連山派・梅園派の「茉梨花」について(1)
![]() 小人閑居シテ不善ヲナス,冬の雪かき帰省の間庵主はずっと,清楽流行期,関西を中心に活躍した連山派とその分派で東京に拠点を置いた梅園派の曲譜にとりくんでおりました。 いづれまとめてHPのほうにうpりまうが,今回はその成果の一端を少々。 ![]() ![]() ![]() 弄月RY02_003は「茉䔧花」,柚木YNK062は「抹梨花」と表記する。 また「含艶曲」という呼び方がある。基本的に「茉梨花」は曲牌(汎用的な定型メロディとしての名称)の名で,「含艶曲」はそれで『西廂記』を内容とする歌唱としての名称である。 弄月RY02_003は付点不備のため単独での解読は不能。朱の読点はおそらく,句点より短い小息継ぎ・小休符の挿入箇所を指すものであろう。 なお柚木YNK062は冒頭の繰り返し部分を,清曲OKINO_A005は後半の繰り返し部分を展開している。比較対照を容易にするため,上画像と以下の近世譜ではそれらを声光・弄月の例に合わせて繰り返し表記に戻して,譜の形をそろえることとする。 柚木YNK062の付点からは以下のような近世譜が再現できる。 [工-工六|五-仩五|六--五|六--○|] 工-合-|工合四-|仩四合-|-○工-| 尺-工六|工尺上-|-尺上-|-○[工-| 上-尺-|尺工六-|五-六五|六工尺工| 六-尺六|工尺上-|上--○|四仩伬-| --伬仜|仩四合-|-四合-|--] 再現曲 この譜には符字がほかの2例と異なっているところが8箇所あるが,すべてオクターブの高低関係である。月琴は最低音が「上」で,低音の「合四」と高音「六五」を同じ高さで弾くため関係がないが,明笛は最低音が「合」であるので吹き分けることができる。ここでこうした差異が生じている理由については後に詳しく述べたい。付点がほぼ一致し,再現される各符の音長関係には変化がないので,この柚木の譜の音長関係を参考に,声光SK01_05を読み解いてみよう。この場合,無印を1符1拍とすると---- [工-工六|五-仩五|六--五|六---|] 工-合-|工合五-|仩五六-|-○工-| 尺-工六|工尺上-|-尺上-|--[工-| 上-尺-|尺工六○|五-○六五|六工尺工| 六○尺六|工尺上-|上--○|四上尺-| -○尺工|上四合-|-四合-|--] 再現曲 と,なると考えられる。こちらの2行8符め「六。」は3拍だが,柚木の当該箇所は4拍になっている。そのままだと1拍ズレとなるのでこれは間違いとして修正しておく。5行末「尺。」も同前。もしかするとこの2件に関しては,句点「。」を1拍に含めているのかもしれない。 符字下の朱の読点は句点よりも短い区切り,また3拍1拍の間に入っている返し線はおそらく「返しバチ」の指示と思われる。また,付線はここでは短音を表すものではなく,2音を抑揚をつけず平均に弾けという指示であろう。4行4・5間の挿入線はこの先1符1拍の連弾となることから,「五」2拍のところで少し息継ぎを入れろということだろう。再現では8分休符を挿入して表現してみた。 ![]() ![]() 再現された曲調は北條芳三郎『音楽初歩』に見える五線譜による採譜ともほぼ一致する。 清曲OKINO_A005の近世譜は以下の通り。 [工-工六|五-仩五|六--五|六--○|] 工-合-|工合四-|仩四合-|○四合-| ○○工-|尺-工六|工尺上-|○尺上-| ○○[工-|上-尺-|尺工六-|五-六五| 六工尺工|六-尺六|工尺上-|上--○| 四仩伬-|○○伬仜|仩四合-|○四:合-|] 合-○○ 再現曲 曲尾「合」は1度目が2分,2度目が2分+休符2拍である。ほかの3例と比べるとオレンジで強調した部分が1小節ぶん多いが,そのほかの部分の符字と音長は柚木の例とほぼ一致する。 梅園派の「茉梨花」は,「秋籬香」「茉梨花裏」「秋風香」などという裏曲と合奏される。『清楽曲譜』などでは「伴奏」と称されているが,現在の「伴奏」とはいささか概念が異なり。これらの譜は「茉梨花」の一部ではなく,あくまで単独でも演奏される独立した曲譜として扱われている。渓派にも「厦門流水」「如意串」という表裏となる曲が伝承されているが,これらを同時に弾くという解説は見たことがなく,連山・梅園派において広く行われていたことのようである。 『清楽曲譜』に収録されている「茉梨花」は,同書にある裏曲「秋風香」(OKINO_A030)とそのままでは合わせることができない。上で述べたよう,同書の「茉梨花」は柚木等の譜よりも2音多く,その部分が妨げとなるためである。上掲の譜からその余分な2音を含む2行4小節めを丸々削り,曲尾の「合」を休符合わせて4拍の長さで統一,すでに述べた2例の譜各符の音長関係を同じにすると,以下のように合奏が成立する。 (茉)工-工六|五-仩五|六--五|六--○| (秋)仜-仜伬|仜仜𠆾-|仩伬仩四|合-合四| 工-工六|五-仩五|六--五|六--○| 仜-仜伬|仜仜𠆾-|仩伬仩四|合-仩伬| 工-合-|工合四-|仩四合-|○○工-| 仜仜伬仩|四合工合四|仩四合-|仩伬仜-| 尺-工六|工尺上-|○尺上-|○○工-| 𠆾-仜伬|仜四仩-|-伬仩-|○○仜伬| 上-尺-|尺工六-|五-六五|六工尺工| 仩合伬合|伬仜合-|五-仩五|六-伬仜| 六-尺六|工尺上-|上--○|四仩伬-| 𠆾仜伬仩|四合仩-|○伬仩-|四上尺-| ○○伬仜|仩四合-|○四合-|○○工-| 尺上尺工|上四合-|○四合-|○○仜伬| 上-尺-|尺工六-|五-六五|六工尺工| 仩合伬合|伬仜合-|五-仩五|六-伬仜| 六-尺六|工尺上-|上--○|四仩伬-| 𠆾仜伬仩|四合仩-|○伬仩-|四上尺-| ○○伬仜|仩四合-|○四合-|○○ | 尺上尺工|上四合-|○四合-|-○ | 再現曲 「秋風香」の譜は未加工であることからも,柚木の譜の付点から再現される曲調が,やはりこの曲の標準に近いものであろうことが分かる。 ワークショップでも常連と度々演奏しているが,この2曲の合奏は,双方がうまく流れた時には実に美しい。 「秋風香」は柚木YNK073としても収録されている。清曲OKINO_A030との違いは,17小節目の「仜」が「仩」になっていることだけで,ほかは符字順列,音長ともに一致する。 『清楽曲譜』の注に「秋風香ハ茉梨花ト秋籬香ト両曲ヨリ組織シタル曲ナル故ニ,三曲伴奏スル,尤妙ナリ。」とあるので,同様に伴奏曲としてとりあげられる「秋籬香」よりは後発の伴奏曲ということになる。『清楽曲譜』に「秋籬香」は収録されていないが,同じ編者の『洋峨楽譜』に近世譜(OKINO_A030)が見える。 仜-伬-|仩伬仩四|合-四仩|合--○| 仩伬仜-|伬仜仩伬|仩四合-|尺工六-| 五工六-|工六工上|尺工上四|合-仩伬| 仜-伬仜|𠆾-仜伬|仩-合四|仩--○| [仩-四合|工尺上-|仩-合-|合仩合伬| 合-𠆾仜|𠆾-仜伬|仩-合四|仩-四仩| 四合仜伬|仩伬仩四|合-四仩|合--○|] ただしこのままでは小節数が標準譜の「茉梨花」と合わないため,合奏は不能である。 音長のわかる「秋籬香」の譜はほかに『音楽雑誌』41号の渡辺岱山による近世譜がある。
柚木の集には「秋雛香」(YNK048)という曲が収録されている。この「雛」はおそらく「籬」の誤植で,内容からも「秋籬香」で間違いはない。
この2例も実際に合奏として再現してみると,どこかしらに小問題があるようで,先に掲げた「茉梨花」と「秋風香」の合奏ほどの一体感や自然さは感じられない。それぞれの符の異同を確認するため,3例の近世譜を並べて表示してみよう。
2行1小節,柚木のみが「仩伬-仜」と真ん中を2拍とするが,ほかは「仩伬仜-」となっているので,こちらのほうが正しいだろう。3行目,音楽雑誌の版は1小節目の「六」を1拍,3小節目の「合」を3拍とするがこれは不自然である。拍の総数は合っているので,おそらくは当時の印刷技術上の問題からくる誤植であろう。「六」「合」をともに2拍とすれば,ほかの2例と同じになる。最後に『洋峨楽譜』4行4小節目の「仩」を4分+休符に切り詰め,以降を前送りにすると---- 仜-伬-|仩伬仩四|合-四仩|合--○| 仩伬仜-|伬仜仩伬|仩四合-|尺工六-| 五工六-|工六工上|尺工上四|合-仩伬| 仜-伬仜|𠆾-仜伬|仩-合四|仩○仩-| 四合工尺|上-仩-|合-合仩|合伬合-| 𠆾仜𠆾-|仜伬仩-|合四仩-|四仩四合| 仜伬仩伬|仩四合-|四仩合-|-○仩-| 四合工尺|上-仩-|合-合仩|合伬合-| 𠆾仜𠆾-|仜伬仩-|合四仩-|四仩四合| 仜伬仩伬|仩四合-|四仩合-|-○ | とそろう。この譜はもちろん「茉梨花」の標準譜と合奏が可能である。上記の校訂を加えたこの版が,おそらくこの曲の標準的な曲調にもっとも近かろう。沖野の注によれば「三曲伴奏スル,尤妙ナリ。」という話なので,これがある意味,連山派系の「茉梨花」の演奏における究極であろうと考えやってはみたが,筆者の耳ではいささか複雑にすぎて,「茉梨花/秋風香」だけのほうがまだ良いような気はする。 なお弄月RY03_016に「茉梨花裏」として収録されている曲も,符字順列の一致からこの「秋籬香」と同一のものであることが分かっている。下画像の無印を1拍,1朱点の符字を2拍長音,2朱点を1拍+休符,返し線を4拍全符とすると,上掲の標準譜とほぼ一致する曲調(下右上段(A)の譜)が得られる。
2箇所朱点のない句点箇所があるが,扱いは2朱点のものと同じとした。原譜では2箇所の句点に朱で消し線が入り,3符が胡粉で消されている(上画像グレーで表現)。前者に関しては長音の位置が実際の演奏と異なるための訂正と見られる。後者はこの譜の所有者の弾いていた「茉梨花」(同書収録の「茉梨花」ではない)と合わせるための加工か,あるいは上右下段(B)の近世譜のように,合奏時の難所と見られる部分の音数を減らして,演奏を容易にするためだったのではないかと考えられる。 最初のほうで述べたように,初期の譜である『声光詞譜』と柚木や沖野の譜の間で見られる符字の高低の差異は,こうした裏曲との合奏上の兼ね合いからの改訂ではないかと筆者は考えている。「秋風香」のような独立した裏曲が伴奏されない場合,曲の深みやはなやかさは,月琴と明笛もしくは人声といったものとのオクターブユニゾンによってのみ表現せられる。冒頭の繰り返し直後,近世譜2行めで古い譜は「工合」の部分でのみ限定してその手法を用い,そこから先は完全なユニゾンになっている。ここで一度高音にそろえておいたほうが,高低の分かれる次のフレーズとの間にメリハリをつけることができるからである。これに対して柚木の譜などではこの行ほぼまるまる,明笛は呂音で吹き月琴は高音を鳴らし続ける。演奏としてはそれぞれに平坦であるが,これに裏曲がかぶさることを前提に考えるなら,このほうが都合が良いのであろう。 後半5行末から6行目にかけては逆に古い『声光詞譜』の版のほうが低音でそろえられ,器楽による演奏は平坦である。これは歌唱が高音にあがってゆくため,同じフレーズを楽器で伴奏するよりは,そちらを低音に抑えて「歌唱(高)・月琴(中)・明笛(低)」という三段階のオクターブユニゾンにより深みを増すほうがよいと考えられたためであろう。 清楽の曲の多くはもともと大陸のごく通俗な民謡や流行歌,民間演劇の類に由来する。初期の清楽の担い手であった知識層にとっては,それこそが求めていた「大陸の生の情報」であったのだが,それが金銭を媒介して教授される芸能となる過程で,都合の悪い条件となっていったため,流行の後期,多くの曲が歌唱を伴わない大人数の器楽合奏となっていた。『声光詞譜』より後発の柚木や沖野の版で,歌唱と同じ高音のフレーズが楽器で演奏されるようになったのは,その歌唱の代わりに月琴を同じパートにあげて,楽器のみでのより複雑な音の絡み合いを演出しようとしたものだろうと筆者は考える。 中井『月琴楽譜』の歌詞対照譜の工尺譜は声光SK01_05と符字順列が一致する。これは全13段に渡るけっこうな長曲で,同じく全段の歌詞を収録しているものは少なく,中井のほかは村上復雄『明楽花月琴詩譜』(M.11)の例(歌詞・譜別掲),そのほか歌詞の全文は渓派の譜本に2・3見られる程度である。筆者のDBにある資料で連山・梅園派と見られる歌詞対照譜には,高柳精一『洋峨楽譜・坤』(M.17),鈴木孝道『月琴独習自在』(M.26)『月琴哥譜備忘録』(写・筆者所蔵 2番に添符)『清楽』(写・笛道山人,長崎歴文所蔵),鷲塚俊諦『清楽歌譜』(M.14)がある。これらから比較可能なものを声光SK01_05の近世譜と対照させて,まずは歌詞の発音位置とその範囲を検討しよう。
縦書きの刊本の場合,歌詞の文字間が広くとられていないと,どの文字にどの文字の符が何文字あてられているのか判別しにくい場合が多い。上の表の基となっているのは,あくまでも筆者の読み解きである。 1行目,繰り返し句は問題がない。鈴木・鷲塚に変異が見られるがほかの3例は一致している。2行目は「的」がどこからはじまりどこまでかかるかが問題である。高柳・笛道が一致しているが,発音開始の位置はその1符前「工」ほうが多い。「花」の開始位置は3例が一致しているので,「的」を「工合」2音とするか「合」1音とするかの違いである。歌いやすいのは前者で,後者の1音のズレには多少の三味線楽臭さが感じられる。ここは演出の違いでどちらでもかまわないとは思うが,中井の例が中間的で妥当であろう。3行目,鈴木以外は一致しており,問題はない。4行目,「一枝」の発音位置に差異がある。3例は一致して「五○六」までが「一」,「枝」が「五六工」である。「一」の開始位置については問題がないが,これに対し2音3拍をあてるのは多少不自然さが感じられなくもない。笛道の「一」を「五○」,「枝」に「六五六工」をあてるのがもっとも歌いやすく自然なのだが,ここは一致する3例に倣っておくのがよさそうだ。5行目「恐怕」の扱いが問題である。中井・鷲塚は「六○」1音2拍にこの2字をあてている。演奏上は器楽が「六○」歌唱は「六」2拍2分を分割すると考えて「六六」で唱えればよいが,見た感じ,納得できないのは分からないでもない。この部分の変異がもっとも顕著である。鷲塚と中井が一致しているほか,渓派でも同様になっているのでこの2例に従う。「罵」の位置にも変異があるが,開始位置は3例が一致する「尺」のところ。次の「卟」の発音位置は多少微妙であるが高柳と笛道の一致する「合」からというのが,実際に歌ってみても納得はゆく。 発音位置の差異については,あまりにも顕著なものを除いて1音2音の前後は一句の長短の影響や演出の範囲ていどに考えてよいとは思うが,いちおうあるていどの基準・平均となる標準的な対照譜を組むなら,以下のようになろう。
これを基本として,各段の歌詞に合わせ多少の修整を施しつつ,全段を再現したものが以下のmp3ファイルとなる。主となるメロディに古いタイプを用いたので,伴奏曲も「秋籬香」のみを用いた。通しで聞くと17分ほどとなるが,実際の演奏ではもう少しテンポをあげてもよかろう。 再現曲
*1)又。恐怕:他譜「又」の前で句切る。 *2)又。恐怕:同上。 *3)「桂」の読みが「キン」:他譜では「クイ」,現代中国語で gui4 で方音でも「キン」に近い音はない。おそらく誤記誤写。「花。剌剌門関。」:句切りに疑問。「花剌剌」は「咲く花のように美しく」で前の「崔鴬鴬」にかかる。字数からみても「花。」の句点は「花」の前がふさわしい。 張生:他譜では「張先生(チャンスヘンスエン=張さん)」,「張生」でも通じなくはないが,このフレーズほかの段より1文字少ないため欠字の可能性あり。 *4)「愛」は他書「哀」とする。現代中国語では ai4 と ai1 の違い。意味から考えて「哀」が正しい。「小」の読みを「スヤン」とする。おそらくは「スヤウ」の誤植。また他書では「小生」ではなく「小書生(スヤオシュイスヤン)」となっている。あるいは3)の「張生」に合わせたか? 你着:他譜「着」を「若」とする。「あなたがもし-」なので「若」が正しい。おそらく誤写。跪到東方:他譜では「我就跪到東方」。「あなたがもし-したら,わたしはすぐに-」なので「我就」がないとここまでが「你(あなた)」の仕業になる。内容的にはおかしいが,省略できないこともない。 *5)敢則是賊。強来盗呀:「敢則是賊」のほうはともかく「強来盗」は意味不明。他譜では「敢則是強賊来。来盗呀」 *6)樵:「瞧」(ちら見する)の誤写で間違いない。長崎歴文『清楽』(写・笛道山人)などでは目偏が「扌」のように略書されている。俗間の唱本などでも「土」のわずかに縦棒が下に突き出たかたちに書かれることがある。それを「木」の略書と思ったのだろう。もちろん「樵」では意味不明である。 3フレーズめ「樵来的樵去」,他譜では「樵来的樵了去」と1文字多い。 *7)脚踏着。:原書ではここまでが繰り返し部の外であるが,この段までのパターンから考えると,この3文字は繰り返し部分に入るはずである。渓派・太田連『清楽雅唱』の歌詞対照譜でもそのようになっている。[脚踏着独木橋。叫奴家如此何。得過呀 がおそらく正しい。 *8)急。忙々午児来。扶呀:まず句切り位置に疑問。他譜では「急」の前に句点。「忙々午児」,ここでどうして「ウマ」が出てくるのか意味不明。読みも「ウー」になっているが他譜では「午」が「手(ショウ)」になっている。おそらく誤写。「来。」の句点位置も他譜では「来」の手前である。 *9)又。恐怕:1)2)と同じ。爹娘卟:村上は「爹和娘」で渓派の諸譜もだいたいこれと同じ。笛道は「爹呀」とする。 *11)扇:中井は読みを「ツエン」とする。現代中国語 shan1 ,類似の読み例なく「シェン」の誤植と思われる。 又。恐怕:同上。 *12)児。上抱弾呀:他譜での句切りは「児上。抱弾呀」。 *13)又。恐怕:2)9)11)と同じ。 早稲田風陵文庫所蔵の唱本『花鼓子』(腰にくくりつけた太鼓を叩きながら歌い踊る民間芸能の歌詞)に,ほぼ同じような内容の歌詞が見られるほか,大陸の古い唱本中にも「鮮花調」の名で類歌は多い。 現在の中国童謡としての「茉莉花」は単純に花の美しさを歌ったもので,『西廂記』とは関係ないが,地方で採集された類歌にはまだその内容を残したものが数多く認められる。
補:演奏スタイルとしては古い型を踏襲している渓派の「茉梨花」の後半が,『声光詞譜』とほぼ同様に低音で構成されていることもこれらの証左となろうか。『清風雅譜』における「茉梨花」の近世譜は以下---- [工-工合|四-仩四|合--四|合--○|] 工-合合|工合四-|仩四合-|-○工-| 尺-工六|工尺上-|-尺上-|-○[工-| 上-尺-|尺工六-|五-仩五|六○尺工| 六-五六|工尺上-|上--○|四上尺-| 尺工上尺 |上四合-|-四合-|-○] (つづく)
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