1 オレがアイツでアイツがヤツで

 11月の月琴WSでお預かりした修理楽器。

 ちょうど60号の作業もはじめたばかりでしたので,タイミングもよろしく(w)
 今季もまた2面同時修理と相なりました。

 京都の古道具屋さんにて見つけた楽器,とのことで。
 ラベル等はなく,例によって誰が作った月琴だかは分かりません,が……んん?

 こ……このニョロリわ。(汗)

 庵主,去年の暮れから今年の春先にかけて,このニョロリをここに付ける作家さんの楽器の,タタリと思えるほどの超連続修理に追われてましたが……もしや……またぁ!?

 ナニはともあれ,まずは観察から。

 全長:640,
 胴:縦355/横357/厚35
 (板厚オモウラ共:4)

 有効弦長:421±2
 (山口欠損のため推定)

 胴体が薄めで,わりとスラッとした印象のある月琴です。

 蓮頭 はただの雲形の板ですが,真ん中のあたりに接着痕があるので,ここに何か飾りが貼られていたと思われます。
 糸倉から棹 全体は黒く塗られています。これはウルシではなくて,ベンガラでしょうね。
 糸巻 は4本完備。多少サイズが不揃いのようですがオリジナル。材はホオやカツラより気胞の粗い木…タモですかね?スオウで染めた上からベンガラで黒塗り…ふだん庵主がやってるのと同じ染めですね。黒の底に赤紫が透けております。
 山口と第1・2・5フレットが欠損。
 棹上の第3,胴上の第6・7フレットは最近再接着されたもののようです。濡らすと白くなるアイツが,フレットの周囲に見えております。

 側部に飾り板 を貼り回してありますので,胴材の接合部が見えません。この板はクワかな?
 接着が浮いて板から少しハミ出ている ところが,胴周りのあちこちにあります。
 この工作,誰もが考えつくような細工ですが,きちんとやろうと思うと意外と難しいんですよね。これをして飾り板に浮きがまったくなかったのは,唐木屋の1面とこないだの61号(初代不識)の楽器ぐらいです。
 その飾り板の楽器右肩の裏板がわあたりにカケが1箇所,あと楽器尻にあたる部分に虫食い孔が点々と見えます。地の側板のあたり,かなり食べられちゃってるみたいですね(^_^;)。

 左右のニラミと扇飾り はオリジナルのようですが,ほかはおそらく後補でしょう。ただ,第7・8間についてる山サンゴの桃は,デザインに見覚えがあることからオリジナルかもしれません。

 表裏面板共に大きなヒビが1本づつ。
 最大で2ミリほども開いちゃってますね。表板は右がわに,裏板は中央付近に大きなフシがありますので,板の収縮による裂け割れではないかと。表裏板とも天地の側板のあたりがハガれてしまっています。

 半月 は棹と同じ黒塗り。
 外弦間:34,内弦間:25,高さは9ミリ。何の飾りもない平たい半月板ですが工作はきっちりとしていますね。
 現状,いちおう正位置にくっついてますが,接着はほぼ剥離してしまっているようで,底部周囲に刃物が入っちゃうくらいのスキマが出来てます。

 バチ布 は後補でしょうが,小鳥に紅葉をあしらった趣味のいい錦裂です。
 これはできれば残してあげたいなあ。

 まあ,そもそも要るのか要らないのか分からない孔(ww)なんですが……半月のポケットのなかに「陰月」が見えません。唐物楽器を真似た古いタイプの倣製月琴なんかだとついてないことも多いんですよ。

 棹を抜いてみましょう。
 胴側の飾り板の両端がここで合わさってますね。
 棹孔からのぞいた限りでは1枚桁の楽器のようです。
 内部のヨゴレはそんなにヒドくない,キレイなほうでしょう。響き線の構造は……全体は良く見えませんが,棹口から見えてる部分と振った時の感触から,うずまき線ではないかと思われます。

 棹なかごは長122とやや短め。
 棹本体はホオかな。そこにヒノキと思われる針葉樹材を継いでいます。延長材の継ぎがV字じゃないのは珍しいですが,これと同様の例もいままで数例見たことがあります。
 基部の表板がわに何か書いてあるようですが…クシャクシャっとしてて良く読めませんねえ。作者の署名でしょうか?

 といったあたりで次回に続く。


(つづく)


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