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おせんさんの月琴 (2)

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斗酒庵年末大修理 の巻2018.11~  おせんさんの月琴(2)

STEP2 ボディ・スナッチャー

 さて,表がわからの観察も終わりましたので,こちらも内部への旅とまいりたいと思います。

 まずは裏板から。
 ----そぅれ,ベリベリベリ!!

 面板あちこち浮きまくってましたので,60号より簡単に,キレイにハガれてくれました。扇飾りのニョロリから推測したとおり,作者がアレのアイツなら,彼の楽器は内部構造に特徴があるのでこれで確定できるはず----おんや?

 …うむ………びみょう。

 これは……「太清堂」の楽器ではないかもしれません。

 一枚桁,側板は厚めで四方接合部には補強の小板。
 このあたりは「太清堂」の楽器でよく見られる工作・加工の特徴です。
 内桁がいつもよりかなり上のほうに位置していますが,この配置も,つい最近扱った彼の初期作「ぽんぽこ」で見ましたね。

 しかし,この響き線が----これはハガネの渦巻線ですね。
 しかも,ずいぶん細く,繊細です。

 「太清堂」の楽器では初期作から一貫して,響き線にはやや太目の真鍮線が使われています。もう一組付いてるコイル線も,それより番手は細いものの同じく真鍮線。鋼線が使われた例も,このタイプの渦巻線の例も,今のところ見たことがありません。
 もちろん庵主が見てないだけで,そういう工作例がしれッっと存在してても何ら不思議はないのですが。庵主,この10年ほどで彼の楽器を6面ほども修理しているもので,「太清堂」の「手」はあるていど分かるようになってます。
 そこから言うと----

 よく似てる。
 ----でも,なンか違う。

 あの特徴的なニョロリに良く似た扇飾りはついてますが,
 たぶんこれは「太清堂」の楽器ではありません。


 内部構造の観察にもどりましょう。

 内部は比較的キレイで,ホコリ等もそれほど溜まってはおりませなんだ。
 これはひとつに余計な「陰月」(半月ポケット内の小孔)が開いてない構造のためもありましょう。

 左がわ,内桁のすぐ下くらいに細いクギが1本突き出てました。
 なんじゃこりゃ?----とオモテに返して探して見てみますと,右のニラミのコウモリの羽根の先っちょにクギの頭を発見。おそらく前の所有者さんがお飾りが浮いてきたので留めようとしたものかと。
 黒く変色してたんでぜんぜん分かりませんでした。(汗)
 この後の作業でジャマになるんで,裏からペンチで押し出して抜きましたが----60号のに続き,またあまり見ないタイプの釘ですねえ。
 長さ2センチ。細い丸クギです。

 クギと言えば,めちゃくちゃ目立つのがあと2本。響き線の左右に突き立ってます。
 五寸釘というほどではありませんが,かなりデカい。

 この響き線左右のクギは,響き線の固定とは関係がありません。
 そちらはそちらでまた別の小孔があけられてますものね。

 これは「響き線を鳴らす」ために付けられたものですね。
 唐物月琴に見られた「響き線」の本来の役割は弦音に金属的な余韻を与えるエフェクターで,楽器を振った時にガシャガシャ音を出すためのものではなかったのですが,日本の清楽家と職人さんが勘違いしたことから,国産月琴ではこのように,より確実に響き線を「鳴らせる」ような構造が付けられてることがあります----「太清堂」の楽器だと構造的には意外とトラッドなので,こうした発想はあまり見られません。
 ともあれ,これはまあふつうはクギ1本くらいなものなんですが。
 左右についてりゃどっちに揺れても音が出るだろうってことなんでしょうね。
 ただし中を開いた時には,響き線の本体部分が裏板がわのクギの上に乗っかっていて,エフェクターとしても効果音発生器としても,まったく機能しない状態(w)になってました。
 響き線がもっと少し太い線であれば問題なかったのでしょうが,エフェクターとしての効果を考えたのか,かなり細い線を使ってしまったので,振幅が大きくまた揺れる方向もランダムになってるわけで----線が細くしなやかなので,そんな状態になっても何度か楽器を振れば元に戻るかとは思いますが,策士策に溺れるというか,いらぬ考え休むに似たりというか。この「工夫」は,線がひっかかって役に立たなくなる状況を増やしただけでしょうねえ。

 内桁は中央に棹なかごのウケ,左右に音孔。
 材は針葉樹材で工作はかなり丁寧です。
 音孔もキレイに開けられ後処理もしっかりされてますね。

 あと表裏板のウラがわにそれぞれ書き込みがありました。
 一文字目が同じ字のようなので,たぶんこれ棹なかごにあったのと同類ですね。内桁に遮られてましたが,表板のが墨書なのでハッキリしてていちばん読めそうです。
 一文字目はさいしょ「葉」の異体字かなと思ってたんですが,古文書関連のSNSにて「桑」の異体字ではないかとご指摘がありまして……

 そうか,「桑胴」だ!

 前回も書いたように,この楽器の胴側部には桑と思われる薄板が貼り回してありました。飾り板の下の胴本体や棹はホオのようなので,「桑胴」ってのはちょっとサギ(w)じゃないかとは思いますが,たぶんこのことなんでしょうねえ。

 そこから読み解き----
 表板は墨書で 「桑胴表」 とエンピツで 「上」 ,あと下部にこっちが下方向という矢印様の指示が,これもエンピツでざッと書かれています。 裏板はエンピツ書で 「桑胴ノウラ」。
 これらから類推して,棹なかごのも最初の二文字は「桑胴」だと思うんですが,最後の一文字が判りません。「堂」みたいに見えるのでもしかすると 「茎」 の旧字体かも。「茎」と書いて「なかご」とも読みますので。

 ニラミに突き刺さってた小クギ以外は,作業上とくに問題になるような箇所もなさそうでしたので,さらに分解を続けます。
 側板に貼られた薄板は元の工作がやや…いや,かなり雑で,現状でもあちこちが浮きまくり,ハガレまくっております。やり直しするため今回はこれもハガしたいのですが,この薄板が貼られているため表面板の周縁と,胴の本体部分との間には薄板の厚みぶんの段差があります。

 裏板はともかく,このまま表板をハガしてしまった場合,後で戻す時にこの段差のぶんを考えるのがタイヘン。余計な工作も必要となりますので,ハガす前に数箇所小さな孔をあけ,原位置に戻す際の目印をつけておきます。再接着の際ここに細く削いだ竹釘を刺してガイドとすれば,かなり正確に元の接着位置におさまるといった目算ですね。

 準備が出来たところで表板をハガし,つぎに表板上の構造物。
 ----なんかサカナをおろしてる気分になってきましたよ。

 フレット,お飾り,バチ布,半月と順ぐりはずしてゆきます。数箇所木工ボンドや木瞬がつけられてらっしゃりやがりましたが,範囲も小さくヨゴレの上からの接着でしたので,あまり作業の支障にはなりませんでした----有難いが呪ってはおきます。(ふんぐるいるるぃえ)

 ふつうの構造だと,月琴の胴は表裏の板を剥がせばそれだけでほぼバラバラになってしまうのですが。この楽器は側部に薄板が貼り回されているので,面板がなくても胴はしっかりしてますね。
 しかしながら,この作者の薄板貼り回しのまずさ加減もよりハッキリしてしまいます。

 ご覧ください。
 薄板と胴本体の間にどえりゃあスキマが(泣)
 ここだけじゃないですよ----この調子のが数箇所ありました。

 最後にその問題の飾り板をハガします。
 なんせ画像のような箇所があちこちある状態ですんで。
 ちょっと濡らせば簡単にペリペリとハガれてはくるんですが,端からじゅんぐり湿らせながらハガしてゆくと,けっこう時間がかかり,胴材が余計に湿気て変な影響が出そうですので,全体を均一に湿らせて一気にハガしてしまおうと思います。
 さあラップの出番だ。(w)
 飾り板の表面に刷毛でお湯を含ませたら,細長く切ったラップを表面に。
 表裏板がわにはくっつかないようにします。
 こうすることで,最少の量の水分で飾り板だけをより効果的に湿らせることができます。
 ラップばんざい!

 あちこちハガして分かったんですが,この作者,板の接着があまり上手でない。

 側板の接着部にはどこもかしこ,ものスゴい量の接着剤がこンもりと盛られてます。どこも劣化してしまってモロモロボロボロの状態であり,この後の作業のためにもキレイに取り除いておかなきゃならないんですが,これがけっこうな大ごととなりました----なにせ表板のウラがわだけで,こそげた接着剤をまとめたら小さな山ができるくらいでしたからね。部位によっては1ミリちかい厚みでこんもりと盛られていました。(^_^;)

 このブログでなんども書いてるとおり,ニカワによる接着ってのは 「よく滲ませ,薄くまんべんなく少しの圧」 ってのが最強で,こんなふうに層ができるくらいの厚盛りはかえって逆効果になるうえ,虫害など余計な故障受ける原因にもなってしまいます。厚盛りは人間五十年だけにしといていただきたい。

 また,この側部に飾り板を貼り回すという工作を,明治期に湧いたニワカ月琴作者の多くは「下地の粗隠し」だと思ったみたいで,「どうせ隠れるんだからいいだろ?」と飾り板の下の加工をオロソカにする傾向があります。
 実際にやってみると分かるんですが,木の薄板を円形の胴体にきっちりと貼り回すためには,その薄板自体の加工よりむしろ下地となっている胴本体の加工が正確丁寧でなければなりません。
 縁周の曲面にわずかでも歪みがあればそこがスキマになってしまいますし,表面のわずかなエグレや出っぱりも剥離の原因となります。「下地の粗隠し」どころか,この工作ではその下地の処理がふだんよりもしっかりとしていなければ,飾り板自体がかえってヒドい「粗(あら)」になっちゃうわけです。
 実際,いままで見たこの加工の施されている月琴で,工作にまったく問題がなかったのは石田義雄(初代不識)の1面と,江戸から続く老舗・唐木屋の高級月琴の2面くらいなもので,ほかは必ずどこかしら加工上の問題と欠陥を持ってましたね。一見誰でも考え誰にでもできそうな風なんですが,実際にはかなり腕が良くないと,ちゃんと出来ないレベルの工作なんだと思いますよ。

 剥がした飾り板は濡れてるうちに接着面をきれいに清掃して,丸めた状態で水漬けにしておきます。
 古いものですし虫食いもありますので,いちど乾かしてしまいますと,次に濡らして曲げた時にパッキリ割れたりしちゃいそうです----再接着のときまでそのまま水漬けしておきましょう。

 最後に棹上のフレットやお飾りを除去して分解作業はおしまい。
 事前の調査でも予想されてたとおり,楽器のお尻がわ,地の側板を中心に飾り板と胴材にかなりの虫食いが見られましたが,接着剤が厚すぎたせい(w)か食害自体はそれほど深刻ではなく,胴材の内部までは荒らされていないようです。

 あと飾り板で保護されていたので分からなかったんですが,胴四方の接合部のうち1箇所がはずれていました。
 合わせ目のあたりに少しカケが見られるので,床に落としたか何かの衝撃による破断だと思われます。
 とはいえ衝撃で接着がトンだだけで,部材自体には問題はなく。木口の虫食いを木粉粘土で軽く充填した後,新しくニカワを注してしばらく固定したら元通りガッチリと固定されました。



(つづく)


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