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月琴60号(4)/おせんさん(3)

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斗酒庵いろいろみろり の巻2018.6~ 月琴60号(4)/おせんさん(3)

 さて,自出月琴60号および依頼修理のおせんさん。
 ともに分解作業まで進んだところで,今回はここまでの調査のまとめとしてフィールドノートを。
 フィールドノートの各画像は,クリックで別窓拡大されます。
 細かい寸法とか参照されたいかたはどうぞ。
 まずは60号から----

60号・STEP4 マルコメの園

 棹なかごが丸棒状だったのにはちょー驚かされましたが。(^_^;)
 胴径:343は国産月琴の平均からだいたい1センチちょい小さく,有効弦長:387は2~2.5センチくらい短い。全長だと2~3センチ,石田不識みたいな大型の月琴と比較すると5センチくらいも短くなります。
 しかし全体の構造から考えて,これは楽器として小型高音の月琴を目指したのではなく,庵主のウサ琴のように,材料か工具の制限からくる小型化だったと思われます。
 そのあたりも含め,原作者には月琴という楽器またその構造に関しある程度の知見はあったようですが,その工作には量産を意図しない----きわめてワンオフ的な手間が見てとれます。他人に頼まれて作ってみたものか,これから作って売ろうかという段階の,試作品的な楽器だったのではないでしょうか。
 「月琴」の製作に関しては,ほぼシロウト同然であったと思われますが,材の木取りにしろ各部の加工,部材同士の合わせ等,その木工技術にシロウト臭は感じられません----大工さんか指物屋か,いえ,すくなくともボール盤といった新しめの加工機械は有していたようなので,ほかの楽器,たとえばバイオリンやギターのような西洋楽器を手掛けていた若い職人さんが,手慰みで作ったような楽器だったかもしれませんね。

 胴にけっこうなバチ痕が残ってます。しかもちゃんと清楽月琴の擬甲で付けられたとおぼしい痕跡ですので,月琴として,楽器として,実際そこそこに使われたものだとは思われます。

 フィールドノートに記載したほかに数箇所,分解ちゅうに虫食いが見つかりました。
 その中では,右のニラミの下から発見されたものが,孔も大きく,けっこう広がりもありそうです。ほかには今のところ,さして深刻そうな問題は見つかっていません。

 原作者が月琴シロウトとおぼしきゆえに,見て思い浮かぶ細かな疑問点や問題点は多々ありますが,なかでもいちばん分からないというあたりをあげるなら----
 表板が妙にぶ厚いということでしょうか。

 共鳴板の表が厚く裏が薄い。
 楽器として音を前に飛ばすことを考えるなら,ふつうは逆なんじゃないかなあと思いますね。
 しかもこの表板,厚みが一定ではなく,上のほう(棹がわ)が特に厚くお尻に向かって薄くなっています。胴上端,天の側板周縁で6.5ミリ,地の側板のあたりで4.5ミリほどでしょうか。この棹口付近の妙な厚みのため,指板と表面板の間には現状2ミリほどの段差ができてしまっています。
 はじめは何らかの音響的な効果を狙ってワザとこうしたものか,とかも想像してみたんですが,どう考えても理屈に合いません。強度上の理由,もさして考えられないですよね。さらには,ふと思いついてバラした裏板を当ててみると……こちらのほうが段差もできず,見事なほどぴったし面一に!……なんじゃこりゃ?

 あらためて見比べてみますと,裏板のほうが厚みも均等。厄介そうな節目や荒れもなく,木目も柾目っぽい,しごく安定しているイイ板です。
 なのになぜこれを使わなかったのか?
 上に書いたように何らかの効果(庵主には思いつきませんがww)を狙った実験的な工作だったとか,単純に組上げの時胴体のオモウラを間違えた,というアホらしい理由を除くと……そうですね…あと残るのは表板に比べると若干地味で見た目のインパクトが薄い----と言うところでしょうか。
 裏板のほうが本来表板として使われるべき板だったとするならば----現在,修理のためバラバラにしてありますから,ためしに表裏をひっくりかえして,本来使われるべきだった方向で組み直すことも可能ではありますが……まあさすがにお飾りや半月の日焼け痕もあるし,陰月まで開いてますからそうもイキますまいか。

 修理では,壊れたところを直すのと同時に,原作者の不慣れなとこと,この楽器に関する経験や知識の差のフォローをすることになりそうですね。月琴シロウトの職人さんが作った「ギリ月琴っぽい」楽器を,どこまで「比較的マトモな月琴(w)」のレギュレーションに近づけることができるのか。
 「修理」と「改造」のせめぎ合いみたいな作業になってしまいそうですね。
 まあそれもヨシ。


おせんさん・STEP3 風の都

 続いて依頼修理のおせんさん。


 前回書いたよう。この楽器は「太清堂」の作にきわめて近い特徴を持ってますが,おそらく別人の手になるものと思われます。初期の作家さんたちが唐物の楽器を参考・模倣したように,その後の流行期に全国に湧いたニワカ職人さんも,たまたま手に入った誰かしらの楽器を参考にしたことが多かったでしょう----これもそういう例の一つ,おそらくは「ぽんぽこ」に近い,太清堂の比較的初期の楽器をモデルにしたんじゃないかと思いますね。
 ただし,こちらは60号と違って明らかにプロの楽器職の仕事です。
 各部の工作の手熟れさ加減から推して,まだ作数は少ないようですが,それも一面とか二面といった数ではない感じ。
 また,少なくともデザイン・センスは太清堂より少し上ですね。
 え----証拠?

 言わずもがな----右が「太清堂」の楽器についてたコウモリ。
 どちらのコウモリもある意味デザイン的に崩壊ライン・ギリギリですが,見比べるならこちらのほうが少なくとも,フォルム的にはまだ「まともなセンス」が感じられるじゃあないですか(w)

 元になってる太清堂は,上画像でご覧のようにお飾りなどのデザイン・センスはかなり壊滅的ですが,音を出す道具である「楽器」としてはかなり性能の良い部類となります。そいでから,毎度太清堂の楽器を修理するたび庵主は,「なんでこんな雑な仕事してやがるのに音がイイんじゃああ!!」と叫んでいるわけですが,それは太清堂の楽器が,月琴の楽器としてのツボ-つまりモノとして「ここ」と「ここ」さえシッカリやっておけばあとはどうでもイイ-というところを,逃すことなくバッチリしっかりおさえているからです。詳細に比べてみると,こちらの楽器は仕事ぶりそのものは太清堂より丁寧なものの,そうした「ツボ」の認識には若干ズレがあるようにも感じられます。

 たとえばこの内部構造。

 上にも少し触れましたが,この楽器の内桁の配置は,太清堂の初期作と思われる「ぽんぽこ」とほぼ同じとなっております。
 全円直径のほぼ1/3にあたる箇所に内桁を上げて,響き線の効果のかかる下部共鳴空間を極力広げようというわけですね。もともと三味線やギターに比べると共鳴胴内の空間が小さい楽器です。強度的なバランスを無視しても,これを最大限に利用したい,という気持ちは分からないでもありません----しかしながら。

 太清堂ですら,こういう極端な空間構成が楽器の強度バランス,特に表裏の板に及ぼす影響について薄々想像はついていたとみえ,内桁とは別に,表板のうらがわ中央に補強の板を接着しました。まあこれは,経木で作った弁当箱の蓋の裏に同じ経木の薄板を細く切って貼りつけたくらいのもので,思いつきというか気休めというか……実際の効果のほどはアヤしげで,現に表板には板の左右方向への収縮をおさえるものがないところからくる割れが生じ,面板は弦圧によって剥離してましたから,少なくとも「補強」にはならなかったようです。
 この楽器の作者も,そのあたりには些か想うところはあったらしく,剥離後の側板を掃除していたら,ふつうならここに下桁が入るだろう,という位置に何やら指示線が見つかりました。それであらためて調べてみると,表板の同じあたりに,一度板を貼りつけようとした痕……ニカワの痕跡がうっすらと。

 じつはもともと下桁がついていたのが,壊れて面板のスキマから落っこちたんじゃないか,とも考えましたが。ほかの部分ではあんなに接着剤べったりの人が,ここだけこんなに薄くキレイにするハズもありませんし,側板や裏板には痕跡が見つからないことから,下桁を入れるべきか否かで逡巡し,組立中,一度は実際に貼りつけてみるまではしたものの,結局はやらずに痕跡を拭って終わった,と考えるのが妥当でしょう。
 ちなみに----内桁をズラして共鳴空間を広くとる,というこの工夫は,月琴という楽器に関わるとまあ誰でもが思いつき,通ってしまう中二病的な道のようなんですが。いままで修理で見てきた楽器の経験とウサ琴による実験の結果,害はあれども効果のほうはほとんどナイ,ということが分かっています。

 そういうあたりにまで聞いて分かるような影響を及ぼすにはね,
     月琴の胴は小さすぎせますぎるんですよ……もともとの空間が。(w)


 この楽器でもそうですが,よく内桁の左右に「音孔」という細長い孔があけてありますよね? 実はこの孔,あってもなくても,音の大小や響きはそれほど変わりません。

 まあ考えてみてもくださいよ。

 そもそもこんな薄っぺらくてせまッちい空間で,ちッとやそッと空気が対流したくらいで何が変わると思います?

 月琴の音のヨシアシは,何もない空間がどれだけ広くとられているか,ではなく。胴がどれだけしっかりとした箱構造になっているかによって決まります。部材の継ぎ目にスキマやユルミがなければ,箱全体に振動が伝わってよく鳴るし,逆に少しでもスキマがあれば,そこで伝導が途切れて部分的にしか鳴らない,そういうごくごく単純なハナシです。
 シンプルな構造の楽器だけに,部材の合わせは精密か,接着は確実か----思いつきの中途半端な工夫よりずっと----そういった,たかだか「箱」を作るうえで必要となる程度の,木工上のしごく基礎的・基本的な技術や加工の差異のほうが,音を出す道具という意味での楽器の品質に大きく関与しているのですね。

 「ぽんぽこ」の場合は,表板の補強板と同じような板を裏板がわにもつけ,中央に表裏板をつなぐ構造を足して,もとおとの「補強板」を擬似的な「下桁」に改造することで「箱」としての強化をはかりましたが,こちらの場合は原作者が一度躊躇したように,いッそガッチリとした下桁をブチこんでしまったほうが,楽器の将来的にも良いかもしれません。


(つづく)


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