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清楽月琴WS@亀戸 2018年如月場所! »
おせんさんの月琴 (6)
osen_06.txt
2018.11~ おせんさんの月琴(終)
STEP6 鳥は緑の渓をゆく
あと一歩で組立て!
----というところで,4本そろってるしオリジナルで問題ナシと思っていた糸巻が,
ユルユルの使えない移植品
だと判明。
作業が中断いたしました。
半月の位置決め等にはとりあえず,過去の修理で出た古い糸巻からそこそこ合いそうなのを見繕って使い。同時に急遽新しい糸巻を1セット,徹夜で削って染め上げて完成させました。ただ,冬場なので仕上げに染ませた乾性油の乾燥に,
いつもより時間がかかってしまっています。
楽器にボンドや木瞬を使いよった輩を
ジメジメネトネトと
呪うのが得意な庵主ではありますが,塗料や接着剤の乾燥硬化を
カラッとカチッと何とかする
ほうは,属性が異なりMPの消費も大きいため不得手でして…
----ああ,誰かワタシに新たなるグリモアを!!
(w)
というわけで,この間に小物をそろえておきましょう。
山口は漂白ツゲ。
オリジナルは欠損してましたのでどういうものがついていたのか不明ですが,今回は国産月琴で一般的なカマボコ縦割り型に。
フレットはもと煤竹のがついてましたが,「桑胴の高級楽器」として売りたかったわりには,このあたりも少々手抜きに見えますね----
ひさしぶりに牛骨を削りましょう。
材料には夏前に買ったカット牛骨(ワンちゃん用)があります。
牛骨を加工するときいちばん大変なのが
パイプ状の骨を切り分けて「板のカタチ」にするところなんですが,有難いことにこれは,最初からある程度板状にしてくれてるうえに,何のご高慮かちょうどフレットで使うくらいの長さに小切りにしてくれてはります!
かなり高級な月琴でも,染めて
象牙ぶりっこさせた牛骨
がけっこう使われてたりしますね。
まあもともとこの手の素材は,ちょっと手間かければ象牙か牛の骨かシロウトさんで判別できる人はそういませんから,「象牙を使ったよ(w)」と言われたら「おお,やったー!」ってなっちゃうでしょうしね。
削って磨いてロウ仕上げ……う~ん,白くツヤツヤのフレット。
棹や胴側の色も濃い目なので,こちらのほうが映えていい感じでしょう。
仮の糸巻を挿しての1次フレッティングの結果,半月での弦高を少し下げたほうが良さそうでしたので,
60号に続きこちらも半月にゲタ
を噛ませることとなりました。
ゲタもフレットと同じく牛骨。フレットの製作で出た端材を使いました。
コウモリのニラミはそのまま。
割れたり欠けたりしていたところを継いでから,ニスをはたいて色止め,油で軽く磨いておきます。
扇飾り
……太清堂の楽器だったらこのニョロリがラベルなみの意味があったんですが,最初のほうの回で書いたように,
この楽器を作ったのは別の人
と思われます(おそらく製作時に太清堂の楽器を参考にしたのでしょう)。このニョロリ自体,太清堂のに比べると繊細な彫りと造りになってますが,ニョロリ部分表面の彫り線をなくしちゃってるので,さらに
環形動物というか半索動物というか感
が増しております。(ww)
作者の手掛かりとして逆にちょっと紛らわしいところもあり,オーナーさんからもご要望がありましたのでとっかえちゃいましょう。
ちょっと凝ったのを作ります
----
ザクロ,ですね。
扇型の枠を木の枝っぽくするのは,山形屋なんかもやってました。庵主も一度やってみたかったので。(w)
オリジナルと思われる小飾りに桃がありましたから,これに
ブシュカンを足せばお馴染みの「三多」
という吉祥模様になります----というわけで,黄色の凍石でブシュカンも作ります。
4・5フレット間にはもと,
貝殻で作ったチョウチョ
が真鍮のピンでぶッ挿して止められてました。
その下に,もと付いていた飾りをねじりとったと思われる
大きなエグれ
があり,そこを隠すような感じになっていたことからも,オリジナルのお飾りではなかったとは思われますが。いちおうその飾りにちなんでここには凍石のチョウチョを付けることとします。
残りの小飾りはチョウチョと,月琴の小飾りの意匠でよく見る,花だか実だか分からない(w)お飾りを交互に付けることに----けっこう華やかですね。
あとは蓮頭。
オリジナルは飾りのない雲形板でしたが,少し破損もしていましたし,全体見た時やはり多少地味でしたので,これも取り替えます。何にしようかな~。
こんなのが出来ました。
後補の小飾りの中に,緑色のキレイな玉飾りがあったのを思い出しまして,ああ,あれを使おうかと。
波濤をバックに玉を抱えて海を渡るウサギ----
「波乗り玉兔」
ってとこでしょうか。
たしか波に跳ね兔ってのは因幡の白ウサギあたりからの発想で,
大陸にはない文様
だと思いましたので,これはある意味
日中混淆の意匠。
大陸から海を渡って伝わってきた月琴という楽器にとしても,ふさわしいデザインになったかもしれませんねえ(自画自賛,ww)
最後にバチ布を貼ります。
オリジナルで付いてた布が柄も可愛く,傷みも少なかったので,和紙でちゃんと裏打ちして(もとは板に直貼りでした),左右を少し切りつめ,角を丸めて使います。
お飾りで遊んでるうちに,新しく作った糸巻も仕上がりました。
こんどのははじめからこの楽器に合わせて作ったものなので,もちろん使用上の問題はありません。
それまでの仮糸巻と取り替えて,
クリスマスイブの2018年12月24日,
依頼修理のおせんさん,修理完了です!
フレットをオリジナルの位置で並べた時の音階は----
開放
1
2
3
4
5
6
7
8
4C
4D
-26
4E
b-4E
4F
-19
4G
-17
4A
-2
5C
+21
5E
b-44
5F
+18
4G
4A
-30
4B
b+30
5C
-24
5D
-20
5E
-9
5G
+8
5A
+41
6C
-8
開放音を基準とすると
全体に低め
で,第2・6音(1st フレット)と第3・7音(2nd フレット)が特に低すぎる感じです。清楽の音階では後者が長音階の2~30%低いのが標準ですが,それでもさすがにちょっと低すぎますかね。
ただ第3・7音はE
b
/B
b
とE/Bの境目のあたり。ここを基準に考えるなら,開放以外の
低音部はある程度そろっている
とも考えられはします。清楽器の音階としては多少変に感じられるところはありますが,オクターブに関係する 6th,8th のズレが少ないので,この楽器の音階や調弦についてまったく知識がないわけでもなさそうです。
国産月琴らしいキレイな音ですね。
ただその音色にはややカタさが感じられます。
これはこの楽器が百年以上前に作られたものの,ほとんど楽器として使われたことがない状態であることが関連していると思われます。
実際,今回の同時修理では,どちらの楽器も同じようにオーバーホールしてある意味状態をリセットしたんですが,
使い込まれた形跡のある60号のほうが,
ずっとこなれた音がしますね。
しかしながら現状この音は,繊細な渦巻線のもたらす,鈴かガラスの風鈴のような余韻にぴったり合っている,と言えるかもしれません。これはこれで(w)
操作性にさほどのクセはありません。楽器のバランスも悪くない。
音がクリアなぶんチューニングがややシビア
ですが,新しい糸巻はかなりきっちり調整してあるんで,それほどの苦労はないかと。
あと,実はもう一つ----
蓮頭と同じように,修理前胴中央に貼られていた
貝殻細工の菊
を組み込んで中央飾りを作りました。もとの細工が良かったのもあり,出来も悪くはないとは思うんですが。試しにのせてみるとちょいと悪目立ちしすぎ,何やら成金感ハンパねェ感じになってしまったのでこれは保留。
まだ修理直後で板が白いのもありましょう。
一年ほどして板の染め色があがってくれば,
もっと自然な感じでなじむかもしれません。その時にこれを付けるかどうかはオーナーさんに任せます。(^_^;)
耐久テスト中に,半月のところで糸が切れました。
ちょっとヘンな切れかたをしたので調べてみると,
糸孔がほぼ垂直
にあけられてるうえに,糸の当るところがほとんど処理されていなかったことが分かりました。
ふつうはもう少し斜めにあけ,孔のヘリで糸が切れないよう,縁を少し丸めておいたりするものなんですが……糸の当るあたりをルーターで削り,ロウ引きした麻紐をくぐらせてしごき,擦り慣らします。
あんまりないことで,たぶんもう大丈夫だと思いますが,また同じようなことが続くようなら,このあたりをちょっと疑ってやってください。このあたりも言わば
楽器として「新品」
だったのが原因----ちゃんと使われていたものなら,すでに何らかの手入れがなされていたはずですからね。
使われていなかったぶん,まだ多少,こんなふうに
ふつうだと思ってもみないような故障
が起きることがあるかもしれませんが,こういう場合はむしろ,ガンガン使って
不具合が出たそばからどんどんツブしていってやればイイ
ので,がんばって弾きまくってください。(w)
そういうこともまた糧となって,楽器は少しづつ育ち,音色を変えてゆきます。
楽器として作られたのに,百年弾いてもらえなかった楽器です。
この楽器をこれから,本当の楽器として仕上げてゆくのが,オーナーさんの仕事ですね。
(おわり)
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