エレキ月琴 "Luna" 修理(1)
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![]() STEP1 【ふっかつ の きょうかい(ただしアクシズ教)】 ![]() おお ゆうしゃ ルナ よ。 しんでしまうと は なさけない。 庵主作のエレキ月琴としては3面め,スルーボディのカメ琴シリーズとしては2面めにあたる自作楽器,カメ2Lunaがかえってまえりました。 ……うわあ,バッキリいったね。 月琴というのは構造的にも単純で,基本的にこの手の弦楽器のなかでは比較的丈夫なほうであるんですが,この楽器のアキレス筋,いちばん弱いところがこの糸倉周辺。1号ちゃんも黒猫に糸倉ふッとばされて帰ってきたことがあったねえ。まあふつうはそう壊れませんがなんせ弱点,軽い衝撃でも「当たり所」が悪ければ---- かいしん の いちげき で,こうなることがママございます。
![]() ![]() 糸倉の背の曲りのちょうど真ん中あたりにその原因とみられるヘコミがありました。おそらくここに何かがぶつかったはずみで,うまい具合にパキャっと逝っちゃったのじゃないかと。
![]() ではサクっと修理。 そしてさらに補強し,殴っても逝かないくらいの強度にしてさしあげましょう……ふふふ,コワくない。コワくないよぉ。ちょっとだけ……ちょっと先っちョ(糸倉)をアレ(修理)するだけだから。
![]() まずは割れ目を継ぎます。 こうした「かいしんのいちげき」系の破損では,破断面がパックリと,木目にそってキレイに分かれていることが多く,バキバキひびが入ってたり,欠片が散ってたり,断面がボサボサになってるようなことはまず滅多にありません。 基本的には割れ目を合わせれば,きっちり噛合う状態になってます----今回の場合もそう。
![]() ![]() まずは破断面にタボを通す小孔を穿ちます。 挿しこむタボは竹串を直径2ミリくらいに削ったもの。これはあくまで破断部が接着時にズレないよう止めておくための補助・ガイドみたいなもので,この工作自体に補強的な意味合いはあまりありませんね。
![]() ![]() 破断面をエタノールできれいにしてから,これまたエタノを加えて少し緩めたエポキを塗布。 ちょっと置いて,少し染ませてから接合します。 エポキはもともとあまり浸透性のない接着剤ですが,こうしてやるとわずかながら表層に染みこんで,接着剤の層の薄い,面同士の強固な接着が可能です。 断面をキッチリ合わせたら,ズレないようにラップで巻き,その上からゴムテープをかけて保定します。こういう曲面の部品をくっつけるときたいへんなのが,どうやって保定し,正しい方向に圧をかけるかなんですが。接着物をまとめてラップで軽く固定してから,ゴムテープをギュッっとひっぱりながら巻きかけると,どんな曲面の部品でも比較的うまく,思う方向に圧をかけながらの接着保定が可能ですね。 最近,靴屋さんの靴底修理法見て思いついたやりかたなんですが,いちいち治具に頼らない,使い捨ての保定法としてはこれ,なかなか使えます。 二日ばかり放置してからほどきます。 ふむ----まあスキマもなくうまくへっつきましたが,もちろんこれだけでは 「カタチを元通りにした」 だけのこと。強度的に不安がないわけではないので,ここから補強をしてゆきます。
![]() ![]() まずは割れ目を中心にして輪鼓(りゅうご)型の孔を彫る。 そう,お馴染みの「チギリ」を埋め込みます。 チギリの埋め木は,細かな細工調整が出来るのでツゲ。 ただ,この楽器の糸倉の材はカツラ。月琴という楽器の材料としてはじゅうぶんな強度と耐久性を持っていますが,木材としてはさほどカタくも頑丈なほうでもありません。また今回の場合,割れた場所と糸倉のデザインの関係で,チギリを一面1箇所しか埋めこめませんでした。まあさほど弦圧の強い楽器ではないので,エポキによる破断面の強固な接着とこのチギリによる補強なら,通常の使用にさほどの支障は出ないくらいにはなってると思うのですが----なんとなく不安なので,さらにもう一策練りましょう。
![]() 次の日に,チギリの余分を切り落とし,整形するのといっしょに,糸倉左右の塗装を完全に剥がしてしまいます。 そしてここに----唐木の板。 大洗の4号戦車なみにシェルツェン(増加装甲)を施すこととしましょう,パンツァー・フォーッ!!
![]() ![]() 糸巻の孔があるので,片面づつの作業となります。 なぜって?----両方いっしょにやっちゃったらどうなるか…ちょっと想像してみてくださいってばよ(w) 貼りつけたのは本紫檀の板,厚4ミリ……あ,これ銘木屋のおっちゃんが惜しそうにしてたやつだ(w)白太が混じってるんで泣く泣く切り捨てた部分ですね。貼る前に,ちょっと濡らして木色を見てみましたがひゃっはー,実にうつくすぃ。まあ自作の楽器の修理に使うのがもったいなくないかと言えば,若干思うところもないではありませんが,板の大きさ的にイマイチ中途半端なので,こういうときに使ってしまわないとただの死蔵になっちゃいますからね。 だいたいのカタチに切り抜いたものを,製材時の鋸目の残ってる部分を表にして貼りつけ,クランプで固定・圧着します。
![]() ![]() 片面を貼ったら,反対がわの糸巻の孔からドリルや錐を通して孔をあけ,リーマーでほじくって拡張。最後に両面貼ってからも一度調整するつもりなので,この時点ではだいたいでいいです。 バッチリへっついててくれないと困る箇所ですからね。確実に接着するため一日一作業として,硬化時間を長めにとります。
![]() ![]() 接着の養生もふくめ,両面でつごう三日ほどかけました。
![]() ![]() 糸巻の孔をちゃんと通し,貼りつけた板の周縁を整形。表面の鋸目を落として磨いたら……ううむ,びゅーてほー,ですね!!
![]() ![]() カツラは白っぽい木なので,このままだともちろん逆シベリア。(w) 増加装甲の部分がやたらと目立っちゃいます。
![]() ![]() まずは塗装を剥いだ糸倉のカツラの部分と,増加装甲部分の整形時に削れた棹の一部をスオウで赤染め,木口の向いている糸倉の表と背がわは特にベンガラやオハグロで黒染めにして,貼りつけた紫檀の板と色を合わせます。 仕上げはカシュー。 いつものように下塗段階での塗装と乾燥をじっくり。 塗りこんで完成です!!
![]() ![]() 木口方向はやや厚めに,紫檀板を貼った左右面は拭き漆くらいの感じで。うむ--- 一見,総唐木作りみたいな高級感。 中身がベニヤ板の某国製唐木家具なんかでも良く使われてる手法ですね。(ww) 今回の修理,欠損部品はありませんが,糸倉の幅が変っちゃったので,前の山口が使えません。 これだけは新らしく作んなきゃね。
![]() ![]() 増加装甲の紫檀板同様,こちらもある意味庵主の秘蔵品。 国産木の宝石・薩摩ツゲでこさえましょう! 糸倉の色が前よりずっと濃くなったので,この材のまっ黄色が映えるでしょうしね。 唐物月琴に多い左右のエグれた富士山型にします。 指板が山口の手前で切れるスタイルにしてあるので,高さ15ミリ……月琴の山口としてはかなり背の高く大き目なモノとなりました。
![]() ![]() 高さ調整でちょっと底面を削りすぎちゃって,指板との間に少し段差ができちゃったのはナイショだ----すんません,さすがにもう一個削る余裕がないんで,これでイかせていただきます!(泣)
![]() ![]() Lunaは唐物月琴をコンセプトに作った楽器なので,棹の指板と糸倉の幅が同じですが,今回その糸倉に増加装甲を貼ったので,山口(トップナット)のところにふくらみのある国産月琴に近いフォルムとなりました。 ![]() この場合,本来なら国産月琴と同じように,棹の左右を削って山口方向に少し幅のせばまったカタチにするのが自然なのですが,棹と糸倉を構成する3ピースの左右の板がもともと少し薄めなのと,唐物をなぞった原コンセプトの部分を残しておきたかったので,今回はこのままとします。 ほんとはついでに仕込み刀とか自爆装置なんかも取付けたかったんですが,オーナーさんに拒絶されました。 次に大破してきたら変えてあげましょう(w) 従前のLunaはその棹と糸倉のコンセプトもあって,スラっとした印象のある女性的な楽器だったんですが,ま四角な指板にすこし厚く,太くなった糸倉。これはこれで武骨モダンな感じもしないではない。。 なにかちょっと「漢前」感が増したような気がします。 さあ,これでちょっとそこらの何か殴っても2~3発は大丈夫(たぶん) またバリバ~リと使ってやってください。 (つづく)
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