月琴60号 マルコメX(5)
![]() STEP5 ふりだしにもどる ![]() さて,いったんバラして前修理者の仕業っぽいアレやコレもぜんぶひっぺがし,各部品をいったん修理前に近い状態にもどしました。 庵主の修理はここからはじまります。 まずは破断している右側板の補修から。 前修理者は分解前の状態で,割れたところにニカワ流し込んで留めようとしたみたいですが,もちろんそんな程度の手抜き仕事でうまくゆくはずもなく。さらに細いクギみたいのを斜めに打って留めようともしたようですが,これもうまくゆかなかったご様子。 さらに割れめパッキリのままのとこに後,古物屋か誰かが木工ボンドを流し込もうとしてくださりやがったようですが,幸運にもこれは割れ目のほんのトバ口の部分に少し入っただけで止まっておりました。 もともとは衝撃による破損なのか,あるいはもともとヒビでも入っていての自壊なのか…ぶつけた痕みたいのは特に見つかりませんし,こんなことになるような衝撃がこのあたりにかかったとすれば,よっぽどピンポイントでない限り棹や糸倉なんかにも損傷があったはずなので,後者のほうが可能性ありますかね。 ![]() ![]() 前修理者のニカワ,呪われた(庵主に)誰ぞのまぶした木工ボンドをキレイに取り去り,割れ面をアルコールで丹念に拭ったあと,木粉を混ぜたエポキで接着します----ここは「ふつうなら壊れなくてもいいところ」ですからね。 割れ面を慎重に合わせて当て木とクランプで固定。 割れ目のスキマから出たパテに木粉をまぶし,裏面のほうは割れ目を覆うようにパテを広げて補強にします。 ![]() ![]() 一晩おいて表面がわを整形。 もともと押し付ければピッタリ合うくらい,割れ目が素直だったのでさして手間ではありませんでしたね。 続いて,表板の補修を。 深刻な虫食いは2箇所。一つ目は右のニラミの下から右肩に向けて,けっこう大きく食われてました。千枚通しなどでトンネルを探りながら潰してゆきます。 ![]() ![]() もう一箇所は半月の横,左下部の端から小板の矧ぎ面に沿って10センチほど。双方ともに埋め木で処置します。 左端の小板は接着不良,右端の小板は矧ぎ面に虫食いがあって分解後脱落しました。 ![]() ![]() ほか板の裏面,胴材や内桁の接着箇所にもいくつか虫食いがありましたがさほど深刻なものはなく,木粉粘土で充填し,さッさと矧ぎなおしちゃいます。 ![]() ![]() ![]() そりゃコスれ!やれ削れ! うっぷぷ,げほげほ!……ホコリもうもうたてながら,表板をザリザリガリガリ削りまくり砥ぎまくりました。 これにて60号・7つの謎工作(w)の一つ「表板の厚みがヘン」を解消いたします。 この間,庵主,さまざまに考えてみました。 表板は棹がわが6.5ミリ,お尻がわが4.5ミリ…この厚みの違いにどんな意味があるのか?…なぜ棹との間に2ミリもの段差を作ってまで,棹口のあたりの板を厚くしなければならないのか?----と。 しかしながら,一つの屁理屈も言い訳も思いつきませんでした。黒を白と言い含める生来詐欺師タイプの庵主がその理由に思い至らないのですから,これは間違いなくその工作のほうが理不尽なのであります(w) 前回書いたように,この表板を質も悪くなく厚みも均一な裏板と取り替える,という手もあるのですが,日焼け痕の処理やら陰月の穴埋めなんかを考えると,こうして表板のほうをマトモにするのと大して手間が変らんようです。 ![]() ![]() とはいえとほほ…手作業で「面」を加工するのはやっぱタイヘンですわい。2時間ほどの格闘の結果,ようやく表板と棹の指板が面一,全体の厚みもほぼ均一となりました。 ![]() 板裏を中心に削りましたが,けっきょく表面もあちこちかなり削っちゃいました。板裏に墨書とかなくって良かったです。 表面にはまだ半月の接着痕が残ってますので,その上縁を表板の中心線と垂直に交わる線の一つとし,あとは板中央に残ったぶんまわし(木工用コンパス)の中心点や木口に残った棹基部の痕跡とも合わせて表板の中心線を新たに求め,しるしをつけておきます。 さあ,組立てですね。 天の側板は棹孔の位置と新たに決めた板の中心線をもとに位置決めをし,残りの三枚は貼りつけた時に板の損害--削り直さなければならない板の木口--のもっとも少なくて済む位置を確かめ,接合面の角度を調整しながら戻します。 最後に取付けるのが地の側板。ここでいつも,製作時からの板や部材の収縮,あとは修理によって生じた誤差のぶんを清算するのですが,今回は両端を合わせて1ミリほど削る程度で済みました。 ![]() ![]() ![]() 組上げてみて気がついたのですが,4箇所の接合部のうち上2箇所は通常の木口接着なのですが,下の2箇所は内がわの木口の角が,一部斜めに削ぎ落とされています。 斜めになってる面はガタガタでしたし,途中で加工の切れている部分もあったので,はじめは木口が欠けたのをラフに整形したのだろう,ていどに思っていたんですが。接着位置で木口を合わせると,間にほぼ直角になるくぼみが出来ることから見ると,原作者は当初このくぼみの部分に下桁を入れるつもりがあったのかもしれませんね。 (つづく)
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