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おせんさんの月琴 (5)

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斗酒庵年末大修理 の巻2018.11~  おせんさんの月琴(5)

STEP5 「まったくもって使えない奴だ」,親友と思っていた彼は俺を見下ろしてそう言った。

 下桁を入れて多少不安定だった胴体構造が安定しました。
 響き線はサビ落としをしてラックニスでかるく防錆してあります。
 同時修理の60号と違って棹なかごはふつうの四角いヤツですので,棹角度の調整作業も問題なく終わってます。

 さあて,裏板をとじましょうか。

 表板の時は,周縁に飾り板をおさめるための余裕を考えながら位置決め,というけっこうな精密作業だったんですが。裏板のほうはいつもと同じ,ラクなもんです。
 ただ,剥がした当初は左端の小板が1枚分離してるていどでした。
 今回の再接着ではこれを一枚板に戻してから,あえて新たに3分割し,中央を先に,続いて左右と2度に分けて接着してゆきます。
 飾り板の巻きなおしによって胴体構造がわずかに締まって,胴周縁のかたちが少しだけ前と違っちゃってるんですね。わずかな差なんですが,最初の2分割の状態だと幅で1:6くらい,1の小板はいいんですが,大きな6の部分の周縁をうまく合わせるのが難しくなってしまいました。

 ならば1の小板をくっつけて,等間隔で3分割し直して貼ったほうが,確実だしより頑丈に直せます。表板と違ってあまり景色のない板ですので,多少筋が入ってしまってもそんなに目立ちますまい,という打算もありますが(w)
 中央部分が最初なのは,これが楽器の背骨だから。基本,浅い筒状の木組みを表裏二枚の薄板ではさんだだけの単純な構造である月琴では,このラインの接着具合がけっこう音の良し悪しに影響してきます。両端をCクランプで,中央には重しを置いて2枚の内桁にしっかり密着させます。

 翌日,左右を接着。スペーサを埋め込み,整形します。
 ついで補修によってハミだしてる板の木口を整形。表板がわは棹の調整のため棹口付近だけはすでに均してありました。ほかはそれほどでもないんで,削るのは主に裏板がわですね。

 木口削り直しで現れるシベリア(お菓子)の側面……庵主実はこれが大好きです(w)

 胴体が箱になったところで,清掃。
 表板も裏板も,けっこう黒くなっちゃってますからね。
 その前に,表裏板の補修箇所,新しく板を入れたあたりを軽く補彩しておきます。どうせ真っ白になっちゃうんですが,あらかじめこうしておくと,そのあと半年ぐらいして色が上がってきたときに少し目立ちにくくなるようなんですよ。

 さて,いつものようにぬるま湯に重曹を溶いてShinexでゴシゴシ……うん?
 ………手強いですね。
 色味自体はそれほど濃くない感じなんですが,何といいますか,ヨゴレがやたらと「カタい」。
 ちょっとやそっと濡らして擦っても,なかなか浮いてきません。
 むやみに濡らすわけにもいきませんので,一度にやる範囲を小さくして,少しづつ,確実に汚れの層を取り除いてゆきます。
 いつもの三倍ぐらい,時間がかかったかな?
 おそらく,なんですが----浮き上がってくるヨゴレにやや粘りがあるので,原作段階でヤシャ液に何か混ぜてるか,ロウと乾性油を混ぜたワックスのようなもので仕上げてあったんでしょうね。桐板ですのでロウでの仕上げはふつうのことなんですが,この頑丈さはそこに何かもう一手間してあるようです……ふむ,興味深いな,あとでそんな技術が何かあるか調べてみよう。

 板が乾くまで一日二日置いて,こんどは表裏板の木口をマスキングし,側板の染め直しにかかります。

 こちらは柿渋を2~3度刷いて,亜麻仁油で油拭き。2~3日後に同じ工程をもう一度。栗皮色といいますか…その独特の木目とも相俟って,深みのある風合いに仕上がりました。


 この楽器は「桑胴」なんて内がわに書いてたぐらいで,そこそこ高級な楽器として作られたものと思われるんですが,そのわりに棹は安っぽい黒ベンガラでべったりと塗装されています。
 唐物月琴でもよく,棹や側板が同じように黒塗りべったりで塗られてることがあるんですが,これの場合はおそらくそれに倣ったとかじゃなく,側板の飾り板によって「桑製」を標榜したものの,胴材の芯や棹など本当の主材はホオ……桑に比べると安価でふつうの素材でしたので,それを隠蔽するため,木地が分からないよう,こんなことをしたんじゃないかと。

 まあ,職人も商売ですからそれは良いんですが(w)
 側板の風合いに対してこれだとあまりにもちゃッちい感じがしますので,これを「黒塗り」じゃなく「黒染め」に変更させていただきましょう。

 まずは棹の塗装をハガします----ゴシゴシ…うぷ,けっこう粉がトビますね。
 完全なツルツルピカピカにする必要はありません。糸倉やうなじのあたりは少し残しておきましょう。
 原作者は下地を染めず,ほとんどベンガラで表面を塗ったくっただけだったようですね。
 つぎにスオウを刷きます。
 スオウの原液はオレンジ色。3度ほど染ませたら,その液の色そのまんまみたいになりました。
 乾いたところでミョウバンで発色。かなり濃いめの赤に……ベンガラを少し残した糸倉やうなじの部分は,スオウと反応して黒紫っぽく発色しています。

 ここにさらにオハグロをかけ,同じ黒でも深みと変化のある色合いに染めあげました。
 これならまあ側板の風合いにも負けますまい。
 仕上げは亜麻仁油とロウ,すこしフラットな感じに。
 カリンの指板のみ,最後に薄く溶いたラックニスでポリッシュ。ツヤツヤのピカピカにしました。


 さあて,あとは半月を接着,一気に組立てじゃあ!----と思ってたんですが,ここで問題発生。

 半月の接着位置の調整のため,ひさしぶりに糸巻を挿してみたところ,この糸巻がことごとく役に立たないことが判明。
 4本そろっていましたので油断してたんですが……これ,どれをどこに挿してももユルユルで使い物になりませんね。
 国産月琴では三味線の影響で,先端は噛合ってるけど握りがわがわずかにユルくなってることがあります。理想的には唐物月琴みたいに糸倉の左右でがっちり噛合ってるのが望ましいのですが,きっちりと工作されているならまあ,三味線式でも構いません。
 ところがこの楽器の糸巻は,先端ユルユル,根元もユルユル(w)
 先端部と握りの間に段があるようなカタチで削って調整できるようなものではないのですが,試しに1本削って根元を合わせてみたところ,先端が糸倉から1センチくらい突き出した状態になっても,まだユルユルのまんまです。

 使い込まれた楽器ならば,糸巻が削れてユルくなってたり,先端が糸倉から出てたりすることはよくあるんですが,事前の調査からこれはほとんど楽器として使用された形跡がないことが分かっています。経年変化で糸巻だけ削れちゃったとか縮んじゃったという怪奇現象はちょっとあり得ませんし,そもそもその糸巻自体にも使用痕がほとんどない。原作段階で先端も握りがわも両方合わないような糸巻をつけたというのも考えにくいですね。
 おそらくこれはオリジナルの部品じゃなく,ほかの楽器から移植されたものだったのだと思います。

 修理前にはほぼ実際に演奏してみることが不可能な状態であることがほとんどなので,いざ使用可能な状態になってから気が付くような不具合がけっこうないではないんですが……ううむ,修理も終盤のこの期におよんで,糸巻を1セット削るハメになろうとわ!!

 というわけで久々の糸巻削り。
 材料はいつもの百均めん棒36センチ。
 うおおおおおッ年内に,年内に終わらせるんじゃああッ!
 肩コリゴリゴリ・腱鞘炎直前みたいにはなっちゃったものの,なんとか一日,気迫の製作で削りきりました。

 もと付いてたのよりは少し太め,六角無溝で握りの先端が少しラッパ型に開いてる月琴の糸巻としてよくみるカタチの糸巻です。これをもと付いてたのと同じ黒染めに…うん,オリジナルで付いてたこの糸巻,染めの加工だけはマトモですね。庵主と同じくスオウでしっかり下染めしてから黒く染めてあるので,手に触れる角の部分なんかがほのかに赤っぽくなってたりします。
 染め上った糸巻は,柿渋で色止めし亜麻仁油で仕上げます。


(つづく)


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