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おせんさんの月琴 (4)

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斗酒庵年末大修理 の巻2018.11~  おせんさんの月琴(4)

STEP4 裏がなく二枚舌のない性格

 依頼修理のおせんさん。
 桑の薄板で外がわを固められていたおかげで,胴体構造は円の状態のまま。一箇所接合部が破断してましたが,これもすでに再接着済み。
 表裏の板は剥がしたあと接着痕などを清掃し,虫食いや剥離作業中に欠けた個所などを補修しておきます。

 さあて,これで年末までに直るかどうか!

 まずは胴体に表板をつけて構造を安定させるとこからはじめましょう。
 この後,胴の周囲にぐるりと巻かれていた飾り板をもどすのですが,現状しっかり円形を保っているとはいえ,表板のない状態の胴構造は単に木片を円形にくっつけただけのシロモノです。このままでぎゅッとシメつけたら,作業中にバラバラになってしまうかもしれません。

 表板ウラ周縁や胴材接着面の虫食いは丹念に埋めてあります。
 古いニカワをこそいだら,胴材の接着面に原作者がほっぽっといたと思われるエグレが数箇所見つかりました。仕上げ作業が粗い……胴材が厚めですから,こういうところは板の剥離の原因になりやすい。これもしっかり埋め込んでおきます。
 胴側面にあったエグレやキズも同様に埋め込み,均しておきました。飾り板があちこちで浮いたり剥がれたりしていたのも,こういう外から見えない「内がわ」の作業をオロソカにしたせいですね。

 表板の原位置は,剥がす前に開けておいた小孔に竹クギを刺して確認します。分離した左の小板は,虫食いのあった木端口の接着面を整形,スペーサを入れるぶん少し離して接着。
 一晩おいて,接着を確認したところでスペーサをブチ込んで整形しときます。

 胴体が「桶」の状態になったところで,飾り板を接着します。
 飾り板はここまで,丸めた状態で鍋に入れて水漬けしておきました。
 胴側にニカワを塗り,お鍋から取り出した飾り板の片側の端を棹口のあたりでクランプで固定。ぐるっと回したところで,その外側から太ゴムをかけ回し,ぎゅッとしぼって固定します。
 文字で書きゃあカンタンそうな作業ですが……飾り板がじゅうぶん湿っているうちにコトを済ませなきゃなりませんし,のばしたゴムはけっこう暴れてなかなかうまく思ったところにかかってくれません。そして,かかった後も板のズレとか浮きを確認しながら微妙に調節してゆきます----タイムリミット付きのけっこうな精密作業ですね(w)

 二日ばかりそのままでおいて,接着具合を確認----百年前と違い輪ゴムという武器もありますし,原作者よりも下地の調整をしっかりしておいたのもあり。貼り直しの結果,飾り板が2ミリちょい余って,棹口のところで重なっています。
 余ったぶんを糸鋸で切り取り,重なって浮いてる部分のスキマにニカワを流し込んで,再びゴムかけ,またまた一晩。

 ようやく360度接着されたところで,胴材からハミでたところや棹口にかかってしまっている部分を切り取り,削り取ります----これで棹が挿せますね。
 で,棹角度の確認のため組み立ててみると,胴と棹との接合部のところに妙なスキマができちゃってます……ハテ?作業前にはこんなスキマ,なかったと思うが。
 触ってみると飾り板がわずかにヘコんでいます。ここだけなぜか板が薄くなってるみたいです。たぶん元は,厚塗りの接着剤がパテみたいになってたんでしょうねえ。

 このままでも棹の固定等にさして支障はないと思われますが,見た感じ少し不安なので,唐木の粉をエポキで練ったパテで軽く埋めて均しておきましょう。

 続いての作業は,棹角度の調整。
 オリジナルの状態では棹の指板面と胴水平面はほぼ面一でしたが,これを少し背がわに傾けます。
 まずは内桁の棹孔----表板がわを1ミリほど削り,裏板がわに削ったぶんのスペーサを接着。
 棹基部の胴体との接合面を少しづつ削って,新しい角度でピッタリ胴におさまるよう調整します。
 毎度のことながら,文章だときわめて地味な作業ですが,修理後の楽器の使い勝手を左右するもっとも重要な工程ですので,時間をかけて慎重に……まあ,どう急いでやっても三日ぐらいはかかりますね(w)

 棹の調整があらかたできたところで,ここまでハメこんでるだけだった内桁をバッチリ接着します。
 国産月琴の作者さんはここの接着をオロソかにする人が多いんですが,この内桁がしっかり着いていない楽器は,ちゃんと鳴りません。

 あと,再接着の前に響き線を鳴らすため刺されているでっかい釘を1本抜きました。
 もとは渦巻線の両側に1本づつ立ってたんですが,これだと楽器が揺れた拍子に線がどっちかの釘にひっかかって,本来の役目である音への効果が出なくなってしまうのです。「響き線を鳴らす」という目的自体,日本人の勘違いから生じた間違いなので,ホント言うと不要。両方抜いちゃいたかったんですが,いちおう,1本は残しておきます。繊細な線なので,1本だけなら少々ひっかかっても,すぐにはずれてくれるようですしね。

 ついでに,この月琴の構造上の問題を,もうひとつ解決しとくこととします。
 新しく下桁を作って入れましょう。
 少し前の「ぽんぽこ」でもそうでしたが,一枚桁の構造として見た時,いまある内桁の位置はあまりにも上すぎます。
 この位置だと確かに下部の空間は広くとれますが,前にも書いたように,もともとの空間が狭いのでこの程度のことでは何の効果もありません。そればかりか,内部に支えのない部分の胴材や表裏面板に余計な負担がかかり,胴の歪みや板割れなどの故障の原因になってしまいます。

 下桁を入れた場合は,国産月琴でよく見る二枚桁の構造になってしまうわけですが,下手の考え休むに似たり,ふつう・あたりまえがいちばん。

 下桁の入るべき位置に指示線が書かれており,表板のウラにニカワの痕もあったことから,原作者も最初はそう考え,おそらく一度は入れてみたようですが,組上げの段階で魔がさして,せっかく入れた下桁を引っこ抜いちゃったみたいですしね。
 材は上桁と同じヒノキの板。
 さらにこれも前回書いたとおり,実際にはあまり意味のない加工(w)ながら,大き目の音孔を左右に貫いておきます。響き線が長く,下桁にかかるとかこれをくぐるといった場合には,真ん中に大きく長い音孔があけられますが,今回の響き線は渦巻線で大きさもそれほどではありませんし。役割的な意味から言えば,穴のないただの板で良いのですが,まあなんとなく……気休めです。(ww)

 側板にハメこむための溝は切ってないので,この時点では表板と胴材の内壁に接着しているだけ。しかしこの上桁はハメこみ・下桁は接着だけというのも,国産月琴でよく見られる工作ですね。たとえば左画像は山形屋の楽器の下桁。これなんかそのうえ両端が胴材まで届いておらず,実質表裏板でサンドイッチしてるだけでした。おまけに接着の雑な人が多いので,はずれた内桁が胴体の中ではずれてカタカタいってたり,ヘンなビビリの原因になってたりしてるのもけっこう見かける事態ですね。

 月琴の胴体は本来,唐物で一般的な中央一枚桁の構造で充分な強度が得られています。これを上下2枚に増やした理由については以前にも考察したことがありますが,そのもっとも主たる理由の一つが,日本の職人の感性が一枚桁の構造を「不安定なもの」と捉えたこと,と庵主は考えています。

 二枚桁にした場合,見た目的には一枚桁よりも安定して頑丈そうにも見えます。ただ実際に作ってみた時,上桁には元と同じく「棹を支え構造を補強する」という分かりやすい役割がありますが,下桁の役割はいまいち分かりにくい。見た感じだと「上桁だけだとバランスが悪いから」くらいなものですかね(実際には上桁の位置が変わってしまったため,それなりの意味・役割が生じています)このため,その存在自体が気休め的なものと軽視されてしまい,こうした中途半端な工作が横行していたのではないかとも思います。


(つづく)


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